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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
8章 ー千葉根拠地総力戦ー
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第167星:期待の重圧

 本来は軍務の時間。しかし朝陽は、昼下がりの中中庭のベンチに腰をかけていた。


 いつもの朝陽らしくない沈んだ表情を浮かべ、ただ地面を眺め続けている。



「らしくない…ってより少し前の貴方に戻った、て感じね」

「…お姉ちゃん」



 そこへやってきたのは、先程まで一緒に大和から話を聞いていた夜宵だった。


 夜宵は隣に座ると、ゆったりとした雰囲気を全身で感じ取る。



「今日は平和だね〜。こういう日があると、本当にメナスと戦ってるのか信じられなくなるわ〜」



 グッと伸びをしリラックスする夜宵をみて、朝陽は僅かに笑みを溢す。


 逃げるようにして執務室を後にした自分の緊張をほぐすために、わざとそう言った雰囲気を出していると気付いたからだ。



「ホントだね。ずっとこんな日が続けば良いのに…」



 それ以降会話は途絶え、温かな日差しが二人を照らし、時折鳥の鳴き声が聞こえるほど静かな時間が続いていた。


 しばらくして、朝陽はゆっくりと口を開いた。



「情けないよね…司令官の期待に応えたい、なんて言っておいて、これだもん…」



 朝陽は開口一番に、自分への情けなさを吐き出した。


 しかし夜宵はこれに直ぐ返さず、朝陽の言葉の続きを待つ。



「最初は…私よりもずっと戦い続けてきた先輩方の方が、実績も経験もあるのに、どうして私が…って考えてたの。でもね…」



 そこで朝陽は一呼吸置き、震えた口でゆっくりと続きを話し出す。



「本当は…一番怖いのは、司令官の期待に応えられないことが、怖いの…!」



 手で口元を隠しながら、朝陽は夜宵に自分の本心を伝えた。



「司令官の期待に応えたい…司令官の信頼に報いたい…!でも…」

「それが却って…貴方へのプレッシャーに繋がってるのね」



 夜宵の答えに、朝陽はゆっくりと頷いた。



「私が『大輝戦』に出場して、司令官の期待に応えられなかったら、私はきっと失望する…司令官にだけじゃない…()()()()



 手を重ね、鼻から下を覆い隠す。



「怖い…司令官の期待に応えられないことが…司令官に失望されることが…怖くて…私は逃げたんだ…!!」

「朝陽…」



 朝陽の考えは、夜宵には十分に理解出来た。


 大和は夜宵(あね)でも理解してあげられなかった朝陽の想いを汲み取り、そして導いた人物である。


 朝陽自身が言うように、『グリッター』としての朝陽は、大和が生み育てたと言っても過言では無いだろう。


 だからこそ、大和の信頼を損ねるような舞台で戦うことを朝陽は恐れていた。


 もし本当にそうなれば、朝陽は二度と『グリッター』として戦うことは出来ないだろう。


 それだけ、朝陽にとって大和は大きな存在になっていた。


 そしてそれは、夜宵が大和に語ったように、かつての自身と似たような状況であった。


 周囲の期待を背負い、そして裏切り、失望された。その恐怖は今も夜宵の胸に残り続けている。


 だからこそ…



「朝陽…貴方は気付いてない」

「…え」



 夜宵は朝陽の心に真正面から向かいあった。過去に怯える、自分と照らし合わせて。



「貴方は、これまで何度だって司令官の期待に応えてきた。何度だって乗り越えてきた。その積み重ねが司令官が貴方を信頼している証でしょう?」

「それは…でも、だから…!!」

()()()()()



 夜宵は朝陽の方を掴み、真っ直ぐ瞳を見つめる。



「今度も応えて見せれば良い!今度も乗り越えてやれば良い!貴方はそうやって、司令官の信頼を掴んできたんだから!」

「お姉…ちゃん」



 朝陽の瞳に力が戻りつつあったが、まだ奮い立たせるにはもの足りなかった。



「私が過去に出場した時、私は一人ぼっちだった。一緒に戦った人も、指揮官も、誰一人私を支えてくれはしなかった」



 それは夜宵があの日、求めていたもの。



「だからこそ、私は貴方を絶対に一人にしないわ」



 夜宵があの日、与えて欲しかったもの。



「一人じゃ怖いなら、私に頼りなさい。戦いでも『大輝戦』でも、貴方を一人にするようなことはしないわ。私は貴方のお姉ちゃんなんだからね!」



 それは、孤独を打ち消す仲間の存在。そして心を支えてくれる家族の存在だった。


 かつての夜宵は誰にも支えられず、孤独に戦い続けていた。そしてそれが、夜宵の心を一層苦しめていった。


 その苦しみを経験したからこそ、夜宵は朝陽を一人にはしないと心に決めていた。


 同じ想いをさせまいと、一人では無いんだと、まるで自分にも言い聞かせるように。


 朝陽は瞳を涙で潤めかせ、夜宵の胸に抱きついた。夜宵もそれを優しく抱き止める。



「大丈夫。司令官はたかが『大輝戦』くらいのことで貴方を見捨てるような人じゃ無い。貴方はそれよりももっと強い絆で結ばれてるんだから。私はそのことを良く知ってるわ。貴方だって、本当は分かってるでしょ?」



 夜宵の言葉に、朝陽は胸の中で小さく頷いた。


 数分ほどして、夜宵から離れた朝陽は照れた笑みを浮かべていた。そこには、もう暗い表情は見られなかった。



「もう、大丈夫そうね朝陽」

「うん、まだちょっぴり怖いけど、でも、お姉ちゃんのお陰で勇気が出たよ!」



 そこにあったのはいつもの朝陽の笑顔。夜宵もその表情に安堵の笑みを浮かべた。



「じゃあ、司令官のところへ…」

「その前に、私からも少しだけお話を良いですか?」



 二人が振り返ると、そこには咲夜が立っており、そのまま二人の前にまで移動した。



「すいません、盗み聞きをするつもりではなかったのですが、とても大事なお話をされていたようでしたので直ぐに出れませんでした」

「いえ…私の話は仲間として、そして姉としての言葉ですから。聞かれてらしても何も問題はありませんから」



 夜宵の言葉に咲夜は小さな笑みを浮かべる。次いで朝陽の方へと視線を向けた。



「私も夜宵さんと同じ意見です朝陽さん。貴方は確かに選抜に選ばれた。それは名誉なことであり、確かに重圧を感じてしまうかもしれません」



 咲夜は「ですが…」と続ける。



「このお話は、大和の返答次第では拒否することも出来たのです」

「えっ…」



 朝陽だけでなく、夜宵も驚いた表情を浮かべる。



「存じ上げませんでした。前指揮官からは強制招集だと伺ってましたから」

「それは何がなんでも貴方を出場させるための虚言でしょうね。確かに選抜という形ではありますが、そこに強制力はありません。選抜されたという内容が司令官・指揮官のもとに届き、まずはそこで熟慮の末合意して、初めて貴方達の元へ通達されるのです」



 夜宵も知らない仕組みに関心しながら、朝陽は一つのことに気が付いた。



「最初に司令官のもとへ…ってことは…」

「お気づきになりましたか?そうです、あなた方が執務室で大和からこのお話をされていた時点で、既に『大輝戦』で戦えるだけの力を有していると判断されていたのです。初めから貴方は()()()()()()()()()()()()()()()()()



 頬が緩み、同時に涙も浮かべながら、朝陽は頬を赤らめていた。


 二人はその光景を微笑ましく見つつ、咲夜はソッと隣に立つ夜宵に小声で耳打ちした。



「司令官から『大輝戦』についての詳細なお話があります。貴方は先に執務室へと戻っていて下さい」



 咲夜の指示に頷く夜宵だったが、何故か戻るのが自分一人であると言うことに気が付き、同じく小声で聞き返す。



「あの…朝陽は?」

「後程向かいます。実はもう一つ、彼女に話しておきたいことがあるのです」



 ならば自分も残る。


 そう考えた夜宵だったが、わざわざ小声で伝えてくるという時点で、咲夜の話があまり聞かれたく無い内容なのだと察する。


 チラッと咲夜を見れば、咲夜もそれに気付いたのか申し訳ないような笑みを浮かべていた。


 夜宵は僅かに躊躇ったものの、それが今の朝陽にとって重要なものであると理解し、小さく一礼をすると、静かにその場から去っていった。



「あれ、お姉ちゃんは…」

「一足先に戻って貰いました。まだ司令官からのお話が残っていますので」

「はぁ…」



 自分が残された意図を掴めないでいる朝陽に対し、咲夜は再度ベンチに座るよう促した。


 咲夜が座ったのを確認してから隣に腰掛けた朝陽は、咲夜が何かを躊躇していることに気がつく。


 沈黙は僅か数秒。


 その後咲夜はゆっくりと話を始めた。



「…これは、()()()()()()()()()

※後書き






ども、琥珀です


前回は後書きをお休みし、今回は前書きをサボるという倦怠期…


なんというか、本編が暗い内容になると、作者の気持ちもつい暗く…


明るい話も書きたいな…作者ネガティブだから無理かな…


本日もお読みいただきありがとうございます。

来週も月・水・金の三回更新でお送りしますので宜しくお願いします。

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