第107星:氷牢の戦い
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。現在、現場を離れている大和に代わり、根拠地の指揮を執っている。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と少しずつ交友を深めていたが…?
早乙女 護進(28)
派遣交流の監査役として千葉根拠地にやってきた(というか連行)非戦闘員・専門指揮官。『軍』最高司令官である早乙女 護里の息女であるが、品行は非常に悪い。大和の戦術の師であるが、過去に重いトラウマを抱えており…?
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23) 四等星
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。
久留 華 (22)四等星
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。
曲山 奏(20)四等星
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。
【三咲小隊】
椎名 紬 22歳 四等星
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。
八条 凛 16歳 四等星
自信家で勝気な性格だが、実際は素直で純粋な性格。
大刀祢 タチ 17歳 四等星
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。
「おいお前ら。こっちからだと状況が把握出来たねぇ。そっちから何か見えるか?」
モニターに映るのは巨大な氷の球体のみであり、内部の状況までは把握できていなかった。
『こちら樹神 三咲。残念ながら我々からも内部の状況は分かりません。かなり分厚い氷壁のようです』
「…そうか。視えないメナスからの攻撃はどうだ?」
『先程一回だけありましたが、予め警戒していたタチの【残志彷徨う不朽の刃】により被害はありません』
三咲の返答内容は想定内のものであり、護進はそれを気にすることはなかった。
護進が気になっているのはそこではなく、 別の二点。
「朝陽さんの容体は?」
『傷は開きかけていますが、早めに戦闘をやめたのもあり大事には至ってはいません』
そのうちの一つを咲夜が確認。一先ず問題ないことを把握し安堵する。
『すいません、指揮官。信頼を裏切るようなマネをしてしまい…』
朝陽の声は暗く、モニターからでも分かるほどに意気消沈していた。
「構いません」
が、しかし、咲夜の返答は朝陽が思っていたものとは異なる内容であった。
「あの時、確かに私は貴方の言葉を尊重しました。しかしそれは、私が貴方の答えを是と判断したからです。貴方から聞いた言葉は、私は今も虚偽であったとは思いません」
『…指揮…官』
咲夜は朝陽を咎めようなどとは一切考えていなかった。
寧ろ、この状況を作り出してしまった自分に非があると考えていた。
「ですが、貴方にはまだやれることがあるはずです。一度前線へ出る覚悟を決めたのなら、その使命を全うなさい」
『…!はい!!』
そこに先程までの面影はなく、朝陽の瞳には再び炎が灯っていた。
「…大和もそうだが、お前らの言葉には人の心を昂らせる力があるよな」
「…?そうでしょうか?」
「そうなんだよ。それはきっと、前線で戦うことのない私には得られない力だ。それはお前の強さでもある。大事にしろよ」
「…はい」
自分の一部が認められ、咲夜の頬は僅かに緩んでいた。
「さて…問題はこの状況だな。あの氷の壁を突破するか、様子を見るか…お前はどう判断する咲夜」
咲夜の考えを敢えて尋ね、状況判断能力を見極めようとする護進。
当然、咲夜もそれに気付いていたが、ここでは答えに迷いは無かった。
「万全の用意をしつつ、ここは待機すべきかと思います」
「その理由は?」
「通常通り攻めているのであれば、我々の指示でタチさんを加勢に向かわせるべきですが、彼女はそれを自ら拒絶するかのように氷壁を作り出しました。即ち援護は不要かと」
咲夜の答えは護進の一定の水準を超えていたのだろう、護進は頷いた。
「確かにその通りだが、氷の壁を作ったのは苦肉の策という可能性もあるぞ?」
「それにして動きに迷いがありませんでした。前に出た時は意図が掴めず動揺してしまいましたが、護進さんの指摘を受けてから考えを改め、何か作戦があって氷壁を作ったのだと考えられます」
続けられた問いにもしっかりと答え、護進は今度こそ満足そうに頷いた。
「聞こえてたなお前ら。今は手出し無用だ。だが動きがあれば直ぐにサポートできる準備は整えておけ」
『『『了解!!』』』
「貴方もです、朝陽さん。身体は動かせないかもしれませんが、まだ『グリット』は発動できるはずです。貴方の力ならばその場から動かずともサポートは出来るはず。出来ることを精一杯こなしなさい」
『はい!!』
護進、そして咲夜の言葉に、彼女達は全員が力強く応えた。
●●●
一言で言えば、『圧巻』であった。
10体以上のメナスを相手にしながら、ヴィルヴァーラは一歩も引かずに戦っており、その姿は朝陽にも劣らない戦闘ぶりであった。
それを支えているのは、苦しくも一人で戦い続けて来た経験則であった。
「『氷結氷柱』!!」
【ーーーガァア゛!!】
更に、新技である『氷結氷牢』も優位に立つのに大きく役立っていた。
周りに出来た氷壁のドームにより、内部の気温は大幅に低下。
それにより、ヴィルヴァーラの本来の使用強度で事足りる冷気で『グリット』を操ることが可能となっていた。
更に、氷壁に接する面から氷結を行うことで、通常より早く氷を生成することが可能となり、『氷結氷柱』のような技もより素早く繰り出すことが可能となっている。
ロシアの地に近い環境となることで神経もより研ぎ澄まされ、動きもより鋭利なものとされていた。
「(あぁ、最早懐かしいとさえ感じるこの感覚…けれど、これが私なんだとも実感する…)」
残された『エナジー』も少ない状況下でありながら、動きはより活性化していく。
メナスの触手を物ともせず凍らせ、レーザーは全て『偏光反射鏡』で跳ね返していた。
しかし、相手は元の身体能力で上回るメナス。
最初こそヴィルヴァーラの威圧感に押され萎縮していたものの、次第にそれにも慣れ、反撃に転じ始めていた。
「…ッ!!」
それまでかわしきれていた攻撃が徐々にヴィルヴァーラを捉え始め、少しずつではあるが小さな傷を負わせ始めていた。
致命傷には至らない傷であるとはいえ、それはヴィルヴァーラの動きを鈍らせつつあった。
「フッ…フッ…フッ」
全身に走る痛みにより乱れる呼吸を必死に整える。
「(もう少し…あと少しで条件は整うはず…)」
額を拭うと、そこには汗だけでなく血も混じっていた。気付かないうちに攻撃を掠めていたのだろう。
まぶたの近くを切ったのだろう。拭い続けても出血は止まらず、ヴィルヴァーラの視界を遮っていた。
「(ちっ…鬱陶しい…一瞬も気を抜かないこの局面で…)」
ヴィルヴァーラの状況を他所に、メナスは再び猛攻をしかけてくる。
「…!!ちぃっ!!」
ヴィルヴァーラの予想通り、視界を遮られた状況では劣勢を強いられ、再び攻勢が逆転し出していた。
「(攻撃に…回らないと…!!けれど一撃でも貰えば完全に敗北する…!!致命傷だけは何としても避けなければ…)」
肉体攻撃、触手攻撃に加え、離れた位置からはレーザー光線。
『偏光反射鏡』などの戦闘補具を駆使し、猛攻をどうにか凌ぎ切るものの、劣勢なのは明白であった。
跳ね返されたレーザーはヴィルヴァーラの作った氷のドームを少しずつ溶かし、密閉空間を少しずつ広げていっていた。
「(…もうだいぶ整っている。あと少ししたら最後のしかけを…)」
ヴィルヴァーラの意識が僅かにそれた隙をつき、メナスが急接近し攻撃を仕掛ける。
「ッ!!」
ヴィルヴァーラは全身を限界まで捻り、それを回避する。
「プッ!!」
【ーーーッアア゛!?】
それだけに留まらず、口元から赤いツララを吐き出し、反撃に転じる。
「アッハハ。さっきから口の中に血が溜まってて鬱陶しくてね。めんどくさいから吐き出してツララにしてやったわ。日本でいう、文字通り、出血大サービスよ」
血を凍らせて作ったツララは、メナスに大したダメージを与えることは無かったが、十分牽制の役割を果たしていた。
「…ケホッ、ケホッ!」
気付けば辺りには、視界を奪うほどの霧がかかっていた。
密閉された空間の内側の氷が溶けたことで、内部に水蒸気が溜まっていた。
それはヴィルヴァーラの呼吸を阻害していたが、呼吸を必要としないメナスには何の被害も及ぼしていなかった。
メナスを追い詰めるはずの氷壁が、寧ろ自分の首を絞めることに繋がっているにも関わらず、ヴィルヴァーラの顔には寧ろ笑みが浮かんでいた。
「…ッ!?」
その、意識を一瞬緩めた瞬間、ヴィルヴァーラは触手に全身を巻きつけられていた。
「し、しまった…霧の視界の悪さを利用されたわ…!」
気付けば周りにはドームの中にいたメナスが集まっていた。
その顔は、心なしか笑みを浮かべているようであった。
「…何を笑っているのかしら?まさか勝利を確信したつもり?このくらいの触手なら私の『グリット』…でぇ…!!」
その目論見すら見破っていたのか、メナスの触手は締め付けを更にキツくし、ヴィルヴァーラに『グリット』を発動させる隙すら与えなかった。
「グッ…ガハッ!!」
触手の締め付けに全身が悲鳴を上げ、僅かに吸える息も、水蒸気のせいで満足に吸い込まない。
少しずつ薄れていく意識の中で、ヴィルヴァーラはメナスが一斉にレーザーを放とうとしていることに気がつく。
「なる…ほど?確実、に私を消滅させるため…に、一斉に放とう…というわけね?」
絶対絶望な状況のなかでヴィルヴァーラは、尚も笑っていた。
巻きつかれた腕を何とか顔まで上げ、指を2本たてる。
「貴方達に二つ…教えてあげるわ…一つ…」
その言葉を聞き終える前にメナス達はレーザーを発射。しかし…
【ーーー…アア゛!?】
真っ直ぐ、ヴィルヴァーラ目掛けて放ったはずのレーザーは、何故か直線を描かず的外れな方向へと飛んでいった。
「霧とかが、出来ている…とね、光ってのは真っ直ぐ進まない…のよ。色んな方向に…散るから、ね。覚えておきなさい」
ヴィルヴァーラは指を一つ折り、もう一つの指を見せるようにして続ける。
「そしてもう一つ…水蒸気みたいな細かい気体に、高熱の物質をぶつけないほうが良いわよ?」
ヴィルヴァーラは指を自身の顔にまで近付けると、ニコリ…と妖艶な笑みを浮かべた。
「大爆発が起きるからね」
次の瞬間、メナス達の放ったレーザーを中心に、眩い閃光が迸りーーーーー
※ネガネガ……
ども、琥珀です
最近明るい話題がありません…
新型ウイルス然りですが、仕事の方も実は辛い話題しかありません。
時間がなく忙しいのは事実ですが、それは他の作者さまも同じこと…
ハッキリ言ってしまえば、私の意欲が大幅に低下しています…
なんとか週2はキープしたい…その僅かな灯火を絶やさず、頑張ってまいります…