第120星:帰国
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。『グリッター』とのぶつかり合いを経て信頼を勝ち得た。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23) 四等星
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。
久留 華 (22)四等星
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。
曲山 奏(20)四等星
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアヤクーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と交友を深め、心を許すようになった。
ヴィルヴァーラが日本に来てから三週間。
交流期間を終えた彼女は、帰路につくべく根拠地の港へとやって来ていた。
既に船は到着しており、あとは乗船するだけの状態で、ヴィルヴァーラは見送りに来てくれた根拠地の面々と挨拶を交わす。
「この三週間…長くなると思っていたけどあっという間だったわ。ここでの経験は、私にとってかけがえのないものであり、そして大きく成長させてくれるものだった。絶対に忘れないわ」
「はい!私達も絶対に忘れません!」
ヴィルヴァーラは握手のために手を差し出すと、朝陽もそれに笑顔で応じる。
次いで朝陽は、ポーチにしまってあった袋を取り出し、ヴィルヴァーラに手渡す。
「…これは?」
「えへへ…プレゼントです!」
中を確認すると、そこにはリングがチェーンに通されたネックレスが入っていた。
「本当は日本っぽいものをプレゼントしようと思ったんですけど、それにこだわり過ぎてもダメかなって思って…万国共通のモノにしました!」
見れば、リングの内側にはそれぞれ『Chiba. Base』と書かれた文字が彫り込まれていた。
「何の捻りもないプレゼントですけど、これで時々私達のことを思い出してくれたら嬉しいなって」
「…ありがとう。大切にするわ」
リングを大事に握りしめ、朝陽達に感謝する。
次いで、ヴィルヴァーラは、大和と咲夜の方へと身体を向ける。
「指揮官サクヤ。この三週間、大変お世話になりました。貴方の気配りがなければ、私はきっと三週間もの期間を乗り切ることは出来なかった。Спасибо большое 」
「長い交流期間、お疲れ様でした。あなたにとって有意義な時間となっていれば、私としては言うことなしです」
礼儀正しく咲夜に一礼し、今度は大和の方を向く。
「司令官ヤマト。貴方と共に過ごしたのはほんの僅かな時間でしたが、何故彼女達が貴方をこれ程までに慕うのか、その僅かな時間で実感しました。今度は是非、直接指揮下の元戦わせて下さい」
「…ボクの目標は君達に普通の生活をしてもらう事…だけど、君の強い志が今回の戦いの勝利を呼び込んだ。機会があれば、君のために全身全霊、指揮を振るうよ。今後の健闘を祈る」
大和の言葉と微笑みに、ヴィルヴァーラも無意識に頰を緩ませ、同様に一礼する。
と、そこで船の方から『ボォォォォォォ!!』と出航の合図を知らせる大きな汽笛の音が鳴り響く。
「時間…ね。名残惜しいけれど、そろそろ乗らなくちゃ」
地面に置いてあった荷物を手に取り、ヴィルヴァーラは乗船の準備を始める。
最後に、ヴィルヴァーラは朝陽小隊の面々に顔を向ける。
「今度は、貴方達がロシアに遊びに来て頂戴。その時は歓迎するわ…その…」
途中まで言いかけて、ヴィルヴァーラは顔を俯かせる。
見れば、顔は真っ赤に染まっており、なかなか最後の言葉が出てこない様子であった。
それでも、朝陽はヴィルヴァーラを急かすようなことはせず、言葉が出てくるのを待った。それから数秒して、ヴィルヴァーラはようやく口を開いた。
「あの…と、友達として」
その言葉に、歓喜の笑みを浮かべて、朝陽達は何度も頷いた。
「ヴィっさん!!私も!!私も絶対に遊びに行くからね!!」
「…貴方を招待するとなると、それなりの準備が必要になりそうね。でも、勿論歓迎するわ。私に、初めてのあだ名を付けてくれた…と、友達だものね」
自己主張を忘れなかった飛鳥にもキチンと返事を返し、飛鳥は「二ヒヒ〜」と満面の笑みを浮かべた。
「…あぁ、もう本当に時間ね」
ヴィルヴァーラは船にかけられた簡易的な橋に足をかけ、ゆっくりと船に乗り込んでいく。
その去り際、ヴィルヴァーラは振り返り、朝陽達に最後の言葉を届けた。
「アスカに倣って…じゃないけれど、私のことはヴィルって呼んで。私と親しい人は…私の家族は、私のことをそう呼ぶから」
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それから間も無くして船は進みだし、ゆっくりと千葉根拠地から離れていった。
「皆さんいきますよー!!せぇ〜の!!」
その去り際、ヴィルヴァーラは朝陽達が声を上げていることに気がつく。
そこには、長い横断幕を広げている朝陽達の姿。そして、そこには大きくロシア語の文字が書かれていた。
「Досвидания、Прекрасно、друг ‼︎」
全員が手を振り見送る姿を見て、ヴィルヴァーラは無意識に浮かんでいた涙を拭い、これまで見せることも浮かべることもなかった最高の笑みを浮かべて、答えた。
「До встречи ‼︎ Прекрасно |друг ‼︎」
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「…行っちゃいましたね」
船は既に姿も見えないほど離れ、朝陽は寂しげに呟いた。
「何だか…あっという間で、たくさんお話しをする機会は取れなかったですけど…それでも、たくさんのことを逆に学ぶことが出来て、お友達にもなれて…やっぱり、寂しいですね」
同じ気持ちであったのだろう、他の面々も朝陽の側により声をかける。
「そうですね。でも、それはきっと、心を通わすことが出来たからこそ感じることのできた寂しさだと思います」
「ですね!!最初は壁を感じることもありましたが、最後には友達とまで言ってくれました!!それだけで、この交流期間での出来事が報われた気がします!!」
二人の言葉に朝陽も頷く。
「これが今生のお別れじゃないよぉ。また会うときに、胸を張って会えるようにぃ、私達ももっと頑張らないとねぇ」
「…そうですね!!またヴィルヴァーラさん…ヴィルが遊びに来れるよう、私達はまた平和のために戦わないとですね!!」
寂しい気持ちを奮起に変え、朝陽は再び『グリッター』として気合いを入れ直したのであった。
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「い〜〜〜〜〜や〜〜〜〜〜だぁ〜〜〜〜〜!!!!!!」
それから数時間後。先程出航したものとは別の船が港に停船していた。
船の行き先は東京。即ち『軍』本部行きである。その船に乗るのは二人。護進と飛鳥である…のだが。
「い・い・加・減・に・し・ろ!!私らの派遣期間は交流期間の間だけだろうが!!ヴィルヴァーラが居なくなった時点でその役割は終わり!!私らも本部に帰んだよ!!」
「い・や・だぁ!!!!ボクはまだお兄ちゃんと一緒にいるぅ!!!!」
見かけは完全に駄々をこねる娘と嗜める母親だが、その我儘っぷりは本当の子どもに引けをとらなかった。
船を留めるためのビットにしがみつき、引き剥がそうとする護進に全力で抵抗していた。
来た時とは真逆の光景に、朝陽や咲夜はただただ苦笑いを浮かべていた。
見かねた根拠地の面々が協力して剥がそうとするが、奏、タチ、伊与、七、そして護進の五人がかりで引っ張っても、飛鳥はびくともしなかった。
「テンメ!!こんなところで化けモンぶり発揮してんじゃねぇ!!」
「力の強さは意志の強さ!!これがボクの覚悟だよ!!」
「カッコいいこと言ってんが要は大和から離れたくねぇっていう我儘だろうが!!つべこべ言わずにとっとと乗るぞ!!」
「い・や・だぁ!!!!」
頑なに動かない飛鳥に、一同が疲弊し出したところで、咲夜が呆れながらゆっくりと近づいていく。
そして飛鳥のビットを掴んで離さない指にソッと触れると、次の瞬間シュパッ!と、それまでどんなやっても離さなかった指を引き離した。
「あ〜〜〜!!!!咲夜さんズルイズルイ!!脱力させるなんてぇ!!!!」
「駄々をこねすぎよ飛鳥。船の出発時間も決まってるのだから、我儘を言って、他の人達を困らせちゃダメ」
咲夜に窘められるも、飛鳥はやっぱり納得がいかずいじけた顔を浮かべていた。
「だって…やっとお兄ちゃんと一緒にいられたんだもん…毎日会いたくてしょうがなくて、それでも我慢してきて、それでやっとお兄ちゃんに会えたんだもん…」
口調は完全に駄々っ子のそれだが、この兄妹愛っぷりが故に飛鳥の大和への想いがハッキリと伝わり、根拠地の面々も強く言い返すことが出来なかった。
「咲夜さんはいいじゃん…お兄ちゃんとずっと一緒にいられて…ボク、兄妹なのに何ヶ月も会えないんだよ?」
それは、似たような立場でありながら、常に大和のそばにいる咲夜も同様で、やはりそれ以上強くいうことは出来なかった。
一同が飛鳥に対し何も言えない状況が続くと、大和は「やれやれ…」と困った表情を浮かべながら飛鳥に近寄る。
「お兄ちゃん…お兄ちゃんならボクの気持ち分かってくれるよね?」
「あぁ、よく分かる。お前は誰一人として代わりのいない、大事な妹だからな。誰が好き好んで離れたいと思うもんか」
その言葉にパァ、と顔を輝かせた飛鳥だったが、大和は「けど…」と続けた。
「俺にはこの根拠地でやるべきこと、そして護るべき街がある。だから俺はここから離れられない。それは分かるな?」
「…うん。だからボクも…」
「それはお前も同じはずだ飛鳥。俺に根拠地という守るものがあるのと同じく、お前にも、守るものがあるだろう?」
「それは…うん…」
飛鳥が思い浮かべたのは、本部の都市、東京。そしてそこで切磋琢磨し合いあった仲間達の姿だった。
「なら、お前は戻らなくちゃいけない。お前の帰りを待ってる奴がいるんだろう?」
「…うん、分かったよお兄ちゃん」
飛鳥は悲しい気持ちを抑え込み、いまできる最大限の笑みを大和に向け、ゆっくりと立ち上がった。
そのタイミングで、大和は飛鳥を優しく抱きしめ、片方の手で頭を撫でた。
「いつかまた、お前と一緒に過ごせる日々を取り戻す。その為に俺も頑張るから。飛鳥も頑張ってほしい。できるな?」
「…ッ!うん!頑張るよ、お兄ちゃん!!」
飛鳥も大和を力強く抱きしめ返し、パッと離れた。
「みんな、我儘言っちゃってごめんなさい!!ボク、本部に帰ります!!」
「ったく、何を当たり前のこと言ってんだか…」
やれやれと言った様子で頭をかく護進に、大和はソッと近づき小声でささやいた。
「本部に帰ることが当たり前…そう思えるくらいには気持ちが前を向いてくださったんですね、護進さん」
その言葉に護進は僅かに頬を赤らめ、大和を睨みつけた。
「テメェ…相変わらず生意気な口をききやがって…」
その瞳の奥は、ここに来るまでの暗い瞳ではなく、何か決意に秘めた強い眼差しとなっていた。
「見てろよ。次に私が指揮を執ることがあれば、お前に出番はねぇからよ。畏敬の念を持って膝まつかせてやる」
「えぇ、楽しみにしてます」
その僅かなやりとりを終え、飛鳥と護進の二人も船に乗船した。
「じゃあ、またねみんな!!今度は東京にも遊びに来てねぇ!!」
最早暗い表情は一切なく、元の明るい笑顔を浮かべ、飛鳥と護進は本部へと帰っていった。
これをもって、初の試みである他国との交流期間は終わりを告げたのであった。
※後書き
ども、琥珀です〜
以前書いていた新作を、再び少しずつ書き始めました
投稿はまだまだ先ですが、いつかお届けできたらなと思います
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回は月曜日に更新予定ですので宜しくお願いします。