3-2
「フィジカルブースト30%! 魔導炉1基出力60%」
「うお! 俺の筋肉が押し負けただと?」
「暑苦しい!」
陥没したコンクリートの地面から足を引き抜くと、マジックソードに供給する魔力量を増やし、より強固により切れ味を増す。
レーダーを監視しつつ敵施設長と対峙するが、攻撃をしてこない。
「(こいつら何を考えているんだ? ユフィーの方には追撃は無いようだが魔力溜まりが多くてレーダーが役に立たないな)」
「単刀直入に言うぞ。アイオーン様に下――」
「断る」
「早いな! ならお前は敵だ。破壊する! 筋肉音楽スタート!」
「は?」
軽快に音楽が流れ出し、準備運動を始める管理人。
ドン、ドンと音がなり始めレーダーに敵対マークが増えていく。
音楽が最高潮を迎えた時には既に30を超す管理人が確認できた。
「空は魔力溜まり……近接戦は確実に切り裂かないと圧倒的に不利。何か抜け穴が有るはずだ」
「イクゾー!」
「ええい! フィジカルブースト60%!」
逆三角形の筋肉が一斉に飛びかかってくる。
マキナはそれをシールドで防ごうとしたが……。
「……やっぱり無理! 暑苦しい!」
包囲が空いている上に向かってジャンプする。
魔力溜まりはまだまだ上空なので問題は無い。
下では対象を失い、管理人が積み上がっている光景が目に入る。
「うっわ。キモ! ソードリリース!」
「グワー!」
魔力で出来たソードが銃弾のように降り注ぎ下に居た管理人を切り裂いた。
自慢の筋肉も所詮は外皮でしか無い。
管理人だったアンドロイドの残骸の上に着地し、ソードを再構築する。
いまだに軽快に音楽が鳴り響いているが、それは無視をする。
「魔導プロテイン! 出力アップ! イクゾー!」
“オーバードライブ起動。制限時間60分”
「せい!」
マキナは一瞬にして襲いかかってくる管理人を踊るように切り裂いていく。
その太刀筋はほぼ見えない位に早く、今は無い高周波ブレードの様にバターを熱したナイフで切る様だ。
全ての管理人が襲いかかってきた後、ソードからマジックシューティングモードに切り替える。
すると時が止まっていたかのように管理人達が切り崩れる。
「ふう。暑苦しい戦いだったな。さてユフィーに連絡を入れて……っ!」
ユフィーに連絡を入れようとした時だった。
突如巨大な魔力反応を頭上から検知したのだ。
とっさにバックステップで避けると、地面にクレーターが出来上がり中央には今までとは違うアンドロイドが居た。
「やれやれ。私直々に出ることになるとはな。よくもまぁ……これだけの数を破壊してくれた。ロールも楽しかったがこれ以上損害を出すわけには行かないな」
「親玉登場ってところか」
「ご名湯。私の名前はグレース。以後お見知りおきを」
「以後はない。お前はここで破壊する」
「それはこちらのセリフでもありますね」
2人が睨み合いをしていると、マキナがマジックソードモードに切り替えた。
その刹那2人は衝突し、鉤爪型の小手とソードがせめぎ合い激しく火花を散らす。
2人は一旦距離を取ると、グレースがアンドロイドの一部を投げてきた。
マキナはそれを切り捨てるが眼の前にはか鉤爪を伸ばしているグレースの姿があった。
「危なっ! (戦闘スタイルはオール近接か? 力も出力も西、南とは大違いだ。まぁまだ私は本気を出していないが)」
「惜しかったな。後一秒早かったらその頭を串刺しに出来たが」
「やってみろ」
「殺ってやりましょうか? 出力最大の動きについて来れますか?」
パラメーター値が一気に跳ね上がり本当に出力を最大にしたことが分かる。
そこでマキナは思った。
“ここで3基の魔導炉の出力を100%にしたらグレースはどう思うのか”っと。
「魔導炉3基出力最大。フィジカルブースト400%。タフネス起動」
グレースが目にも留まらぬ速さで動き、残像を残しながら迫ってくる中マキナは小声で出力を最大まで引き上げの宣言をした。
動かないマキナに背後を取ったグレースはその鉤爪で引き裂こうとした。
だが巨大な魔力の嵐に一瞬体が振れ、機体にノイズが走ったのだった。
「な、なんだ……? この巨大な魔力は!」
「本気でかかって来る相手だ。こちらも本気を出さなければ失礼だろ?」
「この魔力量はデタラメってほども有るぞ!」
「さて、破壊させてもらうぞ」
「くっ。筋肉アンドロイド全機起動!」
空から先程倒した管理人と偽った筋肉アンドロイドが50体ほど降ってきた。
だが、それが逆に弱点を晒す事になった。
「この魔力の放出でも通信が途切れないとなると魔力を使った通信ではないな?」
「それがどうした!」
「こういうのはどうだ? 電波阻害起動」
「なっ!?」
アンドロイド達は一斉に動きを止め、動いているのはグレースとマキナだけになった。
更にマキナはダメ押しでWLCSを起動した。
「アンドロイドの操作権限を奪取する可能性を検索」
“検索中……複数該当あり反映します”
電波阻害を解除するとアンドロイド達が立ち上がった。
それに表情をニヤリとかえたグレースだったが、何時まで経ってもマキナを攻撃しないアンドロイドに疑問を抱き、攻撃命令を下した。
しかし、アンドロイド達は攻撃をするどころかグレースの方に向き直る。
「な、何だ? お前何をした!」
「それはグレース、お前が一番わかっているんじゃないか?」
「そ、操作権限を奪われただと? 馬鹿な! 何故そんな事ができる!」
「それじゃ自分のアンドロイドに押しつぶされな」
「や、やめ……アッー!」
マキナは押しつぶされるのを見届けるとユフィーに連絡を入れた。
制御塔のコンソール前で待機しながら魔導炉3基100%の具合を確認している。
不具合も何も起こさす常にエネルギーが満ち溢れてくる事に満足をしていた。
「マキナ! 無事でよかっ……!?」
「ああ、ユフィーコンソールから制御の引き継ぎ頼んだ」
「そ、それよりその巨大な魔力なんなの……?」
「ん? キツイか? 今元に戻す」
“WLCSシャットダウン、オーバードライブシャットダウン魔導炉2期出力1%1基出力10%で駆動開始”
あの時の比ではない魔力量に驚きを隠せなかったが、それが自分に向いていないことを確認するとホッとした表情でマキナの元へ歩み寄った。
「魔力は後で説明させてもらいますわよ」
「わかってる。施設が誤作動起こしていないかも確かめてくれ。制御塔の近くでちょっと本気を出してしまったからな」
「……あれでちょっととかありえないですわ」
しばらくセキュリティをクラックしていると、コンソールに緑色でSuccessと表示され扉が開いた。
2人は中にはいるとエレベーターに乗り最上階へ。
敵の待ち伏せ等もなく、制御室で作業を始めるユフィー。
「んー。一部の回路がおかしな動きをしてますわ。おそらくマキナの巨大すぎる魔力でショートしたのですわね」
「それはすまん」
「大丈夫ですわ。この回路をこっちとバイパスして……と。これで大丈夫」
無事システムが再起動し、施設の管理者がユフィーに上書きされた。
「それにしてもアレが本体だったなんて。わたくしも知りませんでしたわ」
「私も驚きだよ。脳筋筋肉馬鹿かと思っていたら自分は安全な後方に居てアンドロイドを操り戦うなんてな」
ユフィーは管理塔から筋肉アンドロイドに押しつぶされたグレースの姿を見下ろしていた。
自分は絶対あの様な最後を迎えたくはないと思った瞬間であった。
「さて、ここにはもう用は無いな。メアリーが待っている車に戻ろう」
「そうですわね。連絡入れれば入り口まで車を回してくれるのではないかしら?」
「良いこと思いつくな。そうしよう」
マキナはメアリーに連絡を取ると車を入り口まで回させるのであった。