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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
7章 ー『アウトロー』攻防戦ー
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第156星:『アウトロー』椿

佐久間 椿(22) 三等星

千葉支部所属。椿小隊の小隊長。物体を還元して透明な罠を作る『グリット』扱う。おっとりした口調が特徴だが、『アウトロー』に敗れてから、『アウトロー』としてのかつての自分を取り戻し…


【アウトロー】

氏通 瀬々美

 思考が超絶ネガティブで、人とまともに会話することさえ難しい根暗な女性。不意を突くことさえ可能なほど存在感が無く、また特異な『グリット』で椿を追い詰めた。


葛西 聖

 表情が常に険しい隻腕の女性。礼儀正しい口調を使うかと思えば荒々しい口調にもなる、精神的に不安定さを持つ。三人の中で『グリッター』に最も恨みを抱いているようだが…?


足柄 リコ 24歳 

 ツインテに丸メガネのオタクっ娘気質を感じさせる女性。聖に『マッドサイエンティスト』と呼ばれ(本人も否定しない)、小型のロボットで七達を追跡しアジトを突き止めた。

「なん…えっ!?」



 リコの『千変万化』は完全に機能不全に陥っていた。


 ボックスから変形し展開されていた砲台が、謎の圧力により機能しなくなっていたのだ。



「な、なんですかこれ!?私の『千変万化』が…」



 側により様子を伺おうとするリコを、聖が制した。



「止めなさい!!あの不規則な動き、明らかにおかしい!!近くのは得策じゃない」



 リコの『千変万化』は変化だけでなく耐久性にも優れる、正に至高の()()である。


 しかし、強力な圧を受けても直ぐに壊れることは無かったが、それが故にミシミシと軋み、まるで苦しんでいるかのような音にリコは苦しげな表情を浮かべていた。



「アハハ〜近付かなくて正解だよ〜」



 その様子を、椿は愉快そうな表情で笑って見ていた。



「どうせ私の『グリット』の情報も()()()()()()()()から聞いてるんでしょ〜?なら答えは直ぐに分かるじゃん」

「…ッ。まさか…『千変万化』の()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「正解〜」



 ニッコリと笑みを浮かべて、椿はパチパチと拍手をする。



「…そんな未来予知のようなことができるはずが」

「アッハハ、()()()()()()()()?」



 椿は心の底から見下すような口調で、舌を出しながら二人を貶す。



「最初の初撃で私はそこの人形使いを後方にぶっ飛ばした。そして今、貴方達二人は私を囲むように左右に立っている。貴方達に味方を慮る気持ちがあるのか知らないけど、わざわざ味方を削る理由もないでしょ?じゃあ、あのヘンテコな箱をどこに下ろすのが理想だと思う?」



 椿は煽るような口調で、わざと二人の回答を待つような間を作ってから続けた。



「そう、正解は唯一スペースがある、私の後方なわけだ!」


 二人は悔しげな表情を浮かべるも、何も言い返すことが出来ない。



「アハハ、ホント間抜けだよね〜。最初から私の手のひらで動きを操られてるのにも気付かずに、たった数発攻撃を当てだけで勝ち誇った顔をしちゃってさ」



 『千変万化』を封じたことで、砲撃を警戒する必要がなくなった椿は、警戒して動くことのできない二人を他所に、アジトの中を徘徊する。



「まぁ弾丸じゃなくて銛を撃ってくるとは思わなかったな。そこだけは読み違えちゃった。結構痛いしね」



 そうは言いながらも、椿に痛がるような素振りは一切なく、貫通した銛から垂れる血をペロリと妖艶に舐める。



「あぁ、ちなみに、あのヘンテコな箱を押さえてるのは磁力だよ。『ネオジム磁石(750円)』を四方向でS極とN極でそれぞれセットして、私の罠が作動すると挟み込む形で作動するんだ」



 アジト内の徘徊を続けながら、椿はリコの『千変万化』に使った罠の解説を始める。



「前にも使ったことがあるんだけどね。あの時はNNで反発する効果を使用したけど、今回はその逆、引力を利用して押さえ込んでるだよ」



 聖はこの時ふと初めて邂逅した時と、今目の前に立つ椿には違和感があることに気が付く。



「元々世界最強の磁力を誇る磁石が、私の『グリット』で更に強化されちゃうんだから、そりゃ動けないよね」



 その違和感は、説明を続ける椿の言葉聞いていてすぐに理解することができた。


 椿からは、初めて会ったときに見られた穏やかな雰囲気が全て抜けていた。


 ゆったりとした口調で話されていた言葉は冷たく淡々と話すようになり、笑みこそ浮かべていたが、その中身は全く異なる。


 どこか安堵感を覚える温かな笑みは、冷酷で相手を嘲笑するかのようなもので、ともかく聖達の神経を逆撫でする。


 最初の戦闘でも時折その片鱗を見せていたとはいえ、まだ『軍』の『グリッター』らしく光の灯っていた瞳からは冷たさしか感じない。


 ハッキリ言ってしまえば別人のような人物になっていた。


 それはまさに、聖が感じていた同族嫌悪を現す、『アウトロー』としての存在感と姿であった。



「ん〜、どこかに隠し扉があると思うんだけどな。この場所の形から、多分地下通路と牢屋の空間があるはず。そこに二人はいるんでしょ?」



 そして、瀬々美が隠れていた最初のアジトを見つけた時と同じように、椿は早くもこのアジトの内造を把握しつつあった。



「(…私は見誤っていました…この人は同族なんかじゃない…嫌悪感を抱いていたのは、あの女が『アウトロー』として私よりも()()()()()()()()()()()()()()())」



 その事実に気が付いてしまい、悔しさのあまり聖はギリっと音がなるほど歯を強く噛み締める。


 そのことに気付いているのか、それともそれとは関係なしに蔑んでいるのか、椿は見下ろすように振り返る。



「ま、それは直接聞けば良いかな。動けなくして口がきけるくらいまで痛めつけてから吐かせれば良いし、仮に話さなくても私なら見つけられるだろうし」



 およそ『軍』の者とは思えない物騒な発言だが、目の前に立つ聖とリコは、これが嘘ではないということを理解していた。


 この状況において、椿の放つプレッシャーにより自分が怒りで冷静さを失っていることに気が付いた聖は、次の手を考える。



「(リコさんはまだ攻撃に加わる手はあるとはいえ、自身の傑作である『千変万化』を封じられたのはデカい…さっきの戦いぶりからするに、私があの女と直接戦闘をするのも、正直分が悪い。私の『グリット』で隙を突くことは出来るかもしれないが、()()()()()()()()()()()()()()あの様子じゃ決めてとしては不十分だ。だとすればもう一手…)」



 聖はチラッと、今は姿が見えないもう一人の人物の方へ目を向ける。


 やはりその姿は見えなかったが、聖はその人物が無事であるということを確信していた。



「(私の『グリット』と、彼女の『グリット』…そしてリコさんの協力があれば、あの女を仕留めることはまだ可能だ)」



 リコは不気味な笑みを浮かべる椿を気丈に睨みつける。



「(正直『軍』の人間を消せばリスクが莫大に上がるから行うべきじゃない…が、ここで命を落とすよりは遥かにマシだ!それに、失態を重ねれば()()()に消される…どちらにせよ遅かれ早かれだ!)」



 覚悟を決めた聖は、逆側に立つリコに目で意思を伝える。


 初めは意図が掴めず困惑していたリコだったが、聖の強い覚悟を伴った目に訴えられ、その意図を理解する。


 本気かどうか尋ねるべく、数秒間見つめ返したものの、聖の決意は変わらなかった。


 やがて、リコが諦めるような形で折れ、聖に協力するべく陰で行動を開始する。



「(こっちは大丈夫そうですね。あとは彼女がどうか…こればかりは彼女を信頼するしかない)」



 信頼、とおよそ『アウトロー』らしくない考えをしてしまったことに、聖は僅かにほくそ笑む。


 その笑みを見て、椿は聖達の様子がおかしいことに気が付く。



「なぁにぉ企んでるのかな〜?余計なことはしないで、早く諦めたほうが後が楽だよ?今ならまだ…うん、()()許してあげるからさ、私を舐め腐ったこと」



 それが嘘であることは二人も理解していた。


 そして同時に、聖もリコも、椿の言葉には一切耳を傾けないことを決める。


 リコも既に準備は整っており、仕掛けるタイミングは聖に任されていた。


 一つ、小さく素早く呼吸を整えると、聖が前に飛び出た。


 それに合わせるようにして、リコはポンチョ型の服の中で仕込んでいた戦闘補具(バトル・マシナリー)を聖目掛けて投げた。


 それは、先の戦闘で聖が投げ捨てたモノを回収し修復したモノであった。


 『千変万化』に収容する余裕がなく持っていたものを服の中で操作し、組み立てたのである。


 聖は投げつけられた武器をキチッと手に取り、更に加速する。



「アッハハ、ホント単細胞だね。真正面からの戦闘で勝てると思ってるの?」



 対して椿は余裕の笑みを浮かべていた。それが完全に慢心であるとこを見抜いていた聖は、椿との距離が残り5mを切ったところで、『グリット』を発動した。



「ッ!?これ、は…あの時の…」



 次の瞬間、椿の表情が苦痛に歪む。


 複数箇所に怪我を負っている椿だが、いま全身を襲っている激痛は、それ以外のものであった。


 これが葛西 聖の『グリット』、『幻痛感(サブリミナル)』の効果である。


 かつての戦闘で右腕を無くした元『軍』の支部人である聖は、適切な処置が施されず、その後ファントムペインに悩まされ続けていた。


 そして、限界まで精神的に疲弊した際に『グリット』が開花。


 その能力は、相手の過去の傷を想起させ、幻痛を起こさせるモノ。


 これは、傷の多い歴戦の猛者であるほど強く効果が現れる。


 傷を舐めるほどつけてきた椿には効果的面の能力と言えるだろう。



「あ〜成る程、そう言う感じの『グリット』ね」



 しかし、椿は二度目となる激痛を経て、聖の能力を理解する。


 その痛みは、過去に自分が受けてきた傷から発せられていると気づいたからだ。



「アッハハ!これで動きを止めたつもり〜?」



 元々痛みを気にしない、否、痛みに慣れている椿にとって、それは動きを制限するという障害にはなり得なかった。


 寧ろ、狂気的な笑みを浮かべ、気にする素振りなど一切見せず、聖を迎え撃とうとした。



「えぇ…そんなことおもっていませんよ!!」



 しかし、椿の予想に反して聖は動じていなかった。


 痛みに慣れているとはいえ、過去の傷全てが疼けば流石に椿といえど一瞬硬直する。


 加えて、聖の反応がおかしいことに躊躇し、その硬直は更に長引いた。


 その瞬間、椿の首から上が、自分の意思に反して、まるで人形のおもちゃの頭のようにグリンと真横に向けられたーーーーー

※後書きです






ども、琥珀です


私は多分明るい作品よりも暗い作品を書いているときの方がイキイキしておりまして、いま椿さんが闇堕ちしているわけですが、楽しく書いております。


根暗な性格が出てますね〜


さて、今週も週三更新を行います。

次回は水曜日に更新しますので宜しくお願いします。

本日もお読みいただきありがとうございました。

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