第154星:動き
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。大和編成による椿小隊の小隊長。洞察力に優れ、物事を全体から見通せる観察眼を持つ。物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。『アウトロー』の奇襲により敗北、仲間を人質に取られ…?
【椿小隊】
写沢 七 21歳 159cm 四等星
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。『アウトロー』の奇襲により人質となる。
重袮 言葉 20歳 158cm 四等星
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…。『アウトロー』の奇襲により現在詳細不明。
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。本来は夜宵小隊所属。『グリット』に導かれ一人別行動をとっていたが…?
【アウトロー】
氏通 瀬々美
思考が超絶ネガティブで、人とまともに会話することさえ難しい根暗な女性。不意を突くことさえ可能なほど存在感が無く、また特異な『グリット』で椿を追い詰めた。
葛西 聖
表情が常に険しい隻腕の女性。礼儀正しい口調を使うかと思えば荒々しい口調にもなる、精神的に不安定さを持つ。元『軍』所属であり、片腕を失った際の不適切な処置により『幻肢痛』を患ってしまう。
足柄 リコ 24歳
ツインテに丸メガネのオタクっ娘気質を感じさせる女性。聖に『マッドサイエンティスト』と呼ばれている(本人も否定しない)。聖と同じく元『軍』所属で、バトル・マシナリーの育ての親。
同所、森林地帯。
自然の訴えに応じるように、優弦は街並みから外れた森林地帯に訪れていた。
「(この辺り…だ。このあ…たりから、凄い…ピリピリした感じが…する)」
森の内部まで進んでいくと、そこには思わず目を疑うような光景が拡がっていた。
「なに…これ…」
優弦の視線の先に拡がっていたのは、荒れ果てた木々の数々だった。
ボロボロになったもの、真ん中からへし折れているもの、そもそもの原型を留めていないモノなど、その悲惨はさまざまであった。
恐る恐るながら近付き、優弦はその木々を調べる。
「これだ…け、荒らされれば…みんな怒り…もするよ…ね」
そほ痛々しい姿に心を痛めながら、ふと、その光景に違和感を感じとる。
「なん…だろう、よく見たら木…の様子が…」
優弦が特に気にしたのは折れた木であった。
その表面は切られたような断面はなく、しかし無理やり折ったような形でもなかった。
更に少し先に倒れている木の断面と見比べると、その折れた部分から数十センチ程の木のパーツが足りていないように見えた。
実際、優弦が周囲の長さを測ってみると、樹皮の幅が5センチほどズレていた。
「これ…は…?まるで、そこだ…け消滅した…みたい」
「ふぅむ、良い慧眼をしているな小娘」
気配は殆ど感じられなかった。
周りの木々が少ないからか、優弦の『グリット』も反応しなかった。
しかし、その声に含まれた敵意を感じ取り、優弦は振り向き様に躊躇いなく矢を放った。
「うむ、良い反応だ。判断も良い。だが不敬だな」
「な…ん…グッ!!」
矢は声の主に届くことはなかった。
触れた瞬間、優弦の放った矢が塵となって消滅したからだ。
その光景に驚いている隙に、優弦は腹部を強く打ち突かれ、その意識を手放した。
「ふむ、バレんように街並み外れた場所を選んだはずだが、何故バレたのか」
声の主は男性であった。男性は僅かに考える素振りを見せた後、すぐにその思考を放置した。
「まぁどうでも良いな。しかし、ここに『軍』の者が居るとなると、本来の目的は俺ではないようだな」
男性は木々の奥にかすかに見える街の光を見つめる。
その直後、ポツポツと雨が降り出したのを見て、男性は不敵に笑う。
「クッハハ、幸運な奴らだ。どれ、少し雨宿りをしてやるとするか」
そう言うと男性は、乱暴に優弦を抱き抱え、街の方へと歩いて行った。
●●●
雨はまだ止むことなく、寧ろ激しさを増していた。
雷が鳴り響き、その閃光が室内にいる椿の姿を一瞬映していた。
雨が打ち付ける音が響く室内に、シュルシュル…と椿が身体に包帯を巻きつける音が聞こえる。
時間帯は深夜だということもあり、椿の姿は暗くてハッキリとは見えない。
言葉は一切発さず、ただただ黙々と傷んだ自分の身体の処置を行なっている。
その静かさが、非常に不気味さを醸し出していた。
「(…言葉ちゃんがやられて〜、七ちゃんを目の前で捕らえられて〜、私はこうしてのうのうと傷を癒してる…ふふ、なかなか愉快な状況だね〜)」
処置を続けながら、椿の口角が僅かに上がる。
しかし、それはいつも浮かべている柔和な笑みではなかった。
「(私を捕えなかったのは〜、七ちゃん達を人質に取っているという見せしめなんだろうね〜。そしたら根拠地とかには連絡しないだろう…と言うか出来ないよね〜、っていう…バカだね〜、ウチの司令官はその情報さえ分かれば直ぐにでも救援を出してくれる人だよ〜)」
最後の箇所の処置を終え、椿は脱いでいた衣類を着直す。
「(でも良いよ。敢えてその挑発にノッてあげる)」
焦げ破れた場所はそのままに、最低限みに纏えるよう、椿は前の部分を紐で縛り固定する。
「(…平和ボケなんて…一生縁のないことだと思ってたんだけどな〜)」
腕を開いては握りしめ、身体の状態を確認。
思っていたよりも動くことを確認し、椿は窓の外の景色を見る。
「上等よ。私を舐め腐ったこと、後悔させてやるわ」
窓に反射して映る椿は、千葉根拠地小隊長、佐久間 椿としての面影は残っていなかった。
●●●
「……うっ…」
閉じた瞼の先で、点滅する光に充てられ、七はゆっくりと目を覚ました。
「ここ…は…ッ!」
辺りを見渡そうとして、全身に走る鈍い痛みに身を捩らせる。
「いっ…たたた…なんか全身がヒリヒリする痛みだ…」
「そりゃそうよ。全身に電流流されたんだもの」
自分一人しかいないと思っていた七は、思わずその場で飛び跳ねてしまうが、直ぐにその声が聴き馴染んだ人物の声だと気付き振り返る。
「言葉!!無事だったのね!!」
「無事…と言えば無事なのかしら。まぁ閉じ込められてはいるけどね」
そう言われ、七はようやく自分が隔離されている状況であることを理解する。
室内は狭く薄暗い。周囲の造りは硬い物質で造られており脱出は難しい。
拘束はされていなかったが、手持ちのものは全て回収されており、二人の『グリット』の能力上、脱出は困難そうであった。
「思い出してきた…私達、拠点を襲撃されて…それで捕まっちゃったんだ…」
「みたいね。しかも丁寧に檻を用意してある辺り、敵さんの用意周到さが目に浮かぶわ」
室内の広さはギリギリ二人が入れる広さであり、最低限の範囲しか確保されていなかった。
両側の壁を叩くと、片方側からは空洞のある音が聞こえ、恐らく同様の部屋がもう一つあると推測することが出来た。
つまり、初めから四人分の部屋が確保されていたことになる。
そのことを不自然に思いながらも、七は不思議とそれを口にはしなかった。
「ここにいるのは言葉ちゃんと私だけ?」
「そうみたいね。優弦ちゃんは別行動してたのが吉と出たのか行方が掴めず。椿さんは対峙した筈だけど捕まってはいないみたい。ここにいないところを見ると、もしかしたら根拠地に逃げ帰ったのかもね」
「逃げてはいないよ」
言葉が口にした内容に、七は思わず否定的な言葉を投げかけた。
少し驚いた表情を浮かべたのち、言葉は目を伏せて謝る。
「…ごめん。捕まったことでちょっと不安になってたのかも」
「…私も強く言い返してごめん。でも、椿さんは逃げたりしないよ。絶対に私達を助けに来てくれるはず」
気まずい雰囲気が漂う室内で、七は椿への信頼を胸に、待つことを決意する。
その横で、言葉はどこか難しげな表情を浮かべていた。
●●●
「いや〜すごい雨ですな〜」
二つ目のアジトに辿り着いた『アウトロー』の一行は、窓の外に滴る雨水と、雨の降る轟音を耳にしながら休息を取っていた。
「わ、わわわ私は好きですよ雨。この音を聴いていると心が落ち着く気がするので」
「ふむ、そう感じる人もいるのですな。私は集中力が乱されるのであまり好きではないですが。聖さんは如何ですかな?」
リコが聖に尋ねるものの、聖は「下らない…」と一蹴して答えなかった。
「それより、人質の様子はどうなのです?万が一にでも脱出される様なことがあれば大変なことになるぞ」
聖に言われ、リコは手元にある小型のモニターを目にする。
「ん〜もう一人の女が目を覚ましたみたいですが、特に抵抗の類は無いですな。それに、檻についても心配はご無用!あの檻も『千変万化』御用達の特殊素材を使っている上、『戦闘補具』における、『グリッター』の『エナジー』を吸収する機構を備え付けております故、『グリッター』には脱出不可能な造りとなっております!」
「…そう。まぁその辺に関しては貴方の得意分野ですから、信頼するしかありませんね」
ドヤ顔で牢屋の説明をするリコにやや呆れた様子でため息をつきながらも、ひとまず聖は檻に関しては問題ないと判断した。
「あとは外の問題ですね。だいぶ手傷を負わせたとは言え最後まで意識を失うことはなかった。だとすれば予想よりも早く攻め込んでくるかもしれないぞ」
自分達にとって有利な状況を作りながらも、聖は様々なケースを想定して警戒を怠らなかった。
「…ふむ。まぁそれは確かに…ただ聖さんにお渡しした『雷電槍』は、説明した通り人をショック死させることを想定して作ったものでして。威力を下げたとは言え人を気絶させるくらいなら余裕に出来る代物なのですよ。意識を手放さなかったことは正直驚きですが、それでも普通のように身体を動かせるようになるまで3日はかかるはず。まだもう暫くは大丈夫でしょう」
リコの説明に、聖は一先ず納得する素振りを見せる。
実際に使用した身としても、リコの説明は正しいと感じているからだ。
「あとは連絡したあの方からの返答を待つだけだが…」
それでも、何故か聖の心の中の不安感は除かれなかった。
「(…思えばアジトを突き止められ、瀬々美さんから逃れたという時から、あの女に対しては警戒心が収まらなかった…実際に対峙してからはより一層警戒心が強くなった。ですがそれは…何というか、手練れだから、とは違う…寧ろそう…言うなれば、同族嫌悪に近い…)」
自分の考えたことに違和感を感じた聖は、更に思考を深く掘り下げる。
「(そうだ…私はこの感覚をさっきの戦闘でも感じていた。あの女を追い込んだときに向けられた目…あの殺意に満ちた目をみた時、私は親近感を覚えた…)」
聖は今でもハッキリと、その瞬間の椿の表情を思い出せる。
初対面の時にみた時とは異なる、全く異質な表情。ハッキリ言ってしまえば、聖はその顔を見た時恐怖した。
その恐怖にかられ、本能的にナイフを椿の足に突き立てていたのだ。椿が自分達を追ってこられないように、と。
それでは聖達の意図とは異なってしまうことは理解していた。理解していたが、本能が理性を勝ってしまった。
「(親近感と嫌悪感…この両方を感じること自体異質だ…いや、そもそも何故そんな感覚を私は感じているんだ。私は一体、あの女に何を感じている…)」
自分の中に溜まり続ける不安を解決するために、聖は考えを続けていく。
そして、答えはすぐに見つかった。
「(…いやまて。そもそも同族嫌悪の時点でおかしいぞ。我々は『アウトロー』で、アイツは『軍』。正反対の存在だ。なのに何故同族嫌悪を私は抱いた…)」
聖の額から、一筋の汗が滴り落ちる。
「(…もし……もし、私のいま考えていることが正しければ…)」
窓の外は暗闇。加えて天候も悪く、視界もほとんど見えない。
不安を超えて危険を感じた聖は、その場から立ち上がり、リコ達に危険を知らせようとした。
その予感が的中したのは、その直後のことであった。
※後書き
ども、琥珀です。
と言うわけでゲリラ更新でした。
来週はまだ未定ですが、一先ず金曜日と来週の通常更新は実施しますので宜しくお願いします。
本日もお読みいただきありがとうございました!