第151星:『千変万化』
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。大和編成による椿小隊の小隊長。洞察力に優れ、物事を全体から見通せる観察眼を持つ。物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
【椿小隊】
写沢 七 21歳 159cm 四等星
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。
重袮 言葉 20歳 158cm 四等星
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。本来は夜宵小隊所属。
【アウトロー】
氏通 瀬々美
思考が超絶ネガティブで、人とまともに会話することさえ難しい根暗な女性。不意を突くことさえ可能なほど存在感が無く、また特異な『グリット』で椿を追い詰めた。
葛西 聖
表情が常に険しい隻腕の女性。礼儀正しい口調を使うかと思えば荒々しい口調にもなる、精神的に不安定さを持つ。三人の中で『グリッター』に最も恨みを抱いているようだが…?
足柄 リコ 24歳
ツインテに丸メガネのオタクっ娘気質を感じさせる女性。聖に『マッドサイエンティスト』と呼ばれ(本人も否定しない)、小型のロボットで七達を追跡しアジトを突き止めた。
「ッシッ!!」
先に動いたのは椿だった。
『衝撃槌』の内部の装置を起動し、振り薙ぎった勢いを利用して衝撃波を放つ。
「…!」
目に見えない衝撃波ではあったが、肌で感じる感覚に従い、聖はこれを回避する。
当然回避されることは知っていた椿は、攻撃の手を止まず連続して衝撃波を放っていく。
「ちっ…鬱陶しい…」
聖もこれを回避し続けるが、その数に押され前に出ることが出来ない。
「(数で劣ってる分〜、ただ正面衝突したんじゃ不利だからね〜。確実に攻め込める隙が出来るのを待たせて貰うよ〜)」
「ちっ…私の『グリット』もまだ射程圏外か…リコさん、援護はまだ出来ませんか!?」
「ん〜ごめん!まだダウンロード終わんないや!!あと3分くらい凌いでくれる?」
「簡単に言ってくれる…」
再度舌打ちを打った聖は、懐に手を入れ小型のナイフを数本取り出す。
そして片腕の指の間に収まる四本を構えると、それを一斉に投擲した。
「ッシッ!!」
四本中三本は椿の身体から逸れ、当たりそうであった一本は『衝撃槌』で弾いた。
「流石に当たらないよ〜」
「一瞬攻撃が止めば十分!!」
その言葉の勢いにのせ、聖は一気に加速。椿との距離を縮めにかかった。
「七ちゃん〜」
「はい!」
僅かに出来た間を上手く利用し、百メートル近くはあったであろう距離を半分以上詰めることに成功するが、椿は七の援護射撃を当てるために、わざと接近を許していた。
椿の指示を受け、七は『輝戦銃』を発射。
距離を詰めるために加速を重視していた聖の反応が僅かに遅れる。
「チッ!!」
『輝戦銃』によるエナジー弾が左腕に当たり、聖は止むを得ず再び距離を取った。
「やはり手練れ…私の意図をすぐさま察知してそれを利用するとは」
出血や痛みをもろともせず、聖は今の交戦でますます警戒心を高めていた。
「(…今のシンプルで直線的な動き〜、もしかして戦闘は本職じゃないのかな〜?眼鏡の人も前衛に加わろうとはしないみたいだし〜、人形使いの人も『グリット』を使わないところを見ると射程範囲外なのかも〜)」
その警戒通りに、椿はたった一度の交わりで『アウトロー』の情報を読み取っていた。
「(これならこのままでも押し切れるかな〜。最悪二人には逃げられちゃうかもしれないけど〜、取り敢えずこの状況なら一人でも捕まえられれば上々でしょ〜。言葉ちゃんや優弦ちゃんが捕まってたら捕虜としても使えるしね〜)」
当面の計画を練り上げ、椿は再度『衝撃槌』を構えた。
「インストール完了!!いや〜ここはWi-Fiが繋がらないので時間かかってしまいましたな〜!!」
それと同時に、聖の背後に立つリコが手に持っていた端末を掲げ、歓喜の声を上げた。
「お待たせしました聖さん!!いらぬ手傷を負わせてしまいましたがもう安心!!ここから反撃の時間ですぞ!!」
「ええホントに待ちました…この手の傷は全く気にしていないけど」
そうは言いつつも、聖も口元に笑みを浮かべていた。
それは、形勢逆転、勝利を確信したかのような笑みであった。
「…?いったいなに…」
「『千変万化』起動!!」
その声とともに、どこからか地響きのような物音が鳴り響く。それから数秒して上空からの落下音。
そしてソレは落下した。
「…黒い…キューブ?」
七の言う通り、空中から落下してきたのは巨大な黒いキューブであった。
サイズは直径2m程の正四角形で、装飾などは一切なし。色合いも黒のみで、内部の様子は全く分からなかった。
「…椿さん気を付けてください。何だかアレ、凄い嫌なものな気がします」
「色合いからしてもうね〜。七ちゃんも注意してね〜」
互いに警戒する必要があることを伝え、緊張感を高めていく。
「それで聖さん!!どのようなカスタマイズを施しましょうか!!」
「相手は手練れ。下手な手は寧ろ隙を生みます。私達が組んでから使い続けてきた用途で行こう」
「承知の助!!」
聖の言葉を受け、リコは再度端末を素早く操作する。
「『千変万化』、機関銃モード!!」
リコが高らかに発言すると、キューブは面がガシャンガシャンと次々に展開されていき、その中から無数のガトリングが現れていった。
「ちょ…嘘でしょ…」
その数およそ50。
2mのサイズがあるとはいえ、およそ内部に収まるとは思えない数であった。
「ムッフー!凄いでございましょこの『千変万化』!!実は内部に各種多様な様々なパーツが収納されておりまして、私の出した指示のものを内部で即座に組み立て展開するのですよ!!しかもパーツ自体はどれも非常に小柄ながら万能なものばかり。殆どのものはこの『千変万化』で作ることが可能でしょう!!それをこのサイズに留めたのですからいや〜私天才!!」
「その兵器の秘密をベラベラと喋るな天才」
「当て字がおかしい!!」
意気揚々と語るリコと、冷静に語る聖達とは対象に、先程まで優勢であった椿と七の表情が険しくなる。
「つ、椿さんこれまずくないですか…」
「まずいね〜。距離を取りながら相手の消耗を待つ作戦だったけど〜、これだと寧ろ消耗させられる側になっちゃったね〜」
椿の口調こそいつも通りだったが、そこにはいつもの余裕を感じさせる雰囲気はこもっていなかった。
この局面を打開する作戦を練り直そうと試みるが、当然リコ達がそれを待つはずもなく…
「では反撃ですぞ!!『撃て』ーーー!!」
50挺の砲弾から、一斉に弾丸が放たれた。
「『耐熱反射鏡』展開〜」
直後、椿は懐から直径30センチほどの鏡、『耐熱反射鏡』を取り出し二枚取り出し即座に展開。
無数の弾丸を防ぐことに成功する。
「判断が早い…」
その様子を、聖は目を潜めながら見ていた。
「あ、ああああの一瞬で塞ぐ手立てを見つけるなんて、や、ややややっぱり本当に凄い方なんですね」
想像以上の手練れの予感に瀬々美が慌てふためくが、リコは自信満々にムフーと興奮した様子で鼻息を溢す。
「いやいや舐めてもらっては困りますな!!『耐熱反射鏡』は対メナスを想定しただけあって耐久力も十分ありますけども、それもあくまでレーザーによる攻撃をベースにしたもの!!対して『千変万化』が放っているのはレーザーでもエナジーでもなく実弾!!それが50の砲弾から一斉に放たれるのです。限界を迎えるのも時間の問題でしょう!!」
リコの言葉に瀬々美が「なるほど」と頷くが、聖は満足していないようであった。
「確かにいずれ限界は迎えるでしょうが、銃口を突きつけられてからあの一瞬でこの防御を考えついた奴。次の手を考えるには十分すぎる時間だ」
すると聖はリコに向かって左手を差し出す。
「おや?この手は?」
「戦闘補具を寄越せ。出来れば近接且つ殺傷力の低いものが良いです」
「おやおや…そういうあまちゃんみたいな道具はあまり好かんのですがな」
そう言いながらもリコは端末を操作。するとガトリングの一つがキューブの面上で分解され、そして再び構築されていった。
出来たのは持ち手の短い槍のようなものであった。
「そちらをどうぞ。見かけは殺傷能力高めに見えますが実は…」
「だいたい分かった。面白いですね」
渡されたブツをなぞりその能力を把握した聖は笑みを浮かべる。
「ま、ままままさかひじりさんこの弾幕に突っ込むおつもりですか!?」
「えぇそうです。アイツらを追い詰めるためにはもう一手必要のようだから」
心配して止めようとする瀬々美の制止を、聖は視線と圧だけで制した。
「黙って見てろ。貴方の出番はその後に来ますから」
そう伝えると、聖は姿勢を低くして、展開された『耐熱反射鏡』目掛けて走り寄っていった。
「つ、椿さん!!このままじゃ直ぐに壊れます!!一度撤退を!!」
「それじゃ相手の思う壺だよ七ちゃん〜。相手が遠距離を求めているんなら〜私達はその逆をつかなきゃ〜」
「逆ってまさか…この弾幕のなか接近するってことですか!?」
七の驚きの混じった言葉に、椿は頷いた。
「そうでもしなきゃこの場面は覆せないし〜、撤退したら今度こそ彼女達は万全の状態で迎え撃ってくるから〜、やるなら今しかないんだよ〜」
七は尚も迷っていたが、椿は口調とは裏腹に真剣な眼差しを七に向けていた。
それで覚悟を決めた七は、一度深呼吸し頷いて椿の作戦に同意した。
「じゃあサンニーイチ、で二手に分かれるよ〜七ちゃんもアームカードリッジに『耐熱反射鏡』セットしてね」
椿に言われるや否や、七も腰につけられたポーチから反射鏡を取り出しセットする。
「じゃあ行くよ〜、サン・ニー・イチ…」
「残念1秒遅い、ゼロだ」
その声は、椿の直ぐ横から聞こえてきた。
※何気に久々な後書きです
ども、琥珀です。
いつもお読みいただきありがとうございます。
最近はちょっと惰性的に書いていたのですが、更新の都度、誤字報告をいただいておりました。
こんな拙い作品ですが、キチンと読んでいただけているのだということを再認識し、また気を引き締めて書いていく所存です。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。