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「読み出し完了っと。メアリーいい加減笑うのをやめろ」
「はい! マキナ様!」
「直るの早いな? さて聞きたかったことも直接聞けたし、後にしようか」
「あれ? マキナ様、人間たちはどうなされるので?」
当然のことをメアリーが聞いてきた。
それにマキなは即答した。
「今シルフ大陸は巨大な魔力生産地になっているらしい。そこに人間を放り出したらどうなる? 食料も無ければ衣服も無い。どうやってこの人数を支えるかという問題だ」
「たしかに。さすがマキナ様です! で、このアンドロイドはどうするのです?」
「素体としてはここで破壊するのは勿体無いな。そうだな、マキナギア」
“対象自我データのバックアップは完了しています”
「戦闘能力、サポート能力以外のシステムを削除。管理者権限を私に書き換えてインストールを実行」
“了解”
読み取り時に崩壊した自我データを制限付きで再インストールする。
更にハードウェアも改ざんしセキュリティを強固にし、アイオーンとは絶対に接続も通信も出来ないようにした。
“再起動シークエンス開始”
マキナギアが処理したデータを確認し再起動シークエンスを見守っていた。
順調に各部のチェックが終わり自我データのロードが始まった。
“自我データロード完了”
「ん……あれ? わたくしは自我崩壊したはずでは……ぎゃああああ!? 鬼! 悪魔! 人でなし!」
「いきなりひどいな」
「貴女! マキナ様の立派な下僕になったのだから感謝しなさい! そして私はマキナ様の愛人……ぎゃふん」
「げ、げ、下僕ですって!? わたくしが!? 機能が制限されているわ! ああ、あれもこれも」
その後もぎゃあぎゃあ騒ぎ、淑女は何処に言ったと思わせる勢いで駄々をこね始めた。
しかし、管理者権限がマキナに上書きされていることを知ると急にしょんぼりと感情の起伏が激しい。
「私からの最初の命令だ。ここに居る魔導機械兵を全員シャットダウンさせろ。メンテナンス用はするなよ」
「わかりましたわ……。当施設最高権限者ユフィーが命じる。魔導機械兵は全てシャットダウンせよ。メンテナンス要員は作業を続行」
『システム了解。南支部最高権限者ユフィー様を認証、命令を実行します』
「これでわたくしの施設内の魔導機械兵はシャットダウンしましたわよ」
若干ふてくされている様子のユフィー。
それをみたメアリーが私の後輩の癖にマキナ様にお願いごとをされていると、嫉妬しているのが見て取れた。
マキナはそれを見て呆れるが直ぐにユフィーに声をかけた。
「それで良い。お前は特別に破壊しないでおく。他の施設で役立ってもらうからな」
「流石わたくしの存在価値を見いだせる頭は有るようですわね! まぁ、わたくしの下僕とは言わずパートナーとして扱って差し上げ……ひぃいん!?」
「何を言っているのだ。私のサポート役として直してやったんだ。感謝しろ」
マキナはユフィーの尻を平手で引っ叩いていた。
それを見ていたメアリーがマキナの方に尻を向けていたが無視して制御塔入り口まで空間跳躍した。
そして待つこと5分。
やっとメアリーが階段を降りてきた。
「ぜぇ……ぜぇ……マキナ様酷いです! すぅ、はぁ。私と言うものが有りながらそこの女と駆け落ちするなんて!」
「あら? 貴方達そんな仲なのかしら」
「いや、ぜんぜん違う」
「マキナ様! そこは乗るところですよ!」
「知らん」
ユフィーの案内により車で施設の外に出ることが出来た。
事前にこの様な施設は5箇所有ることが判明しているため、一箇所ずつ潰して行くことにした。
車での移動中、ユフィーから情報を聞き出す事にする。
運転手はメアリーにやらせている。
その方が静かで安全に次の施設へ行けるのだ。
「ユフィー、幾つか聞きたいことが有る」
「わたくしに何を聞きたいのですの? スリーサイズはNGですわよ」
「そんなもの知らん。人間エーテルリアクタはシルフ大陸に5基あるので間違いないな?」
「えぇ。5基ですわ。しかし南施設のわたくしがオフラインになったことは東西北部、そして中央施設に伝わっていますわ」
警備が上っていると予想される。
以前のように荷台に乗ってインビジブルで通過はできなさそうだ。
「マキナギア、シールド通過の魔法の解析は終わったか?」
“完了済み”
「何それ、面白そうですわ。わたくしにもくださらない?」
「言っていなかったが、セキュリティ対策として自我データのミドルウェアとしてこっそりインストールしてある。裏切ったら魔導炉が止まるようになっている」
「ひ、人でなし! わたくしを誰だと思っていますの! 南施設管理者ユフィーですわよ!」
「元、だろ?」
マキナは内心楽しんでいた。
悔しがっているが、この高飛車なユフィーを躾けるにはちょうど良い。
そして運転席に居るメアリーは嫉妬を抱き、時々蛇行運転や急発進を繰り返しマキナに叱られているのであった。
だが嬉しそうである。
メアリーは元妖精なので寝ることは本来必要でないためマキナやユフィーの様に一日中起きていることが出来る。
その体質のおかげで一日中車を走らせることが出来た。
「マキナ様、豪雨で前方が視認しにくいので気をつけてください」
「分かった安全運転を頼む」
「わたくしは?」
豪雨の中ひび割れたアスファルトの道路を走っていると、メアリーが急にハンドルを切った。
急な運転だったゆえにシートベルトをしていなかったユフィーは顔面を座席にぶつけて涙目になっていた。
「急にどうした?」
「前方から何かが飛んできました! ……っ! マキナ様後ろから何か来ています!」
メアリーがバックミラーを見ながら叫ぶ。
「あいたた……急にハンドルを切らないでくださいまし! 後ろがどうしたと言うのです……え? ええええ!」
「お前もどうした?」
「あれはリリスの魔導機械兵ですわ! わたくしが乗っているのにどうして襲ってくるのです!」
「お前オフラインだから認識されてないのだろが」
「そうでした……」
マキナは豪雨の中ドアを開けると、車の上に上がる。
ホルスターから魔導多目的ハンドガンを抜くと、狙いを定め単発射撃で魔弾を撃った。
迫ってきていた魔導機械兵は撃ち抜かれ機能を停止した。
だが、マキナのレーダーには大量の敵対反応が検知されている。
「メアリー!車を止めるな! ユフィーはメアリーのサポートをしろ!」
「わかりました!」
「しょうがないですわね、ここで死にたくないし協力しますわ!」
レーダーから一番近い魔導機械兵を選別し、撃ち抜いていく。
次の敵を撃とうとした瞬間車がまた左右に動き銃撃を外してしまう。
パラメータ値が上っていることに気がついたマキナは前方に車と一定距離を開けて銃撃してくる魔導機械兵を確認した。
「あいつらか! スピードを落とすな! すぐ対処する」
「わかりました!」
“オールレンジプロファイル適応完了”
“魔導多目的ハンドガンとのリンク確立”
未来予測とリンクした魔導多目的ハンドガンとの連携により左右に揺れる車の上での射撃精度が格段と向上した。
まずは3発撃ち込んだ。
1発が外れ2発が命中し、道路に転がってきた。
その魔導機械兵は人間タイプではなかった。
「ガーゴイル? そう言えばユフィーがリリスと言っていたな。なら悪魔のモデルなのか?」
「マキナ! 早くしないと持たないですわよ!」
「わかっている」
続けて2体目のガーゴイル型魔導機械兵を相手にする
敵も馬鹿じゃない、左右に動きながらこちらを撃ってくるのである。
ユフィーが瞬時にサポートを行っているため最小限の被弾で済んでいるがそれも難しくなってきた。
それに加え周囲からこちらに迫ってくるガーゴイル型魔導機械兵もいる。
「こうなったら!」
“魔術ロード完了。スタンドフラッシュ”
マキナを中心にとてつもない光量が放たれた。
それは迫ってきていたガーゴイル型魔導機械兵の視覚センサーを麻痺させ、さらにこちらを撃ってきていた魔導機械兵も麻痺させた。
「全速力で離脱しろ!」
「了解です!」
ガーゴイル型魔導機械兵の包囲網から抜けると、そのまま次の目的地まで向かっていったのであった。