第139星:第一騎士団団長
■関東本部『グリッター』
唯我 天城(17)
東京本部に所属する見習い『グリッター』。将来を有望視される育成組織に所属し、教官である一羽にもその才能を認められている。同期の飛鳥が最高峰の『シュヴァリエ』に、後から入った大和が司令官に着任していることから、怒りを抱いている。
スフィア・フォート(18)
東京本部に所属する見習い『グリッター』。『グリット』に関しては不鮮明な部分が多いものの、勤勉さと発想力を買われる。礼儀正しく生真面目。飛鳥と大和の兄妹の凄さに憧れている。同期の天城とは幼馴染で良く気にかけている。
射手島 一羽(27)
東京本部に所属する一等星『グリッター』。実力とカリスマ、豊富な経験を買われ、飛鳥、天城、スフィアの3人の指導教官となる。豪快でガサツな言動を取るが、実際には天城やスフィアの細かな機微に気付きケアする教官の鏡。
レイク・ソード・スクリムジョー(21)
イギリスを束ねる13騎師団の第一騎士団団長。全騎士の中でも最強の剣技を持つと言われる実力派騎士。寡黙で冷静沈着。日本にいるスフィアは実の妹。
「な、なんだコイツら!?一体どこから!?」
「あら?最初からいましたよ?戦いが始まる前から、ね」
驚く天城に対し、シノはクスクスと可笑しそうに笑う。
「…成る程。ここら一帯がお前らの縄張り。この地域にいた奴らの大半が『アウトロー』だったってことか」
一羽の発言に、天城とスフィアが驚いた表情を浮かべる。
「そんな…この周りにいる人が全員『アウトロー』なんですか!?」
「正確にはもどきですがね。『軍』に反感をいだいた輩の寄せ集めです」
逆を言えば『軍』をよく思わない人間がこれだけいるということ。その事実に、天城達は驚きを隠さなかった。
「慌てんな。もどきってことは普通の人間ばっかだ。『グリッター』である私達なら問題なく対処…ッ!!」
直後、一羽の足元に雷のような弾丸が撃ち込まれる。
間一髪これを回避するが、流石の一羽も驚きの表情を浮かべていた。
「今のは…『戦闘補具』!?」
「えぇそうです。まぁこちらももどきですがね」
「…『軍』の機密情報を盗んで簡易的な『戦闘補具』を作り出した…ってとこか。一般人でも扱えるようなモノを…」
シノの言葉から意味を察した一羽の発言に、シノは笑顔で頷いた。
「その通りです。今の攻撃もその一つ。物体を電磁誘導により加速して撃ち出す装置、電磁砲と呼ばれる武器ですわ」
電磁砲の弾速は時速7000km以上と言われており、『グリッター』と言えど回避することは難しい。
日頃からメナスとの戦闘でレーザーに慣れていたこと、そして自身の『グリット』が遠距離型である一羽だからこそ、咄嗟に反応することが出来たのである。
しかし、次の瞬間、三人の目に絶望が移る。
辺りに立っていた『アウトロー』もどき達が一斉に同様の銃を取り出したのだ。
「う、ウソ…今の攻撃があんなに一斉に来るの…」
反射的にスフィアは盾を創り出すが、辺りを囲まれている状況では、一方向しか守れない盾で防ぎきれないことは明らかであった。
「…やってみろ。お前らが打ち込む前に私が全て消してやる」
一羽の放つ殺気に、周囲の『アウトロー』もどきは僅かに怯むが、それも一瞬であった。
「アハ!えぇ、それは可能でしょうね!!貴方ならこの周りにいるもどき達を全員仕留めることは出来るでしょう!!しかし、こちらの二人はどうでしょう?貴方が撃ち漏らしたもどきから弾丸が放たれれば、この二人はまず耐えることは出来ない」
「…の野郎…最初からこれを狙ってたな」
ギロリと睨みつける一羽の視線に、シノは恍惚な表情を浮かべていた。
「あぁ、『貴方達』のその顔が見たかった。えぇ、えぇそうですとも!最初から私の狙いは訓練生である貴方達二人!!そこさえつけいれば、必ず足元をすくえると確信していましたから!!」
この時、天城とスフィアの二人は初めて『アウトロー』と言うものを理解した気がした。
敗北し身体を拘束されても尚狂気の笑みを浮かべるシノに、殺気とは違う恐怖を覚えていた。
「さぁやりなさい貴方達!!彼女達を仕留めればめでたく『アウトロー』の仲間入りよ!!」
それを皮切りに、周囲にいた面々が一斉に『戦闘補具』を構える。
「ちっ!!お前ら私の側に寄れ!!お前らは私が守る!!」
「何言ってんだ!!それじゃアンタが無事じゃ済まないだろ!!」
「そ、そうです!!それじゃいま生き残ってもなんの意味もありません!!」
「黙って言うことを聞け!!まとめて死にたいのか!!」
その躊躇が致命的となり、無情にもレールガンは一羽達目掛けて放たれた。
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「…まったく、妹の気配を感じて様子を見にきてみれば。貴方ほどの実力者でありながらこんな窮地に陥るとはね」
しかし、いつまで経っても時速7000kmを超えるレールガンの弾は一羽達に届かなかった。
代わりに聞こえてきたのは、先日聞いたばかりの声。静かで落ち着きのある、女性の声であった。
スフィアが良く知る、その人物は…
「レイク…姉さん!?」
英国の13騎師団、第一騎士団団長、レイク・ソード・スクリムジョーであった。
背中まで伸びた紺色の髪に同色の瞳、そして物静かな立ち振る舞いは前と変わらず、一行の前に立っていた。
「どうしてここに…いえ、それよりもどうやって…」
状況が飲み込めずにいるスフィアに対し、最後まで状況を見ていた一羽とシノの二人は驚きの表情を浮かべていた。
「まさか…そんな…そんなことが…」
「…今だけは同感してやるよ…私も信じられねぇからな」
周囲にいるもどき達がトリガーを引く直前、彼女は一羽達の目の前に降り立った。
そしてその直後に放たれたレールガンの弾丸を、レイクは全て斬り伏せたのである。
超一流の剣術使いは、弾丸を斬り裂くことが可能であると言われており、実際に『グリッター』として覚醒すれば、かじった程度の人でもかわすことくらいは可能になる。
しかし、いま放たれたのはマッハ7にも及ぶ音速の弾丸、しかもそれが全方位から放たれていた。
にも関わらず、レイクはこれを全て斬り伏せた。
それはつまり剣を取り出し周囲の弾丸を切り裂いた彼女の剣速は、音速さえも超えることを意味する。
「(日本の『シュヴァリエ』にも剣技を使うやつはいるが、果たしてここまでかどうか…まさかこんな奴がいたとはな…)」
しかし当の本人は飄々としており、レイクにとっては出来て当たり前のことであるようだった。
「…まぁここに至るまでの経緯を私は知らないからな。これ以上余計な事を言うのは無粋か…」
チラリとレイクはスフィア達の方を一瞥する。
「怪我人もいるようだし、逃げるのは得策ではないか…やむを得ないね。あまり他国の人間に見せるのは良くないのだけど…」
そういうとレイクは剣を握り直し構える。
「…初対面の時とは真逆の対応じゃねぇの。まさか助けられるとはな」
「私だって不本意だよ。けれど君達を見捨ててスフィアだけ助けても、スフィアは喜ばないからね。寧ろ、憎まれる。それだけは…嫌だからね」
冷静沈着でこれまで表情を崩すことも無かったレイクが、スフィアのことで初めて悲しげな表情を浮かべた。
「何をしているのです!!一発でダメなら何発でも撃ち込んでやりなさい!!」
と、そこへ拘束されていたシノから怒号が飛ぶ。それでハッとしたもどき達は再び銃を構える。
「君達、警告しておこう」
と、そこでレイクは剣を構えた状態を維持しつつ、もどき達に語りかけた。
「君達程度が武器を持ったところでたかが知れている。いまなら君達のことは見逃そう。だがもう一度私達に攻撃を仕掛ければ、以降は容赦しない」
騎士道…というべきか、レイクはもどき達に警告し、逃げる選択肢を与えた。
しかし、寧ろそれはもどき達にとって挑発だと捉えたようで、その表情を険しくした。
「ね、姉さん、それは単なる挑発では…」
「…ん?おかしいな、そんなつもりは…ただ単に事実を述べたつもりだったんだが」
それがスイッチとなり、もどき達は完全に交戦体制に入った。
「…やむを得ないな」
その様子を見て交渉を諦めたレイクは、今度こそレイクも臨戦態勢に入った。
もどき達は一斉にレールガンを発射。そしてレイクはそれを迎え撃つ。
その様子を、一羽は先程よりも注意深く観察した。
まず変化があったのはレイクの剣。淡く淡色に輝いた後、その光が刀身に纏っていき、剣を大きくしていた。
そして、レイクが剣を振るった瞬間、剣に纏われていたオーラが肥大化。
その刃が全方位から迫りくるレールガンを全て斬り落としていた。
二度目ともなると流石にまぐれではないことを痛感させられ、もどき達はたじろぐ。
「別に難しいことじゃない。敵は皆全員が私達を中心に攻撃を放っている。私はただ、その攻撃線上に沿って剣を振るえば良い」
レイクはピッと剣を振り、再び構える。
「(簡単そうに言ってるが普通じゃねぇぞ。マッハの速度で放たれる弾丸に間に合わせる速度で剣を振るってる時点で普通じゃねぇ。これが…英国騎士団の団長の実力か)」
一羽が素直に感心していると、シノが再び怒号を上げる。
「何をしているのです!!いまその女が自ら攻略法を話したでしょう!!狙いをバラけさせて放てば良いのです!!そうすれば剣の軌道を逸らさなくてはならない分余裕がなくなります!!」
それを聞き、もどき達は三度銃を構えようとするが…
「良い指示だ。けど一手遅い。もう撃つことは叶わないからね」
次の瞬間、周囲にいたもどき達が構えていた銃が、一様に斬り裂かれ、砲身がズレて崩れていった。
「な…ん…!?」
「銃弾を斬るのと同時に、本体の方も斬らせて貰ったよ。何度も撃たれては斬るのも面倒だからね。さて…」
ジッ…とレイクは目線で周囲のもどき達に圧をかける。
「先程は言葉を間違えてしまったようだからもう一度だけ警告しよう。これ以上私達に攻撃を仕掛けてくるのならば容赦はしない。しかし、今すぐこの場から去れば見逃そう。良いかい、これが最後のチャンスだ」
すると、一人が銃を落としたのをきっかけに、もどき達は一斉に悲鳴を上げながら逃げ出した。
「ま、待ちなさい!!何のために人を集めたと思っているのです!!一斉にかかればこの女一人くら…いっ!?」
シノが引き留めようと声を上げると、顔のすぐ横にレイクの剣が突き刺さる。
「動けない相手に攻撃するつもりはない。けれど、これ以上口を開くのであれば、塞ぐ試みをしなくてはならない。出来れば静かにしていて貰えると助かるよ」
今度こそ完全に詰んだことを自覚したのだろう。シノはギリリッと歯軋りを立て、ゆっくりと目を瞑った。
シノの最後の策を打ち破り、一羽達は偶然もありながら勝利を収めたのであった。
※後書きです
ども、琥珀です。
ちと仕事の都合で遠出することになったのですが、気温差にびっくりしました。
それから、ムシムシする暑さの現在地と違い、遠出した先は暑さがありながらもどこかひんやりとした空気が流れてきました…
成る程、避暑地を求めるわけですね…笑
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定していますので宜しくお願いします。