第149星:追撃
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。大和編成による椿小隊の小隊長。洞察力に優れ、物事を全体から見通せる観察眼を持つ。物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
【椿小隊】
写沢 七 21歳 159cm 四等星
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。
重袮 言葉 20歳 158cm 四等星
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。本来は夜宵小隊所属。
【アウトロー】
氏通 瀬々美
思考が超絶ネガティブで、人とまともに会話することさえ難しい根暗な女性。不意を突くことさえ可能なほど存在感が無く、また特異な『グリット』で椿を追い詰めた。
葛西 聖
表情が常に険しい隻腕の女性。礼儀正しい口調を使うかと思えば荒々しい口調にもなる、精神的に不安定さを持つ。三人の中で『グリッター』に最も恨みを抱いているようだが…?
足柄 リコ 24歳
ツインテに丸メガネのオタクっ娘気質を感じさせる女性。聖に『マッドサイエンティスト』と呼ばれ(本人も否定しない)、小型のロボットで七達を追跡しアジトを突き止めた。
「二人とも、遅いね」
日は沈み、周囲が薄暗くなってきた頃。
七と言葉の二人は集合場所に指定されていたある民家に集まっていた。
この民家は予め大和が用意していたもので、今回の任務の拠点に指定されていた場所でもあった。
「集合時間とっくに過ぎてる…二人ともこういう時間はキチンと守るタイプな筈だけど…」
心配気に窓の外を眺める七に対し、言葉は落ち着いた様子で宥める。
「焦りすぎよ七。あの二人なら大丈夫。きっと何かを掴んだから遅くなってるだけよ」
「だったら…良いんだけど…」
七が窓のカーテンを閉めるのと、入口のドアが開かれたのは同時のことだった。
二人は敵であることを警戒し、一瞬で戦闘態勢になるが、ドアから入ってきたのはボロボロになった椿であった。
「つ、椿さん!?」
ドアにもたれかかる程傷付いていた椿を見て、七は慌てて駆け寄る。
「や〜…ごめんね時間に遅れちゃって〜」
「そんなことどうだって良いんです!!誰にやられたんですか!?『アウトロー』ですか!?」
椿を支えながら、七は部屋の中央に誘導して応急パックで処置をしていく。
「うん、そだね〜。あの人達は間違いなく『アウトロー』だ。私が見たのは一人だったけどね〜」
「一人を相手に椿さんがこんなボロボロに…」
「あ、でも見た目ほど怪我はしてないよ〜。使った罠が罠だから、服とか破けてるけど、右足の脱臼と〜そらから全身ちょっと打ったくらいだから〜」
「十分大怪我ですって!!」
椿に怪我の症状を聞きながら、七は処置を進めていく。
「椿さん、私が見たのは…と仰いましたが、もっと他に潜伏している『アウトロー』がいると?」
「可能性は高いと思うよ〜。私が遭遇した『アウトロー』は特異な『グリット』の持ち主で〜、実力もそれなりにありそうだったけど〜、とても一人で動けるタイプには見えなかったからね〜」
椿の説明を受けて、言葉は何かを考えるように黙り込む。
その様子を椿は目を細めて観察していたが、ふと、そのタイミングで言葉の端末に通知音が鳴り響く。
「…根拠地から連絡かしら。すいません、出てきても?」
「どうぞ〜」
椿の許可を得ると、言葉はドアから外に出て行った。
引き続き七の処置を受けていると、椿は優弦がこの場にいないことに気が付く。
「(優弦ちゃんも帰ってきてないのか〜。と言うことは優弦ちゃんも優弦ちゃんで何か掴んだのかな〜?)」
辺りをキョロキョロ見渡す中で、椿はふと、カーテンの閉められた窓の外に、黒い影があることに気が付く。
ちょうど七からの処置を終え、椿はゆっくりとカーテンを開く。
そして、窓の外に見えた影の状態を目視したのと、言葉の出て行ったドアの方から爆発音が鳴り響いたのは同時のことだった。
「え、なっ、何!?」
七が激しく動揺する中、窓の外で飛んでいた機械の鳥のような物体に気付いた椿は、七を抱き寄せ窓ガラスを割って外に出た。
直後、先程まで椿達がいた部屋が爆発。その爆風にあてられ、椿は姿勢を崩すが、七を抱きしめ衝撃から庇う。
「ぐっ!!」
全身を再び強く打ったことで、激しい痛みが椿を襲う。
「つ、椿さん!!」
「…大丈夫だよ〜」
苦しそうな声を上げる椿を七は直ぐに心配するが、椿は心配かけまいと気丈に笑みを浮かべて振る舞う。
そして二人は、爆発のあった方向を見る。そこには三人の女性が立っていた。
そして、その内の二人を見て、七は大きく目を見開いた。
「う、うそ…あの二人…」
「ん〜?七ちゃん知り合い?」
椿が尋ねると七は首を横に振る。
「知り合い…じゃないですけど、周辺で聞き込みをしている時に、あの眼鏡の人と隻腕の人に話しかけました…すいません、『アウトロー』じゃないと判断してしまいました…」
「もともと素性を隠すのが狡猾なのが『アウトロー』だからね〜。全然気にしないで良いよ〜」
寧ろ見分ける方が難しいと考えていた椿は、七の判断ミスを咎めるようなことはしなかった。
仮に咎めるにしても、ここで話しても仕方ないからだ。
既に敵は目の前にいる。今は『アウトロー』を相手にすることが先決だと判断したのだ。
「…随分派手な登場だね〜『アウトロー』は潜んでなんぼじゃなかったの〜」
「まぁ〜確かにそうですな。実力はともかく、数で劣る我々がこうして表立って行動するのはおかしな話かもしれないですな」
椿の言葉に、眼鏡をかけた女性、足柄 リコがその通りだと頷いた。
「その考え方はもう古い。いつまでも貴様らがお天道様の元を歩くのが常だと思わないことです」
がしかし、今度はその隣に立っていた隻腕の女性、葛西 聖が椿達を睨むようにして否定する。
「言うね〜これからは『悪人』が世を蔓延る時代だって言いたいのかな〜」
「ふん…お前らはいつも自分達が正義だと謳うな。だからこそ痛みを知らない」
その言葉に、聖はこれみよがしに無くなった腕を見せつけてくる。
「自分達だけが主人公だと思うか?自分達だけがのヒロインだと思うか?違う。この時代に、この世界に生まれたすべてが主人公なんだよ。悲劇のな」
その血走った眼光に、七は思わず唾を飲み込む。
それとは反対に、冷静さを保ったままの椿は、今の聖の発言に違和感を感じ取っていた。
「…その言い草だと〜、何やら『軍』について詳しそうだけど〜、もしかして元『軍』の関係者の方かな〜?」
ピクリ…と、聖が僅かに反応する。
反応を悟らせないよう注意していたものの、この僅かなやり取りの中で見抜かれたことに、流石に驚きを隠せなかった。
「お前は優秀なようだな。となると私達の隠れ家を見つけたのはお前かしら」
「そ、そそそそうですよ聖さん。この人が私達のところまで来たんです」
椿が隣に目を向けると、そこには先程振り切った根暗そうな女性が立っていた。
「(やっぱり彼女も『アウトロー』か〜。けどおかしいな〜、衝撃弾とはいえ〜、あの距離で吹き飛ばされたらどこかしら怪我をしててもおかしく無いと思うんだけどな〜)」
椿が疑問に思うのも当然で、予め備えていた椿でさえ全身に痛みが走っている状態であるにも関わらず瀬々美の外面は全く傷付いていなかった。
椿のように痛みを堪えている様子もない。
一度対峙した身として、真っ先に疑問に感じている点であった。
「やはりそうか…まぁ下手に隠してもお前にはバレるでしょう。ご明察通り、私は元『軍』所属だ。ご覧の通りこんな身体になったせいで除籍させられましたけどね」
聖は隠すことなく堂々とした態度で、自身のことを打ち明かす。
すると先程まで上空を飛んでいた機械の鳥が、リコの指に止まる。リコはコンッと鳥を突くと、鳥は変形し、元のキューブ状に戻って行った。
「まぁこの流れで言ってしまうけど、私も元『軍』の者ですぞ。あ、私は考え方の相違で抜けたんですけどもね」
リコも同様に、一切隠すことなく自身の過去を語る。
「あ、ちなみに彼女は違いますぞ。瀬々美殿は純粋な『アウトロー』です!」
「ヒェッ!?そ、そそそそんな持ち上げるような言われ方をされても困りますぅぅぅ!!」
注目を浴びるのが苦手なのか、瀬々美はバッと顔を隠してしまう。
スポットライトを浴びせたリコは「あやや…」呟き、聖は呆れた様子で頭を抱えていた。
「(つ、椿さん…言葉ちゃんは…)」
「(無事…だとは思うけどね〜。ただ姿を見せないってことは〜、動ける状態じゃないのかも〜)」
椿の答えに、七は激しく動揺した表情を浮かべる。
「(そ、そんな…!!それじゃあ直ぐに探して助けないと…)」
「(…七ちゃん)」
「(も、もしかして優弦ちゃんの姿が見えないのも、もしかしてもうアイツらが…)」
「(七ちゃん)」
「(私のせいだ…私が何もせず見逃したから…)」
「写沢 七」
ハッキリと自分の名前を呼ばれ、七は思考を止める。そして椿は、『アウトロー』に聞かれることも厭わず、七に語りかけた。
「意味のない自責はダメ。言葉ちゃんのことも優弦ちゃんのことも、まだなんの根拠もない。無事である可能性だってある」
「椿…さん」
泳いでいた焦点が定まり、七は真っ直ぐ椿を見る。
「『軍』と『アウトロー』は冷戦に近い関係にある。もし『アウトロー』が『軍』の『グリッター』に、それも正規の任務を受けている人員に手を出せば、それこそ一気に戦闘が始まる可能性がある。だから、二人だってちゃんと生きてる筈だよ」
まだ思考がまとまらず、椿の言っていることの全てをまとめることは出来なかったが、それでも生きている可能性が高いという点だけは理解し、七は何度もうなずいた。
「だったら私達が取る行動は、最善を尽くすこと。考えある最善の出来事と、最善の行動が結びつけば、最善の結果がついてくる。だから自虐的になっちゃダメだよ。分かった?」
七を諭す椿の雰囲気は、いつものふんわりした姿からは想像できないような凛々しさであった。
それは真っ直ぐ心に響き、七はいつもの平静さを取り戻していた。
「ありがとうございます椿さん!!まずはこの状況を打破する方法を考えないとですね!!」
「そ〜そ〜、やっぱり七ちゃんはポジティブでないとね〜」
既にいつもの雰囲気に戻っていた椿と、いつもらしさを取り戻した七が、正面から『アウトロー』と向かい合う。