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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
8章 ー千葉根拠地総力戦ー
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第168星:咲夜の過去

誰も知らず、誰にも語られることもなかった咲夜の過去


その一部が自身の口から明かされる。


重圧に苦しむ朝陽に語った、咲夜の過去とは…?

「指揮官の…過去…」



 朝陽の言葉に、咲夜が小さく頷く。



理由(わけ)あって、私は自分の過去を多く話すことは出来ません。その上で貴方に話すのは、それだけの理由と、信頼があってのことだと思ってください」



 遠回しに他言無用と言われていることに気がつき、朝陽は強く頷いた。



「私は…過去にも同じような立場にたって指揮を執っていたことがあります。恐らくですが規模は今の何倍にも及びます」

「え…今よりも、ですか」



 出だしから驚きを隠せない朝陽であったが、咲夜は表情を変えず深く頷いた。



「当時、部隊の総指揮を執っていた私には、多大な信頼と、責任による重圧がのしかかっていました」

「(私と同じ…ううん、それ以上の…だよね)」



 朝陽は話の腰を折らないよう黙って聞き続ける。



「初めのうちは、恐らくプレッシャーとは感じていなかった思います。みんなから信頼されている、みんなを守ることが出来ると、舞い上がっていました」



 身に覚えがある朝陽は共感し頷く。



「ですが、日を追うごとに戦いは苛烈さを増し、それに比例するように、私への重圧も増していきました。そしてある日、部隊に小さく無い被害が出てしまいました」



 本人にとって辛い思い出なのだろう。咲耶は目を瞑り、僅かな沈黙が続く。



「その瞬間、今まで私を支えてくれていた言葉が、怒気と怨嗟に変わりました。お前のせいだ、お前が失敗したんだ、と」

「酷い…話です。ひと一人に全て責任を押し付けるなんて…」



 共感する朝陽の言葉に僅かに笑みを浮かべ、咲夜は話を続ける。



「勿論それを否定し、私を支え続けてくれた人も少なからずいました。ですが、それにより私と同じように罵声を浴びるようになりました」



 朝陽は咲夜の手が力強く握られていることに気付く。


 当時の辛さが、その小さな動作から強く伝わってきていた。



「それでも尚、彼女達は私を支えると言って下さいました。今にして思えば、彼女達の存在が、当時の私を守ってくれていたのでしょう」



 咲夜は怒りの表情で「しかし…」と続ける。



「私は…()()()()()()()()()()()()()

「え…!」



 予想外の事に、朝陽は驚く。


 咲夜が浮かべていた怒りは、他者ではなく、自分自身に向けられてのものであった。



「私は怖かったのです。彼女達を信じても、いつか裏切られるのではないか、いつか、彼女達も私に非難の言葉をむけられるのではないか、と」

「それは…当然です!今まで支えてくれてた周りの人からいきなり罵声を浴びさせられるなんて…人を信用できなくなって当たり前です!」



 咲夜は悲しげな笑みを浮かべながら、首を横に振った。



「ありがとうございます。でも違うんです。私にとっての彼女達は、今の貴方で言う根拠地の仲間と同等に信頼のおける方々でした。貴方は彼女達を疑うことが出来ますか?」

「それ…は、でも…!」



 それでも否定しようとした朝陽を、咲夜は儚げな笑みを浮かべて制した。



「私は疑ってしまったのです。一度疑ってしまえば、もう戻ることは不可能でした。その時から私は、全てを一人で抱えるようになりました。過度な信頼、重圧、そして浴びせ続けられる罵詈雑言、その全てを背負い続けました」



 咲夜は淡々と語り続けるが、聞いているだけの筈の朝陽の胸が、言葉の一つ一つから締め付けられているようであった。



「自慢するような語り種になってしまいますが、当時の私はその期待に応えることが出来ました。いえ、()()()()()()()()()。その為、それから幾つもの戦いに身を投げ、応え続け、そして…いつの日か何も感じないように成る程、私は心身ともにボロボロになっていました」



 今の咲夜からはそこまでの深刻さは感じない。


 しかし、言葉の端々から感じる儚さと危うさが、その言葉の真実味を助長させていた。



「遠回しになり過ぎましたね。朝陽さん、私が伝えたいことはつまり、過度に信頼に対して応える必要はない、ということです」

「え…信頼に応える必要がない…ですか?」



 思いがけない咲夜の言葉に驚く朝陽であったが、咲夜は深く頷いた。



「全ての信頼に応えようとすればするほど、それは増幅します。そしてそれはやがて、貴方自身の身を滅ぼしかねない程大きくなる。やがて、その期待が重圧となり、他者を信じられなくなる。そう、貴方が先程まで、大和との繋がりを信じられなくなっていたように」

「ッ…!」



 朝陽は何も言い返せなかった。大和のことは今でも心の底から信頼している。


 しかし、その大和からの想いがいつか失われるのではないかと不信感を抱いてしまったのも事実であるからだ。


 そう言った意味で、咲夜の今の言葉は説得力があった。


 自分がいま、その状態に陥るつつあることを認識させられていた。



「でも…」

「…?」



 朝陽が溢した小さな一言を聞き逃し、咲夜は眉を顰める。



「それでも私は、司令官の…みんなの期待に応えたいと思います」

「…それは、何故でしょうか?」



 ハッキリと告げられた朝陽の言葉を、咲夜は問い詰める。



「お姉ちゃんと話してて分かったんです。私がここまで成長出来たのは、みんなのお陰だって。司令官が導いて下さって、指揮官が鍛えて下さって、お姉ちゃんが、根拠地のみんなが支えてくれた。それはきっと、みんなが期待して、信頼してくれたからこそだと思うんです。そうですよね、指揮官」

「…」



 咲夜は応えず、朝陽の話の続きを待った。



「私はそれを、さっきまでただ重圧にしか感じていませんでした。それこそ、お話していただいた過去の指揮官と同じ状態だったと思います。勿論、その時のプレッシャーは私なんかの比ではないと思いますけど」



 「でも」と朝陽は続ける。



「だからこそ、指揮官の話を聞いて、期待に応えたいって思いました。だってそれは、私への信頼の証だって、教えて貰いましたから」



 それは、先程の夜宵との会話で学び気付いたものであった。


 咲夜の言葉が朝陽に届いていないのではない。咲夜の言葉と経験から学び、そして自ら答えを導き出したのである。


 咲夜は僅かな沈黙の後、険しい目つきで朝陽をみた。



「…今はそうでなくとも、いつか、私と同じ状況にまで陥る可能性は常にあります。それでも、貴方は他者を心から信じ、そして期待に応え続けるのですか?」

「はい、私はその道を進みます」

「…人を信じ続けるのには勇気がいります。そして、期待に応え続けるには覚悟必要です。貴方に、それだけの決意はありますか?」

「あります。私は、それを与えられて成長してきましたから」



 咲夜の問いに、朝陽は全て即答した。


 もはや疑う余地もなく、その想いが本物であるとということを表していた。


 咲夜はしばらく険しい表情のまま朝陽を見つめ続けていたが、やがてゆっくりと相好を崩してき、温和で柔和な笑みを浮かべた。



「良く、そこに辿り着きましたね」

「え…?」



 先程までと打って変わって温かな雰囲気へと変わり、朝陽は思わず脱力する。


 指揮官である咲夜の言葉を否定したために、厳しい言葉が投げかけられると思っていたからだ。



「全ての期待に応える必要がない、その言葉が嘘であるかと言えば、答えは否です。ですが、是でもありません。その答えは、その人次第で変わるからです」

「はぁ…」



 咲夜の言葉の全容が掴めず、朝陽は気の抜けたような返事を返してしまう。



「貴方は…どこか昔の私に似ています。夜宵さんとの話を聞いた時、貴方はそれを受け入れつつも、一人で背負おうとするのではないかと考えていました。今の答えを聞く限り、杞憂だったようですが」



 咲夜はニコリと笑みを浮かべるが、朝陽は内心ドキリとしていた。


 咲夜の言う通り、夜宵との会話で奮い立った朝陽は、まずは()()()()()()()()()()()()()()()、と考えていたからだ。



「確かに一人で出来ることを増やすことは大切です。ですが一人で抱え込む必要はどこにもありません。この根拠地には貴方の言う通り支え、信頼を寄せてくれる仲間がいます。彼らを信じずして一人で背負うことの何が偉大だと言うのでしょうか」



 咲夜の言葉に、朝陽は深く頷き賛同した。


 頭の整理が追いつき、自分で言った言葉を反芻させ、頼ることが正しく、そして大切だと理解したからだ。



「私も夜宵さんと気持ちは同じです。貴方には、私と同じ轍を踏んでほしくない。だから、私の過去の話をしました」

「指揮官…」

「貴方の答えは何一つ間違っていません。一人で抱え込まず、他者を信じ、助け合う。それが何よりも大切なことです。その考えを、気持ちを、どうか忘れずにいて下さい」

「…はい!!」



 朝陽の力強い返事に、咲夜は満足げに頷いた。



「私の話は不必要でしたね。『大輝戦』への気持ちは固まりましたか?」

「はい!私、頑張ってみようと思います!もしかしたら司令官の期待には応えられないかもしれないですけど…もしそうなったら、また根拠地で取り戻して見せますから!!」



 例え『大輝戦』で失態を犯しても、恐らく大和の信頼は微塵も揺るがないであろうことを咲夜は気付いていたが、咲夜は敢えてそれを口にしなかった。


 朝陽も、心の奥底では、その事に気付いているであろうと理解していたからだ。



「良い返事です。では、早速執務室に戻り大和へ報告を…」



 咲夜達が執務室へ歩み始めるのと、根拠地に警戒警報音が鳴り響いたのは、ほぼ同時のことであった。

※後書きです






ども、琥珀です


この章は書くかどうか悩んだ内容なんですよね…

今後の展開はこれから始まるので詳しいことは書けないのですが…


ただ最近本来の敵さんの影が薄いので、ここらで一発その恐ろしさを再掲しよ思いまして笑


そんなわけで、次回の更新から始まる突発的な展開をお楽しみに…


今週も三回更新でお送りしますので、宜しくお願いします!

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