第117星:仮説
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。『グリッター』とのぶつかり合いを経て信頼を勝ち得た。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の元隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は『夜宵小隊』の小隊長。
樹神 三咲 (22) 三等星
千葉支部所属。夜宵の率いる『グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。大和方針に反対している。『三咲小隊』小隊長。
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。『椿小隊』小隊長。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と少しずつ交友を深めていたが…?
日下部 リナ(24)
千葉根拠地の技術班班長を務める女性。開発よりも改善・改造を好み、バトル・マシナリーを『グリッター』のために改造している。技術力は確かなもので信頼も厚い。職人としては大人しい性格だが、意見はハッキリと伝える強さも備えている。
一ヶ瀬 瑞樹(24)
千葉根拠地の科学班班長を務める女性。実家は日本有数の財閥の家系で、本人も良いところのお嬢様…なのだが、好奇心旺盛でお淑やかな振る舞いとはかけ離れた活気的な行動を取る。科学面での実績は確か。技術班班長のリナとは幼馴染で親友。
「『アイドス・キュエネ』の四次元空間…その弱点だって?」
「はい、そうです」
再度確認する大和の言葉にも、リナは力強く頷いた。
「そもそも何故メナスはヴィルヴァーラさんの氷牢には近付かなかったのか…」
誰もが答えを見出せないなか、ヴィルヴァーラが静かに答える。
「…私が牽制をしていることに気が付いたからではないの?」
リナはその答えに首を横に振って否定した。
「その可能性も否定は出来ません。でも私が至った結論は違います」
次いでリナはホワイトボードに今の構図を描いていく。
「先程も話しました通り、『アイドス・キュエネ』の四次元は、粒子の乱れを生み出し認識不可な空間を創り出したことによるモノです。だとすれば、逆にその乱れを止められてしまえば、四次元から引きずり戻されてしまうことになるんです」
そこで大和がハッとした表情を見せる。
「…そうか!氷牢に近付き、氷結によって粒子間の結合が固定されてしまうことを警戒したのか。だからヴィルヴァーラ君の牢には近付かなかった」
リナの言葉からようやく答えにたどり着いた大和が思わず声を上げる。その答えにリナは頷いた。
「その通りです司令官。つまり、『アイドス・キュエネ』の四次元の弱点は固定。私達が日常的にこなしている行いそのものが弱点だと言うことです」
打開策として現実味を帯びてきたことで、朝陽達の表情に明るさが戻っていく。
「恐らくですが、夜宵さんの『闇』が効果的だったのも、これが答えだと思います。夜宵さんの『闇』自体も異空間で、特殊な磁場を備えているんだと思います。それが互いの空間に干渉し合って、攻撃を通した…」
夜宵自身も、大和の言葉を信頼していたとは言え、攻撃が通じていたことに疑問を抱いていた。
そのため、この説明には合点がいったようで、何度も頷いていた。
「だとすれば、四次元への対抗策は物質の固定ということになりますが、次の問題はそこになりますね」
咲夜が結論をまとめ、次の問題を提起する。
「私に出来たのはここまで。ここから先は…瑞樹、貴方の力を借りたいの」
リナは視線を瑞樹の方へと向け、瑞樹もその視線をいち科学者として受け止めていた。
「私の仮説を検証して、解決策を貴方に考えて欲しい。それは、私には出来ない…科学者の貴方にしか出来ないから」
この話をする前に、リナはあくまで素人の考えであるとリナに伝えていた。
前提としてこの仮説を否定されてしまえば、また一から仮説をたてなくてはならない。
「どう、リナ。私の仮説は貴方からしてあり得るかな」
希望となるか、はたまた絶望となるか…リナが発した言葉は…
「素晴らしい仮説ですわリナさん」
是、であった。
先程までのハイテンションによる受け答えでは無く、科学者として素直な敬意を持った受け答えであった。
「司令官。私もリナさんの仮説を推奨致します。つきましては、これの解決策を検証すべく、お時間と人員をいただきたく存じます」
「許可する。必要な人員・物資については随時連絡をしてくれ。迅速に用意する」
瑞樹が是と唱えたものを、大和が否定する理由もなく、すぐさまGOサインを出す。
忙しく動き出した瑞樹は出口へ向かい、リナとすれ違う途中、フッと振り返った。
「リナさん。貴方の仮説、私が必ず実証致しますわ。けれども私達の仕事はそこまで…そこから先は…」
「分かってる。そこから先は私達の役割。だから、協力して必ず実証しよう」
その言葉を聞き、満足げに頷くと、瑞樹は今度こそ部屋をあとにした。
「…さて、瑞樹君が動いたわけだし、ボク達がこれ以上出来ることは殆ど無いだろう。具体的な対策ができるまではこれまで通り根拠地を中心とした警備を。但しいつまた四次元空間からの攻撃が来るとも分からない。各自どこにおいても警戒は怠らず、動ける状態を維持しておいてくれ」
「「「はい」」」
「現状、現実的に四次元に対抗出来るのは夜宵さんだけです。今後しばらくはそれに応じたシフトを組んで参ります。皆さんも柔軟な対応をお願いします」
「「「はい」」」
大和と咲夜の指示に、一同は声を揃えて返事を返し、対四次元空間に対する会議は幕をおろした。
●●●
「ヤマト司令官、サクヤ指揮官」
その帰り道、司令室に向かっていた大和と咲夜の二人を、ヴィルヴァーラは呼び止める。
「…?どうかしましたか?」
「…あぁ、そう言えば、メナスのことでゴタゴタしていて、君とはまだキチンと挨拶を交わしていなかったね」
大和はゆっくりと振り返り、いつものように笑みを浮かべて挨拶を始める。
「改めまして、ここの根拠地の司令官を務める、国舘 大和だ。もう殆ど日にちはないけれど、残り2日、良い交流期間となることを願っているよ」
手を差し出され、それが握手を求められてのものであると気付き、ヴィルヴァーラも直ぐ様それに応じる。
「あ、その…すいません、私が呼び止めたのはそれが理由ではなく…」
「ははは、ごめんごめん。勿論分かっているよ。けど、挨拶は大事だろう?」
「え?まぁ…はぁ…」
大和の独特な雰囲気に振り回され、ヴィルヴァーラは困惑する。
「(掴めない人ねヤマト…真面目で誠実かと思えば、今みたいに私の緊張をほぐすかのようなやりとりもみせる…私はそういうの、疎ましく感じるタイプだった筈なのだけど…)」
調子が狂う…そう思いながらも、ヴィルヴァーラは大和に不信感や不快感を抱くことは無かった。
「話の腰を折ってしまって悪かったね。話を聞こうか。それとも、人が通るここでは話しづらいかな?」
次の瞬間、ヴィルヴァーラはバッと顔を上げ、驚いた表情で大和の顔を見る。
視線の先には、先程と変わらない微笑みを浮かべた大和の顔があるだけ。
しかし、その後ろに立つ咲夜は、どこか気まずそうに目を背けていた。
「(あぁそう…全部お見通しだった、ってわけね…)」
まだ僅かに残っていた躊躇いも無くなり、ヴィルヴァーラの中でハッキリと覚悟が決まった。
「…全部、ご存知だったんですね…では…」
「知っていたさ。君が…君の家族が大の日本好きだってことはね」
「…は?」
予想だにしない発言に、ヴィルヴァーラ茫然とする。
「いやぁ初めての交流国が『ロシア』だと聞いた時は何故かな〜ってずっと考えていたんだけどね〜。まさかそういう理由だとはボクとなかなか気付かなかったよ!!」
言葉のでないヴィルヴァーラを差し置き、大和は明るく笑って続ける。
「それなら交流期間に、『軍』のことだけじゃなく日本を知ってもらうための日も組み込んでおけば良かったなぁ。申し訳ないことをした」
「…ぁ、ち、ちがっ…!実は私…」
大和はきさくにヴィルヴァーラの肩をポンポンと叩く。それで我に帰ったヴィルヴァーラが慌てて何かを口にしようとした瞬間、
「それはボクからのプレゼントだ。万が一の時に有効活用してくれ」
大和がヴィルヴァーラの耳元に顔を近づけ、小さく呟いた。
「なっ…」
再び呆然とするヴィルヴァーラを尻目に、大和は話はおしまい、と言わんばかり背を向ける。
「さっきの話…割とアリな気がしてきたね。咲夜、シフトの調整できるかい?」
「貴方はまた急に…ですが、そうですね。今回は必要なことかもしれません。戦いからまだ日が浅いですが、どうにか調整してみます」
大和と咲夜の会話は、ヴィルヴァーラには殆ど入ってきていなかった。
それでも、大和が最後に放った言葉は、ヴィルヴァーラの耳にはっきりと届いた。
「ヴィルヴァーラ君。ボクからのプレゼントは君の自由に使ってくれ。君と…君の家族に役立つはずさ」
それを最後に、二人はその場から去っていった。
二人の姿が完全に見えなくなったあと、ヴィルヴァーラは力なく壁に寄りかかり、手で顔を覆うようにしながら笑みを浮かべた。
「何よ…やっぱり全部お見通しだったんじゃない」
言いようのない敗北感と、畏敬の念を感じながら、ヴィルヴァーラもゆっくりとその場を離れていった。
※後書きとお知らせです
ども、琥珀です
暑いですね。梅雨に入ったと思いきや突然のカラカラ晴れ。お陰様で洗濯物もカラカラです。
でも、夏はこれからが本番なんですよね…ん〜辛い…
さて、お知らせなのですが、来週は諸事情により更新できません、申し訳ありません…
26日の金曜日に更新しましたら、次の更新は7月6日の月曜日になります。
たびたびお休みをいただいてすいません…金曜の更新を宜しくお願いします!