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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
6章 ー東京最高本部編ー
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第126星:心構え

最年少で『シュヴァリエ』と至った少女


しかし、彼らの教官は知っていた。彼女がそこに至るまでの道のりと、強い覚悟を…


『シュヴァリエ』飛鳥


彼女の過去が微かに語られる。

「ったく、このバカが!!」



 組手が終わり、天城の治療を終えた一羽が思い切り天城の後頭部を叩く。



「今回は私も何も言えねぇぞ。終了を告げた後に背後から襲撃…流石に悪手過ぎる。何も言い返せねぇよ」



 叩かれ、責められても天城は何も言い返さなかった。ただ座り込み、俯いたままであった。


 スフィアはこの場にいない。


 天城の行いに憤りつつも、その後の姿を見て心配をしていたが、今は逆効果だと思い、一羽が席を外させていた。



「…はぁ」



 明確に落ち込んだ様子の天城に、これ以上は意味がないと判断した一羽は、天城の隣に座り込む。



「お前はさ、ど〜してそこまで強さにこだわるんだ?いや、強さと言うよりは勝ちに、か?」

「……」



 天城は無言のまま答えない。



「私がお前の教官になってから2年経つが、その時からお前はもう勝利に拘ってた。強迫的な何かに囚われたかのようにな。それがお前の成長に繋がると思ってたし、それがお前の芯なんだと考えてた。けど、流石に今日のは行き過ぎだ」

「………」



 天城は尚も答えなかったが、そもそも答えを気にしていなかった一羽は一人語り続ける。



「勝利に執着するのは悪いことじゃない。寧ろ大切なことだと。命をかける戦場が待つこの時代ではな。だがそれが目的になっちゃあダメなんだよ。私達『グリッター』の志は『生きるために立ち向かう』こと。勝つための手段として、命を投げ出したり、身を捨てるような行為はあっちゃならねぇ。お前が『グリッター』であることを望むならな」

「……でも…」



 と、ここでようやく天城が重くるしくも口を開いた。



「『生きるために立ち向かう』ためには力がいる…戦場で生き残るには相手(メナス)を上回る力が必要なんだ…それには、『勝利』が必須…勝たなきゃ…なんも意味がないだろ…」

「それは違うぞ」



 ようやく口にした天城の言葉を、一羽はバッサリ切り捨てた。



「生き残る手段は勝つことだけじゃない。時に身を引くとだって大事なんだ。命を落とせばそこで終わりだが、次の勝利を目指して身を引けばもう一度チャンスはある。『勝利』に執着して命を落とすなんてのはな、二流のすることなんだよ、天城」

「…はっ…二流か…今の俺に相応しいな…」



 一羽の言葉を天城は鼻で笑う。しかし、その言葉は確かに天城に届いていたようだった。



「自惚れんなよ。お前はまだ半人前だよ。スフィアだってな」

「……だろうよ」



 ここで初めて、天城は感情らしい感情を込めた反応を示した。



「…そんで、アイツは一流ってか?」

「飛鳥か?まぁ少なくとも今のお前よりは上だろうな」



 天城は顔を上げないままであったが、一羽の言葉に耳を傾けているようだった。



「確かにアイツは実力をつけた。それも桁違いのな。まともにやりあったら私だって勝てないかもしれねぇ」

「…じゃなきゃ『シュヴァリエ』に選ばれるかよ。実力あってこその『シュヴァリエ』だろうが…」

「そうかな?まぁ確かにそういう奴もいるだろうよ。だが少なくとも、飛鳥に限ってはまだそうじゃない」

「…?」



 核心を得ない一羽の言い回しに、天城は焦れ始めていた。



「つまり…どういうことなんだよ」

「アイツは実力だけで『シュヴァリエ』に選ばれたんじゃない。『シュヴァリエ』である心構えが出来ているから、アイツは選ばれたんだ」

「心…構え?」



 天城の言葉に、一羽は肯く。



「私はアイツに初めて会った時のことを今でもハッキリ覚えてるよ。まだ14になったばかりの小娘(ガキ)が、幾多の戦場を戦い抜いてきた私以上に肝の座った目をしてやがったんだからな」



 一羽は懐かしむように座った姿勢のまま天井を見上げた。



「あん時私は、驚きと同時に悲しみを覚えたね。これまで戦いに明け暮れ、それこそが生き甲斐だって思ってた当時のバカな私がだ。戦闘を楽しんできた私が、飛鳥を見た瞬間後悔したんだ。『こんな小さな子どもにこんな目をさせる戦争で、私は何を楽しんでるんだ』…ってな」

「……」

「それを見てからだな、私が教官の任を受けると決めたのは。二度とこんな子どもを生み出さないよう、そして、二度とこんな表情をしなくて良いような育成を私がしてみせるって」



 一羽の話を、天城はしばらく黙って聞いていた。



「……アイツが…」

「ん?」

「アイツが…本当にそんな顔を?」

「信じられないか?」



 一羽の返しに、天城は口籠る。



「まぁ信じられねぇよな。今のアイツは天真爛漫でいつでも笑顔、前向き。それが、ほんの数年前までは暗く悲観的で、いつも無表情だったなんてな。でも、それこそが証明だとおもわねぇか?」

「…証明?なんの…」

「アイツが、『シュヴァリエ』足りえる心構えを持っていることのよ」

「…ッ」



 天城は口にこそしなかったが、その反応で納得していることを一羽は見抜いていた。



「アイツの過去については私も詳しくは知らねぇ。最高司令官も大和も、誰も話さないしな。無理に聞くつもりもねぇ。私が知ってるのは、アイツは自分が抱えていた心の壁を乗り越えたってこと。それがアイツの強さであり、『シュヴァリエ』足りえる所以だ」



 一頻り語り終えた一羽、顔を下げ、天城の方を見る。



「お前はどうだ天城。アイツのように、強くありたいという心はあるのか?上っ面じゃない、芯の通った想いはあるのか?」



 それは、一羽にとって天城を見極める意味合いも含んだ言葉であった。


 才能はピカイチ。しかし、才能だけでこの世界は生き抜けない。場合によっては今後も考えなくてはならい。


 その判断を、一羽は心を鬼にして決断するつもりでいた。



「…ッ、俺…は…」



 天城の声は震えていた。顔を隠してはいたが、その間から滴る滴は頬を垂れ、地面へと落ちていく。



「俺は…()()!!」

「…!」



 震えながらも、か細い声ながらも、天城はハッキリと言い放った。



「どれだけ強がっても、どれだけ才能があっても!!俺はまだ…弱いんだ!!弱いままなんだ…さっきの組手で…痛いほど痛感させられた…」

「(…自分の弱さを認めたか…それがどれだけ辛く悲しいことか…だがそれは…)」



 それは、飛鳥と同じ、心の壁を乗り越えるきっかけとなり得ることでもあった。次なる成長へのきっかけに…



「(だが…認めただけじゃダメだ…乗り越えるためにはもう一歩踏み出せ天城)」



 天城はしばらく黙ったままだった。


 しかし次第に腕を掴んでいた手に力が入り、次の瞬間、ボロボロと涙を流す顔を上げ、力強く声を上げた。



「俺は…強くなりたいんだ!!父さんと母さんを助けられなかったあの時とは違う…もう大切な人を失わないように……俺は…強くなりたい!!」



 一羽はいまこのとき、天城が一つ壁を乗り越えたと確信した。


 溢れ出る涙でさえも糧となり、その決意の強さを表していた。


 一羽は天城を優しく、それでいて強く肩を抱きしめる。



「あぁ、お前なら大丈夫だ。その強い想いを忘れるんじゃねぇぞ。その想いを忘れない限りお前はどこまでも強くなれる。私がお前を強くしてやる」



 天城は言葉にして答えることはなかったが、涙を拭い、一羽の言葉を信じ、力強く頷いた。






●●●






「二人とも、遅いですね…」



 一羽の指示で部屋を後にしていたスフィアは、近くの休憩所で待機していた。



「天城…大丈夫かな?」



 幼い頃から天城を知っているスフィアは、最近の天城の様子を心配しており、何度も一羽に相談していた。


 当然一羽は真摯に相談に乗り、この件は任せて欲しいと話されていた。


 スフィアも一羽のことは信頼しているため、任せる形にはなったが、それでも心配なことには変わらなかった。



「はぁ…天城、どうしちゃったんだろ…」



 休憩所の一角でため息を吐くスフィア。そこへ、一人の人物が近寄り声をかけた。



「やっと見つけたぞ…スフィア」

「ふぇ?」



 まさか自分が探されていると思っていなかったスフィアは、思わず情けない声を上げてしまうが、そこに立っていた人物を見た瞬間、その表情が一気に強張っていく。



「ど、どうして…ここに…」

「さぁ、私と帰るぞ、スフィア」



 そこには、英国『軍』所属、レイク・ソード・スクリムジョーが立っていた。


※後書き






ども、琥珀です

久々の週三投稿です。


少しだけストックもあるので…笑

さて、今更ですが新章です。


前回出番がほとんど無かったのに、また大和さんは置き去りですね笑


代わりに最後に美味しいところを持っていった飛鳥が再び出番を…


果たして大和さんはいつ出番を得るのでしょうか…笑

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