表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
7章 ー『アウトロー』攻防戦ー
169/481

第164星:腐れ縁

樹神 三咲 (22) 三等星

千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務める。


佐久間 椿(22) 三等星

千葉根拠地所属。洞察力に優れ、物体を組み合わせて還元し透明な罠を作る『グリット』を扱う。おっとりした口調が特徴だったが、『アウトロー』との戦いでかつての自分を取り戻し…『椿小隊』隊長。


市原 沙雪(28) 女医

千葉根拠地所属の女医。がさつでめんどくさがり屋な性格で、患者が来ることを嫌がる。外科だけでなく内科、精神科にも通じている。適当に見えるが、誰よりも命に対し真摯で、その医療技術も高い。

「ありがとうございました〜」

「あぁ、二度と来んなよ」



 暗に怪我をするなと比喩した言い回しをする沙雪の処置を終え、椿は医務室を後にする。


 ズレた衣類を直していると、ふと、部屋の前に誰かが立っていることに気がつく。



「三咲ちゃん」



 立っていたのは、樹神 三咲であった。


 窓のある壁に背をかけ、太陽の光を反射させた眼鏡をクイッと上げると、ジッと椿を見つめる。



「随分と…()()()戦ったみたいですね」

「…えっへへ〜」



 三咲が何を言いたいのか、椿は理解していた。気休め程度に笑って誤魔化すが、その表情は暗かった。



「…金城 乖離の件で有耶無耶にはなったけどさ、本来の任務である情報収集では何の成果も挙げられず、小隊の皆は危うく捕まりかけて、そして捕まえた筈の捕虜には逃げられる。任務自体は大失敗に終わったわけだ」



 その口調は他のメンバーに使われているものではなく、本来の、いやかつての『アウトロー』としての椿のモノであった。



「それなのに、私は皆のことを二の次に考えて、自分の()()を返すことのためだけに動いてしまった…私なんも変わってないね、三咲ちゃん」



 ポロポロと溢す椿の言葉を、三咲は黙って聞いていた。



「私…やっぱり『軍』に向いてないんだね…私を()()()()()()三咲ちゃんみたいになりたいって思って頑張って来たけど…結果、これだもん」



 その途中で三咲はツカツカと椿に歩み寄るが、俯いていた椿はそれに気付かない。



「私…もう『軍』をムギュウ!?」



 といったところで、椿は三咲に両ほっぺを掴まれる。



「なぁにを言ってるんですかアナタは!!」



 距離感度外視の大声で、三咲は椿を叱りつけた。



「アナタねぇ!!アナタをそこまで改心させるのに私がどんっっっっっだけ苦労したと思ってるんですか!?」

「ム…ニュニュ…」



 頬を掴んでいる手を退かそうとするも、三咲の手は力強く、椿はパタパタとすることしかできない。



「だいたいアナタはねぇ…!!」

「うるせぇ!!!!医務室の前でガタガタ騒ぐな!!!!騒ぐなら他所へ行けバカどもが!!!!」



 三咲以上の怒号を沙雪に浴びせられ、二人は頭を下げてからその場を後にした。



「…あれ?私、悪くないんじゃ…」

「あぁ?」

「ごめんなさい…」



 ふと気付いた椿の一言を、沙雪は視線のみで制した。






●●●






 場所を中庭に移した二人は、用意されたベンチに腰掛ける。冷静さを取り戻した三咲は、ゆっくりと口を開く。



「…貴方はね、頭が良いのに一人で抱え込み過ぎなんですよ。今回の任務だって、どうせかなり良いところまで読み取ってた癖に、一人で進みすぎてピンチになったんでしょう」

「うっ…」



 痛いところを的確に突かれ、椿は思わず言葉に詰まる。



「そうだろうと思いましたよ。頭の回転が速いというのも考えものですね」

「…それもあるんだけど…」



 両手の指を絡ませながら、椿はどこか辛そうに話し出す。



「今回の任務…さ、相手が『アウトロー』だっていうこともあってさ、その、正直()()()()()…んだよね」



 それは、椿がかつての自分を捨てきれていないことを表す。


 それが、『軍』人である椿にとっては辛いことであった。



「私の本能が、あの時『アウトロー』達との戦いの中で刺激されて、あんなゲリラみたいな闘いを挑んだんだ。ハッキリ言って凄い高揚してた…生きてるって感じてた。それが…今となっては凄い恐ろしい…」



 椿の声は震え、そしてうっすら涙を浮かべていた。


 普段のふんわりした椿からも、『アウトロー』の姿の椿からも想像できない、弱々しい姿であった。



「結局私は、どんなに変わろうとしたって変われないんだよ。私はどこまでいっても、その本質は『アウトロー』なんだ…」



 俯き、何も言わなくなった椿の横で、三咲は空を見上げながら語り出す。



「椿、覚えてますか?私が貴方を必死に説得し続けた時のことを」



 突然の話出しに首を傾げながらも、椿は僅かに笑みを浮かべて答える。



「そりゃ覚えてるよ〜。私と正面切って戦って、私が敗北して、んで、それから椿ちゃんは逃げる私を三日間ずっと私を追いかけ回したんだから」

「そうです。アレは私が配属された支部で、初めての案件でしたからね。それはもう必死でした」



 二人は昔を懐かしむように思い出に浸る。



「戦いに勝てないと思ったことはあったけど、人として勝てないと思ったのは三咲ちゃんが初めてだったよ。逃げても、逃げても、逃げても逃げても、三咲ちゃんは私を追いかけて、そして何度もこう言ったんだ」

「「『貴方はまだやり直せるから大人しく捕まりなさい!!』」」



 二人は同時に口に出し、椿は可笑しそうに、三咲は照れ臭そうに笑った。



「どこまでも真っ直ぐに、直向きに説得され続けて、私は遂に折れちゃったんだよね〜。そこから一年『軍』で教育を受けて、私は晴れて『軍』の一員になったわけだ」

「…まさかこの根拠地で再会するとは思ってもいませんでしたがね」



 二人がこの根拠地に配属されたのは同時期のことであった。


 その時の驚きようは、同じく同時期に配属された面々にも伝染するほどであった。



「…私は運命だと思ったよ〜。きっと、私はここで二回目の人生を歩めるんだって。でも結果は…いたっ!?」



 また俯き出した椿の頭を、三咲が全力で引っ叩く。



「いちいちしんみりと!!なんなんですか!?喝を入れて欲しいんですか!?」

「どうして今日の三咲ちゃんそんな暴力的なの!?まるで出会った時みたいだよ!!」



 ギャーギャーと誰もいない中庭で騒ぐ二人を止める者は誰もおらず、そのまま二人は数分間言葉をぶつけ合った。



「ぜぇ…ぜぇ…あ〜ほんと、昔を思い出すよね…私を追い詰める度に三咲ちゃんは私に説教垂れてさ…」

「………」



 互いに息を切らすなか、三咲が椿のこぼした言葉に反応する。



「昔を懐かしむ…と言うことは、最近までの私には、そう感じていなかった、と言うことですよね?」

「え?そりゃ…三咲ちゃんは言葉だけじゃなくそれに伴う実力もついたし…それに前よりも落ち着いたからさ…」

「そうですね。私()変わりました。だから今のやり取りで昔を懐かしむんです。では、貴方は変わっていないと本当に思いますか?」

「…そりゃ…」



 椿は先程までと同じ言葉を吐き出そうとするが、それよりも早く三咲が話す。



「じゃあどうしていま、私と対等に話してるんですか?」

「…え」



 その一言が、椿の胸に突き刺さる。



「私は『軍』で、貴方は『アウトロー』。そして今は二人とも千葉根拠地の『グリッター』です。それなのに、本当に変わってないと言いますか?」

「…それは、でも…」



 口籠る椿を逃さないよう、三咲は椿の肩を掴み、上を向かせる。



「貴方は変わった。私と出会って()()()()()()()()()()()()()。その結果が今の『軍』としての貴方でしょう?」

「ッ…!」



 顔を背けることは叶わず、椿は三咲の言葉を真正面から受ける。


 それはかつての日と同じ。変わろうとしなかった自分(椿)を変えてくれたあの時と同じ、強く、心に響く三咲の言葉であった。



「貴方は一歩を踏み出した。『軍』として、人として。なら今度は歩めば良いんです。踏み出した一歩を超えて、一歩、一歩と歩んで行けば良いんです」



 肩から手を外し、今度は椿の手を強く握る。



「それでも疲れた時、道が見えなくなった時は私に言いなさい。昔みたいに、今みたいに、何度だって手を引っ張ってあげますよ」



 ギュッと強く握り締められた手の感触を感じたり、椿はギュッと瞼を閉じる。まるで、その温もりを覚えるかのように。



「んふふ〜♪」

「わっ!な、なんですか急に…」



 椿はそのまま三咲に抱き付き、胸に顔を埋め笑みを溢す。



「いや〜やっぱり私三咲ちゃんのこと大好きだな〜って」

「何ですかそれ…はいはい、私も貴方のこと好きですよ」

「あい、らぶ、ゆー」

「そこまでの気持ちには答えられません」



 キッパリと断られながらも、椿の口元には笑みが浮かんでいた。


 その頬がうっすら赤く染まっていることに、三咲は気付いていない。



「…落ち着きましたか?」

「…うん」

「…勇気、出ましたか?」

「うん」



 三咲の言葉に頷き、椿はゆっくりと離れる。その表情は、『軍』としての佐久間 椿のものであった。



「ありがと〜、もう大丈夫だよ〜」



 そして()()()()()()()ふんわりとした笑みを浮かべており、その姿に、三咲も安堵の笑みを浮かべる。



「では、中に戻りましょう。まだ指揮官に報告することが残っているでしょう?」

「え〜?私はこのままお仕事サボって〜三咲ちゃんとお出かけしたいな〜」

「ダメに決まってるでしょう………仕事が終わった後なら付き合ってあげますよ」

「…あ〜なんだかんだ優しい三咲ちゃん、ホント好きだな〜」

「馬鹿言ってないで、早く行きますよ」

「は〜い」



 仲を深めた二人は、互いに心を許した相手に見せる心からの笑顔を見せ合い、中へと入っていった。






●●●






 いつもそうだった。


 私が迷った時、辛かった時、道を外した時。


 私に手を差し伸べて、私を叱りつけてくれたのは、いつも貴方だった。


 手を引いて、私を導いてくれた。


 だから、貴方のことは私が絶対に守るよ。


 メナスが擬態した時の戦闘で、貴方はずっと責任を感じてたのは分かってた。


 だからあの時、私は貴方の為に戦った。


 貴方の負担を、責任を少しでも受け止められるように、貴方は間違ってないよって、伝える為に。


 だから三咲ちゃん、貴方は前に進んでね。背中は私が護るから。


 誰にも、貴方の歩みは遮らせないから。


 貴方が私の手を引いてくれるように、貴方の背中を、私は押します。


 だから……


 大好きだよ、三咲ちゃん。

※後書きです






ども、琥珀です。


十二月ですよ十二月です。

一年は早いもんですね〜。


この作品も初投稿からもうすぐ2年が経つんですね〜。

去年はバタバタとクリスマス編を書いたんですが、今年はどうしようかな…


もし、希望があれば書くかもしれないですねw←


本日もお読みいただきありがとうございました!

来週も月、水、金の三回更新でお送りしますので宜しくお願いします!


感想・レビューも(勿論)お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ