第161星:逃亡
金城 乖離
傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人な『アウトロー』の王。それに見合う実力と知性、そしてカリスマ性を備えた人物。かつて護里との戦いに敗れ、以降姿を眩まし続けていた。
ローブの人物
椿を救った、ローブで頭上を隠す謎の人物。乖離を『グリット』ごと吹き飛ばす程の実力を持ち、また人を諭す冷静さを持つ。椿とは周知の中のようであるが…?
椿達が合流を果たし地上階に戻っているころ、ローブの人物は乖離との戦闘を続けていた。
互いに繰り広げるレベルの高い立ち回りと動き、少しでも戦闘の理解がある者なら、固唾を飲む高度な戦いを繰り広げていた。
「(ふむ…にわかには信じられんことだが…)」
その最中、乖離はある事実を理解し受け入れつつあった。
「(この輩…戦闘技術にそれを活かす動き、そして経験…認めたくは無いが全てにおいて俺を上回っている)」
乖離は自信家だが、それを裏付ける実力の持ち主である。
それは同時に、自分の力を客観的に見ることができることを表す。
その客観的なものの見方が、自分と相手の力量の差を明確に捉えていた。
並のものならそれを拒むだろう。
しかし乖離は並に止まる人物ではなく、その事実を受け入れていた。
金城 乖離は自分が最強である事を信じて疑わない。
それは、目の前の人物との力の差を理解しても変わらない。
何故なら最強であることが、最早運命、いや理であるとさえ思っているからだ。
しかし、それが絶対であるとは決めつけていなかった。
そう考えられるようになったのは、早乙女 護里に敗北を喫してからであった。
自分が今は最強では無いことを思い知らされ、それを受け入れてから、乖離の思考の幅は大きく広がった。
最強で無いのならば、最強と成ろう、そう考えるようになったのだ。
「(確かに貴様は強い。今の俺よりもな。だが、これもいずれ俺が頂点に立つための一歩に過ぎん!貴様も俺の覇道の糧となるが良い!)」
対するローブの人物は冷静だった。
ここまでの戦闘で、自身が乖離よりも優れる実力と、それを活かす術を持っていると理解しながら、この人物は慢心する事なく堅実に戦闘をこなしていた。
それは、自分の方が強いと言う確信でも、自信でもなく、理解をしていたからである。
現に、この戦いを糧とすべく勢いを増した乖離の猛攻に対し、ローブの人物は一向に怯んだ様子を見せない。
寧ろ、差を見せつけるかのように、その全てを正面から弾き返していく。
油断も隙もない、洗練された力強さを見せつけていた。
「ぬぅ…」
これには乖離も、どこか歓喜の笑みに合わせて苦い表情を浮かべていた。
反撃に転じるローブの人物の攻撃を、乖離は消滅させるもの、衝撃に押され後ずさる。
「おのれ…ここまで歯が立たぬとは…貴様本当に何者だ」
「正体を暴けなくて残念でしたね。大人しく捕まるのであれば顔くらいは明かしても構いませんよ」
「クハッ!それでは面白くなか…ろう!!」
乖離は握っていた破片に『グリット』を発動。
消滅が始まった直後に、それをローブの人物目掛けて投げつける。
一見すればただの投擲。
これまでの戦いからローブの人物がこれを打ち返すのは容易いことだろう。
しかし、そういった行動は取らず、ローブの人物はこれを回避。
投擲された破片は背後に突き刺さり、当たった箇所を巻き込むようにして消滅していった。
通常なら防ごうとするものを、ローブの人物は乖離の意図を読んだ上で回避し、乖離は再び複雑な笑みを浮かべる。
「初見で見極めるのか!最早怒りを通り越して呆れてくるな!!」
「傍若無人に見えても『アウトロー』のトップですからね。何かしらの絡め手は使ってくるだろうと警戒はしています」
様々な手を駆使して崩そうと試みる乖離に対して、ローブの人物はどこまでも冷静。
不意の攻撃にさえ完璧に対処してみせていた。
その光景を、地下から登ってきた椿達が唖然とした様子で見ていた。
「すっご…何あの人…あっちの男の人も凄い動きしてるのに、その上をいってるよ。あぁもうこう言う時に限ってなんでカメラないのさ!!」
持ち物は全て回収されてしまったため、七のトレンドマークとも言えるカメラも当然手元には無かった。
「今はそれよりも〜、優弦ちゃんを回収しにいく方が先だよ〜。あのローブの人は上手く避けながら戦ってくれてるみたいだけど〜、いつ巻き込まれるか分からないからね〜」
そう言って椿は、自ら先陣を切り七達を誘導する。
「む…」
その姿に、戦闘中である乖離も気が付くが、目の前の人物を相手にしては、意識を割くだけで精一杯であった。
それから間も無くして、椿達は優弦を回収。
安否を確認したのち、ローブの人物に加勢するようにしてその背後についた。
それに気付いた乖離は、ローブの人物の攻撃を捌きつつ、その勢いを利用して大きく距離をとった。
「流石に多勢に無勢だな。本来なら数など俺には関係ないが、そこの輩がいてはどうにも分が悪い」
乖離が距離をとって降り立った先は、倒壊し崩れた物が重なっていたため、他のところよりやや高くなっている。
そのため、乖離は椿達を見下すような形になっていた。
「どこまでも自分が頂点であると言わんばかりの態度ですね、貴方は」
「無論よ。俺こそが最強であり、頂点に至る男なのだからな」
ローブの人物の皮肉の言葉を、乖離は寧ろ受け入れて肯定した。
「しかしよもやこれほどまでに早く二度目の敗北を喫するとはな。計画も練り直し。やはり腐っても『軍』は『軍』か。侮れん奴らもいるものよ」
敗北を苦と捉えず、糧として受け入れる乖離。
ただプライドが高いだけでなく、それを受け入れる強かさを兼ね備えており、それが乖離という人物をより強くしているのだろう。
「逃げるの?仲間を放置して」
「ん?誤解するなそこの女。ソイツ等は仲間ではない。俺の意思に従い追従する僕よ。ここにきたのはほんの気まぐれ。なによりも優先すべきは俺自身だ」
仲間ではなく下僕とでも言いたげな乖離の言い草に、七はやや不快感を露わにしながら乖離を見る。
「貴方を『軍』は血眼になって探してるんだよ〜。逃すと思う〜?」
次いで発言したのは椿だった。それに対し乖離は視線を向け、ほくそ笑むような笑みを浮かべる。
「なぁに、戦闘ではなく貴様等を撒くくらいなら、そこの輩を相手にしようと出来ようさ。それにしても成る程?それが今の貴様というわけか」
乖離が愉快そうな笑みを浮かべると、椿は僅かに雰囲気を暗くして乖離を睨みつける。
何を言っているのか理解できなかった七は眉を顰めるが、その話がそれ以上追求されることはなかった。
「それで?どうやってここから逃げるつもり?」
代わって乖離に話しかけたのは言葉。乖離はチラリと言葉の方を見ると、ニヤリと笑みを浮かべ…
「ふむ、実はこういうものを拾ってな」
と、いつの間にか手には筒状の小さな球体が二つ手に持たれていた。
「あれは…手榴弾かな〜?」
「あ、あれ私の閃光弾だ…回収されたやつを持ってかれたちゃったのか」
椿の問いに、七が答える。戦闘の最中に恐らく回収された物品も荷崩れしていたのだろう。
乖離はあの激しい戦闘の最中、次の一手を考え回収していたようであった。
「本来俺はこういうものは好かんのだがな。だがそういうプライドに拘って敗北した過去を思えばなんの事はない。これも一種の俺を高める道具に過ぎん」
「不意に使うのならまだしも、そんな正面切って使われて効果があるとでも?」
ローブの人物に問われ、乖離はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「無論、思わんさ。だから不意に使用する舞台を用意してやろう」
言葉の意図を理解しかねていた椿達だったが、やがてミシミシと立っていた箇所が揺れていくことに気がつく。
「俺の『破壊者』がモノに伝わって行くことは気付いているな?実は最近その消滅度合いをコントロール出来る様になっていてな」
そこまでの説明で乖離の意図に気が付いたのは椿だけであった。
思い出したのは椿が撤退すべく、乖離を地下に突き落とした時のこと。
「そこの女に落とされた時に、万が一に逃さないようの保険として残しておいた仕掛けだ。まぁまさか自分が逃げる為に使うことになるとは思わなかったな」
「いけない!みんなここから離れ…」
「遅いぞ」
次の瞬間、椿は達の立っていた箇所の床が崩壊。
床を支えていた箇所が消滅し、支えきれなくなっていたのだ。
椿達はバランスを崩し、倒壊に巻き込まれて行く。
その中で、ローブの人物だけは乖離のもとへ向かおうと試みるが…
「さらばだ『軍』の狗ども。今度会った時は決着をつけてやろう。俺の完全勝利のもと、な」
乖離はそのタイミングで手榴弾のピンを引き抜き、そしてそこから目を開けられないほどの閃光が放たれた。
※後書きです
ども、琥珀です
この歳で四十肩になってしまったかもしれません。肩が痛くて動かせませぬ。
特に上下。思わず「うっ!」となってしまいます…
定期的に動かして痛みを和らげるしか無いですね…
執筆に影響がありませんように…
来週も週三更新しますので宜しくお願いします!