第170星:私が信じる番
※後書きにお知らせございます
咲夜の答えに、大和は神妙な表情を浮かべた。
「これまでにない強敵との戦いだ。判断ミスは許されない。理由を聞かせてくれ」
「『悪厄災』は強力です。一個体で街一つ破壊するなど造作もない、まさに厄災です」
咲夜は「ですが…」と決意のこもった強い表情で続ける。
「そんな『悪厄災』を、私達は直接ではないにしろこれまで退けてきました。これは過去にもない快挙です」
咲夜の言葉に、大和も神妙な表情のまま頷く。
「過去に一人で挑み続けた時とは違う…この根拠地には、支え合い信頼しあっている仲間達が大勢います。それはどんな強敵であっても対抗できる、今の私達の強みであると思います。そして、彼女達は、私達を信じて戦い続けついてきてくれました。今度は私達が彼女達の力を信じるべきです」
咲夜の言葉の信憑性を図るべく、大和は真っ直ぐ咲夜を見続けるも、咲夜は一歩も引かず見つめ返し続けた。
やがて大和が笑みを浮かべ、「よし」と頷いた。
「夕君、リナ君に連絡して、緊急脱出システムをあるだけ用意するよう伝えてくれ。ボクはこれから沙雪先生のところへ向かって、緊急医療体制を整えてもらうよう話してくる」
夕が返事を返すと同時に大和は席から立ち上がり移動を開始する。
すれ違いざまに足を止め、大和は咲夜に話しかける。
「咲夜、君は彼女達の待機所に向かって話をしてくるんだ」
「話し…ですか?」
「今回の敵、【オリジン】は、ボクですら対峙したことがない未知の敵だ。その中で、君だけが【オリジン】と対峙したことのある唯一の人物だ」
大和は咲夜の肩に手を置き、真っ直ぐ瞳を見つめる。
「それは大きなアドバンテージだ。『グリッター』である彼女達に発破をかけ、士気を高められるのは君しかいない。頼んだよ」
大和に託された咲夜は、緊張の面持ちながら強く頷いた。
それに笑みを浮かべた大和は、司令室をあとにし、沙雪の元へと向かっていった。
咲夜は僅かに震える手を握りしめ、大和に続き司令室をあとにした。
●●●
「失礼します!!」
最高本部、最高司令官専用の執務室に、慌ただしくやってきた女性が、奥に座る人物に話しかける。
「どうしましたか?」
「はっ!先程太平洋沖から巨大な電磁波を確認しました」
「電磁波…巨大な?」
作業の手を止め、最高司令官である早乙女 護里は真剣な面持ちで続きを促す。
「これにより千葉根拠地との連絡が途絶える状況が続いております。原因、及び正体は不明です」
「太平洋の沖から根拠地にまで及ぶメナスの電磁波…それは大多数の個体によるものでしょうか」
「いえ、それが…観測班によると、放たれている電磁波の範囲形状から、恐らく一個体によるものであると推測されると…」
その報告を聞き、護里の表情がより一層険しくなる。
「一体でそれ程の電磁波を…そんなの『ロンギヌス』でさえ出来なかった…それ以上の存在となると…まさか!!」
一つの結論に至った護里は飛び上がり、目の前の報告官に指示を出した。
「直ぐに上層部へ連絡を。緊急招集による会議を開きます」
「りょ、了解しました!!」
護里は再び慌てた様子で部屋を飛び出し去っていった。残った護里は再び椅子に座り、苦悶の表情を浮かべていた。
「なんてこと…まさかこんなことが…」
机の上に手を置き、そこへ頭を乗せ、護里は強く祈っていた。
「お願い大和君、どうか子供達を守って…!」
●●●
「皆さん揃っていますね」
待機所にやってきた咲夜は、集まった一同の姿を確認する。
普段はとは違う神妙な面持ちの咲夜の様子に、朝陽達もこの戦闘がただならぬ事態であることを察していた。
「皆さん薄々お気付きだとは思いますが、現在我々は非常事態に陥っています」
「どういうことですか?まだ戦闘を行なってもいないに非常事態とは…?」
それをハッキリとさせるのが三咲の性格であり、また非常事態と言われ不安な面々も、それを確認すべく頷いて賛同した。
「皆さん、以前に戦闘した『アイドス・キュエネ』及び『エデン』を覚えていますね」
忘れるはずもない。ここにいる誰もが経験したことのない難敵であったからだ。
「彼らは『悪厄災』と呼ばれ、20年に一度、『メナス』の上位個体として生まれてきます。『悪厄災』はそれぞれ強力な個性を持って生まれてきます。『エデン』は高い知性を、『アイドス・キュエネ』は特異な能力を、といった具合にです。貴方達も身をもって体験しているはずです」
その時の戦闘を思い出したのか、一部の者は身体を震わせていた。
「この二体と直接戦闘を行うことはありませんでしたが、今回はその『悪厄災』との直接戦闘になります」
厳重な統制が取れているはずの面々も、流石にざわつき始める。しかし、それを咎めることは咲夜はしなかった。
「つまり、今回はその『悪厄災』が直接攻め込んできている、ということでしょうか?」
三咲が挙手をしながら尋ねてくると、咲夜は複雑な表情で頷いた。
「半分正解です。攻め込んでくるのは確かに『悪厄災』ですが、今回の敵は先程名前を挙げた個体のどちらでもありません」
大勢が困惑した表情を浮かべるなか、表情を固まらせる察しの良い数名がいた。
「し、指揮官、もしかして…」
朝陽が手を震わせながら挙手をし尋ねると、咲夜は沈痛な面持ちで頷き、答えた。
「そうです、今回の敵は…最初の『悪厄災』、人類にとって諸悪の根源である【オリジン】が相手です」
名前を出された瞬間、それまで続いていたざわめきが一瞬にして静まりかえっていった。
「ここにいる殆どの者が対峙したことがあり、その恐ろしさは理解されているでしょう。【オリジン】の強さは規格外です。この戦闘がどうなるか、正直想像がつきません」
重苦しい沈黙が室内を包んでいく。普段は明るく振る舞っているものも、今はその表情を沈ませていた。
「ハッキリ言って、出撃をさせるかどうかすら私は悩んでいました。被害を無視するのであれば、最高本部へ向けて撤退しながらの戦闘が、最も勝率が高いからです」
「…!」
その言葉に、少なくない人数の者が反応を示した。
「そうすれば、私達『軍』への被害は最小限に済みます。【オリジン】退けた後、またここへ戻り、そしてこれまでと変わらない軍務にあたれるでしょう」
続けられた咲夜の言葉に、全員が反応した。
咲夜の発言は、これまでの『グリッター』の活動を否定する、人々を守ることを放棄する、という趣旨の発言であったからだ。
「私には貴方達を指揮し守る責任があります。そして勝利に導く責務があります。この手なら、私は全ての任を果たすことが出来るでしょう」
「そんな……!!」
「それでも」
誰かが堪らず声をあげようとした瞬間、咲夜が更にそれを遮るようにして声を上げた。
「私は、貴方達に出撃の命を下すためにここへやってきました」
それまで険しい表情を浮かべていた一同が、再びざわつき出す。
「私は自分の『軍』としての任務を果たすことよりも、『グリッター』として、人々を守るという使命を優先すると決めました。貴方達を、戦場に送り出す、と」
咲夜は力強い瞳で一同を見回していく。
「何故なら貴方達は、二度も『悪厄災』を退けてきたから」
「…!」
沈み込んでいた一同は、全身に小さな火が灯っていくのを感じていた。
「貴方達は、私達を信じ進み、そして常に応えてきてくれた。だから今度は私が、貴方達を信じる番です」
全員の表情から、心から、恐怖の感情が薄れていった。
代わりに、フツフツとした熱い感情が、心を通して全身を駆け巡っていく。
「一人で到底不可能でしょう。ですがいくつもの困難を切り抜けてきた貴方達ならば、【オリジン】であろうと必ず退けることが出来ます!!」
頷いたのは誰か、手を握りしめたのは誰か、それは定かではない。全員が全員、多様な形で決意を固めていったからだ。
「敵は強大、命懸けの戦いです。ですが、どれだけ過酷な状況であろうと、私達の本懐は代わりません!!答えなさい!!私達の為すべきことは!?」
「「「生きるために、立ち向かう!!」」」
大和着任直後、最大の防衛戦が幕を挙げた。
※後書きです(お知らせは最後にあります)
ども、琥珀です
本編でちょっと説明不足に感じた点がありましたので後書きで補足をば
大和が咲夜に【オリジン】と直接対峙したことを仄めかす発言がありましたが、厳密にいえば朝陽達も【オリジン】と対峙しています。
ただ、朝陽達が【オリジン】と戦ったのはほんの数分であり、大和の発言から察するに、咲夜はもっと濃密に【オリジン】と対峙していたのだと思われます。
なので本編を読まれた際に、「いや、初めての対戦じゃなくね?」と思われるような表現があるかもしれませんが、本格的な、という意味では初だ、という風に捉えていただければ、と思います。
全く大和の言葉足らずには困ったものですね!←
【!ここからお知らせ!】
本日もお読みいただきありがとうございました。
実は思いがけずストックがたくさんできましたので、
来週は土日を除く五日間更新でお送りしようと思います。
投稿時間は変わりませんので、どうぞ宜しくお願いします!