第106星:前進
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。現在、現場を離れている大和に代わり、根拠地の指揮を執っている。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と少しずつ交友を深めていたが…?
早乙女 護進(28)
派遣交流の監査役として千葉根拠地にやってきた(というか連行)非戦闘員・専門指揮官。『軍』最高司令官である早乙女 護里の息女であるが、品行は非常に悪い。大和の戦術の師であるが、過去に重いトラウマを抱えており…?
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23) 四等星
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。
久留 華 (22)四等星
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。
曲山 奏(20)四等星
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。
【三咲小隊】
椎名 紬 22歳 四等星
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。
八条 凛 16歳 四等星
自信家で勝気な性格だが、実際は素直で純粋な性格。
大刀祢 タチ 17歳 四等星
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。
「…!?前線組、ヴィルヴァーラさんが前に出ます!!」
「なんですって!?」
夕の報告を受け、思いもよらないヴィルヴァーラの動きに、咲夜が驚きの声を上げる。
「なぜ今の陣形を崩すようなマネを…」
「…おいチビ。斑鳩 朝陽のバイタルをモニターに出せ」
「は、はい!!あと私は新島 夕です!!」
律儀に訂正を入れながら、夕は腕に備え付けられたアームの機能の一つであるバイタルチェックを作動させ、朝陽の身体状況を表示させる。
「あん?どっか痛めてんのか?」
「これは…まさか前回の戦闘の傷が…」
出撃前に確認した懸念が押し出され、咲夜はまたも自分の行いが裏目に出てしまったことを悔やむ。
「成る程、それを補うためにツンドラロシアッ娘が代わりに前に出た…と。なかなか素早い判断力だな」
「ですが…朝陽さんと彼女では『グリット』の能力が違いすぎます。とても代わりが務まるとは…」
「バカタレ。ロシアッ娘もそれは分かってる。だからアイツは前に出てるんだ」
「…え?それはどういう…」
咲夜の疑問に、護進は黙って見ていろと言うかのようにモニターを見つめていた。
●●●
「『永久凍土』」
距離を詰めるや否や、ヴィルヴァーラは『グリット』を発動。凍結よりも距離を取らせるために、広範囲に冷気を放つ。
その目論見通り、メナス達は一度距離を取り離れていく。
「ヴィルヴァーラさん!?何故ここまで前へ!?」
これに驚くタチに対し、ヴィルヴァーラは顔を近付けソッと耳打ちする。
「アサヒの傷口が開いてケガをしているわ。さっきまでのサポートはもうない」
「なっ…」
タチは驚きの表情を浮かべそうになるが、ヴィルヴァーラはそれを手で制する。
「静かに。メナスにそこまでの知性があるかは分からないけれど、アサヒの援護がないことを気取られでもしたら、ますます不利になるわ」
「それは、確かに…しかし、ではどうするんです?」
状況を理解したタチは冷静さを取り戻し、ヴィルヴァーラの考えを聞く姿勢をとる。
「私とアナタで協力して戦闘をしたいのは山々だけれど、他のメンバーの『グリット』と比べても、特にアナタの『グリット』とは合わせ辛い」
「そうですね。私の『彷徨う不朽の刃』は不可視の刃。長い付き合いのメンバーでも無ければ合わせるのは至難かと…」
そこまで話すと、ヴィルヴァーラはタチの肩に手を置く。
「そうなると、二人で戦うのは寧ろ不利。だから、私が前線で一人で戦うわ」
「なっ!?何を言っているんですか!?メナスは10体以上はいるんですよ!?それを一人でなんて…」
のせられた手を払い除け、タチはヴィルヴァーラの意見に反対する。
「私の『グリット』は複数体を相手にするのに向いている。この状況には適しているわ」
「そ、それなら私の『グリット』だってそうです!!不可視の刃を止まらせれば複数体も相手に…」
「アナタの『グリット』は既に見切られつつあるわ」
「ッ!!それは…」
それは、タチ自身が痛感していた事実であった。
朝陽の援護もあり、距離を満足に取ることが出来ずにいたからこそ、タチの接近戦は効果を発揮していた。
しかし、援護が望めなくなった今、タチ一人が前線に残って戦おうとしても、ただ距離を取られて追い詰められるだけだろう。
「貴方の『グリット』なら、姿の見えないメナスの攻撃にも、後手から対処して朝陽を守ることができる。それに、私の『グリット』なら前線でももう少し広範囲に戦える。いまこの状況下では、それが最も適しているのよ、タチ」
「でも…一人で戦わせるなんて…そんなっ…」
尚も悔しそうに歯噛みしながら躊躇うタチに、ヴィルヴァーラは再び柔和な笑みを浮かべる。
「大丈夫よタチ。アナタには仲間を守る役目が残ってる。それに…」
ヴィルヴァーラはタチに背を向け、どこか悲しげな雰囲気を醸し出して呟いた。
「…私はずっと一人で戦ってきたから…慣れてるわ、こういうの」
「〜ッ!ヴィルヴァーラさ…!!」
タチの言葉は最後まで紡がれることなく、ヴィルヴァーラはメナスの方へと向かっていった。
「さぁ、私と遊びましょうか、иллюзия」
言葉が通じた訳ではないだろう。しかし、それを皮切りに、メナス達は一斉に攻め出す。
メナスが攻撃に移る前に仕掛けたのはヴィルヴァーラの方であった。
「(ここに来てから、『グリット』の扱い方に関する考え方が変わった。今まで漠然と凍らせる事ばかりに使っていた冷気を応用して…)」
ヴィルヴァーラは『永久凍土』を発動。但しこれまでとは違い冷気を放つのではなく、自身の周囲に冷気を集約させていた。
「くらいなさい!!『氷結氷柱』!!」
冷気により作り出されたのは巨大な無数の『氷柱』。その無数の氷柱が一斉に放たれ、メナス達に襲いかかる。
【ーーーァ゛ア゛!!】
当然メナス達も回避行動に移るが、その質量に押され複数体に直撃する。
しかし、氷柱の攻撃を掻い潜ってきた残りの半数近くのメナスが再びヴィルヴァーラに襲いかかる。
「『氷結』!!」
その僅かな隙間を抜けてきたメナスの動きを読み切り、ヴィルヴァーラは得意の氷結能力を発動させる。
氷柱の攻撃に敢えて抜け道を作る事で、次の攻撃の布石を作っていた。
【ーーーァ゛ッギィ゛!?】
これにメナス達は流石の身体能力で減速し、凍結を最低限に留めるものの、前に出ていた一体のメナスの半身は凍りついていた。
「せいっ!!」
動きが鈍った隙を逃さず、ヴィルヴァーラは凍りついたメナスを思い切り蹴り飛ばす。
【ーーーガ…ア゛…】
半身が粉々に砕け散ったメナスは、そのまま黒い塵となり、消え去っていく。
「ふぅ…まずは一体…」
先程とは打って変わった攻撃な的な動きに怯んだのか、メナス達の動きが鈍る。
近寄るのは危険だと判断したのか、近づいて来たメナス達は距離を取ろうとする。
「おっと、離れての戦闘は得意じゃないのよ。だから悪いけどこのまま私と遊びましょう」
ヴィルヴァーラは再び『永久凍土』を発動。その規模は先程までとは非ではなく、大気中の水分をも凍らせる冷気を放っていた。
冷気はヴィルヴァーラを中心に放たれ、やがて宙に小さなドームを作り上げるまでに至り、気付けばメナス達は作り出されたドームの中に閉じ込められていた。
「『氷結氷牢』」
メナスを封じ込めるほどの冷気を発したヴィルヴァーラは、薄く息を荒げ、額からは少量の汗を滴らせていた。
「(こんなに一気に冷気を発したのは初めてだから…流石に疲れるわね。けれど、バラバラに散られて戦われたら勝ち目は無かった。こうして抑えられるうちに抑えられたのは僥倖ね)」
【ーーーア゛ア゛!!】
思考する間も殆どなく、メナスはレーザーを放ってくる。ヴィルヴァーラはこれを『耐熱反射鏡』で防ぐ。
「(ほんと…便利ねこれ。戦力もだけれど科学的にも日本は一歩先をいっているわ。正面から受けてもまだ無事だものね)」
改めて日本の戦闘補具を称賛しつつ、ヴィルヴァーラはここからの動きを頭で反芻させていく。
「(この数にメナスの質…それに私の残った『エナジー』量を考えると長期戦は不利。出来うる限り迅速に仕留めなくてはいけない)」
ヴィルヴァーラはチラリと周囲の氷壁を見る。
「(幸いにして私の得意分野に封じ込めることには成功した。あとはこのメリットを活かすだけ)」
次いでヴィルヴァーラは出発前に手渡されたパックを弄る。
「(慣れない道具を渡されても困るだけだと思っていたけど、ここにきて渡してくれたことに感謝しないといけないわね。この戦闘補具を使って、勝利を手繰り寄せる)」
パックから手を離すと、次いでヴィルヴァーラは大きく息を吸って吐く深呼吸をし、震える手を鎮めようと試みた。
「(戦闘前に緊張するのは、いつぶりかしらね…それでも、アサヒ達の戦いを見ていたら怖くなってしまったのよ…死ぬということが)」
ギュッと力強く手を握りしめ、ヴィルヴァーラは力強い眼差しをメナス達に向ける。
「さぁいくわよ。私は…私達は必ず生き残ってみせる!!」
※実は…
ども、琥珀です!
すいません、私の怪我は治ったのですが、実は職場の方が大変なことになってます。
あ、私がではありません。職場全体が、という意味です。
なので今はまだ執筆を続けられていますが、場合によっては再度休止…最悪は連載終了もあり得る現状です…
そんな結末にはならないよう、私にできる努力は続けて参ります…