第132星:情報入手
唯我 天城(17)
東京本部に所属する見習い『グリッター』。将来を有望視される育成組織に所属し、教官である一羽にもその才能を認められている。同期の飛鳥が最高峰の『シュヴァリエ』に、後から入った大和が司令官に着任していることから、怒りを抱いている。
スフィア・フォート(18)
東京本部に所属する見習い『グリッター』。『グリット』に関しては不鮮明な部分が多いものの、勤勉さと発想力を買われる。礼儀正しく生真面目。飛鳥と大和の兄妹の凄さに憧れている。同期の天城とは幼馴染で良く気にかけている。
射手島 一羽(27)
東京本部に所属する一等星『グリッター』。実力とカリスマ、豊富な経験を買われ、飛鳥、天城、スフィアの3人の指導教官となる。豪快でガサツな言動を取るが、実際には天城やスフィアの細かな機微に気付きケアする教官の鏡。
一羽達がこの地域に訪れてから既に3日が経過していた。
三人で僅かな情報をもとに手がかりを掴もうと試みるも、天城、スフィアの両名はともに何の手掛かりも入れることが出来ず、任務は行き詰まっていた。
「あ〜くそっ!結局今日も何の収穫もなしかよ!」
進捗のない状況に不安と憤りを感じていた天城は、やや苛立ったように椅子に腰掛けた。
「仕方ないわよ。相手は『軍』の包囲網すらすり抜ける『アウトロー』。私達は訓練生。簡単に尻尾を掴ませてくれるわけないわ」
「そりゃそうだけどよ…それじゃあどうして俺らが抜擢されたのかってなるじゃないか。せっかく選ばれたんだ、しっかりと成果を上げたいんだよ、俺は」
天城の言葉に、スフィアはキョトンとした表情を浮かべた。
「…驚いた。天城もちゃんと考えて行動してたんだ」
「どストレートに失礼な奴だなお前」
自分でも失礼な発言だと思い直したのか、スフィアは笑みをこぼしながら謝る。
「ふふっ、ごめんなさい。でも安心した」
「…何がだよ」
「だって、最近の天城はずっと気を張ってて、見てて辛かったんだもの。大和さんに突っ掛かったり、飛鳥を突っぱねたり…嫌な人だなぁ、って」
「お前マジで喧嘩売ってんだろ?」
天城の威嚇を他所に、スフィアは「でも…」と続ける。
「今の天城はカッコ良いよ。自分がやることをしっかり見つめて、全力を尽くそうとしてる。上手く言えないけど…すごく良い感じ」
「フンッ…」
照れ隠しなのか、天城は頬杖を突きながらそっぽを向いてしまう。
「別に…大して変わってなんかねぇよ。…ただ」
「ただ…?」
「アイツが…大和や飛鳥が実力であそこまで昇り詰めたとして、それだけの実績を残してきたとしたら、俺も同じくらい成果を挙げなきゃ本当の意味での勝ちにはならない…そう思っただけだよ」
ただ聞いただけならば、当たり前のことを言っているように思うだろう。
しかし、それがどれ程の成長であるのか、最も身近で見てきたスフィアは、その事に気が付いていた。
「おうお前ら戻ってたか。ちょうど良かった」
と、そこへ同じく情報収集を終えた一羽が勢いよく襖を開けてが戻ってくる。
そして勢いよく座椅子に座り、ニヤッと不適な笑みを浮かべた。
「泣いて喜べ貴重な『アウトロー』の情報だぞ」
「「本当か」ですか!?」
その言葉を聞き、天城とスフィアの二人は一羽のもとに集まる。
「本当だとも。私が手に入れた情報だと、見慣れない奴がこの辺りの裏路地で暴れてたらしい。随分と荒々しい嬢ちゃんだったらしいぜ」
一羽の情報に、天城は首を傾げる。
「…?それは十分な証拠になるのか?ただ一般人が暴れてるだけって可能性も…」
「見慣れない人、荒々しい女性、『アウトロー』で『グリッター』の条件を満たしてるわ」
天城の疑問に、スフィアが一瞬で答える。
「良い読み取りだスフィア。東京といってもこの地域は面積が狭く人口もそこまで厚くない。比較的ローカルなだけあって、近所付き合いも良い方だ。そんな人達が『見慣れない』って言ってんだ。当たりの可能性は高い」
成る程なぁ〜…と天城は他人事のように感心しつつ、ふと気が付く。
「てことは、今回の任務で聞いてた情報はマジもんだったってことか?」
「まぁほぼな。ただ一般人から聞いた情報だけじゃ確証は物足りないな。ここから具体的な探りを入れていく必要がある」
一羽の言葉に気合いを入れ直す天城だったが、一つ気になっていることがあった。
「でも間抜けな奴だな。せっかくここまで姿を隠してきたのに、自分から曝け出すような真似するなんて」
「確かにそうね…これまで『軍』の情報網さえ欺いてきた人が、そんな失態するのかしら」
天城の言葉に、スフィアも『アウトロー』の動きに疑問を持つ。
「『アウトロー』は組織じゃねぇからな。姿を晦まし隠密行動する奴もいれば、姿を隠す事なく正面から向かい合う奴もいる。今回見つかった奴は後者なのかもしれん」
「ですが、敢えて姿を見せて誘っている可能性もあります。どのようにして動くべきなのでしょうか…」
冷静に物事を判断するスフィアに、一羽は心の中で感心する。
「(実際の戦闘技術こそ天城には劣るが、それを補って余りある判断力と冷静さ…この辺りは流石元英国騎士、ってところか。もしかしたら先に化けるのはスフィアかもしれないな)」
一羽は護里から、天城よりももう一つ深くスフィアの話を聞いていた。
それは、スフィアに実戦経験がないということ。
これは実は当然のことで、スフィアは英国で団長を任せられてきた期間、本来の『グリット』の力を引き出すことが出来ていなかった。
その力は一団員にも劣るモノで、とても前線で戦うことは不可能であった。
それが故に、スフィアは団長でありながら何年もの間戦闘をしてくることはなかったのだ。
「(『グリッター』の判断として理解はできる。戦場は生きるか死ぬかだからな。一か八かで前線へ送り出すのは無能の証でしかない。だが、それを知ったうえで常に上に立つ立場に残し続けるのも同じようなもんだ。それじゃプレッシャーが強すぎて伸びるもんも伸びやしない)」
実際、スフィアは日本に戻ってから基礎戦闘能力は大幅に向上していた。
聞いた話では、スフィアはイギリスでは常に上級騎士と模擬戦を繰り返し行なっていたという。
「(そのやり方が間違ってるとまでは言わないが、それはある程度基礎ができてる奴に対してやる方法だ。私が初めてスフィアを鍛え時、アイツは戦闘の基礎が全く出来てなかった。それじゃ何も学べない)」
基礎を身につけたスフィアは、『シュヴァリエ』である飛鳥を驚かせるくらいには戦闘をこなしていた。
それこそ、スフィアの成長の証拠だと言えるだろう。
「(あとはアイツの『グリット』の真の力を目覚めさせること…なんだがこいつばっかしは現状お手上げだな。正直あの騎士の方がその辺りは詳しいだろう…が、それを尋ねるのもシャクだしな)」
一羽は作戦を考えるスフィアを一瞥する。
「(だとすれば、あとはお前次第だなスフィア。お前自身の力で、『グリット』を覚醒させるしかねぇ)」
一羽の考えは、一見突き放すようでいて実際は信頼の証である。
スフィアならば『開花』に至る。そう信じて、そのきっかけとなり得るよう、今回の作戦に推薦したのである。
勿論、天城もである。
「(お前らなら大丈夫だ)」
一羽はもう一度、心の奥底で二人への信頼を繰り返した。
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「あらあら、どなたかと思えば『戦鬼』の一羽さんではありませんか」
その様子を、離れた位置から一人の女性が伺っていた。
「『シュヴァリエ』ではないのは不幸中の幸いですが…あの方も相当厄介なお方なのですよね…出来れば戦闘は避けたいものですが…」
それは廃屋にいた三人の人物、そのうちの一人である清楚な雰囲気の女性であった。
女性は視線を一羽からその隣にいる二人の人物に移す。
「こちらの二人は見慣れない方々…それもどうやら余り戦い慣れしていない様子…『戦鬼』を寄越すのだからそれなりに力を入れているのかと思いきや、お付きの方は一転して素人…はてさて私達はどれ程侮られているのでしょうか」
溢した笑みは清楚ながら、その奥には密かに怒りが込められているようであった。
「一先ず敵は分かりました。付け入る隙があることもね。これらを踏まえて、改めてあの二人と相談をしましょう。上手くいけば、あの『戦鬼』を仕留められるかもしれませんしね」
その笑みはやはり『アウトロー』たらしめる、暗い笑みであった。
「(情報の出所も一先ず『レジスタンス』ではないことは分かりました。というより身内の行動が原因だったようですね。まぁ彼女はもともと姿を隠して行動するタイプではなかったのでやむを得ませんか…)」
女性はその場から立ち上がり、ゆっくりと一羽達から背を向ける。
「ウフフ…さてはて『戦鬼』さん、自慢のお弟子さんをここに連れ出したこと、後悔なさらないと宜しいですね」
女性はそれだけ言い残し、音もなくその姿を消していった。
※後書きです
ども、琥珀です
キツい時期が続きますね。
新型に加え連日の猛暑。ますます室内での生活を強いられる日々です。
元々引きこもり気質の私はあまり辛く感じていませんが、お盆のこの時期、外に出れなくてストレスを抱えている方は当然いらっしゃいますよね…
しかし、自分と周りを守るため…今は我慢の時期です
これを乗り越え、また楽しい日常を取り戻していきましょう!
本日もお読みいただきありがとうございます。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。