第145星:選出の理由
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。大和編成による椿小隊の小隊長。洞察力に優れ、物事を全体から見通せる観察眼を持つ。物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
【椿小隊】
写沢 七 21歳 159cm 四等星
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。
重袮 言葉 20歳 158cm 四等星
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。本来は夜宵小隊所属。
「や〜絶景かな絶景かな!!海に山に自然ばかり!!空気が気持ち〜!!」
勝浦某所の海辺にやってきた椿小隊。そのなかで七は大きく伸びをし、澄み切った空気を味わっていた。
「ホントだね〜。千葉根拠地も海山に囲まれて心地よいけど、所変われば品変わる、また違った良い雰囲気のところだね〜」
あまり自分を表現しない椿も、この時ばかりは深呼吸し、自然の雰囲気を感じていた。
「でも…ここの自然…たちは、ちょっとピリピリ…してるみたい」
「自然がピリピリ?」
言葉の言葉に、優弦が頷く。
「うん、ボク…の『グリット』越しに伝わっ…てくるんだ。人間で…いう、ストレスみたいな…ものを抱えてる…って」
優弦の『グリット』、『精霊の囁き声』は、自然の声を聞く『グリット』。
正確には地脈や気といったエネルギーを感じ取ることが出来る能力であり、それを草木などの自然を介して読み取っているのである。
「ふ〜ん…まぁここら一帯は準危険地域だからね。メナスの出現とかが続いてて、自然の皆さんもピリピリしてるんじゃない?」
準危険地域とは、メナスの出現頻度、及びその可能性が高い地域のことを指す。
基本的に準危険地域は、海辺の地域、それも太平洋側が指定されている。
理由は、メナスの出現は太平洋側の海から現れることが多いからだ。
メナスの出現の原因と頻度が高い理由は、飛来した隕石が近いからと言われているが、実際のところ正確なことは不明である。
しかし、結果として太平洋側の海域から出現することが多いのは統計上明白である。
その中でも比較的出現率が高いこの場所は、準危険地域とされているのである。
「(それはそう…だけど、それだけ…が理由じゃない気…がする)」
しかし、言葉の説明に、優弦はどこか納得しきれていない表情を浮かべていた。
「(100年も経て…ば、メナスの出現だ…って、ある意味自然の…摂理になり得る…筈。でも、ここの自然…が感じ取ってるストレス…は、もっと新しい…感じがする)」
優弦はその考えを椿達には話さなかった。
得た感覚を説明するのが難しいという理由もあるが、何故か今はそれを話さないほうが良いと感じたからだ。
「にしても何でわざわざこんな危険な地域に?身を隠すならもっと良い場所があるんじゃないの?」
七はいつの間にやら取り出していたカメラを握りしめつつ、一同に尋ねる。
「さぁね?国の中央に行けば行くほど『軍』の監視の目は強くなるし、それを避けるために海域の近くを選んだんじゃない?」
七の問いに、言葉が真っ先に答え、椿がそれに続いた。
「それもあるけど〜敢えて準危険地域を選んだのは、『軍』の目を欺く為でもあるんじゃないかな〜」
「『軍』の目を欺く?」
七が繰り返すと、椿はそれに肯く。
「例えばこの地域に『アウトロー』が本当に潜んでいたとして〜、行動の一端がバレたとするでしょ〜?でも、ここは準危険地域だから〜、真っ先に怪しまれるのは『アウトロー』じゃなくて、『メナス』になるわけだ〜」
「…あそっか、確かに最初にそう言うのを見つけるのは一般の人達だから、それが『メナス』なのか『アウトロー』なのかの判断は出来ないわけか」
七は納得したように肯く。
「それ…に、最近の『メナス』…の動きには…知性が伴って…るから…ね。根拠地レベル…ならともかく、支部…レベルでそのこと…を判断する…のだって、難しい…よ」
それに優弦が続き、七は「なるほどな〜確かにそうだわ」と再度肯く。
「さすが椿さんよね。読みが深いと言うか、論理的。まるで自分自身が『アウトロー』みたいだわ」
言葉の言葉に、椿の表情が僅かに凍りつく。
いつものような笑みを浮かべているにも関わらず、雰囲気はどこか冷ややかであった。
しかし、それもほんの一瞬。次の瞬間にはいつもの温和な雰囲気に戻っていた。
「ま、じゃなきゃこんな外の地域まで来ないだろうからね〜。一つの推測だよ推測〜」
椿は再度ニコッと笑みを浮かべると、目的地の方を向き、ゆっくりと歩き出した。
「さ、情報にあった目的地に向かうとしますかね〜」
その後を追うように一同が続くが、どこか雰囲気が悪いことは、全員が感じていた。
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「…はい、では本日の訓練は終了になります。各自休憩をしたら通常の軍務に戻ってください」
「「「お疲れ様でした!!」」」
咲夜の言葉を聞き終え、一同が頭を下げて反応する。
姿が見えなくなるのを見届けると、一同は一様に息を吐き出しリラックスした様子を見せる。
「ふぃ〜…今日も今日とて厳しい訓練だったわね…」
その場に座り込み、額に浮かんだ汗を拭いながら、三咲小隊の八条 凛が呟く。
「まぁでも、それだけ私達が力を付けてきていて、指揮官がそれを認めてくれてるってことなんでしょ。喜ばしいことだと思うよ」
それに答えたのは、同じく三咲小隊の大刀祢 タチ。同じく額にかいた汗を拭い、手を膝に乗せた姿勢で息を整えている。
「そりゃあすごい嬉しいことだけどさ…でも、指揮官、私達と訓練してても汗一つ流さないでしょ?どれだけ私達と差があるんだって感じない?」
凛の発言に、周りにいた面々も「確かに…」と肯く。
「ですが、そのくらいのレベルでなければ指揮官は務まらないのではないでしょうか?実戦経験や知識、それらが広く着実なモノでなければ、指揮を取るなんて出来ないでしょうから」
話を聞きつけ歩み寄ってきたのは、朝陽小隊の梓月。
人数分用意したタオルを一人一人に手渡しながら会話に混ざる。
「あ〜成る程ね…そう言われれば納得出来なくもないけど…」
「そもそも指揮官殿はおいくつなのでしょうかね!!訓練からも分かる強さと、実戦で光る知識を兼ね備えたお方であることは、これまでの戦いで十分分かりましたが、根本的な部分の面で謎がまだまだあります!!」
さらにここに、朝陽小隊の曲山 奏がいつものようなハイテンションで加わる。
「確かに…色んな推測をたてては来ましたけど、結局のところ真偽は分かっていませんからね…直接伺うのが一番手っ取り早く正確なんでしょうが…」
「あの方基本的に近寄り難いオーラを纏われてますからね!!」
「…奏さんならそんなオーラ吹き飛ばしちゃいそうだけどね…」
凛が呆れた様子で返すも、奏はなぜか照れた様子で凛はガックリと肩を落とす。
「でも…」
と、そこにタオルで汗を拭きながら、朝陽が会話に入る。
「確かに色々分からないことは多いですけど、とても信頼できる方なのは確かだと思うんです。それに、『グリット』のことや、指揮官自身の過去の話をして下さってます。それはきっと、私達に少しずつ心を開いてくれてるからだと思うんです」
朝陽は全員を見るようにして顔を上げる。
「だから、慌てて距離を縮めようとしたり、指揮官のことを知ろうとしたりしなくて良いと思うんです。私達は少しずつ、それでも確かで堅固な絆を育むことで、強くなっていけるんだって思います」
朝陽の言葉に一同は目を合わせながら「確かに…」と頷いた。
「でも、一つ気になることがあるんだけど、『アウトロー』って、裏社会の人間なわけでしょう?」
「まぁ、分かりやすく言うのならばそうなりますかね」
凛の説明に、梓月が同意する。
「そう言った類いの相手って、椿さんよりは夜宵さんの方が向いてる気がしない?夜宵さんの『グリット』は静かだし、闇だし、裏社会の人を相手にするにはもってこいの人じゃない?」
「そんなことないわ」
凛の疑問に答えたのは、たった今話題に挙げられた夜宵だった。
「あ、夜宵さん。そんなことないって…どうして?」
「誤解しているようだけど、私の『闇』は確かに発動中も大きな音を立てることはないわ。けれど目立たないわけじゃない」
そう言うと夜宵は実際に『グリット』を発動し、通常よりも小規模な闇を展開する。
「ほら、こうして改めて見ると、真っ暗だからかえって目立つでしょう?」
「あ、確かに…でもそれは周りが明るいからじゃない?相手が相手だし、暗いところとか夜とかに行動することがあれば…」
凛は一度は納得するが、すぐに次の疑問を夜宵にぶつける。
「確かにそういう条件下では私の方が向いているかもしれないけど、相手が裏の人間だとしても、必ずその条件が当てはまるとは限らないわ。寧ろ日中に活動する類いかも知れないでしょう?」
「えっと、つまり特定の条件に特化した人よりも、様々な場面での行動を考慮して、椿さんを選んだってこと?」
「そういうこと」
凛が見出した答えに、夜宵は同意するように頷いた。
「椿は元々なんでも器用にこなすタイプだし、『グリット』も特化型じゃなくて汎用性が高い能力。それに加えて小隊の面々も様々な状況に対応出来る能力を持ってるし、今回の作戦では総合的に見て椿ちゃんが適任だったのよ」
「成る程ね〜納得したわ!!」
夜宵の説明に凛が納得する中、その後ろで会話を聞いていた三咲は、どこか険しい表情を浮かべていた。
「(確かに夜宵さんの説明は筋が通っているし、そのことを考慮されての選出である可能性は高い…でも…)」
汗を拭くために外していたメガネをつけ直し、三咲は何かを考えるようにどこでもない場所を見ていた。
「(相手が『アウトロー』であるから、椿を選んだのだとしたら…)」
視線はゆっくりと、大和達が使用している執務室に向けられる。
「司令官…貴方は一体どこまで知った上で椿を選んだんですか」
小さく、小声で囁かれたその一言は、誰に聞こえるでもなく風にのって消えていった。
※後書きというか、一言?
ども、琥珀です
台風、一先ず逸れて良かった…
本日もお読みいただきありがとうございました!