第133星:奇襲
唯我 天城(17)
東京本部に所属する見習い『グリッター』。将来を有望視される育成組織に所属し、教官である一羽にもその才能を認められている。同期の飛鳥が最高峰の『シュヴァリエ』に、後から入った大和が司令官に着任していることから、怒りを抱いている。
スフィア・フォート(18)
東京本部に所属する見習い『グリッター』。『グリット』に関しては不鮮明な部分が多いものの、勤勉さと発想力を買われる。礼儀正しく生真面目。飛鳥と大和の兄妹の凄さに憧れている。同期の天城とは幼馴染で良く気にかけている。
射手島 一羽(27)
東京本部に所属する一等星『グリッター』。実力とカリスマ、豊富な経験を買われ、飛鳥、天城、スフィアの3人の指導教官となる。豪快でガサツな言動を取るが、実際には天城やスフィアの細かな機微に気付きケアする教官の鏡。
入念に準備を進めた翌日。一羽、天城、スフィアの三人は居室に集まり、この日最後の打ち合わせをしていた。
「おし、お前ら最後の会議だ。基本の動きから万が一の動きまで、全部おさらいしとくぞ」
一羽の側に二人が座り、真剣な面持ちで話を聞く。
「私らの目的は戦闘でも捕縛でもない。最優先は情報の真偽を確かめることだ。それが確認でき次第離脱する。まずはこれを頭に入れろ」
二人はこれに肯く。
「だが情報が正しかった場合、相手は『アウトロー』だ、そう簡単に事は上手く運ばないだろう。こちらが気付けば高確率で向こうも気が付く。そうなった場合はどうする?」
「可能な限り戦闘は避けて撤退する」
「そうだ」
一羽の問い掛けに、スフィアが答える。
「何度も言うが、『アウトロー』は『軍』の包囲網を掻い潜る猛者ばかりだ。どいつもこいつも一筋縄にはいかねぇ。お前らを信頼はしているが、まだ『アウトロー』と正面切って戦うには時期尚早だ」
スフィアが頷き、天城はやや不服そうやがらもこれに続いた。
「それでも、最悪の事態として『アウトロー』と止むを得ず戦闘になる場面が訪れるかもしれない。そうなったらどうする?」
「二人一組で固まって、必ず二人で戦う…だろ?」
今度は天城が答え、一羽はうなずいた。
「一人じゃ敵わない相手は多いだろうが、お前ら二人の連携はなかなかな物だ。時間を掛けてきただけはある。訓練通りの実力を発揮できれば、例え『アウトロー』であろうと簡単には崩せまい」
その後もあらゆるケースに備えた指示、作戦を伝えおさらいを終えた一行は、情報を得た場所へと向かおうとする。
そこへ…
「失礼します」
と、一人の仲居が襖の戸を開け入室してくる。
「あら?どうされたのでしょうか…」
「当旅館より、ご利用いただいたお客様にサービスをさせていただいております」
仲居の女性は丁寧な所作で背後に置かれていたお盆を取り出し、そっと一羽達の前へと差し出す。
そこに置かれていたのは三つの小さな大福饅頭であった。
「わぁ、美味しそう!」
この辺りは流石に女子なのだろう、スフィアは差し出された饅頭に歓喜していた。
その姿を呆れた様子で見ていた天城に対し、一羽は僅かに逡巡した表情を見せたあと、ニコリと微笑んだ。
「わざわざ悪いな、いつもこんなサービスまでしてもらっちゃって」
「いえ、ご贔屓にしていただいておりますので」
「そうか。私達ここを利用するのは初めてだけどな」
ピクリッ、と仲居の女性の肩が揺れる。
「…左様でございましたか。それは大変失礼を致しました。長期のご利用でしたので、てっきり常連様かと…」
「まぁ知らないのも無理は無いよな。アンタとは利用してる期間で初顔合わせだもんな。まぁ長期で利用してることを誰に聞いたのかは知らないが」
再び仲居の体が僅かに反応する。しかし、一羽は変わらず、交戦的な笑みを仲居に向けていた。
「アンタ、さっきの仲居じゃないな。そもそも気配を感じなかった…ナニモンだ?」
「…おい、まさか」
一羽のやり取りにようやく答えに至った天城が、恐る恐る訪ねようとした瞬間…
「…ッ!?天城!!スフィアを!!」
「『暴爆発』!!」
どこからともなく聞こえてきた声とともに、目の前に置かれていた饅頭が発光し、次の瞬間爆発を起こした。
●●●
「チッ…天城!スフィア!無事か!?」
爆発から逃れるために宿の外まで飛び出した一羽が、二人の無事を確認する。
「…あぁ無事だよ。スフィアもな」
「ゲホッ…ごめん天城。ありがとう」
「良くやった天城。あの一瞬で良い反応だ」
珍しくストレートに褒めた一羽だったが、天城の表情は緩むことなく、寧ろ締まっていた。
「アァン?おいおい、部屋から飛び出したくらいで逃げられるほど甘くしたつもりはねぇぞ?」
と、爆煙の中から一人の女性の声がする。先程の仲居に変装していた人物とは違う、荒々しい声をした女性であった。
「ネッネッ!なんでかななんでかな??なんで今のを避けられたのかな?」
更に煙の中からはもう一人の声が。二人よりも幼く子どものような声であった。
「…恐らく、和菓子を置いていた盆と、それを載せていたお盆を二つひっくり返されました。それにより爆発は内部で起こり一部緩和。更に互いの爆発が相殺し合い、結果として小規模の爆発しかしなかったのでしょう」
煙は次第に晴れ、中から改めて三人の人物が現れる。一羽は順番に顔を確認し頷いた。
「今回のターゲットは誰かと思ってたが…面白い組み合わせじゃねぇか。『無気配』の暁 シノ、『爆発魔』の篝火 焔、そっちの嬢ちゃんは…まだリストにねぇなぁ」
「エッエッ!私かな私かな??私はね、棗 羽衣だよ!!それでねそれでね??私の『グリット』はぁ…」
とそこで、羽衣と名乗った少女の口を、焔と呼ばれた女性が塞ぐ。
「バカッ!!むざむざ相手に情報を与えてどうするんだ!!黙ってろ!いいな!」
「ー!(コクッコクッ)」
羽衣は、「あ、そっか!」といった表情を浮かべると、頷いて了承の意を伝える。
「流石…誰が潜んでいるかまでは掴めずとも、私達が誰かであるまでは情報を取得していたのですね」
「ま、そこは『軍』だからな」
シノと呼ばれた女性と会話を交わしつつ、一羽は天城とスフィアの様子を伺う。
抱き抱えられていたスフィアは既に立ち上がっており、天城の言う通り怪我などは負っていないようだった。
ただ、爆発の衝撃でまだ意識がハッキリしていないのか、やや集中力が欠けているようであった。
「(直ぐに戦闘するのはマズいな…ここは少し時間を稼ぐか…)」
スフィアの状態を素早く把握した一羽は、次の行動をいち早く決断する。
「しかし、ここまでキチンと姿を消してきたってのに、ここにきて随分とド派手な登場するじゃねぇか。隠れんぼはもう終わりってか?」
「あぁお終いだぜ!!どっかのバカが私達の存在に気付かれるようなミスをしたらしいからな!!」
「あぁソレ、焔さんでしたよ」
荒々しく叫んだ焔は、シノの言葉にキョトンとした表情を浮かべる。
「…え、私?」
「はい♪以前、焔さんが裏路地の方々と喧嘩をした時に見つかったらしいです」
シノはニッコリと笑みを浮かべ、焔の言葉を肯定した。
「ブフゥ!!」
「笑うな!!」
その隣で羽衣が堪らず吹き出し、焔は真っ赤な顔でそれを制した。
「まぁ経緯はどうであれ、私達の存在がバレてしまったのは事実です。本来であれば撤退を選ぶところでしょうね。実際、相手が『戦鬼』ともなれば、尚のこと…」
シノはチラリと天城とスフィアに視線を向け、「ただ…」と続ける。
「今回はどうやら足手纏いを連れていらっしゃるご様子…それも二人も」
「あぁ!?」
「よせ、ただの挑発だ。冷静でいろ」
足手纏いと言われカッとなった天城だったが、すぐに一羽が制する。
「貴方一人であれば、迷わずに、寧ろ強く撤退を選んでいたでしょうが…そこのお二人がいることで勝機が見えて参りましたので」
シノは再びニコリと微笑む。その口調と振る舞いは、とても裏世界に住む住人とは思えなかった。
「3対1より3対3の方がやり易いってか?大した自信じゃねぇか」
「いえいえ、単なる事実を申し上げているだけですので。実際、そちらの二人はせいぜい上級訓練生程度でしょう」
ハッキリと図星を突かれ、スフィアは僅かに動揺を見せる。
「よほど人材が不足していらっしゃるのでしょうか?よもや訓練生を戦場に送り出すなどと…」
シノは僅かに悲しげな表情を浮かべると、次の瞬間、冷たく殺気に満ちた視線を三人に放った。
「随分と、私達も舐められたものですね」
「ッ!!」
「うぁ…」
その圧に気圧され、天城とスフィアの二人の表情が強張る。
「高く見積もられても困りものですが、こうも下に見られると流石に癪に触ります。これでも私は『アウトロー』としてそれなりに過ごしてきたと言うのに…」
その言葉は嘘ではなかった。放たれる殺気はまさに裏社会の人間が放つソレであり、初めて経験する圧に、二人は完全に臆していた。
「…!」
「あぁ、そんなに震えてかわいそうに…」
と、そこで唐突に殺気の気配が消え、フッと身体が軽くなったような感覚さえ覚える。
「いま、楽にして差し上げます」
その声を、背後から聞いたスフィアは、ヒュ…っとお腹が浮くような浮遊感に襲われた。
※後書きです
ども、琥珀であります。
我が家のテレビが壊れました…
使い始めて6年になりますので、寿命を迎えても仕方のない歳ではあるのでしょうか…
こういうのは良くないかも知れないですが、このご時世ですから、家電用品、特にテレビなどの映像機器は逆に安くなっているかも…?
逆に高くなっているかも知れませんが、何とか無難なモノを早期購入したいものです…
本日もお読みいただきありがとうございました!
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします!