第119星:迷子
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。『グリッター』とのぶつかり合いを経て信頼を勝ち得た。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23) 四等星
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。
久留 華 (22)四等星
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。
曲山 奏(20)四等星
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアヤクーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と交友を深め、心を許すようになった。
「つ…疲れた…」
根拠地を出てから半日。
ヴィルヴァーラはこの短時間で、衣服屋(朝陽)に始まり、クレープ屋(華)、動物ショップ(梓月)、バイクショップ(奏)と様々なところを連れまわされていた。
「(最初の二つはともかく、動物ショップもバイクショップも完全に個人の趣味全開のお店じゃない…日本の文化を知るという名目は一体…)」
楽しくないわけではない。
あまり触れ合うことも、接点を持つこともないことに触れるのは純粋に楽しめたし、案内する四人が退屈させないよう工夫をしてくれたことで、すんなりと受け入れることもできた。
それでも、元来の性格が災いして、慣れないショッピングウォークに精神がついていかず、少なくない疲労を抱えていた。
と、疲労からか視野が狭まっていたのか、ヴィルヴァーラの死角に何かがぶつかる。
「…ぁ」
「ん?」
みれば、そこにいたのは年端もいかない少女だった。恐らく年齢は5歳程度。
ぶつかってしまったことで怒られると思ったのか、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「あ〜…えっと…」
対してヴィルヴァーラもこの子供に対しての扱いに困っている様子で、なかなか言葉が出てこなかった。
「(うぅ…私子どもは苦手なのよね…それも今にも泣きそうな顔でこっちを見てるし…)」
と、そこでその状況に気が付いた朝陽達が膝を屈ませ、子供に笑顔で挨拶する。
「こんにちは。もしかして、誰か探してるのかな?」
子どもを怖がらせないよう、キチンと目線の高さを合わせて話、緊張をほぐすために笑顔も見せる。
その効果は覿面で、少女は先程よりも表情を柔らかくして頷いた。
「う、うん…お母さんとお父さんとはぐれちゃってね…」
「そうなんだぁ〜それは心細いよね〜」
気付けば奏達三人も腰を屈めており、少女との会話に混ざっていた。
「それでは、私達と一緒にお父さんとお母さんを探しましょう!!」
「幸いここは一階建てのモールです。一緒に回ってれば鉢合わせる可能性は高いでしょう」
「…!いいの!」
朝陽達の言葉に、少女は先程までの沈んだ表情を一変させ、パァッと笑顔を浮かべた。
「ごめんなさいヴィルヴァーラさん。お出かけの途中なんですけど、良いですか?」
「ここでダメというほど私も鬼じゃ無いわ。この子の親を探しましょう」
ヴィルヴァーラの同意も得て、一同は少女の親を探すべく歩き出す。
あたりは騒がしいショッピングモール。
その中で、ヴィルヴァーラがこぼした一言は朝陽達に届くことは無かった。
「…家族は、大切だものね…」
●●●
「思ってたより見つからないもんだね〜」
「一階建てといっても、その分横に広いですからね。ですが、親御さんもこの子を探しているでしょうから、時間の問題だとは思いますけれど」
朝陽達が少女と共にモール内を歩き始めて15分。想定よりも内部は広く、未だ少女の親と会うことは出来ずにいた。
「…ねぇアサヒ…」
途中、ヴィルヴァーラが朝陽に聞こえる程度の小声で話しかける。
「はい?どうしましたかヴィルヴァーラさん」
「貴方達が迷子だって言うから、何となく私も納得してたけど、どうして直ぐに迷子だと気付いたの?」
ヴィルヴァーラの問いに、朝陽は「あぁ」と頷いて答える。
「あの子がヴィルヴァーラさんにぶつかってから、すぐに辺りをキョロキョロと見渡してたじゃないですか。まだまだ子どもなのに周りには親の姿はなくて、それでいて辺りを見てるのをみて、あ、この子迷子なんだなって気付いたんです」
朝陽の説明に納得しつつ、改めて、朝陽達と良くも悪くも人種が違うのだと感じていた。
「(私は…あの子とぶつかった時、どう対応するかで迷った。けど、アサヒ達は対応方法を真っ先にから決めた上で、次の動きと言葉かけの内容も考えていた…)」
チラリとアサヒ達を一瞥すると、そこでは先程までの暗い表情が嘘のように笑みを浮かべた少女が、華と奏に挟まれるようにして手を繋いでいた。
「(ロシア人がこう言うことにドライなわけじゃない。けれど、この細かな気配りと思いやりの心こそが、アサヒ達の…いや、日本人の強さであり根源なのね…)」
思わぬ形で日本の文化を知ったヴィルヴァーラは、誰に向けるでもなく笑みを浮かべた。
「花火!」
と、そこへ少女に声をかける女性が一同の前に現れた。
「あぁ!おかーさん!!」
と、少女はそれまで繋いでいた手を離し、声をかけてきた女性、母親に駆け寄り抱きついた。
「もう、この子は勝手にどっかいって…心配したのよ!!」
「んん…ごめんなさい…」
口調は怒っていたが、母親は少女ーーー花火を強く抱きしめていた。
「ふふ、無事に見つかって良かったですね」
「はい!!あの子の本当の笑顔が見れただけで私達も大満足です!!」
「そうだね〜歩き回った甲斐があったね〜」
朝陽達一同も、その家族の光景に満足げに微笑んでいた。
と、その一同の前に、花火の父親と思わしき人物が歩み寄る。
「この度は私の娘がご迷惑をお掛けしました。あの子と一緒にいてくださり、ありがとうございます」
男性はとても礼儀正しく、丁寧な口調で感謝の言葉を述べると、キチッとした姿勢でお辞儀をする。
「いえそんな…たまたま私達が通りかかっただけですので…」
朝陽は照れた顔をしながら謙遜の言葉を述べる。
そこでふと、男性は何かに気付いた表情で、朝陽達を順番に見ていく。
「失礼ですが…もしかして貴方達は『グリッター』の方々でしょうか?」
その言葉に、朝陽は緊張した表情を浮かべるが、奏がいつもの調子で代わりに答えた。
「はい、我々は千葉根拠地所属の『グリッター』です!!」
「あぁ、やはりそうでしたか。実は…」
男性が何かを言いかけた瞬間、後ろで話を聞いていた少女の母親が血相を変えて声を上げる。
「『グリッター』ですって!?」
次いで母親は少女を隠すよう背中へ回し、明らかに敵意を含んだ眼差しを朝陽達に向けていた。
「近寄らないで!!貴方達のせいでうちの子に『グリット』が発症したら…あぁ、どうしましょう…病院に行くべきかしら…」
まるで『グリット』を…いや朝陽達を病原菌とでもあるかのような言い方に、朝陽は沈んだ表情を浮かべ、ほかの面々も困ったような笑みを浮かべていた。
「良くも私の娘に触れたわね…そもそもどうして貴方達がこんなところにいるの?『軍』人は『軍』人らしく、兵器の校舎にでも籠もって…」
「いい加減にしないか!!」
朝陽達が何も言い返せないなか、声を荒げて母親を制したのは、父親だった。
「アナタ…でも…」
「君が『彼女達』にそういう思いを抱いていることは気付いていたよ。彼女達をどう思おうが、それは君自身の個人の思想だ。それを咎めるようなことはしない」
男性は強い眼差しを女性に向け、「けれど…」と続ける。
「彼女達は迷子になっていた娘を助けてくれた。ボク達の娘のために一緒に歩き探してくれた。その事実から目を背け、一方的に『差別』を繰り返すのはボクは許容できない。何より、それを花火に見せるのは絶対に許さない」
女性はハッとした表情を浮かべ、自分の娘の方を見る。
少女、花火は朝陽達に敵意を向ける母親を、悲しい瞳で見つめていた。
「おかーさん。お姉ちゃん達、良い人達だよ?ずっと私に笑顔で話しかけてくれたし、ずっと手を握っててくれたんだよ?」
「…ッ…」
娘と旦那に非難の目を向けられ、女性は葛藤の末に立ち上がり、朝陽達の前にまで歩み寄ると、ゆっくりと頭を下げた。
「…私の娘を送り届けていただき、ありがとうございました」
様々な感情は含まれていただろう。それでも、女性はしっかりと感謝の意を込めて、朝陽達に頭を下げていた。
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「バイバーイお姉ちゃん達〜!!」
少女は満面の笑みを浮かべ、手を振りながら家族達とその場を去っていく。
朝陽達もそれぞれ手を振りながら少女達を見送り、ふぅ、と息を吐き出した。
「いやぁ…テレビとかでは見ることはありましたが、ここまで間近でこのようなやりとりをしたのは久し振りでしたね!!」
「まぁ一応私達外見だけじゃ『グリッター』だとは分からないからね〜」
一同は緊張から解き放たれ、いつもの笑みを浮かべる。
「ん?どうしたんですか朝陽さん」
その中で、朝陽だけは他とは違う、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「いえ…私、ずっと、お姉ちゃんが…皆さんが差別を受けてきたところしか見てこなかったから…だから、凄く嬉しかったんです」
朝陽が言っているのは、少女の父親が残した最後の言葉だった。
『実は、私は皆さんのことを応援しているんです。いつも私達のために命をかけて戦って下さり、本当にありがとうございます。厳しい世の中ではありますが、私のように貴方方を応援している人はきっといます。どうか、負けないで』
その言葉は、朝陽の心を強く響かせていた。涙を拭うように目を擦り、朝陽は改めて笑顔で振り返った。
「私、『グリッター』として戦ってきて良かったです!!」
朝陽の言葉に、奏、華、梓月の三人も強く頷いた。
その後ろでもう一人、男性の言葉を強く胸に刻み、そして頭を下げた母親と、純粋な目を向ける少女の姿を、ヴィルヴァーラは強く脳裏に焼きつけていた。
※後書き
ども、琥珀です。
すいません、以前お伝えした腕の怪我、そして痺れが完治していないので、後書きはお礼の内容だけ!
本日もお読みいただきありがとうございました!!