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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
6章 ー東京最高本部編ー
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第125星:サイッテー

国館 飛鳥(18)

明るく笑顔を絶やさない天真爛漫な大和の実妹。最高本部の『グリッター』であり、最高司令官である護里直属の戦士でもある。その正体は日本に8人しか存在しない『グリッター』の称号である、最年少の『シュヴァリエ』である。


唯我 天城(17)

東京本部に所属する見習い『グリッター』。将来を有望視される育成組織に所属し、教官である一羽にもその才能を認められている。同期の飛鳥が最高峰の『シュヴァリエ』に、後から入った大和が司令官に着任していることから、怒りを抱いている。


スフィア・フォート(18)

東京本部に所属する見習い『グリッター』。『グリット』に関しては不鮮明な部分が多いものの、勤勉さと発想力を買われる。礼儀正しく生真面目。飛鳥と大和の兄妹の凄さに憧れている。同期の天城とは幼馴染で良く気にかけている。


射手島 一羽(27)

東京本部に所属する一等星『グリッター』。実力とカリスマ、豊富な経験を買われ、飛鳥、天城、スフィアの3人の指導教官となる。豪快でガサツな言動を取るが、実際には天城やスフィアの細かな機微に気付きケアする教官の鏡。

 5分の小休憩を挟み(飛鳥はいらないと言ったが、気分を変えるためと一羽が押し切った)、今度は飛鳥の前に天城が立った。



「気合十分って感じだね、天城」

「…『シュヴァリエ』と手合わせできるなんてまたとない機会だからな。胸を借りるつもりで挑むよ」



 勿論、天城の言葉は心にもない内容だ。外面を装って、なかではどう打ち倒すかだけに集中していた。



「…二人とも用意は良いみたいだな。んじゃ、始めんぞ」



 ジリッと天城は身構えるが、飛鳥はあくまで自然体のままであった。



「(ちっ…俺程度には警戒も必要ないってか…?)」



 その光景にまたも腹を立てる天城だったが、小さく深呼吸を繰り返し、平静さを保つ。



「ーーーーー始め!!」

「『光速操作(タキオン・レイン)』!!」



 一羽の言葉とともに天城は『グリット』を発動。特徴でもある目を一瞬赤く光らせ、次の瞬間、天城がその場から姿を消した。


 と言っても、姿を透視化したわけではない。



「……ッ!!」



ーーーーーバンッ!



 姿が見えないほどの超加速を繰り出しているのだ。


 その加速力は凄まじく、圧倒的身体能力を誇る飛鳥の動体視力をもってしても、その姿を視認することは難しかった。



「(天城の『光速操作(グリット)』は、新時代後の科学力で現認されたタキオンを操る力。タキオンは光速さえ超えると言われる粒子…それを自在に操れるということは、速度も限りなく近くなる。いくら飛鳥と言えど、目で追うのはキツいだろ。さぁ、どう対処する?)」



 天城の怒涛の攻めに飛鳥は後手に回り、反撃に出ることは出来なかった。



「(…いける!!コイツは俺の速度に反応できてない!!いくら身体能力に優れてたって、俺の速度には追いつけないだろ!!)」



 超加速を繰り返すなかで、天城は反撃してこない飛鳥を見て勝利を確信していた。


 が、しかし…



「…?」



 その違和感に真っ先に気が付いたのは一羽だった。


 戦闘場面だけを見れば天城が圧倒しているようにみえるが、実際は異なっていることに気がつく。



「(…天城の攻撃が当たってねぇ…。全部当たる直前に防いでやがる…)」



 天城の攻撃は、飛鳥に一撃も届いていなかった。


 動き回る天城に対し、飛鳥はその場からほとんど動いていなかったが、その全てを手の平で防いでいた。



「(飛鳥の動体視力は私より上だろうが、それにしたってハッキリと見えてるわけじゃねぇだろ…それをどうやって…)」



 と、そこで飛鳥に動きがあった。それまで最小限の動きで防いでいたところを、一歩、横に逸れたのだ。


 すると、そこへちょうど攻撃を仕掛けようとしていた天城が突っ込み、地面と衝突したことで姿を現した。



「ちっ!!」

「せいっ!!」



 その隙を逃さず、飛鳥は天城に蹴り技を仕掛ける。



「ぐぅ…あぁ!!」



 しかし、天城も本部に見初められた逸材。飛鳥の蹴りに対し、後方へ飛ぶことでその衝撃を和らげていた。



「ちっ…どうなってんだよ。お前、俺の動きが見えてんのか?」



 距離が離れたことで息をつく間ができ、天城は今起きたことを整理すべく飛鳥に語りかける。



「ん〜ほとんど見えてないかな。陰が見えてるくらい。普通にやってたら防いだりは出来なかったかも」

「…普通に?」

「うん、普通に。速さだけでいったら、多分天城が今まで相手した人の中でも一番速いと思うよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



 天城は口にこそ出さなかったが、静かに息を呑んだ。



「なに…を…」

「ボクでさえついていけない凄まじい速度だけど、天城も動線でボクのことを捉えられてない。だから、ボクが少し動くだけで調整できず、地面に衝突したんだ」



 飛鳥の指摘は的を射ていた。


 それは天城自身がぶつかっていた壁。


 強力すぎる『グリット』に天城自身がついていけていなかったのだ。



「多分、そのせいだと思うけど、攻撃の動きも直線的でわかりやすかった。だから、最小限の動きで防ぐことが出来たんだよ」



 それも、天城がぶつかっていた壁である。


 速度のコントロールと角度の調整など、天城の『グリット』は見た目とは裏腹に繊細な制御が求められる。


 その分動きや攻撃は単調になってしまうのだ。


 同レベルまでの相手であれば、今でも十分通じるが、飛鳥レベルにまで至る相手だと、容易く対処されてしまう。


 その現実が、天城の身に襲いかかっていた。



「…だからお前は『グリット』を使うまでも無いってか?舐めやがって…」

「ん?あ〜そういう訳じゃ無いんだよね〜」



 天城の言葉に飛鳥は困った表情を浮かべる。



「ボクの『グリット』って意図的に発動するモノじゃ無いというか、寧ろ()()()()()()()()()()()()…とにかくみんなみたいに魅せるような類のモノじゃないんだ」

「……あぁ?」



 飛鳥の言い草に理解できず、苛立った様子で返す天城。


 二人の組み手を遠目に見ていたスフィアも首を傾げ、隣に立つ一羽に尋ねた。



「そう言えば、私も同期なのに飛鳥さんの『グリット』を知りませんでした。一羽さんはご存知なのですか?」

「…あぁ、まぁ、一応な」



 いつも強気な一羽が、この時は珍しく口淀んで生返事を返していた。



「アイツの言う通り、飛鳥の『グリット』はハッキリ目に見えるタイプのモノじゃねぇよ。そして、()()()()()()()()()()()()()()()



 遠回しな一羽の言葉に、スフィアは尚も首を傾げるが、ひとまず複雑なことなのだろうと納得することにした。



「…あぁそうかよ。それならそれで構わねぇ。結局は目で追えてないんだ。なら、お前が俺を見失うまで、動き続ける!!」



 天城は再び『グリット』を発動。再び目を赤く光らせると、次の瞬間その姿は見えなくなった。



「(…不用意に攻撃を仕掛けてこなくなった、か)」



 先程までは気を見計らって何度も攻撃を仕掛けてきたが、今度は高速移動を続けながら飛鳥の視線を外すように動いていた。


 確かにこれならば、動きが直線的であっても、視認できていなければ回避することは難しくなるだろう。



「(…視線が外れた!!ここだ!!)」



 そしてその機が訪れたタイミングを見逃さず、天城は死角から一気に飛鳥の懐へ忍び込んだ。



「ごめんね、もう一つ言い忘れてた」



 その刹那、天城は確かに飛鳥の声を聞いた。



「天城自身が速さについていけないデメリットはもう一個ある」



 完全に死角を突いた筈の動きのなか、天城は真っ直ぐ飛鳥と目が合っていた。



「それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 恐らく1秒にも満たなかったであろうその瞬間を、異様に長く感じた天城の目前には、飛鳥の手があった。



「ッ!?ブアッ!!」



 拳ではなく平手による攻撃で押し返された天城は、勢いを殺すことが出来ず、そのまま後ろの壁に激突した。



「〜〜〜こんのっ!!」



 直ぐに体勢を立て直し立ち上がろうとする天城の目の前には、スフィアの時と同じように、飛鳥の拳が突きつけられていた。



「…勝負あり、だな」

「っ!?まだだ!!まだ俺は負けてない!!」



 組み手の終わりを告げた一羽の言葉に、天城は逆らい尚も戦おうとする。


 しかし、その前にいつの間にか移動していた一羽に手を押さえ込まれ、制止される。



「諦めろ。今のお前じゃ勝てねぇよ。冷静さを失ってる今ならなおさらな」



 一羽は無言で頷き、意図を察した飛鳥はゆっくりと拳を引っ込めた。



「二人とも完敗だな。また一から鍛え直しだ」

「でも二人とも凄い強くなってたよ!!何回も驚かされちゃった!!」



 飛鳥としては二人を褒めたつもりだったのだろう。実際スフィアは飛鳥の言葉に嬉しそうな反応を示していた。


 しかし、天城にとって、飛鳥の言葉は不快感しか感じていなかった。



「(驚いた…驚いただけだと!?俺が…俺がここまで鍛えるのにどれだけ時間をかけたと思ってんだ…!!それを…お前は…!!)」



 その天城の様子に気付くことなく会話を続けたいた飛鳥だったが、腕につけていた通信機が鳴り、会話が一旦途切れる。



「あ〜ごめん、急なお仕事入っちゃったみたい。ボク行かなきゃ」

「お前も大変だな。せっかくのオフなんだろ?何だったら私が代わるぞ?」

「ありがとう射手島さん!!でもボクに直接来たってことは、ボクにしか頼めないことだと思うから。大丈夫、ボクこの間の仕事ですんごいリフレッシュ出来てるから!!」



 飛鳥の言葉に嘘はなく、浮かべる笑顔も明るく力強かった。



「そうかい。なら頑張ってきな」

「ありがとう!行ってきます!」



 そう言って、飛鳥は訓練室を後にしようと動き出した。



「ふざ…けるな…」



 天城が小さく溢した言葉を、一羽は聞き逃さなかった。



「天城?」



 飛鳥を見て気が緩み、一羽は一瞬対応が遅れた。


 天城は再び『グリット』を発動し、飛鳥に後ろから襲いかかっていった。



「ッ!?バカ!!よせ、天城!!」

「ヒトのプライド傷付けて、勝ち逃げなんてしてんじゃねぇ!!!!」



 一羽の言葉も虚しく、天城は完全な不意打ちを仕掛けた。


 が、しかしーーーーー



「サイッテー」

「あ?ーーーぶっ!!」



 先程までは後ろを向いていた筈の飛鳥は、気が付けば天城の懐に入り込んでおり、腹部に強烈な一撃を見舞っていた。


 勿論拳ではなく平手。


 しかし、ただ押しただけの先程とは違い、相手の勢いを利用してその衝撃を全て跳ね返す、武術の技の一つを使用したいた。



「確かにボクは天城の動きは見えてない…けど、()()()()()()()()()()()()()()

「な…ん、ガハッ!!」



 全身に走った衝撃と、腹部の痛みで座り込む天城を、飛鳥は上から見下ろし話し出す。



「天城の高いプライドも、当たりの強い性格も、ボクは天城の長所だと思うよ。けど、正式な組手が終わったあとに、背後から襲い掛かる…しかもボク一応女なのに。サイッテー」



 いつも天真爛漫な飛鳥にしては珍しく、純粋な怒気を孕みながらの冷たい声であった。



「強くなりたい気持ちも、強くありたい気持ちも分かるけど、そんなことをしたって強くならないし、誰も認めてくれないよ」



 飛鳥は踵を返し、今度こそ出口の方へと向かっていった。



「そんなんじゃ、ボクなんかは勿論、お兄ちゃんを追い越すなんて、夢のまた夢だね」



 去り際に残した飛鳥の言葉は、天城の心に強く突き刺さり、その表情を歪めた。


 飛鳥が去った後の室内に、後味の悪い空気が漂っていた。

※後書き






ども、琥珀です

前話に追記させていただいたのですが、更新曜日を間違えておりました…

正しくは月、金ですね…


今後は気を付けてまいります。

謝罪とは違いますが、今週は週3更新にさせて頂きます。


したがって次回は水曜日に更新しますので宜しくお願いします。

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