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マキナが振り向くとメアリーが壁に手を当て立っていた。
「メアリーもう動けるのか?」
「はっきり言ってまだきついですね……。そんなに元気だったらマキナ様に抱きついています」
「……そうか。明日から出発する。時期にこの施設も機能が停止するだろう」
そう言うとメアリーを椅子に座らせ、マキナは床に横になった。
先程のマキナギア修復の為に演算を割くために、なるべく体の姿勢制御にリソースが割かれないようにするためだ。
「メアリー変なことするなよ?」
「善処します!」
「(サルベージ開始。断片データ修復開始。魔導炉制御システムに組み込み開始)」
“サルベージ完了”
“断片データ修復開始……72%完了。28%失敗”
「(28%か。リプログラミングで解決できる範囲だな)」
修復を開始してから数時間。
やっと28%のリプログラミング処理を終えたマキナは魔導炉に組み込みを始めた。
組み込み処理は以前のデータが残っていたため3基分に調整するだけで済んだのである。
“再起動シークエンス開始”
一瞬マキナの意識が飛び、直ぐに復帰を果たした。
“マキナギア初回セットアップ開始……完了”
“起動完了。無事修復成されて当システムも満足しています”
「そりゃどーも」
“提案。回避”
「は?」
マキナギアが一瞬何を言っているか分からなかったが、次の瞬間眼の前が真っ暗になった。
センサーからは柔らかい何かが当たっているのが分かる。
「マキナ様~1000年も待ったのですからね~! ハグの1つくらい良いですよね~!」
「ひはま! めありー! むねをおひあへるな!」
「うふふ。マキナ様~うふふふゔっ!?」
メアリーの鳩尾にマキナの拳が食い込み、ホールドが解除されメアリーは床に崩れ落ちた。
床では鳩尾を押さえながら転げ回っているメアリーの姿が。
「あ“あ”あ“……以前より強力になってます……これが愛の重さって言うものですね……」
「いや。全然違うけど」
「そうだ、マキナギア。魔導炉の稼働状況はどうだ?」
“現在魔力循環量84.5%”
キャルの魔力を受け取り、それを増幅させている段階である。
魔導炉は性質上停止してしまうと再起動直後の魔力循環量が大幅に低くなってしまう。
それに伴い行使できる魔術、魔法の威力に影響が出てしまうのだ。
無論、魔導多目的ハンドガンも例外ではない。
「明日になったら出発する。食堂で適当に料理でも作って魔力を完全に回復しておくように」
「りょ、了解です。マキナ様」
おー、痛い痛いなどと言いながら部屋を出ていく。
マキナは魔導炉3基の魔力循環量が100%になるのを待ちつつ、システムの最適化を開始した。
少しばかり余計なスクリプトが有り、それを修正する。
殆どが新しいOSのバージョンに最適化されており、セキュリティシステムもより強固になっていた。
「私のOSを組んだのは本当に天才だな。ほとんど修正する箇所がない」
そう言うと、魔導炉の魔力循環量を上げるためスリープモードへ移行したのであった。
翌朝、スリープから復帰したマキナは酒臭さに鼻を抑えた。
「くっさ。メアリー!」
「はれ? まきなしゃまおきたんれすか? いま、まきましゃまのふっかつをいわって、ひっく。ふっかつをいわってさかもりちゅうれす」
「いつからやってた?」
「さくばんかられす! かわいいまきなしゃまのねがおを、ひっく。みながら……うふふふ」
マキナはドン引きしていた。
普段のメアリーには見られないものであったが、行動がおっさん臭いのである。
さらに行動はエスカレートし、マキナに腕を絡ませてきたのだ。
「うふふ、まきなしゃま~」
「こら! メアリー!変なところ触るな!」
「へぶし!」
頭突きをメアリーに繰り出し、体から引き離した。
その衝撃でよろけたメアリーはフラフラと後ろに下がっていき壁に頭をぶつけた。
「あいたー」
「少しは酔が覚めたか?」
「マキナ様のいじわるぅ。ぐすうぅ」
「寝るのかよ!」
メアリーが寝てしまってからマキナはシステムだけチェックしていたことに気が付き、体を動かし始めた。
「ふっ! はっ! 荒ぶる鷹のポーズ! せいやっ!」
格闘術の型にそって体を動かしている。
時々変なポーズを入れてわざと機体に無理をさせている。
しかし機体はきしみも上げずスムーズに動く。
次に魔導多目的ハンドガンを使ったテストに入った。
モードをソードにし、振り回し始める。
“報告、魔導多目的ハンドガンとの魔力リンクは良好”
「それはいいな」
それから何時間か体を動かし続けた。
やっとメアリーが目を覚ますと、マキナはメアリーに詰め寄る。
「何か言うことは?」
「あれ? 何でしょう、この下りいつかもあったような」
「言え」
「マキナ様が目覚めた祝杯をと」
「で? 本音は?」
「途中からお酒が美味しくなってきて……あべし!」
軽くデコピンをメアリーに与える。
そのまま右手を掴むと魔導コンピュータをマキナギアに遠隔操作させファイルを閉じた。
これにより転移を阻害していたシールドが消え、誰でもこの施設に出入りが出来るようになったのである。
当然敵も入ってこれるわけでマキナとメアリーはシールドを張り、上空に転移した。
ファイルの続きがまだスクロールされてない事に気がつくことなく。
上空に転移して見えたのは立ち並ぶビル群ではなく異質なものだった。
「なんだこれ……」
「マキナ様、人が……ポットに入れられています!」
「それは分かっている。これは……」
“スキャン開始”
マキナはその構造物をスキャンし始めた。
大量のデータが処理され、不明なプロトコルが検出された。
“スキャン完了、情報を表示”
「人間エーテルリアクタ? これは……」
「おそらく魔力のことだと思います。後はマキナ様が思っている通りだと思います」
「人間自体を自らのパーツにしているのか。アイオーンは狂っているな」
「マキナ様、開放してあげましょう。多分ですがこれがあると敵の魔力量が上乗せ、最悪魔力を搾りとられ死に至る可能性があります」
「そうだな。マキナギア、各地にこれと同じのが何個ある?」
そう言うと広域スキャンではなく、先程取得した不明なプロトコルを使いネットワークに紛れ込んだ。
セキュリティに引っかからないように位置と数だけを取り出す。
“報告、シルフ大陸には人間エーテルリアクタが少なくとも5基、1基で2億人の人が入れられている模様”
その報告を聞いたマキナとメアリーは直ぐ様行動に移った。
ステルスとディメンションシールドを合わせたインビジブルシステムで地上に降りていく。
インビジブルシステムは姿と魔力を消すだけではなく赤外線にも対応している。
ターレットや自動攻撃システムなどにも感知されない。
近くまで降りた2人は草陰から巨大な人間エーテルリアクタを見上げていた。
「上空から見ても大きかったが、近くで見るとスケールが違うな……」
「そうですね。どこかに制御端末があるはずです。でなければこんなに大勢を管理出来ないはずです」
「問題は入り口をどうやって作るかだ。全面シールドで覆われているから入り口もない。そもそも一回完成してしまえば外部へは魔力の転送しかする必要がないからな」
2人が思考していると街道に車が走ってくるのに気がついた。
マキナは反応からして魔導機械、それも戦闘タイプではない物を運んでいることに気がついた。
「あの車中にはいるんじゃないか?」
「荷台に乗っちゃいましょう!」
「そうだな」
メアリーの軽い冗談に頷くと、メアリーを抱え荷台にインビジブル状態で乗り込む。
案の定中には待機状態の魔導機械が鎮座していた。
そして特徴的なのは指が工具になっているのだ。
「(メンテナンス型魔導機械ってところか。これだけ巨大な施設を維持するにはやはりこういったメンテナンス型が必要なのだろうな)」
そう思いながら車が内部に入るまで待っていることにした。
見た目的にはマトリックスのアレです