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引き金を引く寸前に突如左から衝撃が加わり、銃撃が頭から床に変わってしまった。
一瞬何が起こったのか分からなかったがよく見るとメアリーが立っていた。
「メアリー、何をする」
「ふふふ……。無駄、もうその子は私の虜になっているからね!」
「お前! メアリーに何をした」
「私のシステム”チャーム”は生物なら誰でも虜にできる。さあ! 侵入者同士で殺し合いなさい!」
「……はい」
するとメアリーはマキナに向かって銃撃をしてきたのだ。
あれほど信仰心を持っていたのに関わらず、まるでこちらを見えていない様な表情だった。
咄嗟にシールドで魔弾を防ぐと、瞬時にメアリーを殴りつける。
いわゆるショック療法である。
だが、痛がる様子も見せずメアリーは立ち上がってきた。
「駄目か。本体を破壊しなければチャームとやらは切れないみたいだな」
マキナがリリスに目を向けると、翼で中にうかんでいた。
すぐに魔導多目的ハンドガンで狙いをつける。
が、メアリーが射線に入ってしまい撃てない。
「そう、それでいいのよ。私は最初に裏切り者を壊してくるからそれまで潰し合いをしてなさい」
「……はい」
「メアリー!」
部屋の角ではユフィーが縮こまっていた。
ぶつぶつと小声で何かを口走っている。
「わたくしは裏切っていない。わたくしは裏切っていない。わたくしは……! ……どうすればよいですの……?」
「ユフィー。いや裏切り者、お前を破壊する」
「! 辞めてくださいまし! わたくしは本当に裏切っていないのです!」
「何を今さら。裏切り者は皆そう言うのよ。デーモンハンド」
「あぐぅ」
リリスから現れた黒い腕がユフィーの体を締め付ける。
次第にそれは強さを増していき、ユフィーの体は軋みを上げ始めた。
「や、やめて……。壊れちゃう……!」
「壊すためにやっているのを何故止めなければならないの?」
「ユフィー! くっ、メアリーいつまで操られている! 目を覚ませ!」
「無駄無駄。私のチャームからは逃げられない」
いまだに操られたままのメアリーはリリスを守るように行動しマキナを攻撃する。
先程の一撃で痛みも感じないと分かっているため無駄にダメージを与えすぎるとチャームから開放された時にショックを起こす恐れがある。
更に追撃をかけるかの如くユフィーの体から金属が折れる音が聞こえてきた。
「迷ってる場合じゃないな。WLCS起動、メアリーがチャームにかからなかった可能性を検索」
“検索中……該当なし”
「なら、メアリーがチャームから復帰する可能性を検索!」
“検索中……一件該当あり”
「反映しろ! 急げ」
一瞬で世界が書き換えられ、メアリーはいつでもチャームから復帰することが可能になった。
しかし、問題が有った。
どうすればメアリーが目を覚ますかである。
「あぁぁ……! わたくしの腕がっ! 本当にこれ以上は壊れてしまい……」
「壊す為にやってるんだ! おとなしく裏切り者は破壊されろ!」
「メアリー! 目を覚ませ!」
「……」
「無駄だということが分からないの? 貴女意外と馬鹿ね」
マキナは今までのメアリーの行動を演算し、最もメアリーに影響する行動を模索していた。
そして1つ演算結果がでた。
「ええい! 戸惑っている時間はない!」
一瞬にして懐に入り込むと、銃を持っている腕を抑えキスをしたのだ。
脳に強烈な刺激を与えるためにディープキスをメアリーに。
「……? ……!!」
「メアリー、目を覚ましたな!? よし退け」
「マキナ様! 今のをもう一度~!」
「馬鹿な!? 私のチャームが破られた!?」
絶対の自信を持っていたチャームが破られ一瞬動きが鈍ったリリスに銃口を向けると引き金を引いた。
「あっ……」
「あうぅ……腕が、わたくしの腕がぁ」
リリスの頭部に穴が空き、デーモンハンドの魔法も消えた。
マキナはユフィーに施設の乗っ取りを指示する。
これには流石に泣きが入っているユフィー。
「貴女は……! わたくしの両腕が折れているのにそれですの!? ちょっとはわたくしの事を思ってくれても……!」
「まずは魔導機械兵を止めろ。私はやることが有る」
そう言うとマキナは穴が空いたエレベーターシャフトに落ちていった。
メアリーはと言うと恍惚の笑みを浮かべてモジモジしている。
「南施設最高権限者ユフィーが命じる。魔導機械兵は全てシャットダウンせよ。メンテナンス要員は作業を続行。リリスが破壊された為南施設ユフィーがこの施設を引き継ぐ」
『システム了解。魔力パターン照合完了。命令を実行します』
「うぅ……自動修復が機能しませんわ。わたくしは用済みってことですの……」
しばらく時間が経つとマキナがガーゴイル型魔導機械兵を持ってきた。
それを制御室の床に置くと、ユフィーを仰向けに起こした。
「え……? 何をするのですの?」
「何をって、修理だが? どうせ自己修復機能も動いていないのだろう?」
手慣れた手付きで魔導機械兵から腕を外すと、外装を開き骨だけを取り出した。
次にマキナギアから痛覚を遮断させ、ユフィーの折れた腕を開いた。
折れた骨が配線を切断してしまっている事がわかる。
ユフィーは丁寧に作業するマキナを見て呆然としていた。
本来使い捨てのはずの自分を修理しているからだ。
「歪んだ外装は自己修復機能が働けば直るとして、折れた骨を取り出して……」
「な、何でわたくしを直しているのですの? 使い捨てのコマではないのでして?」
「マキナ様は一度仲間にした者を見捨てはしないのです! しっかり覚えていなさい」
「……」
20分足らずで壊れた箇所の修復を終えると、次に自己修復機能の再起動シーケンスを走らせる。
マキナギアを通して歪みの状況や修繕状況が流れていく。
“修復完了”
「ほら、立てるか? 直ったはずだぞ」
「……」
ユフィーは立ち上がると、自分の腕を動かし稼働状況を確かめていた。
一通り動かし終えるとマキナに振り向いた。
「何故わたくしを直してくださいましたの?」
「メアリーから聞いただろ。どうせ行く宛もないんだからな」
「それは貴女が……」
「それと魔導機械兵の骨は元の素材より弱いから全力を出したら折れるからな」
さらっと性能が低下していることを言う。
「折れる? って、完璧に直ってないじゃないですの! リリスのパーツ使えば良かったのでは?」
「リリスは見た通り魔弾で壊したからそれは無理だ。たまたまガーゴイル型魔導機械兵の骨がはまったのだから良いだろ」
「……はぁ、もう! 貴女には負けますわ。いいですわよ、貴女の手伝いしてあげましょう。直してもらった借りもありますし」
「素直でよろしい」
なんやかんやでユフィーはマキナの下についた。
情報処理という観点からはマキナより最適化されているユフィーの方が勝るため、これからの施設乗っ取りには重視されるだろう。
リリスが管理していた施設を後にし、車まで戻ってきた3人は北施設まで車を走らせる。
「ユフィー、北施設はどんな奴が管理しているんだ?」
「一言で言えば脳筋よ。おそらくアイオーンの次くらいに力有るのではないかしら」
「と、なるとだ。私の体格差では不利だな。遠距離から魔法を撃ち込んで倒したほうが無難か」
「そうですわね。体格は逆三角形のゴリラですわ。小柄なマキナでは持ち上げられてしまいますね。魔法で1発打ち込めば良いかと」
その時マキナは制御室で大出力の魔法を撃ち込むか考えていたが、無駄になることになるとは思ってもいなかったのである。