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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
7章 ー『アウトロー』攻防戦ー
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第144星:枠組み

国舘 大和(24)

千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもあるか咲夜とともに指揮にとりかかり、根拠地における様々な面での改善に取り組み、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という更に上の階級であるが、それを隠している。


咲夜(24?)

常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。

「それで椿さん、目的地は?いくら千葉根拠地対応の任務だからって、千葉全てを回るわけじゃないんでしょ?」



 3日後。準備を終えた椿小隊の面々が、根拠地の出入口に集まる。



「モチだよ〜千葉でも南寄り、夷隅地域に向かう予定だよ〜」

「おぉ!!絶景のスポットばかりじゃないですか!!写真映り良いだろうなぁ〜!!フィルム足りるかなぁ〜」

「七…さん、遊びに行く…んじゃない…よ?」



 目的地を聞いて興奮し出した七を、臨時で配置された優弦がたしなめる。



「分かってる分かってる!ちゃんとスリーサイズ計算した優弦ちゃんの水着も用意してあるからね!!」

「いや…話聞いて……待って…どうし…て、私のスリー…サイズを掴んでる…の?」

「それは企業秘密です」



 それまで興奮していた表情をスンッと沈める七に、優弦はグイグイ詰めより証拠を掴もうとする。



「そいで隊長。まずはどっから行くの?」



 それを傍目に、言葉が椿の考えを尋ねる。



「ん〜そだね〜。任務の期間は設けられてないから、貰った情報をもとに虱潰しに捜索していくしか無いんだけど〜…とりあえずその中でも有力なところに行こうかなって思ってるよ〜」

「ふ〜ん…どこなの?」

「ンフフ〜()()()()()、勝浦だよ〜」







●●●





 椿達を送り出し、大和達は通常の執務に戻っていた。


 互いに用意された机の上で、大和と咲夜が束になった紙に目を通しサインをする。静寂な部屋の中に、二人が走らせるペンの音だけが響いている。



「あ…」



 そんな中、書類の記載にミスをした咲夜が、小さく声を上げペンを止める。



「どうした?らしくないじゃないか」



 普段はミスを指摘する側の咲夜が珍しくミスをしていることに、普段ミスを指摘される側の大和が少し驚いた表情を浮かべる。



「すいません…集中出来ていませんでした」



 ハァ…と小さくため息をつく咲耶を見て、大和は席から立ち上がると、お茶を煎れ咲耶に差し出した。



「少し休憩にしようか。疲れている時に作業を続けるのは効率的にも良くないからね」

「あ、いえ、疲れているわけでは…いえ、そうですね。少しだけ休憩をしましょう」



 大和の提案を断ろうとした咲夜だったが、実際にミスをしてしまったことから素直に受け入れることにした。


 大和も自分用のお茶を煎れ、それを一口すする。咲夜も口に含み、人心地ついたタイミングで、大和が話しかける。



「それで、何でお悩みかな?まだ内通者のことで気掛かりなことでも?」



 完全に内心を見透かされていることに気が付き、咲夜は再びため息をつくと、観念したように話し出す。



「そのことではありません。いえ、その事も気にしてはいますが、一先ずそれは私の中で区切りをつけていますので。それよりも気になるのは、今回の任務自体のことです」

「へぇ、というと?」



 大和は窓側の壁に腰掛け、お茶をすすりながら咲夜の話に耳を傾ける。



「これまで、根拠地の任務はどれも対メナスの作戦ばかりでした。実際『グリッター』はメナスと戦う役割を担っていますので、それはある意味で当然のことです」



 咲夜は「ですが…」と続ける。



「今回の、『アウトロー』の動向の確認及び実態の調査という任務は、本来の『軍』の枠組みから外れているような気がするんです。敵対し合っているとはいえ、同じ人間同士だと言うのに、何故互いに牽制し合わなくてはいけないのでしょうか」



 思い詰めた表情で語る咲夜に対し、大和は「ふむ…」と溢しながらお茶をすする。



「難しい問題ではあるけど…例えば、今が2世紀程前の戦争状況であるとしよう。互いの領土を広げるために、人間同士が行っていた戦争だ」

「…?はぁ…」



 突然の話に、咲夜は首を傾げるが、一先ず大和の話に耳を傾ける。



「戦争には前線で戦う兵士や軍人、今のボク達で言う『グリッター』がいた。その兵隊達は、自軍の利益のために命を賭して戦い、様々なことをこなしてきた。例えば諜報任務とかね」



 大和の話に咲夜は頷き、続きを待つ。



「今回の任務は、ある意味その延長線上にあるものだとボクは思うんだよ。互いの組織が互いの理解を得ることが出来ず、冷戦のような状態で睨み合っているような、ね」



 状況はともかく、その説明は理解できたため、咲夜は肯く。



「相手も同じ人種(グリッター)だからこそ、『(ボク達)』が動かなければならない。もしボク達が動かなければ、恐らくは警察のような組織が動くことになるだろう。でも、それは『軍』以上に枠組みから外れたことだとは思わないかい?だって警察とはいえ、彼等は『グリット』を持たない()()だからね。それを、『グリッター』を相手に任務をしてくれ、と言うのはおかしな話だ」



 大和の説明をかいつまんで理解し、咲夜は再度尋ねる。



「つまり…この任務も適材適所である、ということですか?」

「当たらずとも遠からず、かな」



 大和はお茶をすすり一呼吸置く。



「確かに今回の任務はこれまでとはやや異なる任務かもしれない。けれど、相手が『グリッター』である以上、同じ『グリッター』であるボク達が対処する責任があると思うんだ。その責任は、対メナスだけでなく、同じ『グリッター』に対してもね」



 続けて出された答えに、しかし咲夜は曇った表情を見せた。



「責任…ですが、『グリット』は望まない人にも顕現します。それが偶発的に起き、戦いを望まない人に対して、その責任を押し付けるのは、果たして正しいのでしょうか」



 お茶の水面に俯いた自分の顔を見つめながら、咲夜は悲しげに問いただす。



「そうだね。望んでいない人に押し付けるのは責任転嫁でしかない。例え理解が得られないこのご時世でもね。けれど咲夜」



 大和はお茶を置き、窓から見える外の景色を眺めながら続ける。



「この根拠地にいる子達は、本当に望まずに『軍』にいるのかな?」

「…え?」



 下を向いていた顔を上げ、窓の外を眺める大和に目を向ける。



「力を望まず、戦いを望まない『グリッター』は確かにいる。そして、そんな彼女達に戦いを強いらざるを得ない今の状況は、ボクは本当に嫌いだ。けど、彼女達…朝陽君を始めとしたこの根拠地の面々は、本当に何も望んでいないと思うかい?」

「それは…」



 思い当たる節があるのか、咲夜は口を閉じて言い淀む。



「『グリット』の力を手にした彼女達は心の支えとなる想いと誇りを胸に秘めて抱えている。だから、メナスとの命がけの戦いにも身を乗り出せるし、戦いの最中であっても、日常の中での笑顔を絶やさない。それはきっと、どこかで『グリッター』であることを受け入れ、そして『グリッター』であることに誇りを持っているからだとボクは思う」

「『グリッター』であることの…誇り…」



 大和の言葉を飲み込むように、咲夜は反芻させる。



「これまでの任務の枠組みからは確かに外れているかもしれない。けれど、それが『軍』の命令であり、『グリッター』の役割の一つであるのなら、彼女達はそれを受け入れ遂行する。椿君達も、そう思った任務にあたってるんじゃないかな?」

「…自分達は、『グリッター』なのだから、と」



 咲夜が続けた言葉に、大和はうなずく。



「最も、戦いを強いらざる得ない状況に不満を持ってるボクからすればそれも良い気分はしないけどね」



 大和は「ただ…」と続ける。



「自分の理想を押しつけて彼女達の想いを踏みにじることは絶対にあってはならない。司令官としてこの根拠地に配属されたからには、彼女達に生き残ってもらうための指揮を取る使命を果たさなくてはならないからね。勿論任務をこなした上で、だ」



 そこは咲夜の想いも同じであり、肯定的に肯く。



「ある意味でボク達も同じなのさ。彼女達は『グリッター』としての使命を果たし、ボク達は司令官・指揮官としての使命を果たす。悩み、考えながらもね」

「…その上で、自分に出来ることを模索し探し出していく、ということですね」



 大和は笑みを浮かべて肯く。



「簡単なことじゃないよね。だからボク達はぶつかり合うんじゃないかな。互いの根底にある想いとその強さが、今は壁となって理解を阻む…それが『アウトロー』や『レジスタンス』を生み出したんじゃないかと思う」

「『アウトロー』だけでなく、『レジスタンス』も、ですか?」



 咲夜の問いかけに、大和が肯く。



「ボクも直接会ったことはほとんど無いけど、『レジスタンス』はある意味で保身的な考えを持っているんだ。『グリッター』が人々を守るのならば、誰が『私達(グリッター)』を守ってくれるんだって」

「それは…正直とても重要な思想だと思います。『グリッター』にとっては特に…」



 咲夜がそう思うのも無理はない。


 『グリッター』への差別が蔓延る今の世の中において、そして死と隣り合わせのなかで戦う『グリッター』にとって、誰が彼女達の理解者であるべきなのか。


 それを追求しようとするのは、ある意味当然のことである。



「そうだね。そして、それは本来ボク達『軍』上層部の役割だと考えている。彼女達の指揮をとり導くのがボク達の使命であり、理解を最も示せる立場だからだ」

「私達が…最大の理解者…」



 窓から差し込む日光を浴び輝く大和を真っ直ぐ見据え、咲夜は強張った表情を和らげていく。



「…分かりました。例え理解が及ばないことであっても、それが任務であるのなら使命と責任をもって彼女達は遂行している。だから私達は、彼女達の想いを理解し、支える立場でなくてはならないのですね」

「そうだ。少なくとも、ボクはそう考えてるよ」



 残されたお茶を全て飲み干し、咲夜は気持ちをしっかりと入れ替えた。



「ありがとうございます大和。自分の中で、今の気持ちの落としどころを見つけることが出来たように思えます。改めて、しっかりと作業にあたらせていただきますね」



 大和にお礼を伝えると、咲夜は再び紙にペンを走らせ、執務に取り掛かりだした。


 大和もお茶を飲み干し、最後にもう一度窓の外を眺めた。



「(そう、でも考えることを、理想を掲げることも止めちゃいけない。ボク達がそれをやめてしまえば、彼女達はまるで兵器にしかなり得ない。想いがぶつかり合い今は理解し合えなくても、根底にあるモノは同じはずなんだ。いつか、皆が手を取り合い助け合える世界を…)」



 瞼をそっと閉じた大和は、窓の外から目を離すと、咲夜に続いて自身も作業に戻っていった。

※後書き






ども、琥珀です

台風の季節ですか…おちおち外出も出来ませんね…


それから一気に気温が低くなりましたね

皆さまお風邪などにはお気をつけ下さい…


本日もお読みいただきありがとうございました!

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