第113星:報告
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。『グリッター』とのぶつかり合いを経て信頼を勝ち得た。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の元隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は『夜宵小隊』の小隊長。
樹神 三咲 (22) 三等星
千葉支部所属。夜宵の率いる『グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。大和方針に反対している。『三咲小隊』小隊長。
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。『椿小隊』小隊長。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と少しずつ交友を深めていたが…?
早乙女 護進(28)
派遣交流の監査役として千葉根拠地にやってきた(というか連行)非戦闘員・専門指揮官。『軍』最高司令官である早乙女 護里の息女であるが、品行は非常に悪い。大和の戦術の師であるが、過去に重いトラウマを抱えており…?
国館 飛鳥(18)
明るく笑顔を絶やさない天真爛漫な大和の実妹。最高本部の『グリッター』であり、最高司令官である護里直属の戦士でもある。その正体は日本に8人しか存在しない『グリッター』の称号である、最年少の『シュヴァリエ』である。
「フフッ…流石だね飛鳥。ホント、自慢の妹だ」
通知音を聞き、大和が端末を確認すると、そこには『ミッションコンプリート!!』という単純明快なメッセージが送られてきていた。
飛鳥らしい内容に思わず笑みを溢しつつ、大和はそっとお礼と労いのメッセージを送り返す。
「大和?何かありましたか?」
その様子に気が付いた咲夜が大和に尋ねるが、大和は笑って「いいや、何も」と答える。
戦いを終えて、一同が安堵の息をこぼす中、護進は静かにその場から離れていった。
「護進さん」
その様子を、大和は見逃すことなく声を掛ける。
「…なんだよ。お前が帰ってきたんだ。私はお役目御免だろ」
「貴方に与えられた司令官代理の任期は三週間。あと3日も残っています。それまではキチンと根拠地にいて下さいね」
「…チッ」
バツが悪そうにしながらも、護進は拒否しなかった。
司令室から立ち去ろうとする護進に、大和は最後の言葉を投げかける。
「今度は、本当の貴方を彼女達に見せてあげて下さい」
護進はピタリと足を止め、しばらくその場から動かない。やがてゆっくりと顔だけ振り向き、大和を見る。
「…ホント、生意気な弟子だなお前は」
その表情は薄く微笑み、力強く生気に満ちていた。そう言い残し、今度こそこの場から立ち去っていった。
「…私の力不足故、結果的に窮地に陥ってしまいましたが、あの方がいらっしゃらなければ、根拠地は甚大な被害が出ていたと思います。今回、これだけの被害で済んだのは、紛れもなく護進さんの指揮のお陰でした」
失態は全て自分の責任。そう言うようにしながら咲夜は護進を庇っていた。
「俺もそれは分かってるよ。映像で戦いを見ていたけど、指示だけじゃなく、彼女達が自分達で考えて動くよう指揮を執ってた。得てして突き放すような指揮は、ボクには難しくてね。それを、護進さんは気付いた上で実行してくれた。結果はともかく、内容ではまだまだボクは足元にも及ばないよ」
護進の姿が完全に見えなくなるまで見送り、司令室には夕と桐恵を含む四名が残されていた。
「戦闘は無事終了したようね。被害も最低最小限で済んだようで一先ず安心したわ。ここにいても出来ることは無さそうだし、私もとっととおさらばしようかしら」
通常ならこの場にはいない桐恵が、荷物を纏めて去ろうとすると、こちらにも大和が声を掛ける。
「佐々波 桐恵 副司令。緊急事態であったとはいえ、わざわざ根拠地にまでご足労いただきありがとうございました。副司令の計らいで、無事私は根拠地に到着し、ことなきを得ました。千葉根拠地司令官として、感謝申し上げます」
「うわキモ」
「え?」
「あやべ」
耳を疑うような切り返しをされ、大和は思わず聞き返すが、桐恵はパッと口を押さえ、改めて答える。
「こっちこそ、対応お疲れ様。いろいろ無茶な動きはしたけど、それで無事解決出来たのであれば満足よ」
こちらも桐恵の嘘偽りのない本音で、船の準備や積荷の移動の手続きなど、大和の無茶振りに応えた甲斐があったと感じていた。
「副司令、先程お帰りになられると仰っていましたが、船の燃料補給や整備がまだ終わっていません。やや無理をさせてしまったこともあり、一日は欲しいとの事でしたので、宜しければ本根拠地でお休みしていかれてはどうでしょう?」
大和の提案に桐恵はキョトンとするが、その内心に、大和から桐恵に対する休暇を与えようとしている意図に気がつく。
根拠地の、特に夕が居る手前、素性を明かさない大和が、あくまで千葉根拠地の司令官として提案している素振りを見せているのだろう。
桐恵はやれやれ、といった様子で息を吐くと、手持ちの端末をサッサっと操作し、誰かにメッセージを送る。
予めサイレントモードにしていた大和の端末にそのメッセージが届き、コッソリと確認する。
「それじゃお言葉に甘えて、『休暇を貰うわね』」
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『そう!無事に戦いは終わったのね!』
「はい、一応。でも、聞いたところだと一人怪我人が出ちゃったみたいです」
戦闘終了後、飛鳥は大和だけでなく護里にも同様の報告をしていたが、文書だけでは満足できなかったのか、その直後通信機に通知音が鳴り、その対応をしていた。
『そう…それは可哀想ね…けれど、その根拠地には彼とその彼が認めた子達がいるわ。必要以上に心配する必要はないでしょうね』
「はい!ボクもお兄ちゃんがいるなら大丈夫だと思います!!」
護里の言葉が大和への信頼を表しているのに対し、飛鳥のソレは完全にブラコンから発しているモノであるが、本来の趣旨には沿っているので、護里は特に触れなかった。
『それで、あなたの方はどうだったの?この間静流ちゃんの手伝いはして貰ったけど、実際の戦闘は久し振りだったでしょう?』
「う〜ん、やっぱりちょっと鈍ってるような感覚はありましたね。前なら考えついてたような動きを察せなくて、一回慌てちゃいましたし」
もちろん慌てたと言っても、ほんの僅かな動揺であり、実際先の戦闘においては、飛鳥にとっては問題なく対処できる程度のものであった。
それでも、そのほんの僅かな動揺が、万が一に繋がるケースもある。飛鳥が護里に伝えたいのはそのことであった。
『う〜んやっぱりそうよねぇ。ごめんなさいね…私ももう少し《貴方達》に戦闘の機会を上げたいんだけど…』
「大丈夫ですよ護里さん。ボクも他の『シュヴァリエ』も、前線で戦えない理由は理解してますから。だから、護里さんが謝らないでください」
『…貴方はまだ若いのに、ホントにしっかりしてるわね。ホントは貴方のような若者には、遠慮とか気配りとか、そういうことをしないで自由に生きてほしいのだけれど…あぁ、この時代が憎いわぁ〜』
護里は本当に今の時代を嫌っていた。いや、それ以上に戦い自体を嫌っていた。
自身が戦いに明け暮れてきたからこそ、それと同じ経験を他の、特に飛鳥達のような若者に味合わせることを、毎日のように悔やんでいたのだ。
『まぁ…起きてしまっていることをボヤいていても仕方ないわよね。それよりも飛鳥ちゃん。今回の敵については何か聞いてる?』
「いいえ、何も。ただ、お兄ちゃんから送られてきたメッセージの通り、最初は姿が見えなくて、後から突然現れる、っていうのは本当でした」
大和から受けていた内容をそのまま伝えると、通信機に映る護里は小さく頭を抱えていた。
『…また厄介な能力ねぇ。でも、擬態のような能力で搦め手を使って来たということは、もしかして《アイドス・キュエネ》かしら?』
「『アイドス・キュエネ』って…四体目の『悪厄災』の!?」
僅かな情報からそこに辿り着いた護里の発言内容に、飛鳥は流石に驚きの感情を隠せなかった。
『可能性の話だけどね。まぁそれはこの後咲夜ちゃんとかが報告書をあげてくれるでしょう。でも、もし、今回の相手が《アイドス・キュエネ》なのだとしたら…やっぱり運命なのかしらね』
「護進さんとの…ですか?」
護里は答えなかったが、その無言が肯定であることは飛鳥も気付いていた。
『飛鳥ちゃんもごめんなさいね。私の我儘で娘を連れてって貰っちゃって』
「ううん、ボクは全然大丈夫です。でも、お兄ちゃんが戻ってきて直ぐに指示を出してきたってことは…」
『…そうね、あの子、また負けたってことね』
護里にとっても苦く辛い思い出を思い出し、常に明るく優しい護里にしては珍しい、重苦しい沈黙が続いていた。
『前線でありながらも平穏があって、苦難を乗り越えてきたその根拠地なら、あの子も何かを掴めると…何かを取り戻せると思って送り届けたのだけれど…私はまた間違えたのね…結局、あの子を傷付けることをしてしまったわ…』
護里と護進の親子関係に関しては、直属の部下である飛鳥も迂闊に口に出すことは出来ないほどシビアな内容であった。
しかし、この時、飛鳥の口には笑みが浮かんでいた。
「…今回の戦いが、結果としてどう働いたかはボクには分からないですけど…」
なぜなら、いま飛鳥の視線の先では、ギラついた闘志を瞳に宿した護進が移動する姿が映っていたからだ。
「きっと、護進さんが失ったものを取り戻すきっかけにはなったと思いますよ」
『…』
目には見えずとも、飛鳥の言葉の意図をうっすらと察した護里は、安堵とどこか嬉しそうな息を一つこぼした。
『そう…根拠地の子達と、そして大和君、咲夜ちゃんはやってくれたのね…』
護里は大きく深呼吸を一つすると、いつもの明るい調子を取り戻し、こう発言した。
『なら、その恩は直ぐに返さないといけないわね。彼から頼まれたお願い事、しっかり果たすわ』
※筆者の後書きというか、負の心の置き場です
ども、琥珀です。
「ミスは誰にでも起こるモノ。反省はしてもいつまでも深く気にしすぎたらいけない。」
先日ミスをしてしまいましたが、上司の方からこのような励ましのお言葉をいただきました。
必要以上に気落ちせずに済んだのは、この言葉と同僚に恵まれたからでしょう。
しかし、私の職場は時に一つのミスが大事故を起こす可能性もあります…二度とないよう、気を引き締める日々です…