第95星:『艶麗繊巧の魔女』
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。現在、現場を離れている大和に代わり、根拠地の指揮を執っている。
新島 夕(10)
大和と咲夜をサポートする報告官を務める。『グリッター』としてこ能力を秘めているが未だに開花には至らず。それでも、自分にできることを精一杯こなす純真無垢な少女。10歳とは思えない礼儀正さを兼ね備える。
早乙女 護進(28)
派遣交流の監査役として千葉根拠地にやってきた(というか連行)非戦闘員・専門指揮官。『軍』最高司令官である早乙女 護里の息女であるが、品行は非常に悪い。大和の戦術の師であるが、過去に重いトラウマを抱えており…?
【夜宵小隊】
私市 伊与 19歳 四等星
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。
早鞆 瑠衣 18歳 四等星
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。
『フフフ…』
襲撃させた栃木から200kmも離れた海域に、悪厄災、『アイドス・キュエネ』は佇んでいた。
通常の個体のメナスとは異なる、どこか大人びた風貌をした『アイドス・キュエネ』は、どこか妖艶で不敵な笑みを浮かべていた。
『マンマト誘導ニ引ッ掛カルナンテ、人間ハ成長シナイ生キ物ナノカシラ?』
その声は人間を見下し、蔑すんでいた。
肉眼で遠く離れた場所で戦闘を行なっている五体のメナスの様子を見たあと、直ぐに視線を別の方向に向ける。
そこは、前回、同胞である『エデン』が戦いを挑んだ地、即ち千葉根拠地のある方角であった。
『(ワタシ達二授ケラレル程ノ知性ヲ負カシタ人間ノイル巣窟…彼女達は怒ルデショウケド、ワタシモ興味ヲ持ッチャッタノヨネェ)』
『アイドス・キュエネ』は『エデン』によって知性を授けられたが、元々知性が無かった訳ではない。
寧ろ、これまでのメナスの中では、高い知性を持っていたメナスであった。
10年前の『アイドス・キュエネ』襲撃時は、その特異な手によって、人類は窮地にまで追い込まれた。
当時はその能力ありきのものであると考えられていたし、実際その面によるモノが大きかった。
しかし、今はそれに『知性』が備わっており、危険性はさらに増している。
加えて、人類側はその事態に気付いていない。そればかりではなく、そもそも『アイドス・キュエネ』が生存していること自体把握できていない。
『アイドス・キュエネ』による今回の奇襲は、それを見越しての動きであった。
『サァテ、楽シミネ。我ラガ【知将】ヲ破リ、ソシテ我ラガ【女神】ヲ退ケタ人間達…楽シマセテ頂戴』
●●●
千葉根拠地に設置された改良版のレーダーが、一斉にメナスを感知したのは、護進が敵の正体を明かした直後であった。
一斉に緊急警戒警報が鳴り響き、ハザードランプも赤く輝き出す。
「え…えっ!?ど、どういうことですか!?一体何が起きてるんですか!?」
事態の理解が全く追いつかない夕が混乱気味に問い詰めるが、咲耶も今は説明していられる余裕がなかった。
「すいません、今はその時間がありません。貴方はとにかく緊急戦闘配置の放送を。私は残った隊のメンバーに話をしてきます」
そう言うと咲夜はすぐさま部屋を後にした。
残った夕は混乱したままでありながらも、咲夜の指示に従い、すぐに緊急放送のスイッチを入れる。
そしてこれまでの戦闘時と同様に、デスクのボタンの電源を入れることで、立体的なスクリーンモニターを起動した。
「ほっほぉ〜?すげぇなこりゃ。これで実際の戦闘の様子が分かるわけか。この短期間で随分と科学も進んだもんだなぁ」
そのモニターに護進は興味を示したのか、マジマジと眺めていた。
「準備には五分くらいはかかんだろ。その間にこれの使い方教えてくれよ」
緊急事態であるというのに、どこかおちゃらけた様子の護進を訝しげに思いながらも、夕はゆっくりと口を開いた。
「私の説明で宜しければ…ですがその前に、今何が起きているのか教えてください」
冷静さを装ってはいるが、夕の頭の中はまだ混乱していた。
それに気付いた護進はめんどくさそうにしながらも、かつて同じ指揮職だったこともあってか、直ぐに話し始めた。
「お前、『アイドス・キュエネ』は知ってるか?」
「…いえ、初めて聞きました」
「ちっ…わざわざ秘匿してんのか、かったりぃな…」
苛立ちを微塵も隠さずに護進は零すが、それが自分に向けられたものではないと気付いていたため、夕は特に反応しない。
「それで…『アイドス・キュエネ』というのは…?」
「言ってしまえばメナスの個体名だな。20年に一度、突然変異の如く突如として生まれる個体。ソイツ等はまとめると『悪厄災』って呼ばれてる」
「『悪厄災』…もしかして、先日夜宵さん達の前に現れたのも…」
夕が言っているのは、始まりのメナス、『オリジン』のことを指しているのだろう。
しかし、状況を知らない護進は、その言葉を拾うことはしなかった。
「『悪厄災』は、個体が生まれてからすぐに人類が討伐にかかってきた個体だ。通常は一人や二人じゃ歯が立たない。その個体によっては100人以上の連隊で決戦をしたときもあるそうだ」
「せっ…!?一体のメナス相手にですか!?」
夕が驚くのも無理はなかった。
通常のメナスであっても、本来は3〜4人で挑むのが定石であるが、いま護進が告げた人数は、倍やそこらで済む人数では無かったからだ。
「そうだ。それだけ『悪厄災』は規格外なんだよ。とはいっても、最初の個体や二体目の個体に関した言えば、規格外とは言っても当時の『軍』の力も今とは大分劣ってた面もある。それが故の人数とも考えられるがな」
護進の説明に、夕はなるほど、と納得する。
「個体にはそれぞれ全く異なる性質があってな。絶対的防御の盾、無慈悲な消滅の槍とかな。チラッと聞いた限り、今回の個体は頭脳明晰な知性だったか?そんな感じにな」
「それで…今回の『アイドス・キュエネ』のもつ性質は…?」
今回の最も核心的な部分。それを、夕は恐る恐る尋ねる。
護進は夕から視線をそらし、どこにいるかも分からない『アイドス・キュエネ』を睨むようにしながら口を開いた。
「ヤツの持つ性質は、魔法。『艶麗繊巧の魔女』の二つ名をつけられた、悪魔だよ」
●●●
『なに!?それは本当か!?』
今なおメナスに囲まれている恐怖の中、夜宵は栃木根拠地の大隊長である矢武雨に連絡を入れていた。
「間違いありません。我々二人が確認しました」
『いやしかし…そんなことがあり得るのか?目の前にいるメナスの大半が幻像などということが』
信じられないのも無理はない。
実際それを突き止めた夜宵ですら、実際に攻撃がすり抜けるまでは信じられなかったのだから。
『だが夜宵殿の言うことが本当だとすれば、一体何が目的でこんなことを?』
「すいません、目的までは分かりません。ただ、栃木根拠地を攻め込んでこないところを見ると…」
『…我々はただ囮に使われた、ということか』
矢武雨の声はどこか自虐的な感じが漂っていた。
「すいません、そう言うつもりでお話したつもりでは無かったのですが」
『フハハ、いらん気を使わせてしまったな。そう言うつもりがないことは分かっているよ。それに、本当は目的も推測が出来ているのではないか?』
「っ…それは…はい」
矢武雨の指摘の通り、夜宵は恐らくこれが千葉根拠地を狙っての行動であると予想がついていた。
誘導を行う手口が、先日の『メナス』と同じ方法であったからだ。
そこから、再び千葉根拠地を狙おうとするのも、おかしくはない話である。
加えて、近場である栃木根拠地の面々には連絡が取れるにも関わらず、千葉根拠地とは一切連絡が取れなくなっている。
これも、夜宵が思う根拠の一つであった。
『よし、ならば君達は千葉根拠地に帰りたまえ』
「…は?い、いやしかし、いくら幻像とはいっても、少なからず本体のメナスがいます!それを放っておいて根拠地に戻るなど…」
『構わない。いくら数がいようとしょせん幻影。加えて本体はほんの数体なのだろう?ならば我々だけで十分対応できるとも。それとも、我々では不足していふかな?』
「い、いえけしてそんなことは…」
通信機越しに笑い声が聞こえ、「冗談だよ」という言葉が発せられる。矢武雨は『それに…』と続ける。
『ここまで明確にコケにされて黙ってられるほど、我々はお人好しじゃあない』
「え…」
次の瞬間、夜宵から少し離れたところで眩い閃光が迸り、無数の光の矢が放たれていった。
光の矢は周囲を飛び回るほぼ全てのファントム・メナスを貫いていった。
『【放発必中】、矢武雨 瑠河。この二つ名に恥じぬ活躍をしてみせよう。このでれすけ畜生共が!!』
恐らく今のは、矢武雨のグリットによるものであろう。精度もさながらその放射速度はすさまじく、夜宵タは全く反応ができなかった。
『持久戦になると思い温存してきたが、その必要ももう無いだろう。本体を見つけるのにもそうは時間はかからん。さぁ行け、千葉根拠地諸君。救援、本当に助かったよ』
「…分かりました。御武運を、矢武雨隊長」
『君達もな、斑鳩隊長』
互いの無事を祈りながら、夜宵達は戦場に背を向け、千葉根拠地への飛翔を始めた。
※後書きではなくお知らせ!
ども、琥珀でございます!!
誠に申し訳ありません。
私の諸都合により、来週の更新はお休みさせていただきます…
従って次の更新は23日の月曜日、朝8時となりますので宜しくお願いします!!