第96星:出撃準備
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。現在、現場を離れている大和に代わり、根拠地の指揮を執っている。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。以前は夜宵率いる部隊の副隊長を務めていたが、現在は小隊長の役割を担う。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。生真面目な性格から大和の方針に反対していたが、現在は信頼を寄せている。
国館 飛鳥(18)
実兄の背後に飛び込んだ大和の実妹。最高本部の『グリッター』であり、最高司令官である護里直属の戦士でもある。その正体は日本に8人しか存在しない、護里が指名した最高の『グリッター』の称号である最年少の『シュヴァリエ』である。
「朝陽さん、三咲さん、小隊のメンバーは揃っていますね?」
「はい。既に出撃の準備は終わっています。しかし、この警戒警報は一体何なのですか?まさか栃木根拠地に更なる増援が必要とか…」
咲夜の招集に応じ、朝陽と三咲が駆けつける。その三咲の質問に、咲夜は首を振った。
「いいえ、違います。今回の栃木根拠地の襲撃は囮でした。狙われていたのは千葉根拠地だったのです」
「えっ…!?じゃあこの警報は増援要請ではなく…」
「ここが襲撃を受けていることによるものです。それも、既にこの根拠地へだいぶ近付いています」
事態の緊迫状況を把握し、二人の表情が一気に強張っていく。
「ですが…何故警報がなるまでメナスを感知出来なかったんですか?いくら囮による陽動があったとはいえ、もう少し早く発見は出来たのではないでしょうか」
三咲の言う通り、根拠地が設置しているレーダーは高精度のものであり、本来、この緊急警報は最終的に鳴り響くものである。
つまり、警戒網を敷く根拠地のレーダーは、メナスにまんまと出し抜かれてしまったことを表していた。
しかし、当然これには理由がある。
「前回の襲撃を覚えていますか?姿を感知できないまま襲撃された時です。あの時も、私達は敵を見つけるのが遅れました」
「まさか…今回の襲撃も同様のものだと?」
咲夜の言葉に三咲が推測を立てる。
「前回のメナスとは違う個体による襲撃です。三咲さんも既に朝陽さん達から情報共有をしていると思いますので話しますが、今回の襲撃は『悪厄災』『アイドス・キュエネ』によるものです」
「『アイドス・キュエネ』!?四代目の『悪厄災』ですか!?」
朝陽は驚きを隠せずにいたが、三咲はまず『悪厄災』の存在を受け止め切れていないようであった。
「『悪厄災』…話を聞いたときは信じられませんでしたが、前回の知性を持ったメナス、そしてまるで絶望そのものを体現したかのような謎のメナス…それを目の当たりにしてしまえば、もう…信じるしかありませんね」
三咲がオリジンの話をしたとき、朝陽は僅かに恐怖を、咲夜は暗い表情を浮かべていたが、直ぐに気を取り直した。
「前回と今回の襲撃でお分かり頂けたかと思いますが、『アイドス・キュエネ』は動きの読めない絡み手を使ってきます。正攻法だけでは勝機はないかもしれません。ですが、ここを死守しなくては、大勢の犠牲者が出てしまいます。やっていただけますね?」
「はい!」
「絡め手といっても付け焼き刃の知性。人間の恐ろしさを教えてあげますよ」
頼もしい返事と、頼りになる答えに咲夜は頷き、二人はその場を後にしようとした。
「あぁ、朝陽さん」
去ろうとした朝陽を、咲夜は呼び止めた。
「非常事態ですので貴方にも出撃していただきますが、先日の戦闘での怪我はまだ十分に癒えていませんね?」
「い、いえ、もう大丈夫で…」
大丈夫だと返そうとした朝陽であったが、咲夜に真っ直ぐと見つめられ、言葉を引っ込めた。
「すいません…まだ本調子ではありません。ですが、最低限の戦闘行為には支障はありません」
その言葉に嘘はないのだろう。先程とは違い、今度は真っ直ぐ咲夜と目を合わせて朝陽が答える。
「…分かりました。ですが戦闘が困難になった場合は即座に帰還してください。無理な戦闘は逆に味方の窮地を招きます」
「分かりました」
「それから…」
咲夜は周りを確認し、顔を近づけると、朝陽にだけ聞こえる声で続けた。
「貴方も思うところがあるでしょうが、ヴィルヴァーラさんを編成にいれて連れて行ってください」
「えっ?で、でも…」
咲夜の言葉を聞き、朝陽は僅かにその顔に影を落とす。直前の会話を思い出したからだ。
「貴方が考えていることは分かります。これは極秘ですが、彼女の動きは私も把握しています。その上でお願いしているのです」
「えっ!」
朝陽は驚いた表情を浮かべる。分かっていた上で泳がせていたというのだから、それも無理はない。
「確かに、彼女の行いは許されるべきではありません。ですが…これは大和からの受けおりなのですが、私達は彼女自身を信じるべきだと教えられたのです」
「ヴィルヴァーラさん、自身を?」
朝陽の言葉に咲夜が頷く。
「私達が見てきた彼女の姿、行動…それこそが最も信ずるに値するモノなのです。朝陽さん、貴方が見てきたヴィルヴァーラさんは、貴方にとって信じるに値する方でしたか?それとも、信頼に値しない人物でしたか?」
咲夜の言葉に、朝陽は僅かにこれまでのヴィルヴァーラに想いを馳せた。
そして、迷いを振り切ったかのような表情を見せると、勢いよく一礼し、今度こそその場を去っていった。
迷いのない朝陽の背中を見届けると、咲夜の背後から不意に声がかけられた。
「いやぁカッコいいなぁ二人とも!!」
その気配をしっかりと感じ取っていた咲夜は、特に驚くことは無かった。
「そうですね。特に朝陽さんは、最初は『グリット』に覚醒すら出来ていませんでしたから。ここまで成長することが出来たのは素晴らしいことです」
「ボクはその頃の朝陽ちゃんを知らないからなぁ。でも、困難なことを乗り越えてきたんだっていうのは、なんだか分かるよ」
おちゃらけた印象から一転。飛鳥はどこか大人びた様子で朝陽のことを見届けていた。
「そうですね。飛鳥が同じような過去を…いえ、貴方の方がもっと辛い過去を乗り越えてきましたからね」
「乗り越えてなんかないよ。今だってその時のことを思い出すと身体が震えるもん」
飛鳥は「でも…」と続ける。
「ボクにはお兄ちゃんと咲夜さん、望生がいるから。だから、ボクは進めたんだ。でも、朝陽ちゃんは乗り越えた。お兄ちゃんのきっかけはあったかも知れないけど、一人で乗り越えたんだ。だから、朝陽ちゃんは強い」
飛鳥の言葉を聞きながら、咲夜は心の中で「(それは貴方も同じですよ)」と考えていたが、本人が認めていない以上、それを口にはしなかった。
代わりに、あることを確認すべく口を開いた。
「飛鳥。確認しますが最高司令官から交戦の許可は出ていますか?」
咲夜の言葉に、飛鳥は珍しく困った表情を浮かべた。
「う〜ん、それが…出てないんだよね。ボクもそれがあればすぐにでも加勢するんだけど…」
「まぁそうでしょうね。『シュヴァリエ』は日本の中でも最高戦力。そう易々と前線に出すことは出来ません。加えてその強力過ぎる力は、下手をすれば味方を巻き込みかねません。簡単には許可はおりません。『シュヴァリエ』ではありませんが、私も大和の許可はおりていませんしね」
「咲夜さんの『グリット』は半端じゃないからね…でも、ボクの『グリット』はそういうタイプじゃないから平気だと思うんだけどなぁ」
やや不貞腐れた様子の飛鳥ではあったが、最高である護里の指示に逆らうつもりは毛頭ない。
それは即ち、この戦闘に参加することは出来ないことを表していた。
「分かりました。ではメナスは我々だけで対処します。ただ…」
「分かってるよ。非戦闘員の人と、訓練学校の子供達のところまで来た時は、ボクが守るから」
言葉にせずとも飛鳥は咲耶の意図を読み取り、咲耶もそれに頷いた。
そして咲夜は指揮官としての任を果たすべく、再び司令室へと戻ろうとする。
「咲夜さん」
「はい?」
飛鳥は咲夜を呼び止め、真っ直ぐ目を向けて口を開く。
「大丈夫。ヴィっちゃんは、信じられる人だよ」
「…はい。私も彼女を信じています」
小さく笑みを返し、咲夜は今度こそその場を後にした。
そして、その途中。咲夜はふと思う。
「…ヴィっちゃんって、ヴィルヴァーラさんのことかしら?」
※後書きというか謝罪会見
ども琥珀です!
先週は急遽お休みをいただきありがとうございました!
年度末に加えて新型も活発化し続けなかなか執筆が進まず…
ひとまず分はかけましたが、まだまだ忙しく、もしかしたら、また近いうちにお休みをいただくかも…
お待たせしないよう、精一杯頑張ります!
本日もお読みいただきありがとうございました!
次回の更新は水曜日の朝8時を予定していますので宜しくお願いします!!