第98星:受け売り
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。現在、現場を離れている大和に代わり、根拠地の指揮を執っている。
新島 夕(10)
大和と咲夜をサポートする報告官を務める。『グリッター』としてこ能力を秘めているが未だに開花には至らず。それでも、自分にできることを精一杯こなす純真無垢な少女。10歳とは思えない礼儀正さを兼ね備える。
早乙女 護進(28)
派遣交流の監査役として千葉根拠地にやってきた(というか連行)非戦闘員・専門指揮官。『軍』最高司令官である早乙女 護里の息女であるが、品行は非常に悪い。大和の戦術の師であるが、過去に重いトラウマを抱えており…?
「偏光鏡展開!!敵の姿が見えないのは、屈折を利用したステルスによるものです。光を曲げて擬態を強制解除させます」
咲耶が夕に命令を送り、夕は内容通りの指示を通信にて飛ばす。
それを受け取った根拠地の非戦闘員が即座に動き、一斉に偏光鏡を展開させていく。
それにより、光は屈折し、それまで姿の見えなかったメナス達が次々と数を現していく。
「メナス視認確認!数15です!!」
「分かりました。朝陽並びに三咲小隊にも通達を。目視次第交戦開始の指示も併せてお願いします」
夕が各小隊に指令内容を伝える中、護進はどこか可笑しそうな笑みを浮かべていた。
「懐かしいな、偏光鏡か」
「え?護進司令官代理はこちらをご存知なのですか?」
夕が声に出して驚くと、護進はどこか不機嫌そうな表情を浮かべた。
「…その司令官代理ってのはやめろ。何だか呼ばれて気分が良くねぇ。護進って呼べ」
夕の呼び方に不満な様子を一切隠さず返すと、夕は「あぅ…」と萎縮してしまう。
その様子に「ちっ…」と居心地が悪そうに舌打ちをすると、護進は再びモニターに目を向ける。
「ご存知も何も、『アイドス・キュエネ』討伐戦で、その『アイドス・キュエネ』の術を破るためにこの偏光鏡の開発を依頼したのは私だ」
「…えっ!?」
続けて発せられた護進の言葉に、夕は声を上げてしまう。
「で、でも、『偏光鏡』は、無数のメナスを相手に初めて実戦で使用されたものだって教えられてきましたが…」
「はっ!!『悪厄災』の存在を隠すために、子どもの教育にまで捏造をしてんのか…いや、寧ろ子どもだからこそ、そういう風に教育してんのか」
心底上層部を馬鹿にしたような口調と、同時にどこか悲しみを感じさせる表情を、護進は浮かべていた。
「まぁ全部が間違いじゃねぇ。『偏光鏡』は、『アイドス・キュエネ』が扱う魔法を破るために創ったものだが、対象は、その魔法の恩恵を受けている下っ端共だったからな」
「あ…そ、それが無数のメナスということですね」
夕の言葉に護進は小さく頷く。次いで護進は、咲夜の方を見る。護進は、どこか不満気な表情を浮かべていた。
「咲夜、奴の手を暴き対抗するために『偏光鏡』を使うのは良い」
護進は「だが…」と続ける。
「お前、これも大和の受け売りの戦術だな?」
「…はい。以前、大和が同様の侵攻を受けた際に扱った戦術です」
はぁ、と、護進は一切不満げな様子を隠すことなくため息をこぼした。
「お前は本当に良くも悪くも実戦向きだな。効率性を重視するというか、質実剛健なタイプだ」
「あの…咲夜さんの作戦に何か問題が?」
咲夜の対応は迅速で、ここまで特に問題はないと感じていた夕が、護進に尋ねる。
護進は頭をガシガシと乱暴に掻くと、ゆっくりと不満点を話し出した。
「あぁあるね、大有りだ。咲夜、何故お前はこのタイミングで『偏光鏡』を使用した。この作戦が有効であると知っていたのであればもっと有効的な使うタイミングがあったんじゃないのか?」
「…と、申しますと?」
「私なら敵をもっと引き付けたタイミングで使う。こちらの準備が整った段階で『偏光鏡』を起動。突然姿が見えるようになり、かつ奇襲をかけている側だと思い込んでいた野郎共が動揺している間に攻撃を仕掛けられる」
護進は「それからもう一つ」と言って指を立てる。
「咲夜。お前は私がこの『偏光鏡』を10年前に扱ってたことを知っているよな?」
「えぇ、もちろんです」
「メナス共が『知性』を身に付けつつあることも知ってるよな?」
「もちろんです」
キッ!と、護進は厳しい眼差しを咲夜に向けた。
「バカヤロォ…そこまで知っていながら、何で全く同じ手を使った。知性を身に付けたメナスが、破られる事を前提で動いているという考えには至らなかったのか?」
「ッ!!それ…は…」
護進に告げられる事で、咲夜は自分の考えの甘さを突きつけられていた。
返す言葉も無いほどの正論。咲夜は惰性的に大和の執った作戦を模倣したのだ。
「そもそも今回の状況と大和が指揮を執った時の状況は本当に同じだったのか?前回も有効な戦術だと分かった上で大和は同じ行動を取ったのか?」
「…いえ、前回は擬態の正体も分からない段階での行動で…」
「だろうよ」
咲夜の言葉を、護進はバッサリと断ち切る。一切の甘えもない、冷たい切り返しであった。
「自慢するわけじゃねぇが、アイツは唯一私の戦術についてこれた男だ。大和が指揮を執った時は最善の選択だったろうが、今お前が執った戦術は最悪だ。なんせ、味方を優位に立たせるカードをむざむざ一枚捨てたんだからな」
護進は次々と罵倒ともとれる言葉を咲夜に浴びせ続ける。
「お前はいま指揮官だ。なら現状に留まるような指揮を執るんじゃねぇ。先を見据え、最善を考え、味方を活かす指揮を執れ。お前は大和じゃねぇんだからよ」
「…仰る…通りです」
ここまで咲夜が言い負かされる姿を、夕は初めて見た。いや、恐らくそんな姿を見る人の方が少ないだろう。
はじめは一方的な言い草だと思っていた夕だったが、護進の話を聞くうちに、自身もその発言の正しさに気付かされていた。
「(この人…本当に凄い人だったんだ…)」
口は悪いが、言っていることは正論で的確。
大和とは違うものの、夕は護進のことを信頼できる司令官であると認識し始めていた。
「いいか、前線で戦わないからこそ、指示を出す司令官、指揮官は常に正しく的確な指揮を求められる。一手の間違いが仲間の命を奪いかねないからだ」
「…はい」
「お前は大和を意識するあまり、自分らしい判断力をむざむざ捨ててる。だから要所の判断を間違えるんだ」
「はい」
「戦術は多様であって一様。的確な戦術はあっても絶対な戦術は無い。だから私らは知恵と感覚をフルに発揮して戦術を組み立てていかなきゃいけねぇんだ」
「はい!」
護進の言葉は一見一方的な意見をぶつけているように聞こえるが、その一方で相手に奮起を訴えていた。
的確なアドバイスをもとに咲夜の心に発破をかけ、昂らせていた。
現に、先程まで俯いていた咲夜の顔は上がり、沈んでいた表情は力強く前を向いていた。
護進もそれに気付いたのだろう。心無しかその表情は微笑んでいるようであった。
「お前は大和の戦術しか見ず、学んでこなかった。そこで偏りが生まれる。だから私がお前に違う世界を見せてやる」
「…え?」
護進の言葉の意図を、咲夜は直ぐに理解することが出来なかった。
護進も咲夜に意図が伝わっていないことに気が付いたのか、どこか照れ臭そうに頭をかきながら、今度は遠回しではなくハッキリと言い放った。
「あ〜…だからよ!!お前の代わりに指揮を執ってやるから権限寄越せって言ってんだよ!!」
はっきり言う方向性を間違えて、どこぞの強盗のような物言いになってしまっており、咲夜も夕もポカンとしてしまう。
次第に理解が及び、咲夜は思わずクスリと小さく笑う。
「はい!宜しくお願い致します」
「チッ!!笑ってんじゃねぇ…」
バツが悪そうにしながら、照れ隠しからか護進はモニターに身体ごと咲夜に背を向けた。
しかしそれは一瞬だけのこと。
モニターに目を向けた護進の表情は、既にかつてのソレの表情へと変わっていた。
「これがお前に教える最初で最後の授業だ。目の前でしっかりと目につけて学べよ咲夜」
「はい、必ずモノにして見せます!!」
千葉根拠地 対 『アイドス・キュエネ』
護進と『アイドス・キュエネ』の宿命も絡んだ一戦の、第二ステージが幕を上げる。
※後書き書いてる暇あるなら本編書けってね
ども、琥珀でございます
三月ももう終盤。めでたく本作も投稿してから一年が経ちました(クラッカー)
長続きしない私が、密かに、細々とであっても続けてくることが出来たのは、読んでくださる方がいらっしゃったからです。
これからも、完結に向けて頑張っていく所存ですので、どうぞ本作を末永く宜しくお願い致します。
大和達のまだまだ戦いは始まったばかりだ…!!←
次回の更新は月曜日の朝8時頃を予定しております。