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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
6章 ー東京最高本部編ー
132/481

第127星:英国騎士

彼女は『グリッター』であり『グリッター』にあらず


誇りと騎士道を胸に、強者のオーラを纏いし乙女


日本とは違う騎士の称号をもつ女騎士


彼女の名は、レイク・ソード・スクリムジョー

「どうして…日本(ここ)に…」



 いつもの落ち着いた様子は鳴りを潜め、スフィアは目の前に立つ女性、レイク・ソード・スクリムジョーに怯えた表情を浮かべていた。


 背中まで伸びた紺色の髪に同色の瞳、そして物静かな立ち振る舞いと口調が彼女が彼女の性格を押し出していた。


 それでも語気はハッキリと強く、「帰るぞ」という彼女の言葉は強い意志を発していた。



「さぁ、こっちへ来るんだ」

「い、いやです…」



 近寄り手を伸ばすレイクの手から逃げるように、スフィアは後退りする。



「なぜ逃げる。私は君を迎えに来たんだ」

「い、イヤです!私は…帰るつもりなんてありません!!」

「…何故だか分からないが、どうやら冷静じゃ無いようだ。なら、少し力づくで…」

「おい、私の教え子に何してんだテメェ」



 瞬間、レイクはそれまでの表情から一転、険しい顔つきになると真横に現れた()()を手で振り払おうとする。


 一羽はそれを難なく受け止め、掴んだ手をそのまま持ち上げ投げ飛ばす。


 レイクは身軽に空中で回転し、怪我なくその場に着地した。



「大丈夫か、スフィア」

「か、一羽さん…す、すいません、私…」



 スフィアが怯えているのを誰の目から見ても明白であった。


 いつも明るくしっかりものであるスフィアが、今はまるで子どものように身体を震わせ、一羽の服を掴んでいたのだ。



「何者だい君は。悪いけれど私はいま君の相手をするつもりはないんだが?」

「お前にその気がなくたって私にはあんだよ。言ったろうが。私の教え子に何してんだってな」



 レイクを牽制しつつ、一羽は攻撃を防いだ自身の手を見る。



「(完璧に防いだ筈だが、衝撃で手が痺れてやがる。コイツ、相当の実力者だな)」



 戦闘に巻き込まれる危険性を危惧し、一羽はソッスフィアの手を自身の服から外す。



「話が通じない方だ。悪いが用があるのはその子だけなんだ。邪魔をするというのなら容赦はしないよ」

「それを聞いたらますます引けねぇな。お前さんがどこの誰だかは知らねぇが、こんだけ怯えてる教え子をはいそうですか、と渡すほど私は道楽極めてないんでな」

「交渉…決裂か」



 瞬間、両者から痛いほどの殺気が放たれる。辺りの建物が軋むほどのぶつかり合い。


 どちらかが僅かにでも動こうものなら直ぐにでも戦いの火蓋が落とされそうな雰囲気の中…



「二人とも、気を収めなさい」



 それを、優しくも強い、母性の溢れる声が間に入り抑え込んだ。


 飛び散っていた殺気が一瞬で緩和され、一羽とレイクの両者の全身から力が抜けていく。



「ま、護里さん…」



 そこに立っていたのは、日本『軍』最高司令官、早乙女 護里本人であった。



「二人とも、ここは本部建物の中よ。他の人もいるんだから戦うのはやめて頂戴」

「…悪い…スフィアを守ろうと、熱くなっちまった」



 素直に詫びる一羽に対し、レイクは不満気な様子で護里を見ていた。



「サオトメ マモリ最高司令官…貴方には私がここにきた目的を話てある筈だが?」

「えぇ、聞いているわ。大切な()()()に会いに来たのでしょう?」

「なに?妹?」



 一羽が驚いた表情でスフィアを見るが、やはりスフィアはレイクに対し怯えたままであった。



「分かっているなら何故邪魔を?」



 護里は一羽に笑みを浮かべ、下がるよう促してから、レイクの質問に答えた。



「私が聞いているのは会いに行く、というところまで。連れて行くと言うのは聞いていないもの」

「実妹だ、どうしようと私の勝手だろう?」

「それは貴方の目的であって彼女の意思じゃないわね。そんな理由でスフィアちゃんは渡せないわ」



 レイクの強い圧にも全く動じず、護里は笑顔のまま答えた。



「貴方と英国にどのような意図と考えがあるのかは分からないけれど、スフィアちゃんは三年前に正式な手順を踏んでこの国の『グリッター』になったわ。つまり今この子は私の部下よ」



 護里はスフィアを庇うように一歩前へ出ると、レイクと真っ向から対峙するような位置に立ち、言い放った。



「それでも納得ができないので仕方ないわね。不肖この早乙女 護里がお相手させていただきますわ」



 護里が言葉を言い終えた瞬間、レイクは全身に悪寒が走り、護里から一気に距離を取った。



「(退いた…私が?)」



 反応したのは感覚だけではなく、肉体もであった。


 手足は震え、額と手からはブワッと汗が滲み出していた。



「(これまで幾多の戦場を駆け抜けてきたが、ここまで恐怖したことは一度も無かった…噂には聞いていたが、このマモリという人物…少なくともここで対峙してはいけない)」



 護里との差を痛感させられたレイクは矛を収め、踵を返した。



「分かった。どうやら分が悪いようだし、今回は身を退こう。だがスフィア」



 ビクッ、と名前を呼ばれたスフィアは身体を跳ねられせる。



「私はまた迎えに来る。その時は…話くらいは聞いてもらうよ」



 そう言うと、レイクは早歩きでその場を立ち去っていった。


 護里も一羽もそれを追うようなことはせず、震えるスフィアを慰めに歩み寄っていった。


 ただ一人、一羽の指示でその様子を見ていた天城だけは、レイクを鋭く睨みつけていた。


 一羽を警戒させるほどの実力者が、その視線に気付かない筈がないが、レイクは天城に一瞥もくれずその場から去っていった。



「こ…の…」



 それは、レイクが天城のことを有象無象程度にしか認識していないということ。


 その行為に天城は怒りに身を任せそうになるが、先程の一羽とのやり取りを経て弱さを認めたことが功を奏し、その足を止めた。


 まさに幸運と言えるだろう。


 もし一歩でも敵意を持って近付いていれば、レイクは腰につけた剣を()()()()()()


 例え有象無象であっても油断はしない。騎士としての強さがここにあった。


 完全に姿が見えなくなったのを見計らって、護里はスフィアに近付く。



「ごめんなさいスフィアちゃん。怖がらせてしまったわね。貴方の過去のことは知っているけど、彼女がここまで強硬策に出るとは思っていなかった。完全に私の判断ミスよ。本当にごめんなさい」



 震えるスフィアを護里は優しく抱きしめ、スフィアの心を落ち着かせる。


 護里の優しい抱擁と母性に触れ、スフィアは次第に落ち着きを取り戻して行った。



「ありがとうございます、護里さん。私はもう、大丈夫です」



 その言葉は嘘ではなく、スフィアはいつもの落ち着いた様子を取り戻していた。



「ふむ…おい天城」

「あ…はい」



 名前を呼ばれた天城は一羽のもとに歩み寄る。



「悪いがスフィアを連れてミーティングルームに行っててくれ。私もあとから行く」

「…分かりました」



 素直に一羽の言葉に応じ、天城はまだ力の入らないスフィアを支えながらその場を離れていった。


 姿が見えなくなると、一羽は表情を険しくし護里と向き合った。



「…本当は、アイツ自身が話さないことを聞くのはダメだってこと、理解してるよ」

「…えぇ」

「でも私は、アイツの教官だ。教え導く者として、時に彼女を守る者として、今回の件について聞く責任と義務がある」

「…そうね」



 護里もそれは理解しているのだろう。重い表情を浮かべながらも、一羽の言葉に頷いていた。


 そして人だかりができ始めていた辺りを見渡す。



「ここで話すような内容ではないわね。場所を変えましょう。最高司令室(私のへや)にいらっしゃい。そこで、スフィアちゃんのことを話すわ」






●●●






 最高本部をあとにしたレイクは、入り口に立つ一人の人物が目に入る。



「おかえりなさいませ、レイク様」

「…ボルス、貴方も来ていたの」

「はい、貴方様が心配で」



 ボルスと呼ばれた白髪の女性ーボルス・セアリアス・ゲイネスーは、レイクに対し敬うような口調で答える。



「敬語なんて使わなくて良いんだぞ。君ももう私と同じ立場なのだから」

「例え立場は同じになろうと、貴方を敬う心は変わりません。どうかお許しを」

「ふふっ…まぁ私もそちらの方が話しやすいからね。構わないよ」



 これまで表情を変えることのなかったレイクが、ようやくその顔を緩ませた。



「それで、如何でしたか?」



 レイクの右後ろについたボルスが、レイクに対して探るように声をかける。



「…自ら派遣交流に赴いて来た甲斐はあったよ。妹を見つけることができたからね」

「それはそれは。わざわざ滞在期間を延ばしてまで最高本部を訪れた甲斐がありましたね」



 クスクスと微笑むボルスの様子に、レイクは苦笑いを浮かべる。



「…最初からそこまで掴んだ上でここに来たわけかい、君は」

「えぇ勿論。放浪癖のある貴方を捕まえるために私がこれまでどれほど苦労を重ねて来たとお思いですか?それに比べたら容易いものです」



 笑い事ではないのだが、レイクは過去を懐かしみ小さく笑みを浮かべた。



「しかしそれにしては浮かないお顔のようですね」

「…うん。妹に会うことは出来たのだけど、連れ出すことは出来なかったんだ」

「…尊敬する貴方を前にして言うのも憚れますが、適切だったのではないかと。下手をすれば国レベルの問題になっていましたよ」

「うん。私ももう少し慎重になれば良かったと反省している」



 珍しく素直に自身の言葉を受け入れたことに驚きながらも、ボルスはその様子を訝しげに思う。



「…連れ出すことが出来なかった…というのは、実力行使という意味ですよね?貴方程の方がそれが出来なかったと?」

「うん。恐らく力づくで行こうとすれば私はいまここにいなかっただろうね」

「貴方がそこまで…まさか最高司令官が直々に?」



 レイクは小さく頷きながら、出て来たばかりの出入り口の方を振り返る。



「それだけじゃない。私の前に立ち塞がった女史…彼女も相当の実力者だった。全力で戦っても結果がどうなったかは分からない程度には、ね」

「最高司令官以外の実力者…噂に聞く『シュヴァリエ』でしょうか?」



 ボルスの答えに、レイクは首を横に振った。



「『シュヴァリエ』がつけているとされる銀章が無かったから恐らく違う。彼女は一等星の戦士だろう」

「…一等星『グリッター』がそれ程の実力を…やはりこの国は侮れませんね」



 レイクはアイデンティティである片眼鏡をクイッと上げる。



「そうだね。でも幸にして帰国まではあと3日ある。君がいればそれまでにもう一度くらいは妹と接触できるだろう。任せたよ、王国騎士団きっての知将」

「あまり買い被りをなさらないでください。それでも、王国騎士団随一の剣術使いである貴方のためならば、私も全力を尽くしましょう」



 異国の地で臆することなく、英国最高の誉である13騎士団、その団長である二人の()()は、大胆に次の一手を練り始めていた。

※後書き






ども、琥珀です


理想を言えば、この週3更新を続けたいところ…

目標は週五なんですけどね笑


状況にもよりますが、来週も週3が出来そうであれば挑戦してみようと思います。


さて、英国騎士のレイク様が出てきましたね。

またまた新しいキャラ。作者もそろそろキャラネタ切れです←


本日もありがとうございました。

次回の更新は月曜の朝8時ごろを予定しています。

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