表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
6章 ー東京最高本部編ー
133/481

第128星:スフィアメモリー

ーーーーー英国人でありながら日本の子


ーーーーー騎士でありながら和の国の戦士


ーーーーー真実を恐怖し隠し潜めてきた


ーーーーー彼女、スフィアの過去が語られる

「どうぞ、そこに腰掛けて頂戴」



 一羽は護里に促された通り、用意された椅子に腰掛ける。



「いまお茶を用意するわね」

「いや、それよりもスフィアの話を…」



 話を急かそうとする一羽を、護里は人差し指を立てて制する。



「一人の人生を左右するかもしれない、大事なお話になるわ。心にゆとりを持って聞けるようにするための配慮よ。受け入れて貰えないかしら?」



 護里にそうまでハッキリ言われて断れる人物はいない。一羽は小さく頷き、護里がお茶を入れ終わるのを待った。


 ものの数分で護里はお茶を運び、一羽に差し出す。


 それを一口啜ると、護里の言うように心が落ち着き、先程よりも冷静に話が聞ける状態になっていた。



「…サンキューな。今ならしっかりと話を聞けそうだ」

「それは何よりだわ。さて、どこから話そうかしら…」







●●●






 時を同じくして、天城はスフィアと共にミーティングルームで休んでいた。


 いつも明るく話を振るスフィアが黙り込んでしまう状況に、天城も何を話しかければ良いか悩んでいた。


 そこで、先に口を開いたのはスフィアの方だった。



「ねぇ…天城」

「…なんだ」



 相変わらずぶっきらぼうな口調だったが、それが今は寧ろスフィアには安心感を与えていた。



「私…ね、ちょっと…思い出したくない、過去があるんだ。今はもう…関係ないはずなのに」



 護里に触れ落ち着いたとはいえ、スフィアの声はまだ震え、怯えているようだった。



「忘れたいことなのに…さっき、姉さんに会って分かったの。これは…乗り越えなくちゃいけない過去なんだ…って」



 そこでスフィアは、ゆっくりと顔を上げ、天城の方を見た。



「でも怖いの…そのことを思い出すだけで、身体が震えて泣き出しそうになるの」



 その瞳に映っているのは、恐怖と不安。それが、天城に何かを訴えかけていた。



「それでも乗り越えなくちゃ…いけない。ここで止まったら、私はもう、立ち向かえない気がするから」



 スフィアは天城の手をそっと握り、「だから…」と続ける。



「私の話を…聞いてくれる?天城になら、きちんと話せると思うから」

「…あぁ…。ちゃんと聞いてやるよ」



 ぶっきらぼうでありながら真摯に、天城らしい答えにスフィアは小さく笑みを浮かべ、語り出した。






●●●






「彼女は英国で生まれたわ。そこで二つの歳になるまで祖国で育てられた」



 スフィアが英国生まれだと言うことは、一羽も教官の任につく時に聞かされていた。



「けれど、当時の英国は『軍』体制が歪んでしまい、内紛が起きかけていたの。そこに巻き込まれる可能性を憂慮した彼女の家族は、ゆかりのある日本人の親族に、娘を預けた」

「知ってるよ。それが唯我家、天城の家族だ」



 一羽の答えに、護里が頷く。



「スフィアちゃんはそのまま10になるまで、日本で育ったわ。メナスとの戦争があるとは言え、内面を考えれば日本は平和な方だったから」



 『グリッター』への差別が最も顕著なのは日本である。


 と言うよりも、実際は卑下にすることで『グリッター』への恐怖心を無くそうとしているのだ。


 例えばロシアの最高権力である皇帝には、『グリッター』であるビクトリカが就いており、それもあってか、日本ほど『グリッター』への差別意識は強くない。


 それでも、護里のいう平和的面で言えば、日本は『グリッター』に対する認識がハッキリしている分、ある意味で平和と言えるだろう。



「そして、11の時一つの転機が訪れたわ」

「転機…?」



 恐らくこの話題の重要ポイントなのだろう。


 護里は自分にも用意したお茶を一口啜ってから、ゆっくりと語り出した。



「スフィアちゃんは11の時『グリット』に覚醒したの。それもただの『グリット』じゃない。過去から現代まで受け継がれてきた、騎士の『グリット』を顕現させたの」

「騎士の…『グリット』?」



 聞き慣れない言葉に眉を顰める一羽に、護里が補足説明を始める。



「あまり他国の情報を話すのは良くないことだけれど、今回は特別ね。他言無用よ?」

「あぁ…」



 護里の言葉に、一羽が強く頷く。



「英国の『グリット』には、一部の能力が受け継がれていく特性を持っているの」

「受け継がれる…『グリット』がか?」



 今度は護里が一羽の言葉に頷いた。



「そうよ。けれど家系などで受け継がれるわけではないわ。次に誰に受け継がれるかは分からない。けれど、能力の特性を記録に納めておけば…」

「…次にその『グリット』の力を経た奴は、直ぐにその力を扱えるようになる、ってわけか」



 それが事実なのであれば、恐ろしいことである。


 どういった経緯で受け継がれるのかは不明だとしても、英国の『グリッター』は実質その数と質が減ることはないことを意味するからである。



「…それで、スフィアの能力も英国のモノであると…確かに受け継がれているのであれば、英国もおいそれと手放すことは出来ゃしねぇわな」

「それだけじゃないわ。さっきも言ったけれど、彼女は()()の『グリット』をその身に受け継いでいたの」

「…その騎士の『グリット』ってのは一体…?」



 護里はもう一度お茶を啜り、目を細めながら答えを口にした。



「騎士の『グリット』と言うのは、かつての英国に存在していたと言われる円卓の騎士になぞられた『グリット』のこと。スフィアちゃんはその『13騎士団』という誉れある階級に並ぶ騎士となる筈だったのよ」

「…日本でいう『シュヴァリエ』に匹敵する能力ってわけかい。尚更だな…」



 日本での『シュヴァリエ』は『グリッター』にとって最も誉れある位であると認識されている。


 イギリスでいう『13騎士団』は、恐らくその位置にある存在なのであろう。



「ん?待ってよ?なる()()だった?」



 違和感に気が付いた一羽が尋ねると、護里は重苦しく頷いた。



「『グリット』が存在すると分かった彼女は、その時に一度帰国したわ。けれど、結果として彼女はその騎士にはならなかった。いえ、なれなかったのよ」

「それは、どうして…いや、そうか…成る程…」



 護里が答える前に、一羽は答えにたどり着く。



「そう、それは貴方も良く知っている理由。何故なら彼女は…」






●●●






「私は…能力が完全開花しなかった」

「……」



 スフィアの言葉に、天城は沈黙でしか返答できなかった。



「姉さんや、他の『13騎士団』の人達が次々と能力を覚醒させていくなかで、私は何一つ成長出来なかった。何一つ成し遂げられなかった」



 過去を思い出していくなかで、スフィアは乱れる呼吸少しずつ直していく。



「期待、羨望、憧れ…将来の団員となる人達は、毎日私をそんな眼差しで見てきた。応えなきゃ、導かなきゃ、至らなきゃ…毎日、毎日毎日毎日毎日悩んで苦しんでた」



 思わず天城がゾッとするほどの負の感情。


 スフィアの言葉の端々から、その時の精神的苦痛が伝わってくるようだった。



「だから…私は()()()()()。あの重圧から、期待から。私は逃げたの。元々日本にゆかりがあったから、そこから無理を言って日本の『軍』の所属にしてもらった。それが三年前。貴方と再会したときね」



 それは、天城も今でも鮮明に思い出すことができる。


 4年振りに再会した幼馴染みは、以前とは違いだいぶやつれていた。


 目に生気はなく虚、表情などと言うものは存在せず、いつも何かに怯えていた。


 今の元気な姿は、奇跡としか言いようがないほど、酷い有様だったのだ。


 そして同時に、天城はあることに気が付いた。



「(コイツは、俺と同じく自分の弱さと戦ってきた。俺とは比べものにならない重圧に向き合ってきたんだ)」



 暗く、落ち込んだ表情のスフィア。その過去を知り、天城は今まで以上にスフィアに既視感を覚え、気付けばゆっくりと口を開いていた。



「俺も…同じだスフィア」

「…え?」



 天城の言葉に顔を上げるスフィア。天城はスフィアの方を向いていなかったが、その言葉はハッキリとスフィアに向けられていた。



「俺は嫉妬してたんだ。飛鳥に、大和(アイツ)に…そして何も成長出来ないでいた自分の弱さに」



 自分と重ねているのだろう、スフィアもその言葉に頷いていた。



「迷ってたんだ。俺はどうして強くなるのか。どうしたら強くなれるのか。俺はこれまで…過去のために強くなろうとした。メナスに殺された家族の復讐、同期と後から入ってきたやつに先を越された嫉妬心…過去に囚われて、俺は前に進めなかったんだ」

「…過去…」



 それも、スフィアも同じだった。今も『グリット』が開花しないでいるのは、恐らく英国時代のことを思い浮かべているから。


 焦り、迷い、不安が入り混じり、成長を阻害しているのだろうと、自分でも気づいていた。


 踏み切れない、振り切れない。スフィアはいま、暗闇の中で立ち止まっていたのだ。



「だから、これからは前を向く」



 その暗闇に、一筋の光が差し込んだ。



「俺はお前のために強くなるよ」

「…え?」



 不意の言葉に、スフィアは驚きの表情を浮かべる。



「俺はお前のために強くなる。俺がお前を守れるように、お前がもう、怖がらなくて良いように」

「天…城」



 それは、幼い頃に憧れた少年の姿。


 英国に渡ってからも一度も忘れたことのない、自分(スフィア)が目指した理想の姿だった。



「でも今の俺は弱い。成長しても、力をつけても、一人じゃ絶対に勝てないときが来る。だから…」



 天城はソッとスフィアに手を差し出す。



「そん時はお前が俺の隣に立て。俺とお前で一緒に成長して、強くなるんだ」



 見れば天城の顔は気恥ずかしさからか赤く染まっていた。


 スフィアの方を見ないのも、照れ隠しだったのかもしれない。


 そして、手を差し伸べられたスフィアも、顔を真っ赤に染めていた。


 それは、自然と流れていた涙だけが理由ではないだろう。


 スフィアは出された手を取り、強く握り返し、「うん」とハッキリ返した。


※後書き






ども、琥珀です

進捗ダメです!笑

週3更新を目指しましたが、執筆の時間が確保できませんでした…


従って、次回の更新は金曜日の8時になりますので宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ