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デウス・エクス・マキナ。
通称マキナがゴルステア大陸での戦闘で壊れてから1000年の時が流れた。
未だマキナを直せず、試行錯誤を繰り返す日々。
神官も科学者も諦めかけていたが、ある日1人の子供が生まれた。
名前はキャル・エンハンス、女性だ。
幼少期にして大学生並みの知識を持ち今までにない天才だと言われている。
年を重ねるにつねその頭脳は他の科学者を追い越していく。
そして20歳の時封鎖された地下施設にて初めて魔導炉の試作に成功する。
「やった! 出来た!」
「すごいじゃないか! キャル君! これでマキナ様の復活も近いぞ!」
他の科学者もこの試作魔導炉に希望を掛け始めた。
そこからはトントン拍子だった。
魔術、魔法に詳しい者や科学者が寄ってたかってアイデアを出していく。
それを技術としてキャルは取り入れている。
「魔導炉瞬間最大出力6000、エネルギー最大出力402800! 資料よりかなり大きな物ができた! これでマキナ様を復活させられる。メアリー様も人柱から開放される……!」
そのはずだった。
1つ見落としが有ったのを見つけてしまった。
EM変換装置である。
今の出力では一瞬にして壊れてしまう。
「こっちの設計もしなきゃ。 ええい! どうせなら魔導炉3ついれちゃえ!」
こうしてキャルのマキナ復活もとい魔改造計画が立ち上がったのだった。
そこからが忙しい事だらけ。
科学者を呼び集めてエネルギーが流れる回路の大幅な見直しと許容量のアップ。
意外と科学者達はそれに乗ってきており、昼夜問わずトライアンドエラーを繰り返していく。
あっという間に10年が経ち、キャルが30歳の誕生日ついに完成したのだ。
誕生日を控えつつ、マキナに最新型魔導炉を3基取り付け各所のパーツも付け直していく。
「これでよし。後は魔導炉を起動させるだけだね……。起動!」
キャルが代表して魔導炉に魔力を注ぎ込む。
マキナの外部ポートとつながっている魔導コンピュータが起動シーケンスを開始したことを画面に表示させる。
OSもバージョンアップされており、3つの魔導炉を効率よく扱えるようになっており新システムも搭載されている。
“再起動シークエンス開始”
“各部チェック開始”
“左腕部異常なし”
“右腕部異常なし”
“左脚部異常なし”
“右脚部異常なし”
“EM変換装置異常なし”
“人格データをロード開始”
“魔導炉3基出力10%”
“人格データロード完了”
“起動完了”
その瞬間科学者や神官、アインス家、エルフォード家、フィールド家が一斉に跪いた。
「んん。これは一体何事?」
マキナ自身が困惑していた。
それに答えたのはキャルである。
「マキナ様。今より1030年前に停止してから今お目覚めになって困惑していらっしゃると思われますが、皆にねぎらいの言葉を」
「あー。……データベース検索完了、アイオーンか。あいつにやられて……。そうか。皆ご苦労だった。私の体も以前より圧倒的に強くなっている。皆の働きに感謝する」
「ありがとうございます。この後のご予定ですが、魔導コンピュータの中にテキストファイルとして入れてあります。DEMモジュールと空間転移モジュールを取り外したら見てください」
「ありがとう。見ておくよ」
「では私達はお暇させてもらいます。話ができて光栄でした」
そう言うとキャル達は部屋の外へと出ていってしまった。
マキナは最後の言葉が気になりつつもDEMモジュールと空間転移モジュールを取り外した。
腹部のスロットに2つを差し込み、オンラインになったことを確認すると腹部を閉じる。
「さて、魔導コンピュータでも見るか」
服を着ながら魔導コンピュータをいじる。
服はミニスカートにインナーパンツ、Yシャツにベスト。
キーボードを操作し”今後の予定”と書かれたファイルを展開する。
「なになに……」
『マキナ様へ。これをお読みになっている時には私達は消えているでしょう。度重なる歴史改変が私達の存在を消してしまうことが判明し、これを残しました。』
「なんだって!?」
マキナはすぐ部屋を出ると片っ端から部屋の扉を開けるが誰も居ない、何も聞こえない。
1つ疑問が思い浮かぶ。
何故彼らは今まで存在できていたのか。
それは直ぐに答えが出た。
「私がDEMモジュールと空間転移モジュールを抜いたせいで歴史改変シールドが消えたからだ!」
自分の犯したことに憤りを感じ壁を叩こうとしたが、今自分が出せる出力がどの程度なのかわからず寸前のところで手が止まった。
「戻ってファイルの続きを読もう」
目覚めた部屋に戻ると画面に表示されている文字を読んでいく。
そこには思いがけないことが書いてあった。
『まず、メアリー様を開放してあげてください。根源魔法アイギスを発動し続けています。マキナ様が起動した今アイギスは必要有りません。エレベーターでしか行けないフロアです。312と順番に階数を押してください。』
「メアリーが居るのか。元は妖精だから寿命が無いに等しいからな。だが魔力がそこを尽きれば危ないな。すぐに行こう」
また途中で読むのをやめると魔導コンピュータからマップを表示し、メアリーの場所を探り当てる。
部屋を出てエレベーターに乗る。
先程ファイルに書いてあった通り312の順番で階数を押すと、エレベーターが動き出した。
目的のフロアに着くと、そこは大ホールになっており、魔法陣の中央に体内魔素再変換魔導機械にメアリーが入れられていた。
マキナは魔導機械を開けると、メアリーからアイギスの盾を取り上げた。
これにより根源魔法は停止する。
「メアリー。起きろ。メアリー!」
「ふあ!? ま、マキナ様! お直りになられたのですね! 今すぐハグしたい! でも魔力がぁ~」
「魔力の回復に専念していろ。私はまだこの施設でやることがあるのでね」
そう言うとマキナは元の部屋へ戻っていった。
元の部屋に戻ると、ファイルの続きを読み始めた。
「なになに?」
『次にマキナ様に新しく搭載された機能についてご説明します。システムの呼称はトリニティバーストと言います。3基の魔導炉を累乗する形で魔導炉瞬間最大出力、エネルギー最大出力が上昇します』
「で、デメリットはどうなんだ?」
『メリットとしては先に説明しましたが、デメリットもあります。今の我々の技術ではEM変換装置がどうしても冷却しきれず時間制限が掛かってしまいます。もって1分です』
魔導炉瞬間最大出力6000^3は216,000,000,000となり、エネルギー最大出力402800^3で65,673,840,152,000,000となる。
ハッキリ言ってバケモノ級の出力である。
それを処理するEM変換装置も大概だが。
『最後に、このファイルを閉じると転移阻害シールドが消えますので転移が可能になります。地上はどうなっているかわかりませんので高高度に転移することをおすすめします。最後に武装について説明します。隣りにあるボックスを開けてください』
「となりのボックスってこれか。中身は……魔導式ハンドガン?」
マキナはそれを手に取ると隅々まで確認してみたが、外見はM9に似ているが、スライドは固定式で何やら装置がスライド下に出ている。
「さてこいつの使い方はどうなんだ? 前と同じくリンクするのか」
魔導式ハンドガンを持ちながらファイルに目を通す。
『おそらくですがマキナ様を起動したのが私、キャル・エンハンスだった場合魔導炉内魔力波が私のものになっているのでATSが起動できないはずです。ですが、この魔導多目的ハンドガンならそれを補えます』
「なるほど。で?」
『この魔導多目的ハンドガンにはマジックロングレンジシューティングモード、マジックシューティングモード、マジックバーストモード、マジックソードモードがあります。長距離、近距離、魔砲と使い分けることができ、オールレンジで戦えるようになっています』
マキナは魔導多目的ハンドガンとリンクを確立する。
“システム初回セットアップ中……完了”
“オールレンジプロファイル適応完了”
“魔導多目的ハンドガンとのリンク確立”
「あー。マキナギア再セットアップしないとな。断片データからサルベージできるか」
マキナはサルベージをしつつ、ファイルを読み勧めていき付属していたホルスターを太もも付近に装着していたのだった。