第十星:再来
国舘 大和(24)
朝陽が出会ったぶつかった青年。纏っている服装から『軍』の将校であると思われるが正体は不明。優しい笑みを浮かべるなど心優しそうな青年。しかしてその正体は…
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めているが、開花に至っておらず、現在は指揮官の報告官を務めている。戦えないことに引け目を感じている。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。根拠地にいる『グリッター』を束ねる部隊の隊長。責任感が強く、仲間たちから信頼されているが、妹の朝陽が絡むとポンコツ化する。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。夜宵の率いる『輝く戦士グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。
塚間義一(35)
千葉根拠地における指揮官で階級は少佐。『グリッター』に対する差別意識が強く、彼女達を平気や道具のように思い扱っている。
朝陽は一体のメナスと高速戦闘を行っていた。
『グリッター』の力に目覚めていない朝陽は、通常なら見失いかねないメナスの高速移動を、目元に付けられた戦闘補具による予測機能を駆使することで対処していた。
「(でもギリギリ過ぎる!!一瞬でも判断が遅れればやられる!!)」
バトル・マシナリーは『グリット』の力の無いものを、戦闘可能にするものであって、互角の戦いを繰り広げられるためのものではない。
また、必要な情報処理をCPUが肩代わりしているためにオーバーヒートの懸念もある。長時間の戦闘は向いていない。
加えてその総重量を考えれば、使用者当人の体力も持たないだろう。
まさに、このバトル・マシナリーは諸刃の剣なのである。
「それでも、私は戦える!!私だってメナスを倒せるんだ!!」
朝陽はメナスの攻撃を敢えてギリギリまで引きつけ、スレスレで躱す。
少しでも最短距離且つ最短時間で懐に入るためだ。この動きは日頃から鍛錬を積んでいた賜物だろう。
「そ…こだあぁあぁああ!!」
その最小モーションの動きから作り出したメナスの僅かな隙を朝陽は的確に突いた。
しかし僅かにタイミングが合わなかったのか、トリガーを引く前に『メナス』は後退した。
「くっ…!」
千載一遇のチャンスを逃した朝陽は、悔しながらも集中し直す。
粘り強く戦っていれば、必ずもう一度チャンスは作り出せると信じて、強く機槍を握りしめる。
しかし、持久戦が朝陽にとって不利なのは明確だ。
慣れない武器に装備、そして一瞬のミスが命取りである戦い中で、朝陽はかなりのハイペースで体力と精神力を削っていた。
初の実戦にしては、朝陽の戦いは上々な動きだと言える。
多くの人が初の戦闘では足が竦むが、朝陽は恐れずに立ち向かえているからだ。
しかし、それは初の実戦であるから、とも言える。勝ち癖をつけて、僅かでも集中力を切らせば、待っているのは一瞬の死だ。
今現在、朝陽が集中力を切らしていることはないが、常に極限の集中力を保たなくてはならないことに神経を削っていた。
それでも朝陽は再び槍を構え、間合いとタイミングを図る。切り込み過ぎても引き過ぎても不利なのは朝陽だ。
メナスの数はまだ30近くおり、一体に全ての体力を使い過ぎては戦い抜けない。
少し、また少しと距離を詰め…
【────ゥ ア゛ア゛!!】
そこへメナスによる不意打ちのレーザー。
朝陽との戦闘を警戒し、少しでも自身の負うリスクを減らすため遠距離からの攻撃を選択したのだ。
知性より本能に身を任せた攻撃だろう。そしてその判断は合っていた。
如何に交戦中に攻撃を当てるかに意識を割いていた朝陽は、思わぬ反撃に対し僅かに出遅れる。
「ゲ、【耐熱反射鏡】展開!!」
予め機槍に装着していた【耐熱反射鏡】を展開することで、間一髪レーザーを防ぐことに成功すが、咄嗟の対応で衝撃を殺し切れず、バランスを崩して海に倒れこんでしまう。
「くっ!!は、早く立て直さないと!!」
しかし、慌てれば慌てるほど体勢は崩れていく。
加えてここは海の上、ホバーにより海に浮いていたため、通常より体勢を立て直すのは遥かに難しかった。
漸く元の姿勢に戻った朝陽。
しかし、既に目の前ではメナスが攻撃態勢に入っていた。
真っ白な髪を伸ばして操り、朝陽の動きを拘束しようとする。
「ジェ、ジェットオン!!」
次の瞬間、ホバーとは別につけられた戦闘補具機能を発動し、瞬間的に加速。
メナスの攻撃を紙一重で躱し、距離を取ることに成功した朝陽だったが、その頰からは血が垂れていた。
「(あぶ…なかった…もし、もう少し体勢を立て直すのが遅かったら…ジェットを使うのを少しでも躊躇っていたら…死んで…)」
血を見た瞬間、朝陽の全身に悪寒が走る。
先程まで興奮によるアドレナリンで意識していなかった明確な【死】を、実感してしまったのだ。
額には大量の汗が滴り、息は上がり、手足は恐怖のあまり震え出していた。
「し、しっかりしてよ私。ここで戦えることを証明しなきゃ、私は足手まといのままなんだよ!!」
自分の言葉で自分に発破をかけ、心を奮い立たせる朝陽。
その効果もあってか、先程よりは手足の震えは収まっていたが、それでも先程までと同様とまではいかない。
呼吸は乱れ、手足も恐怖から力が十分に入らない。
槍も先程までよりさらに重く感じ、構えるだけでその矛先は震えていた。
「(大丈夫、大丈夫…さっきはやれたんだ…さっきだって、一体倒せたんだ!!今度だって…今度だって!!)」
加えて、【死】を実感したことで冷静さを欠いていた。
もし、先程までの朝陽であったのなら、バイザーゴーグルが出していた警戒音を見逃すことなど無かっただろう。
しかし、その表示にも音にも気が付かず、朝陽は前へと飛び出した。
槍を思い切りよく目の前のメナスに突き出したその瞬間────
「朝陽っ!!」
「…えっ?」
朝陽のすぐ真横から放たれたレーザーから、朝陽を庇うようにして覆いかぶさってきた夜宵の姿がそこにあった。
●●●
朝陽がメナスに突撃した直後。夜宵は通信機が受信した通信に応答していた。
『戦況はどうなっている。一度も報告がないとはどういうことだ?』
指揮官の儀一だ。
戦闘開始後、一度も連絡を入れていないため確認をしに来たのだろう。
連絡を入れなかったのは夜宵のミスとは言え、本音を言えば「こんな時に…!!」といった悪感情であった。
しかしそれを表に出すわけにはいかない。
報告を簡潔に済ませいち早く朝陽の元に駆け付けるため、夜宵は急いで通信に応答する。
「ご報告が遅くなり申し訳ございません。現在斑鳩隊は30を超えるメナスと交戦中。不意を突かれる形で陣形を崩されてしまい、現状不利な状況になっています。遺憾ではありますが、一度撤退を……」
『バカか貴様は!!』
突然の大声による怒号に、思わず夜宵は顔を顰める。
『そもそもそのメナス共はお前らが取り逃がした個体から分裂したものだろうが!!ここで逃げ出せばまた増える!!それも30体の個体それぞれからだ!!それこそ今度は100を超えて来るんだぞ!?』
「しかし指揮官!!このままでは我々の中から死亡者が出てしまいます!!それでは……」
『だからどうした!!お前らはただの兵器だろうが!!だったのその命費やして一体でもメナスを殲滅してこい!!』
その非人道的な発言に、流石の『グリッター』達も顔を顰める。
しかし、一世紀にも及ぶ差別社会にならされてきた彼女たちは、反論することが出来ない。
『いいか!?今の時代、お前らの代わりなんていくらでもいるんだ!!お前らが一人や二人死のうが何だろうが、いくらでも補給できる。だがメナスは放っておけばその補給以上に増えていくんだ!!』
悔しさ、怒り、悲しみ、様々な感情が夜宵達の心の中で渦巻く。
しかし、何も言い返せない。
慣らされてきた差別意識から、それが正しいとさえ思ってしまう。
『分かったか!?分かったのならとっととメナス共と玉砕なりなんなり……』
『いいや、それは違うぞ、塚間 義一少佐』
「「「っ!?」」」
突如として割り込んでくる声。
義一の野太い声とは違い、僅かに感じる幼さと体を包み込むような優しさ。
そしてそれ以上に一直線に心へ届く凛とした青年の声だった。
※ここからは筆者の後書きです!!興味の無い方は読み飛ばして下さい!!
ども、琥珀です!!
【Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―】の第十星をお読み下さりありがとうございます!!
いやぁもう十話ですか…書くのに時間かかるのに投稿はあっという間ですな。ストック無くなったらどうなるんだ…
はい、こうなります…以前からどこかしらでお伝えしてありますが、十話まで投稿しましたので、ここからは週三回の更新に切り替わります。私も連日投稿をしたいのですが、リアルの都合でそれは厳しいと予め予測し、このように決断いたしました…
今後は月・水・金を基本として更新していきたいと思います。状況によっては変更もあり得ますが、その際はTwitterや活動報告、本編後書きなどにてご報告させていただきますのよろしくお願いいたします。
次回の更新は金曜日、つまりは明日になります笑
それでは、本日もお読み下さりありがとうございました!!