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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
6章 ー東京最高本部編ー
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第141星:報告

「姉さん、もう帰ってしまわれるのですか?」



 本部から遠くない空港で、スフィアは帰国の途に着くレイクとの別れを惜しんでいた。


 レイクは他には見せない困った笑みの表情を、妹であるスフィアに向ける。



「これでも無理を言って長い間滞在させて貰ってる身でね。団員達のためにも一刻も早い帰国が必要なんだよ」



 イギリスの事情も理解しているスフィアは、それでとまだ渋っていた。



「だって…せっかく姉さんと仲直りできたのに…」



 長い期間、疎遠となっていた姉妹関係を取り戻すことが出来たスフィアにとって、レイクが日本にいるということは、またとない機会であった。


 レイクもそれを理解しており、強く払うことは出来なかった。



「スフィア、君は私に見せてくれた筈だ。この国で、この国の仲間とともに戦う覚悟を。なら、私一人のために駄々をこねるようなことをしてはいけないよ」

「それは…はい、そうですね」



 尚も言い返そうとしたスフィアだったが、自分が出した結論であり、言い分が正しいことも理解していたスフィアはようやく折れた。


 レイクは落ち込んだ様子のスフィアに優しい笑みを浮かべ、ポンッと手を頭に置くと優しく撫でた。



「寂しいのはスフィアだけじゃない。私もだ。長い空白を埋めるくらい、君と語り合いたい。だから…」



 頭から手を離すと、スフィアはまっすぐレイクを見る。



「今度はイギリスへ遊びに来ると良い。『グリッター』としてでなく、ニホンの客人…そして私の妹として」



 次の瞬間、スフィアはパァッと笑みを浮かべ、嬉しそうに頷いた。


 最後にもう一度、レイクはスフィアの頭を優しく撫で、帰国するための航空機へと搭乗していった。






●●●






「宜しかったのですか?滞在日を1日伸ばすくらいは可能ですが…」



 飛行機に乗り込むと、入口のすぐ側には同じ騎士団団長であるボルス・セアリアス・ゲイネスが立っていた。



「良いんだ。仮にも団長である私が、異国の地で悠々と休んでいては士気に関わるからね」

「…貴方程イギリスに忠誠を誓っている方はいらっしゃらないかと思いますがね…だからこそ、今回の日本行きを、王…そして貴方の団員は快諾して下さったのですから」



 真っ直ぐに褒められて、レイクは僅かに照れた様子で笑みを浮かべながら、やはり首を横に振った。



「だからこそさ。国に忠誠を誓っているからこそ帰る。私を信頼している団員達のためにもね」



 レイクは「それに…」と続ける。



「スフィアも立派な『グリッター』だ。だからこれからは同じ仲間として、戦う場所が異なるだけだよ。今生の別れじゃあない」



 レイクの言葉に、これ以上止める必要ないと判断したボルスは、頭を下げて一歩引く。



「それで…頼んだことの首尾は?」



 と、レイクの表情が一転して険しくなる。両者ともに穏和な顔はなりを潜め、英国の騎士としての顔つきへと変わる。



「は…その場から去った『アウトロー』の三人組を直ぐに私の方で追跡をかけましたが…申し訳ありません、振り切られてしまいました」

「そうか。けれども元々『アウトロー』というのは姿を晦ますことが得意な輩が多い。向こうが逃げの一手に絞ったのならやむを得ないだろう」



 レイクはやむを得ないと言いつつも、ボルスは再度頭を下げて謝罪した。



「その後の追跡は?」

「打てる手すべてを持って図りましたが、残念ながら痕跡を見つけることは叶わず…」

「ふむ…まぁこれも異国の地では仕方ないことか。無理を言ってすまなかったね」

「いえ…お力になれず誠に申し訳ありません」



 三度頭を下げるボルスに、レイクは労いの言葉をかけ下がるよう促す。


 英国専用機に用意された自身の席に座り、レイクは険しい表情で窓の外を眺める。



「この国は『軍』も『グリッター』も非常に優秀だが…その分ああいった輩も狡猾だな。異国の地であるとはいえ、こう言った手合いになれているボルスまで振り切るとは…」



 窓の外から『軍』の本部があるおおよその方向を眺め、レイクは同情的な目を向ける。



「あれほどの厄介事を抱えながら、この国の平和感たるや…英国もなかなかと思っていたが…マモリ、貴方も相当苦労されているようだ」






●●●






「…以上、報告になります」



 最高本部では、帰還した一羽が護里に今回の任務の報告をしていた。


 伝える一羽も、聞いていた護里も、その表情は冴えなかった。



「ご苦労様。一先ず、全員が無事で何よりだわ」



 一羽に労いの言葉をかけるが、一羽は小さく頭を下げるだけであった。



「そんなに気負うことはないわよ一羽ちゃん。結果として情報は得られなかったかもしれないけれど、大前提である生還は果たした。これだけで、私は十分なの」

「……」



 護里の温かい言葉に感謝しつつも、一羽今回の作戦での自分の不甲斐なさを悔いていた。



「…虚を突かれたとはいえ、戦闘は私達が勝利をもぎ取りました。それは、天城とスフィアが格上であった『アウトロー』二人を相手に、打ち勝ったからです。だからこそ、私は…私が、その後のケリをつけなくちゃいけなかった…なのに…!!」



 ギリッ…と、一羽は力強く拳を作り、険しい顔つきで歯を食いしばっていた。



「今回の作戦の失態は、全て私にあります。二人は本当に良くやってくれました」



 贔屓目ではなく、一羽は心の底から二人が十分な戦果を上げたと実感していた。


 棗 羽衣に関しては未知数だが、もう一人の篝火 焔は、現在確認されている『アウトロー』でも、それなりに名が通っていた人物である。


 訓練を重ねてきたとはいえ初の実戦でありながら、焔に勝利を収めることが出来たのは、かなりの功績だと言えるだろう。


 結果として取り逃しはしたが、勝利を収めたことは間違いなく、そこだけは何としても通さなくてはならないと一羽は決めていた。



「貴方が戻ってくるまでの間に、記録された映像を見ていたわ。とても素晴らしい活躍だったわ。特に、スフィアちゃんね」



 護里は記録を思い出し、我が子の成長を見るように柔和な笑みを浮かべた。



「ついこの間見たときは、実力を秘めながらもどこかまだ不安な様子が見られたのに、この戦闘ではすっかり頼もしくなっていたわ。貴方の育成が行き届いたのね」

「…いや、スフィアが殻を破れたのは、私ではなく、天城のやつのおかげですよ。互いに認め合い、切磋琢磨し合ってきて、強くありたいという気持ちが協調したからこそ、お互いに殻を破れたんです」



 先程まで険しい表情を浮かべていた一羽が、二人のことを話し出すと一転して穏やかな笑みを浮かべていた。



「そうだったの。確かに、天城君の成長も著しいわ。『グリッター』として、その能力も踏まえて一皮向けた感じがするもの」



 ふむ、と護里は僅かに考え、小さく頷く。



「貴方のいう通り、もう『グリッター』として申し分のない実力はありそうね。訓練生は卒業ね」

「…!!ありがとうございます!!」



 二人のことを認められ、一羽嬉しそうな表情で護里に頭を下げた。



「けれど、この二人にはまだ貴方が必要よ。実力は伴っても、まだ精神面では不安があるわ。そこが成熟してこそ一人前。そこまで、貴方が導いてあげなさい」

「…はい」



 一羽はもう一度大きく頭を下げ、護里に感謝の意を伝えた。






●●●






 最高本部訓練室。


 その中では、天城が鋭い目つきでトレーニングに励んでいた。



「ハァ…ハァ…ハァ…くそっ!!」



 トレーニングを中断し、天城は内に湧き上がる感情を、壁にぶつける。



「最後の最後で…俺は気を失った…警戒も緊張も解いてなかったのに、あっさりと!!」



 天城が目を覚ましたとき、既に戦闘は終了しており、倒したはずの『アウトロー』は姿を晦ましていた。


 結果として完敗を喫し、そして最後の戦闘で絡めなかったことに、天城は強い憤りを感じていた。



「今のままじゃダメだ…もっと…もっと力を手にしなきゃ!!」



 その思いを、考えを嗜めるものは、いまこの場には存在しなかった。






●●●






「ほぅ…」



 最高本部・議会議員の一室で、一人の青年、月影 天星は、護里がみた映像と同じものを目にしていた。


 その表情は好奇心にそそられ、純粋な子供のような表情と、思惑の入り混じった狂気の笑みを合わせて浮かべていた。



「面白い『グリット』だ…唯我 天城君。君なら、私の()()の核となり得るかもしれない…」



 誰もいない暗い一室に、低い笑い声が響き渡る。

※後書きというかお知らせ






ども、琥珀です


度々で申し訳ありません。台風の兼ね合いで少し仕事の方を優先しなくてはならず、一先ず一週間更新をお休みさせていただきます。


ここ何度か続いてしまい申し訳ありません。

次回の更新は来週の金曜日を予定していますので宜しくお願いします。

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