第165星:道中…
国舘 大和(24)
千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮にとりかかり、根拠地における様々な環境面、戦術面での改善に取り組み、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。関東総司令官という立場であるが、それを隠している。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いながら、時に優しく、時に厳しく『グリッター』と接する。高い戦闘能力と強大な『グリット』を備えるが、その素性は謎が多い。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。自分に自信が持てない面もあるが、明るく純心。大和と出会い『グリッター』に覚醒。以降急速に成長を続け、戦果を上げ続ける。大和により、現在は小隊長も務めている。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。実力さながら面倒見の良い性格で仲間からの信頼は厚いが、妹の朝陽には弱い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は夜宵小隊の小隊長を務めている。
ある日、司令官である大和に呼び出された夜宵と朝陽の二人は、揃って執務室へと向かっていた。
「珍しいよね、私とお姉ちゃんの二人で呼ばれるなんて」
「そうね〜。と言うより初めてじゃないかしら?ほら、その…色々行き違いがあったでしょ?」
夜宵が言葉に詰まったのは、当時の立場の違いから、自分が妹に酷いことを言ってしまったことを気にしていたからだ。
当然、夜宵に傷付ける意図があっていったわけでない。
しかし、激しい戦闘と予想外の事態が続き、流石の夜宵も冷静ではいられなかった。
そんな折に、当時『グリット』を発現出来ていなかった朝陽が戦場に現れたのだから、無理もない話ではある。
その戦闘で夜宵は背中に大怪我を負い、しばらくの間戦線を離脱。
その間に朝陽は『グリッター』としてかの才能を開花させ成長を続けていった。
その後戦列に復帰した夜宵であったが、時間が空いてしまったこともありこの件は有耶無耶になってしまっていた。
加えて互いに小隊長としての立場もあり、なかなか二人きりになる時間も取れず、今日にまで至っていた。
夜宵は少し怯えた様子で朝陽を見るが、朝陽はニコッと笑みを浮かべていた。
「お姉ちゃんが言いたいこと、思ってること分かるよ。でもねお姉ちゃん、私本当にもう気にしてないよ」
「朝陽…」
朝陽の言葉に安堵の表情を浮かべた夜宵だったが、次いで今度は朝陽が表情を曇らせる。
「むしろ、私がお姉ちゃんに謝らないと、って思ってたんだ」
「え、朝陽が?」
思いもよらない発言に、夜宵は困惑する。
「あの時の私は、とにかく皆の力になりたいって想いでいっぱいいっぱいだった。何にもできない私は役立たずでしかないんだって…」
「それ…は…」
夜宵は直ぐにそれを否定しようとするが、ただ否定するだけではあの時と同じだと思い直し、まずは朝陽の話に耳を傾ける。
「でもね、実際にこうやって『グリット』を扱えるようになって、たくさん戦闘をこなしてきて、自分がどれだけ馬鹿なことをして、お姉ちゃん達に心配をかけちゃったのか、良く分かるようになったの」
「朝陽…」
「お姉ちゃんはあの時、立派な『グリッター』だって言ってくれたけど、お姉ちゃんがあの時認めてくれたから、私はようやく『グリッター』として一歩踏み出せたんだって気付いたんだ」
ゆっくりと夜宵の方を振り返る朝陽の顔は、かつての暗い面持ちなど微塵も感じさせない、強く明るいものであった。
「だからね、謝る方なのは私なのお姉ちゃん。あの時はごめんなさい。私のせいで怪我をさせちゃって」
姉妹としてではなく、『軍』人として、朝陽は夜宵に頭を下げた。
夜宵は戸惑いながらも笑みを浮かべ、朝陽の肩に手を置いた。
「謝らないで朝陽。もし私が貴方と同じ立場だったら、きっと私も同じことをしたと思うわ。貴方はそこから立派に成長した。『グリッター』としても、姉としても、私は貴方を誇りに思うわ」
夜宵の言葉に朝陽は顔を上げ、「エヘヘっ」とはにかんだ。
二人は再び執務室へと歩みを進めると、その途中で朝陽が話し出す。
「実はねお姉ちゃん、私が『グリッター』として一歩踏み出せて、成長出来た理由はもう一つあるんだ」
「え?」
朝陽は照れているのか、はたまた違う理由なのか、頬を赤らめて理由を口にした。
「お姉ちゃんが傷付いた時、ホントは私、自分の馬鹿な行動に絶望してたの。でも、それを希望に変えてくれた人がいたの」
「…あ、それって…」
「うん、大和司令官!」
その時浮かべた朝陽の笑みは、これまでとは違う、本当に太陽のような明るい笑みだった。
「司令官は、私を何度も支えてくれた。私を導いてくれた。『グリッター』としての今の私が在るのは、司令官のお陰なの」
朝陽は窓の外を振り返り見ながら続ける。
「だから私、司令官の期待に応えたい。司令官のために戦いたい…そう思うの」
朝陽の横顔は夜宵が思っていたような子供のものではなく、大人びた女性のようであった。
その様子を、夜宵は微笑ましげに…
「だめよ朝陽!!!!」
「えっ!?」
「貴方にはまだ早いわ朝陽!!ダメっ!!」
「えっ?えっ!?」
見ていられなかった。
誤解(かどうかは分からないが)をした生粋のシスコンである夜宵は朝陽の肩を掴み、血走った目で朝陽を見る。
「ダメダメダメ!!まだ未成年なのに貴方そんな…お姉ちゃん許しませんからね!!」
何を誤解されたのか理解していない朝陽は、結局その場で五分近く謎の説得を続けられたのであった。
●●●
(ようやく)執務室に到着した二人はドアの前に立ち、コンコンコンとノックする。
『入って構わないよ』
中から聞こえる大和の声で確認をとり、二人は室内へと入っていった。
中で待っていたのはいつもと同じく大和と咲夜。
二人とも二人を部屋に招きつつも書類にペンを走らせていたが、間も無くして作業を止めた。
「わざわざ呼び出してすまなかったね。そこに座ってくれるかい」
室内に設置されていたソファを示し、二人は言われた通り座り込む。
そこへ、作業を止めた咲夜が、淹れたばかりのお茶を二人に提供する。
「あ、ありがとうございます!」
「いいえ」
指揮官にお茶を淹れさせてしまい、二人は即座にお礼を述べると、咲夜は優しい笑みで応えた。
間も無くして大和も対面の椅子に腰を掛け、そこにも咲夜がお茶を持ってくる。
「ありがとう。咲夜も隣に座りな」
「いえ、私は…」
常に隣に立つという自負か、咲夜は大和の申し出を断ろうとするも、大和は苦笑いを浮かべる。
「まぁまぁ、指揮官が立っていて彼女達が座っている、っていう状況だと落ち着かないだろう?」
そう言われて咲夜が二人の方を見ると、確かに二人は困ったような表情を浮かべていた。
観念したのか咲夜も小さく笑みを浮かべると、大和の隣に腰を下ろした。
「さて、君達も軍務があるだろうから早速本題に入ろう」
大和は用意されたお茶に手をつける前に話を始める。
朝陽達と大和達の間に置かれた机の上に、大和が一枚の紙を載せ、二人はそれに目を通すと、驚きの表情を浮かべていた。
「わ、私が、『大輝戦』の選抜メンバー…にですか!?」
口元を手で覆い、ただただ驚きの表情を浮かべる朝陽に対し、夜宵は複雑そうな表情であった。
無論、大和も咲夜も、夜宵がこう言った反応を示すことは分かっていたことであった。
夜宵は四年前にこの『大輝戦』に出場している。
しかし、活躍らしい活躍は一切できず、当の本人は非難の的にされてしまったのだ。
そこへ再び選抜に選ばれたとあっても、素直に喜ぶことは出来ないだろう。
「何故…私が再び?お二人はご存知でしょうが、私は以前に一度、この『大輝戦』に出場させていただいたことがあります…ですが、結果は散々でした。それ以降、私は呼ばれたことは無かったのに…」
過去の苦い記憶を思い出しているのか、本人にとっては辛いものであるが故に、この文書を懐疑的な目で見ていた。
しかし大和は笑みを崩すことなく、これに応えた。
「それはね夜宵君、前任の指揮官が君を正当に評価していなかったからだよ。それに、前に出場した『大輝戦』から四年が経過し、君は実力だけでなく、それに伴う精神面も成長した。今の君なら選抜に選ばれただけの価値を示すことは十分に可能だろう」
大和に言われ、夜宵は僅かに顔を上げるが、やはり自信無く表情を沈ませた。
「前任の…塚間元指揮官にも同じようなことを言われました。『君なら出来る、君はすごい【グリッター】だ』、と…勿論それは自分の評価を上げるための言葉であると分かってはいましたが、それでも当時は励みになりました。ですが結果は…」
思い返される過去の辛い出来事は、簡単には払拭できない。
それこそ、本人が心から納得できる理由がなければ、今の夜宵を立ち直させることは難しいだろう。
そして、それを可能とするのが、大和である。
「だから言ったろう?前任の指揮官が正当な評価をしていなかったと」
「えっ…?」
驚く夜宵を他所に、大和は優しくも不敵な笑みを浮かべていた。
※後書きです
ども、琥珀です。
今話から新章になります。
気分の抑揚というのは人によってあると思うのですが、私はおそらく今かなり低い時期です…
原因は分かりませんが、ちょっとしたきっかけが積もってこうなっているのでしょうね…
皆さまは気分が落ち込んでいる時にルーティンや趣味で持ち直していきましょう。
私はソレ探しからです…
本日もお読みいただきありがとうございます。
今週も三回更新でお送りしますので宜しくお願いします。