第146星:近辺調査
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。大和編成による椿小隊の小隊長。洞察力に優れ、物事を全体から見通せる観察眼を持つ。物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
【椿小隊】
写沢 七 21歳 159cm 四等星
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。
重袮 言葉 20歳 158cm 四等星
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。本来は夜宵小隊所属。
「さて、それじゃあこれからの動きの確認をするよ〜私達の目的は〜この近隣にいると思われる『アウトロー』の実態の確認、及び目的の調査だよ〜」
拠点に腰を落ち着けた椿小隊の面々は、直ぐにその場で会議を始める。
「なんで言うかアレだよね。結構ざっくりしてるよね。この場所も比較的有力な情報があるってだけで、確実ではないんでしょ?」
「で…も、椿さんの推測…は、説得力あった…よ?可能性…は高い…んじゃないかな?」
七の疑問に対し優弦が答えるが、これに対し言葉が懐疑的な目を向ける。
「それだって可能性の話じゃない。来てから言うのもなんだけど、『軍』の調査でさえ確実なモノを掴めてないのに、当てずっぽうで探し当てるのは無謀なんじゃない?」
言葉の言うことは最もである。
そもそもの前提として、今回の任務は本来の『軍』、それも各地域の防衛を主とする根拠地の活動の枠組みから外れたものである。
にも関わらず、情報は不十分で不確実。それも地域内とは言え根拠地から離れた行動を取らなくてはならない時点でおかしな話ではある。
「聞いたところによると〜、今回の『アウトロー』の実態調査の任務は〜、千葉根拠地だけじゃなくて色んな根拠地に依頼してるみたいなんだ〜。勿論『軍』の本部も色々な場所に人を回してる見たいだけど〜、それだけじゃ手が回らないから〜、私達にもその役割が回ってきたらしいんだ〜」
椿の説明に優弦が納得したように頷くが、比例して七が渋い表情を浮かべる。
「でもそれって、あんま良くないことだよね。『軍』の本部でも処理しきれてないってことじゃん。もし本当に『アウトロー』が何か考えていたとして、いま行動に移されたら対応仕切れないんでしょ」
「そだね〜。でも、『アウトロー』もその事には気付いてる筈だよ〜?なのに行動に出ないってことは〜、『アウトロー』側もまだその段階には無いってことでしょ〜。だから、何かが起こる前にその種を摘んでおこ〜、って話なんだよきっと〜」
不安気な表情をしていた七も、いつものようにおっとりと話す椿の言葉を聞いて、「それもそうか!」といつもの表情を取り戻す。
「それで〜、この地域での捜索方法なんだけど〜、まずは聞き込みから始めようと思うんだ〜」
「聞き…込み?」
「『アウトロー』の情報を一般人から聞くってことですか?意味がないとは思わないですけど、『軍』でも掴めない情報を一般の人が持ってるとは思えないんですけど…」
懐疑的な目を向ける優弦と七の二人に対し、同意的な意見を述べたのは、意外にも言葉だった。
「案外そうでもないかもよ。期せずして『軍』の動きは形式にこだわったものになりやすいからね。そういうのは案外穴が多いものなのよ」
「…?えっと、つまり?」
言葉の説明に七が首を傾げると、言葉が更に説明を続ける。
「つまりね、『軍』でも、じゃなくて、『軍』だから掴めないこともあるってことよ」
「それ…が、どうして…一般の人へ…の聞き込みに繋がる…の?」
言葉は少しの間考える素振りを見せると、ゆっくりと口を開く。
「例えばの話で考えると、今回みたいな『軍』の捜索ってどんな感じに行われると思う優弦ちゃん」
「どう…って…、本部にある情報…をもとに、顔とか…を照合させていく…とか?」
「惜しい。ちょっと違うね」
優弦の答えに、言葉は「ブッブー」と口を尖らせて違うと返す。
「腐っても日本が世界に誇る『軍』だからね、その辺りの動きはもっと理知的よ」
「というと?」
気になるのか、七が食い気味に答えを促してくる。
「こういった時の『軍』は、優弦ちゃんの言うようにこれまで捕まえてきた『アウトロー』の情報をベースに動くわ。けどそれは顔を照合するためじゃなくて、行動を把握するため」
「え、どう言うこと?それが分からないからこうして私達が出てるんじゃないの?」
七の言葉に、言葉は「慌てない慌てない」と落ち着かせる。
「『軍』の情報量、そして情報網はすんごいからさ、ある程度の情報さえあれば、あとは個人の特徴や履歴から、その人物の動き方まで推測出来ちゃうのよ。この人物なら次はどこへ移動する、どこでこういう活動をするだろう…みたいなね」
「それ…は凄い…けど、実際に今…は、それでも見つかってない…わけだよ…ね?」
「その通り。こんなこと言うのもなんだけど、そこが『アウトロー』の厄介なところね」
言葉の返しに、七と優弦は再び首を傾げる。
「『アウトロー』の中でもデキる人はさ、『軍』の予想を上回る…いや、裏切るような行動を取るのよ」
「予想を裏切る?」
「そう。普通ならこう動くだろう…という予想に反した動きってことね。例えばそう…一般の人に溶け込むような動き…とかね」
その言葉でピンときたのか、七は「成る程」と何度か頷いた。しかし優弦はまだ理解できていない様子であったため、言葉が説明を続ける。
「つまりね優弦ちゃん。『軍』は『メナス』や『アウトロー』みたいな特定の敵には滅法強いけど、仲間や一般民のような身内には弱いってこと。良くも悪くも信頼しているからね」
「…あ、そうか。つま…り、身内に弱い…ってことはそれに扮装…すれば良い…だから『アウトロー』…は、一般人のよう…に振る舞う」
「その通り。それを更に突き詰めていくと…」
「…『アウトロー』は…一般人に擬装し…てる可能性が高い…一般人の方が、意外と情報…を持ってるかもしれない…ってこと?」
「正解!!」
優弦の答えに言葉が笑顔で頷く。
「でも、『軍』の情報網からさえ逃げ隠れ出来るやり手な訳でしょ?なのに一般人に気付かれるようなミスするかな?」
「『軍』の情報網から逃げるために一般人に擬装してるんだから〜、それ以上のことは出来ないわけで〜、何の情報もない、って言うのは寧ろ怪しいことになるよね〜」
「…?…??何だかよく分からなくなってきたんだけど…」
一先ず前提の部分となる説明は理解したものと判断し、椿は改めて指示を出す。
「まぁとどのつまり〜まずは聞き込みをしていこ〜って話に戻るんだよ〜。だから今日1日を使って〜、色んなことを聞いてきてね〜」
「どんな些細な情報も、何がきっかけになるか分からないから聞き逃さないでね。一通り調査が終わったらまたここに集合。明日以降の動きは今日の結果次第、で良いですよね椿さん」
「そだね〜」
ややアバウトであった指示をまとめあげた言葉の質問に、椿は笑みを浮かべて頷く。
「了解了解!じゃ難しいことは二人に任せて、私は指示通りに仕事をこなしますかね!!」
「七ちゃん、一人で大丈夫?私も少しついて行こうか?」
早速行動に移そうとする七を、言葉が心配した様子で声をかける。
七は振り返り、ニッ!と笑顔を浮かべる。
「大丈夫だよ言葉。私カメラが趣味だから歩くのは慣れてんのよね。だからこう言うのは私に向いてると思うし、率先して話聞いてくるよ」
確かに、カメラを趣味としている七は足腰が強い。それも戦闘に向けたものではなく、山などの険しい道を走破するために作られたものであるため、歩き続けると言う事に関しては七は適任であった。
「分かったわ。でも気を付けてね。私達は話すだけで終わるつもりでも、向こうからしたら嗅ぎ付けられたと思われて攻撃してくるかもしれないから」
「あいよ!じゃあ私先に行ってくるね!」
元気に返事を返すと、七は軽い足取りで外に向かう。
一番のムードメーカーが去り、残った面々の間に沈黙が走る。
少しして、今度は言葉が立ち上がった。
「じゃあ私も行ってきます。私は少し人通りの多いところを中心に回ってみようと思ってますので」
「分かったよ〜。宜しくね〜」
椿は手をヒラヒラさせながら、ゆっくりと外に向かう言葉を送り出した。
次いで自身も調査に向かおうと立ち上がると、その椿を優弦が呼び止めた。
「椿…さん」
「ん〜どったの〜?」
「お願い…が、あるんです…けど」
椿は「はて?」と首を傾げながらも、優弦のお願いを尋ねる。
「ボク…少しだけ…外の方…を回ろうと思う…んだけど…人気…のない…ところ」
「ふんふん〜、どうしてかな〜?」
「ボク、あまり人と話すのが得意…じゃない…のもあるんだ…けど、それ以上…に、ボクは『グリット』…で情報…を仕入れた方が良い…と思うんだ」
優弦の提案に、椿は納得して頷く。
「あ〜成る程ね〜。確かに優弦ちゃんはそっちの方が適任かもしれないね〜。寧ろそれは優弦ちゃんにしか出来ないことだし、手当たり次第よりはよっぽど有益な情報を掴めるかもしれないね〜」
同じことを考えていた優弦もそれに頷く。
「それに、最初…にここに来たと…きに感じたピリピリ…した自然の雰囲気…実はずっと気になって…たんだ」
「あ〜言ってたね〜。何が気になったの〜?」
「言葉…さんは、それは『メナス』が沢山出るから…だって言ってたけど…もしかしたらこの地域…に、外部の人間が入り…こんで、荒らしてるからピリピリ…してるんじゃない…かって思ったんだ」
優弦の推測に、椿は目を細めて吟味する。
「(成る程ね〜。それは自然の声を聞き取れる優弦ちゃんにしか分からないことだけど〜、そう感じるってことはそう伝えようとしてる、ってことだよね〜。だとすれば、それはかなり確信的な内容になりそうだね〜)」
椿はしばらく考え込んだまま黙り込むが、やがていつもの笑みを浮かべて優弦に答える。
「分かったよ〜じゃ優弦ちゃんはそっち方面をお願いね〜。でも孤立することになるから十分気を付けること〜分かった〜?」
「…!了解…!」
頼られたとが嬉しいのか、優弦はマスク越しにも分かる笑みを浮かべ、その場から去っていった。
最後に一人残った椿は、それまで浮かべていた笑みが形を変え、険しい目つきへと変わる。
「…色んな情報と経験をもとにここに来たけど…これは当たり…かな〜」
そう小さく呟くと、椿も全員のあとに続くようにその場をあとにした。
※後書きです
ども、琥珀です
私はかなりの引きこもり気質でして
仕事の時を除けばほぼ家にいます。
この間は外にいる時間が1時間だけでしたね。
皆様はお外に出てお日様を浴びて健康にお過ごし下さい…
本日もお読みいただきありがとうございました。