第152星:敗北
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。大和編成による椿小隊の小隊長。洞察力に優れ、物事を全体から見通せる観察眼を持つ。物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
【椿小隊】
写沢 七 21歳 159cm 四等星
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。
重袮 言葉 20歳 158cm 四等星
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。本来は夜宵小隊所属。
【アウトロー】
氏通 瀬々美
思考が超絶ネガティブで、人とまともに会話することさえ難しい根暗な女性。不意を突くことさえ可能なほど存在感が無く、また特異な『グリット』で椿を追い詰めた。
葛西 聖
表情が常に険しい隻腕の女性。礼儀正しい口調を使うかと思えば荒々しい口調にもなる、精神的に不安定さを持つ。三人の中で『グリッター』に最も恨みを抱いているようだが…?
足柄 リコ 24歳
ツインテに丸メガネのオタクっ娘気質を感じさせる女性。聖に『マッドサイエンティスト』と呼ばれ(本人も否定しない)、小型のロボットで七達を追跡しアジトを突き止めた。
突如側面から現れた聖に対し、椿は『耐熱反射鏡』が死角となりながらも反応していた。
「ッ!?カッ…!!」
がしかし、反射的に動こうとした椿の身体に、今まで感じてきたものとは違う、異質な激痛が全身を駆け巡りその動きを鈍らせた。
「(な…ん、これ…は!?)」
しかし、その痛みに何故か身に覚えを感じていた椿の身体に、何か細長い槍のようなものが突きつけられる。
次に椿が感じたのは同じものでも全く異なる激痛だった。身体に電流が流れ痺れるような感覚。
それが本当に電撃によるものであると椿が気付いたのは、壁に打ち付けられた衝撃で思考がクリアになってからだった。
「ぐっ…カハッ…」
考える程度の意識は残っていたが、身体は痺れて全く動かない。
それでも椿は、自分を一発でここまで追い込んだ人物と武器を目に焼き付ける。
握っていたのは槍のようなもの。
但し槍の先端の刃が四つ方向に開いており、それぞれの先端から電流が迸っていた。
それらが中央に集約し、直径1センチにも満たない小型の球体プラズマを生み出していた。
「(あ…れは…電流…を直接流し…込む戦闘補具…?で…も、こんな対人…を想定した武器…なんて普通は…)」
今にも途切れそうな意識を必死に繋ぎ止めながら、何とか思考を続ける椿の前で、七が怒りの表情を浮かべ立ち上がっていた。
「この…よくも!!」
「だ…め、七ちゃ…」
元々椿の言葉で辛うじて平静さを保っていた七は、その椿がやられたことで明らかに冷静さを失っていた。
必死に声を出そうと力を振り絞ると、喉から出てきたのは自分でさえ聞き取れるかどうか程度の掠れた声だった。
当然その声が七に届くはずもなく、怒りに我を忘れ七は聖に襲いかかっていった。
「愚かね」
聖は七の単調な攻撃を悠々と交わし、そして椿との時と同じように、武器を七の懐に翳し、指元のスイッチを押した。
「〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!」
そして、七も椿と同じように電流をその身に浴び、後方へと吹き飛ばされていった。
「な…なちゃ…」
七も同じく壁に激突。
椿とは異なり完全に意識を手放しているようで、ピクリともしなかった。
椿が睨むようにして聖を見ると、その視線の先で聖の持っていた謎の武器が煙を上げ壊れていった。
「…ん?リコさん、壊れたぞ?」
説明を求めるように聖がリコに視線を向けると、いつの間にか止んでいた弾幕の奥から、リコは「あちゃー」と額に手を当てて残念そうにしていた。
「その『雷電槍』は実は元々電流で人をショック死させる意図で作った武器でしてな、今回お渡ししたのは、その威力を気絶させるまで落としたモノなのですよ。ただ私、命を活かす武器は範囲外でしてな。その辺の細部の調整が上手くいかず、内部で不備が生じたのでしょう」
リコの説明に聖は「ふ〜ん…」と呟いた後、その『雷電槍』を適当に放り捨てた。
遠くから「だぁ貴重な資源が!!」という叫び声を無視し、聖はまず気絶した七の元へと近寄っていく。
乱暴に髪を掴むと、そのまま引き摺るようにして、今度は椿の元へと歩み寄る。
「今のをくらってまだ意識があるだなんて、想像以上にタフな奴みたいだな」
椿の顔を覗き込むようにして、聖は顔を近づける。椿もこれに怯むことなく睨み返した。
「この状況でまだそんな目が出来るんですか。いえ、寧ろ先程よりも強い眼差し…何故か親近感を覚えるな」
どこか笑みを浮かべながら話しかける聖であったが、七から手を離し、突如懐からナイフを取り出すと、それをなんの躊躇いもなく椿の足元に差し込んだ。
「…ッ」
椿は苦悶の表情を浮かべなかった。
「痛くないだろ。いまは電気ショックのせいで殆どの感覚が麻痺してるからな」
聖は「だが…」と続ける。
「お前がいま受けた傷は、これからも残ります。治癒しようが回復しようが、お前がいま傷を負ったという記憶は、永遠に身体に残り続ける。私みたいに、ハッキリと形として現れなくてもね!!」
聖はこれみよがしに無くなった片腕を見せつけてくる。その目は正気ではなく血走っていた。
「覚えておくと良い…痛みは無くならない…例えそこに形が残っていなくても、感じる痛みはあるんだよ」
最早何を伝えたいのか分からない聖の言葉に対し、椿は一つの確信を得ていた。
「(…この女…幻肢…痛症状がある…のね)」
幻肢痛とは、本来失ったはずの四肢などから、感覚や痛みを感じることである。
主たる原因が分からず、医療が進んだ現代でもその治療法は確立していない。
椿は聖から感じ取っていた狂気のようなものは、ここから来ているのだと理解した。
「だが、貴様達にはこの痛みは理解できまい…無いものを感じてしまう私達と違い、ある物を見ようとしない貴様達『軍』にはな」
「…な、にを…」
椿の言葉に聖はニヤリと笑うと、手を離していた七の髪を再び掴み、椿の目の前にまで持っていく。
「コイツも人質だ。これから私達のアジトに連れて行き、拷問にかけます」
聖の発言に、弱っていた椿の瞳に力が戻る。
「目的は…そうですね、一先ず『軍』の内部情報の入手としておきましょうか。私達の行く手を阻もうとしたのですから、それくらいは正当な扱いになるでしょう」
今更なんの正当性を求めるというのか、それを言葉にできないことに、椿は怒りを覚える。
「あぁ貴方達もこれで痛感できることでしょう!!存在しないはずなのに、まるでそこにあるかのような喪失感…その痛みを!!なんて素敵なことだ!!」
正気じゃ無い。今更ではあるものの、椿はそう思わざるを得なかった。
「貴方は殺さない。尻尾を巻いて逃げるのも、ここに負け犬として留まるのも好きにされたら良いです。どちらにしても、貴方は目の前で仲間を連れ去られ、喪失感に浸り、聞こえないはずの彼女達の悲鳴に怯えて過ごすことになるのだかブッ!?」
その言葉を最後まで言い切る前に、椿は聖の顔面を殴り飛ばしていた。
「目の前でペチャクチャと話しすぎ…だよ〜。お陰で少し身体に…感覚が戻ってきちゃった〜」
椿はフラフラになりながらも、壁に寄りかかりながらその場に立ち上がった。
「こんの…アマ…」
殴られたことで出血した口を無くなった腕の残りで拭いながら、聖は血走った眼で椿を睨みつけた。
今にも襲いかかって来そうな雰囲気の中、突如としてその動きが固くなり静止する。
「…くっ…これは…瀬々美…さん」
「落ち着いてくだされ聖さん。ここでこの女を始末してしまったら、『軍』に目を付けられてしまいますぞ。それはあの人の計画に反しております故」
その隣に、いつの間にかそばにまで寄ってきていたリコが立ち、聖を諭していた。
更にその後ろでは、淡く輝いた人形を握り締める瀬々美の姿もあった。
感情任せに動いていた聖を、瀬々美が抑え、リコが宥めている構図となっていた。
最初こそリコ達にもその眼差しを向けていた聖であったが、一つ深呼吸をすると、一転して落ち着いた表情を浮かべ、もう大丈夫だと伝える。
それを見たリコは頷き、瀬々美の方を見ると、瀬々美も『グリット』を解除した。
そして穏やかな表情で椿の方を見ると、立ち上がって無防備な椿の腹部を思い切り蹴り付けた。
「ッグ!?オエッ!!」
力が入らない上に不意打ちをくらい、椿はたまらずその場に膝をつき嘔吐してしまう。
それでも気丈に聖達を睨みつけるが、聖はそれを嘲笑した様子で見下ろしていた。
「今回はこのくらいで見逃して差し上げましょう。私達の狙いはお前達じゃない。このまま素直に引き下がるのであれば人質は暫くして解放をしましょうすくなくとも命まで奪うようなことは避けましょう」
聖は「ですが…」と続ける。
「もし貴方がこの先も私達のことをつけ回すのであれば話は別。彼女達には立派に人質の役割を果たしていただきましょう」
聖は身動きの取れない椿の目の前に意識を失った七を突きつけた。
「それではご機嫌よう手練れの『グリッター』さん。願わくば二度と私達の目の前に現れてくれるな」
そう言い残すと、聖達三人はその場から姿を消していった。
人質として捕らえられた七と共に。
あとに残された椿はその場で横になったまま動かなかず、ただ僅かに入る手の力で、その場の土を固く握りしめていた。
いつの間にか降り出した雨が、椿を無情に濡らしていった。
※後書きです
ども、琥珀です。
筆がノルときとノらない時ってありますよね。
私はそれが非常に極端で、ノはない時はホントに一文字も書けません…
逆にノッてる時はガツガツ書けて、1日で3話くらいは余裕で描く日もあります。
…はい、毎日書けるよう頑張ります…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。