第153星:『アウトロー』の思惑
あらすじ
『軍』からの任務により、『アウトロー』捜索のため夷隅地域へ訪れた椿小隊。
アジトを突き止めた一行であったが、それに気付いた『アウトロー』により襲撃を受ける。
これに小隊長の椿、隊員の七が対抗するが、先手の理を活かされ敗北してしまう。
更に人質として七が連れ去られることとなる。
生かされたまま一人取り残された椿。
『アウトロー』のその意図とは……
「あ、あああの…」
「ん?どうしましたかな瀬々美さん」
椿を倒し、先程とは別のアジトへ戻る道中、瀬々美は震えた声で思い切って二人に声をかけた。
「て、ててて撤退を進言した私が言うのもアレですけど、あ、あああの人を捕らえなくて良かったんですか?」
「…それは、あの手練れの女のことですか?」
片腕で七を抱き抱える聖が瀬々美の言葉に答え、瀬々美はそうだ、と頷いた。
「…まぁ、あの場であの女の方を捕らえることも確かに可能ではありましたけど、二人同時に捕らえるのはリスクもあったからな」
「り、りりりリスクですか?」
聖の答えに、瀬々美は首を傾げる。
「つまりですな瀬々美さん、聖さんはあの場に敢えて彼女を残すことで、彼女の選択肢と可能性の幅を狭めたのですよ」
聖の代わりにリコが説明を始める。
「私達の手元にある情報では、彼女達は4人一組。その内手中にあるのは二人。そして残りの二人のうち、一人は手負いになりましたな?」
あたり頭の回転は早くないのか、指で一本一本確認した後、瀬々美はコクリと頷いた。
「これで実質我々は三人を抑えたことになり、勝利は殆ど手にしたも当然です…が!」
リコの突然の大声に、瀬々美は思わず肩を揺らす。
「厄介なのは四人目。この四人目の足取りが全く掴めない。これが非常に厄介なのですよ」
「や、ややや厄介、ですか?た、たたた確かに場所が分からないのは面倒ですけど、い、いいい一番の手練れを抑えたんですから、あまり心配ないと、お、おおお思うんですけど…」
指を顎に当て、瀬々美は首を傾げた。
「厄介なのは、私達は四人目の位置を知らず、四人目は私達の位置を知っていた場合、即座に『軍』に情報が行きかねないこと。そうなると、私達は即座にここから逃亡しないといけなくなる。まぁ遅かれ早かれここから離れる必要はあるのですけど」
リコに続いて聖が話し出す。
「じゃ、じゃじゃじゃあ、あの人も捕えても良かったのでは?」
「例えば、二人を捕えて連れていった場合、そして四人目が私達を把握していた場合、四人目は即座に『軍』に連絡を入れるでしょう。『軍』は必ず私達を捕まえるための戦力を整えてやってくる。そうなれば、私達に勝ち目はない」
聖の説明に、瀬々美は「…成る程」と頷いた。
「が、しかし、この状況を理解している人物を敢えて捕えず残しておく。四人目がそこに合流した場合、『軍』への連絡は遅らせることが出来るでしょう」
「え?な、ななな何故ですか?」
しかし、次の聖の言葉の意味を瀬々美は理解することが出来なかった。
「あの女はものすごく賢い。そして、何故だかは知らないが、私達のやり方を熟知しているきらいがある。実際、あの椿とかいう女に私達の一つのアジトを嗅ぎ付けられたんだからな」
それに関しては自分のミスだと瀬々美は反省しており、その上で確かに椿は的確に場所を割り当てていたと思い出す。
「そうなれば、もし下手に『軍』に伝えれば、人質がどうなるかなんて想像がつくだろう。奴らはそれを避けようとする筈だ」
つまり、人質を有効活用するために、敢えて椿を残してきたのだと聖は言いたい様であった。
「で、でででも、『軍』に連絡しないという確証はありませんよね?それに二人揃えばもしかしたら考え方も変わるかも…」
「変わらないよ」
「変わりませんな」
瀬々美の言葉に、聖だけでなくリコも即否定した。
「アイツらの甘ったるい仲間意識は底無し沼みたいなものだ。少しでも仲間の命が危険に晒されるのなら、それを少しでも防ぐ手に出る」
「このご時世、あまちゃんな考えだと思いますけどな〜。生きるか死ぬかの世界なんですし、もっと効率良く戦える様にすれば良いと思うんですがね」
実はこの点において、リコは『軍』と反りが合わず除名処分を下されていた。
それまでのリコは現在の戦闘補具の成長に多大に貢献しており、今の多種多様な機器の基礎は殆どがこのリコが関与している。
まさに天才と呼ばれるに相応しい人物であったが、その中には非人道的とも言える物も含まれていた。
現存のバトル・マシナリーに限界を感じていたリコは、より効率良くメナスを仕留められる武器の開発に着手しようとしていたのだ。
しかし、それによる人体への被害を度外視し、悪影響を及ぼす様な武器の開発を進言し続けていた。
それが当時から最高司令官の任についていた護里の逆鱗に触れ、除名処分を受けていた。
先の戦闘で、椿が使用したバトル・マシナリーを全て当てたのも偶然ではなく、必然であったと言えるだろう。
「え、ええええとつまり…あの女性…椿さん?は、必ず七を助けに来ると?」
「まず間違いなく。上手く行けば四人目も連れてくるかもしれない。そっちの方が私達にとってメリットが大きいからな」
そこまで説明され、ここまでの一連の流れをようやく理解した瀬々美が感心しながら深々と頷いた。
「ま、上層部の方は意外と我々よりの考え方をしてる人が多いんですがな。『グリッター』を人より兵器としてみる。意外とウマが合うと思ってたんだけど…それを一人で抑え込んでいる今の最高司令官は、やはり化け物ですな〜」
「そうですね。あれだけのカリスマ性、正直真正面からあの人と触れ合いたくないな」
今は敵となった筈の聖と、その本人から除名処分を受けたリコでさえ、最高司令官でえる護里のことはどこか敬愛しているような雰囲気が伺えていた。
そしてその感覚は、初めから『アウトロー』として動いていた瀬々美には分からないものであった。
●●●
千葉根拠地、執務室。
時刻は深夜を回ろうとしていたが、そこにはまだ二人の人物が残っていた。司令官である大和と、指揮官である咲耶だ。
普段温和な表情を浮かべていることの多い二人だが、この時はとても厳しい表情をしていた。
「…定時連絡の時間は21時。既に三時間近く時間を過ぎている。どう思う、咲夜」
机をトントンと叩きながら通信を待つ大和が、自身の横に立つ咲夜に問いかける。
「通信機の故障…という可能性もありますが、四人全員の機器が一斉に壊れることはまずあり得ないでしょう。同じ理由で、通信の入れ忘れも考え難いです。特に小隊長の椿三等星と、臨時入隊の優弦三等星はその辺りがキチンとされている方々です。万が一にもそういったケースは考え辛いかと。だとすれば…」
「通信が出来ない状況にある…っていうのが一番可能性が高いだろうね」
大和も咲夜に尋ねる前からその結論には至っていた。
現実を受け入れたくないという思いも僅かにあったかもしれない。
しかし、こうして結論が出た今、大和は自身が出すべき命令に悩んでいた。
「(連絡が来ない以上、最悪の場合を想定して動くのが定石だ…一番良いのは増援を送ること。だが小隊長は勿論、これ以上戦力を送れば、ここで有事が起きた際の対応に支障がでる。それに、一人や二人を送ったところで、返って危険な状況を作り出してしまうかもしれない)」
机に肘をつき手の上に頭を乗せ、大和は思考をフルに回転させていた。
「(勝浦支部に応援を依頼するか…?いや、相手は『アウトロー』だ。そんなことをすれば直ぐに動きを察して姿を消してしまうかもしれない…本部に依頼をするんじゃ対応が遅すぎる…どうする…焦るな…考えろ大和…)」
思い詰めた様子で考え続ける大和の隣で、咲夜も状況を整理していた。
「(今回の任務…『アウトロー』を良く知る椿さんを選定し、こうして初日から連絡が絶たれていることを見ると、椿さん達は恐らく『アウトロー』の発見に成功はしている筈…連絡が出来ない状況なのが現状だとして、追い詰めているが故に連絡出来ないのか、追い詰められているが故に連絡出来ないのか、そもそも連絡が出来る状態ではないのか…それらによって今後の対応と内容は変わってくる筈…どれが正解かなんて分かりませんが、非常に難しい状況ですね)」
二人にとって、対メナスとの戦いの方がよっぽど指揮を取りやすかった。
メナスに成長が見られるとはいえ、現場の状況をあらゆる観点から把握できるメナスとの戦闘の方が判断に迷わないからだ。
しかし、今はそれが出来ない。まるで暗闇の中で虚空を掴み続けている様な錯覚に陥るほど、二人は迷っていた。
そんな中、二人の迷いに結論を出させたのは、一通の秘匿回線からきたメールであった。
「…これは!」
内容は真っ白で何も書かれておらず、差出人も不明。しかし、添付されていた一枚の写真が、大和の考えを結論づけさせた。
そこに写っていたのは、囚われた七と言葉の姿であった。
※後書きです
ども、琥珀です
私は投稿頻度が多くないので、ここまでのストーリーがあやふやになってしまうかな?と思い、今回はあらすじを入れてみました。
たまにはこう言うのも良いかもしれないですね。
さて、今週なのですが、ゲリラで水曜日も更新しようかなと思います。週三更新ですね。
来週はまだ分かりませんが、出来ればしようかなと思っております。
では、また水曜日の更新を宜しくお願いします!