第???星
【……退屈ダナァ……】
『悪厄災』、【オリジン】。
最初に生み出された『メナス』であり、最初に現れた『災害』とも呼ばれる、人類最大の『脅威』である。
【オリジン】は人類にとって、最強と呼ばれていた原初の『グリッター』が唯一互角に戦い、そして自らの命と引き換えに倒したとされている、過去の産物であった。
しかし、【オリジン】は今も語り継がれるその戦いで命を取り留め、長い年月をかけてその傷を癒していた。
そして、傷の癒えた【オリジン】は、朝陽達の前に再びその姿を現した。
時間にしてほんの数分。
しかしその数分で朝陽達は壊滅の危機に陥り、夜宵の奇跡と奇怪な出来事が無ければ全滅していただろう。
まさに『厄災』、『災害』に相応しい出来事であった。
その記憶は、今もなお朝陽達の記憶に刷り込まれ、根付いていた。
そしてその【オリジン】はいま、どことも知らない海原を漂っていた。
【目ガ覚メタノハ良イケド、アノ時トハ随分ト時間ガ経ッテルミタイダシ、ナンダカスッキリシナインダヨナァ……】
【オリジン】の意識が覚醒したのはほんの数ヶ月前のことである。
混濁する意識と記憶を整理しながら、【オリジン】は突如として襲撃をするでもなく、情報収集に月日を費やしていた。
同胞の『メナス』を吸収し、今が最後の戦いから100年近く経っている状況を理解していった。
そして【オリジン】は未だに『メナス』が人類を制圧出来ていないことを知り、寧ろ陸地に関してはほぼ完全に取り返されている現状を知っていった。
同時に、自分と同じような存在、『悪厄災』と呼ばれる存在が生み出されていることを知った。
自分には遥かに及ばない存在ではあれど、自分にはない強みを持つ同胞に、【オリジン】は好奇心に駆られ興味を持った。
『エデン』が生み出され、その最初の襲撃に当たると知った時、【オリジン】は初めて動いた。
当初は手出しをするつもりは無かった。
現代における『メナス』と、『悪厄災』と呼ばれる同胞の力量を測りたかったからだ。
結果は完全な敗北。
『悪厄災』である『エデン』と僅かとは言え力を貸した『アイドス・キュエネ』による襲撃を防いだ人類の進化に、【オリジン】は少なからず驚いた。
しかしその時、【オリジン】がそれ以上の衝撃を覚えたのはそこでは無かった。
『メナス』達に対抗する人類。
その中に、僅かではあるがかつての好敵手の気配を感じたのだ。
そう感じた時、【オリジン】は本能に従って戦場へ突撃していた。
結果として、その場に【オリジン】の好敵手は存在しなかった。
当初はその好敵手によく似た能力を扱う人物を取り違えたのだと考えた。
しかし、二度目の『悪厄災』における襲撃の際、【オリジン】は今度こそその背後にかつての好敵手の存在を感じ取っていた。
指揮している人物は別人であることも見抜いていたが、人間達の戦う姿勢と心構えに、その背景を見てとれたのである。
その時【オリジン】は歓喜に震えた。
命を取り止めようとも、あの高揚感はもう味わうことは二度出来ないとないと思っていた。
絶望すらし、人類に対してさほど興味を抱かなくなっていた。
復活してもこれまで手を出して来なかったのは、気分が昂らなかったからという単純な理由である。
しかし、かつての好敵手が生きていることを知り、あの高揚感溢れる戦いが再び味わえることを理解し、【オリジン】は再び活動を再開することを決めた。
しかし、ここまでの攻防の中で、かつての好敵手が戦闘場面に現れることは無かった。
【……コノ間戦った人間、チョット面白カッタナァ…】
【オリジン】が体感した中で、これが一つの理由であると感じていた。
人間が以前よりも進化している。
【アノピッカピカノ人間ガアイツジャ無カッタノハ残念ダッタケド、黒イ奴ハチョット楽シソウダッタ。逃ゲナイトイケナイナンテ思イモシナカッタモンナ〜】
かつて自分に向かってきた人間達は、有象無象、そこらへんに転がっている砂利と対して変わらなかった。
勿論中には少しだけ手応えを感じる者もいたが、それも極小数であった。
しかし、前回考えなしに突撃した時、対峙した人間達は、以前のような砂利とは異なっていたと少なからず感じていた。
勿論、砂利がハエになった程度ではあるが、それでも体感的には十分鬱陶しいと感じるようにはなる。
それも、かつてのように数は多く無かった筈にも関わらず、感じた圧に差は感じなかった。
好敵手は前線に出てこず、人間も進化していて面倒くさい。
そこで【オリジン】は、自分と同種とされている『悪厄災』を利用して、その人間達の情報を収集していた。
結果として、人間の進化が能力だけではなく、武器的にも進歩していること、『悪厄災』が自分には遥かに及ばない劣等種であることを理解したのであった。
【何カ変ナ感覚ダナァ。人間ニ感心シテ、同胞ニガッカリスルナンテ】
『メナス』に感情は無い。知性も無い。
それを最初に兼ね備えてしまったのが【オリジン】という存在である。
その原因はともかく、【オリジン】が最も人間のような感情のなかで顕著に突出しているのが、好奇心である。
他の『メナス』を遥かに凌駕する力を持って生まれた原初の『メナス』、【オリジン】は、最初こそ無機質に人類を殲滅するために暴れていたが、やがて人間の見せる表情や仕草に惹かれていった。
そして、自分が暴れることで見せる恐怖や絶望といった表情、行動に関心を持つようになった。
やがてそれは好奇心へと変貌していき、そして自分と戦える好敵手へそれが向けられていった。
それは百年の時を経ても褪せない。
自分と遊べる程度の人間が現れても変わらない。
【オリジン】はただただ再びその人間と戦える時を待っていた。
しかし、待てど待てども好敵手は現れない。
期待せど期待せどとも同胞達は人間を責めきれない。
時間ばかりが経過し、【オリジン】は暇を持て余していた。
【ア、ソッカ!!】
その時、【オリジン】は一つの方法を思い付く。
【私自身ガアイツヲ引キズリ出セバ良インダ!!】
考えてみれば至極簡単なことであった。
なまじ長い時の経過と、自分に近しい同胞の存在が有ったがために待ちに徹していたが、【オリジン】にはもっと手っ取り早い方法があったのだ。
【ヨシ!私ガアソコニ遊ビニ行コウ!】
思い立ってからの行動は早かった。
海面に浮かび寝そべっていた【オリジン】は空中に浮かび、そしてフッと姿を消したかと思えば、立っていた海面に大量の水飛沫を上げ、目視できないほどの移動速度であの場所へ移動していった。
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根拠地がその存在に気付かない中、二体の『悪厄災』は【オリジン】が移動を始めたことに気がついた。
『ネェ…我ラガ【オリジン】様が動イタワヨ』
『アイドス・キュエネ』がどこか遠くを見るような目つきで呟くと、側にいた『エデン』が不快そうに答えた。
『チッ……上手ク動カナイデイテクレテルト思ッタラコレダヨ。ホントニ読メナイ奴ダヨネ』
『ドウスルノ?ドウ考エテモコレ、アソコヘ向カッテルワヨネ。止メル?』
『アイドス・キュエネ』の提案を、『エデン』は鼻で笑って答えた。
『止メル?マサカ!私ハマダ死ニタク無イカラネ。残念ダケド、アソコハ諦メルシカ無イネ』
『ソウネ。ヤリ返セナカッタノハ残念ダケド、コノママ死ヌノハゴメンダワ』
二人の意見は一致し、『悪厄災』と恐れられる二人の個体は、同じ個体であるはずの【オリジン】を恐れ、静観を決め込むのであった…