第163星:闇の中の邂逅
光もほとんど射さない暗闇の道を、金城 乖離は悠々と歩いていた。
この場での派手な装飾と圧倒的な存在感は違和感しかなかったが、何故かその人物が乖離であると、そう言うものなのだと納得してしまう感覚があった。
そこへ、一つの気配を感じとり、乖離は足を止める。
「ふむ…貴様か棗 羽衣」
名前を呼ばれると、暗闇の陰から、小柄な少女が姿を現す。
「この暗闇の中で、気配もできるだけ絶ってた筈なんだけどな…流石は金城 乖離、ってとこ?」
「クハッ!このタイミングで褒められると寧ろ貶されているようにしか思えんな」
乖離は愉快そうな笑みを浮かべ、かけていたサングラス越しに羽衣を見る。
「貴様のことだ、どうせ既に知っているのだろう?俺が無様に敗北したことをな」
「…まぁ、知ってる」
下手な嘘は乖離を刺激する要因にしかならないため、羽衣は素直に答えた。
「笑いたくば笑っても構わんぞ。貴様にあれ程のことを謳っておきながらこのザマだからな」
「…別に笑わないよ。私も負けてるし。別に無敗の男にしか興味がないわけじゃないから」
「クハッ!相変わらず気の良い女だ。可愛がってやっても良いぞ?」
「…それはまた今度ね」
乖離の誘いをやんわりと断り、羽衣は話を続ける。
「私達は常勝を目的にはしてないからね。寧ろ敗北を糧にしてこそ『アウトロー』。それは貴方が一番理解してるんでしょ?」
「無論だ。俺はいずれ最強と成る男だからな。その為には全てを経る必要がある。敗北が必要であるのなら、それさえも糧としてやろう」
乖離の堂々とした発言に、羽衣はニッと笑みを浮かべる。
「それで、問題は人質になった子達だよね。腐っても『アウトロー』だから口は堅いと思うけど、万が一に情報を吐いたら…」
「その点も抜かりはない」
羽衣の言葉を遮るようにして乖離が答える。
「あ奴らが捕まった際に、既に指示は出してある。今頃あの女の手引きで逃げているだろうよ」
「…本当に役に立ってるのね。てっきり直ぐに寝返るだろうと思ってたわ」
羽衣の言葉に、乖離は「クハッ!」と小さく笑う。
「俺は着いてくる者は拒まんが、従わせる者は選ぶ。役に立たんコマを指揮しても無駄だからな。その点、アイツはその価値があると判断した。だから使ってやってるのよ」
「…結構評価してるんだね」
「『アウトロー』であるからには、そうである根拠が必要だ。やつはその要素が根深くついている。そう言う輩は従わせるに値する。お前もそうだぞ。死を受け入れておきながら反逆のためにその命を費やす。それは俺の目から見て強く、美しい。だから貴様を愛いと思うのよ」
乖離に真っ直ぐと告げられ、羽衣は僅かに頬を赤らめる。
「まぁ…それはともかくとして、計画を知られるリスクは高まったわけでしょ。どうするの。計画を練り直すために遅らせる?」
「いや、早める」
予想外の言葉に、羽衣は思わず目を見開いて驚く。
「どうして?いま実行に移しても警戒されて阻止されると思うんだけど」
「逆だ。時が経てば経つほど、アイツらは対策を万全に仕立ててくる。俺の存在を知ったからには尚更な。だからこそ、それが整う前に実行に移す」
その内容は一理あると思ったのか、羽衣は数度頷く。
「でもこっちの準備も万全じゃないわ。気を逸らせて実行して失敗したんじゃ意味がない」
「最低限を超える水準は満たしている。ここから先に予定していた準備は、不測に備えてのもので当初の計画に無かったものだ。時期を早めても問題はない」
乖離は人の意見を聞くタイプではない。それはだれの目から見ても明らかだ。
その乖離が、羽衣と多少ながらも意見を交えているのは、羽衣がそれに値する程の人物だと乖離が認めていること、そして今回の計画がそれ程重要な物であることを表していた。
「…分かった。協力者達には伝えておくわ。ただ…」
「ん?なんだ?」
羽衣が口ごもるのを見て、乖離が問い詰める。
「…簪が駄々を捏ねてるのよ。最近貴方に構ってもらえてないって。このままだと計画に支障が出るかもしれないんだけど…」
「…チッ、あのマゾヒストが…」
乖離は基本的に愉悦の笑みを崩すことはない。
しかし、簪と呼ばれた人物の名前を聞いた瞬間、珍しく面倒臭げな表情を浮かべていた。
「アイツはあの女とは別の意味でどうも苦手だ…だがアイツの戦力は俺の計画には必要だ。蔑ろにするわけにもいくまい…そっちは俺が何とかする。貴様は準備を進めておけ」
「悪いわね。了解したわ」
やり取りを終えた二人は、そのまま暗闇の中に姿を消していった。
●●●
『そう…ついにあの男が動いたのね』
椿達の救出後、ひと足先に根拠地へと戻ってきた咲夜は、休む間もなく隣に座る大和とともに最高本部の護里に報告を始めていた。
「はい。それも何か良からぬことを画策しているようでした」
『そうでしょうね。気まぐれとは言え金城 乖離が意味もなく戦闘に介入するとは思えないもの。【アウトロー】の三人組を助けたのは、それなりの理由があると思った方が良いわね』
いつも温和な護里も、一度苦渋を舐めさせられたこともあり、乖離の話題に関しては真剣な面持ちであった。
もちろん、最高司令官としての責任もあるのだろうが、それだけ乖離を警戒している様子が現れていた。
「ですが、一体何を企んでいるのでしょうか…」
『内容までは分からないけれど、目的は分かるわ』
咲夜が乖離の目的を考えていると、護里は直ぐに答えた。
『乖離の目的は簡単。支配から逃れることよ』
「支配から逃れる…ですか?」
咲夜が繰り返すと、護里はモニター越しに頷く。
『彼はね、支配されるのは苦痛…いえ、もっと単純、つまらないと思っているわ。そして自分が最強であると信じて疑わない彼は、支配する側であることこそがその証であると考えているの』
子供じみた理屈ではあるが、そのシンプルな芯を持つからこそ、乖離の強さの所以なのだろう、と実際に対峙した咲夜は理解した。
「ボクからすれば、今の世界の状況を『支配』と捉える視点は面白いと思うけどね。『軍』が『グリッター』を支配する今のシステムに不満を抱いている点に関しては、少し同意してしまうよ」
「大和」
咲夜に嗜められ、大和は笑みを浮かべながら謝る。
「とは言え仮に乖離が今のシステムを変えようと、結果として彼が支配側に回るだけだ。それじゃ何の意味もない。それに彼の思想は人の意思を無視している。より破綻の道に進むだけだ。『メナス』との戦いが続いている今の時代においては尚更ね。だから、どんな目的があろうと、阻止する必要はある。そうですよね、護里さん」
『その通りよ。彼がどれだけ変わろうと、その本質は同じ。独裁者よ。そんな男に、日本の、いや世界の命運は預けられない。人々を守り続けてきた【グリッター】として、彼を阻止する義務が私達にはある』
護里がこれ程までにシリアスな雰囲気を纏うことは稀だ。護里の乖離に対する意識が強く表れていた。
『貴重な情報をありがとう、咲夜ちゃん』
「私は何もしていません。今回の作戦に尽力してくれたのは、この根拠地の小隊です。礼と労いは、どうぞ彼女達に」
『ふふっ、そうね、彼女達にもキチンとお礼は伝えておくわ』
と、そこで護里は何かを思い出したかのような表情を浮かべる。
『そうそう、伝え忘れるところだったわ。貴方達に良い話が来てるわよ』
そういうと護里は近くの端末を操作し、大和達が見ているモニターに一つの文章を映し出す。
「これは…もしかして…」
『【大輝戦】のお知らせと、その招集よ。本当はメールとかで順次送っていくんだけど、ちょうど良いからここで伝えちゃうわね』
【大輝戦】は、年に一度開かれ、各地方を一つのグループとし数名の代表を選抜。
その後様々な種目で競いあう、一種の大会のようなものである。
『軍』の上層部からすれば戦力を見極める場でしかないが、『グリッター』からすれば自分をアピールする最高の舞台となる。
『グリッター』にとって選ばられるだけで名誉となるのが【大輝戦】なのである。
『今回は各グループから計4名ずつ選抜したわ。その中で、貴方達の根拠地からは二名選ばれたわよ』
「…!私達のグループは六つもあると言うのに、二人もですか?」
咲夜が驚くのも無理はない。過去三年間に開かれた【大輝戦】において、ここ千葉根拠地からの選抜者はゼロ。
四年前の【大輝戦】では、当時の夜宵の活躍が認められ出場したものの、結果は散々であった。
それも踏まえれば、いきなり二人も選抜に選ばれたと言われれば、驚くのも仕方のないことである。
「…それで、誰が選ばれたんですか?」
『その顔だと薄々気付いてるんでしょう?貴方達の根拠地からは、斑鳩 夜宵ちゃんと、斑鳩 朝陽ちゃんの姉妹が選ばれたわ』
護里の言葉に、大和はうっすらと歓喜の笑みを浮かべた。
※後書きです
ども、琥珀です
前書きに書くようなこともなく、あらすじを入れるタイミングでも無いかなと思い、今回は白紙です。
さりとて後書きに書くこともなく…そうですね…
皆さま白米は硬め柔らかめどちらがお好きですか?
私は断然硬めですね
なのでご飯屋行く時なんかは白米を食べてリピーターになるか決めますね
…はい、なんの話なんですかね
本日もお読みいただきありがとうございました。次回は金曜日に更新しますので宜しくお願いします!
感想・レビューも(勿論)お待ちしております!