由起は本当にうれしいの!
冬威の事が段々わかってくる由起!
由起と冬威は講義の関係で一旦離れそれぞれの教室に移った。
「冬威~」
遠くから手を振りながら名前を呼ぶ声がする。
声の主は隣のゼミの奈美だった。
「奈美ちゃん? おはよ! どうかしたの?」
息をを切らせながら冬威の元に駆け寄る奈美。
「冬威? 聞いたよ~朝から暴れたんだって?」
「え~知らない、人違いじゃな~い?」
少ししなを作りながらお姉っぽく言う冬威。
「何それ冬威ちょっとおカマっぽいよ? 絶対冬威だっていってたよ? それも由起の元彼関係で!」
「そうなの? 由起ちゃんそんな変なやつと関係ないでしょ?」
「冬威って女の子の事みんなちゃん付けで呼ぶよね? 奈美の事は呼び付けでいいよ?」
「え~俺ってそう言うの無理かも」
「ってか何でちゃん付け?」
「ん~女の子ってみんな可愛いじゃん? だからちゃんだよ?」
「ふ~ん…何か冬威って変わってるよね? それでさ由起の元彼のことだけどさすごくでっかくて柔道かなんかの使い手なんだって! 奈美、由起と同じ埼玉だから同県の子からきいたんだけどさ」
「そうなんだ~俺ってそゆの興味ないなぁ~」
冬威の言葉に奈美が食いつく。
「その方がいいよ! 由起の元彼の事なんかで巻き込まれたらいい迷惑でしょ? 由起なんかに関わらない方が良いって冬威~。奈美、冬威が殴られたりするの嫌だから…」
そう言いながら上目遣いで冬威に視線をやる。
「奈美ちゃんありがと心配してくれて。奈美ちゃんって優しいんだね?」
「冬威? 奈美まだライン交換してないんだけど…」
冬威のやさしい…に乗っかる奈美。
「あっごめん~今日携帯忘れてきた~」
「じゃあ電話番号教えてよ、後で登録するからさ」
「えっと…なんだっけな…。ごめんなんかど忘れしたみたい…」
「ほんとに~普通忘れる~自分の番号って?」
「奈美ちゃんに突然話しかけられてドキドキしちゃったかな…」
「なにそれ、冬威オヤジみたい~。じゃ今度教えてねって言うかちょっと待って…」
そう言うとバッグから手帳を出し自分の携帯番号を書き付ける。
「はい、これ奈美の番号。後で登録して電話してね?」
「奈美ちゃん俺ってだらしないから家に帰るまでに絶対失くすけど…」
「もう~冬威って子供みたい…。まぁそこが可愛いんだけどね…」
「なんか言った奈美ちゃん?」
「ううんなんでもないよ。いいよ失くしたらまた今度あった時に教えるからね?」
「奈美ちゃんって優しいね」
「でしょ? そうそう! 冬威~今度カラオケ一緒に行こ?」
「でも俺ってへヴィメタとかばっか聴いててあんま女の子の喜ぶようなの歌えないから遠慮しとくよ? ありがとね誘ってくれて」
「でも千秋が言ってたよ? B‘ZとかZYGGY?とか冬威が歌うとライブ行った見たいだって? 奈美も聴きたいから!」
「でも俺とカラオケ行っても女の子つまんなそうだよ? B`Zとzyggyのオンパレードだもん…。だいたいZYGGYとか奈美ちゃん知らないでしょ?」
「知らないけど…でも千秋とは行ったんでしょ?」
「そうだったっけな? もう忘れちゃったよ」
「千秋行ったって言ってたよ! 奈美ともカラオケ行こうね? ね! 冬威!」
「だから俺と行ってもつまんないって奈美ちゃん」
「つまんなくても良いの!絶対一緒に行くからね奈美は! じゃあね冬威! 奈美授業あっちだからまたね~。あと由起には気をつけてね?」
大げさに手を振りながら立ち去る奈美。
「由起ちゃんと奈美ちゃん、おんなじ埼玉県出身なのにあんまり仲良くないのかな? 千秋ちゃん奈美ちゃんと同じゼミ? 大丈夫かな…千秋ちゃん大人しいから…」
そんな事を考えながら講堂の一番前の席に陣取って講義を受ける冬威。
一番前の席が冬威の定位置だ。
90分間眠ることもなく講義を聴く。
普段はボケッとした冬威だがこの時ばかりは集中する。
無駄話をする相手も最前列の席にはいないので集中して受けた講義のあとはややグッタリとなる。
次ぎの講義のためにボーっとしたまま講堂をでてキャンパスをやはりボーっと歩く。
「冬威君…」
後ろから小声で冬威を呼ぶ声がする。
「ん?」
冬威が振り返った先に小さな女の子がそっとたたずんでいる。
可愛らしい顔をしているのになぜか暗い表情だ。
「千秋ちゃん! 元気?」
「元気です…冬威君、奈美ちゃんから冬威君の電話番号教えてって言われた…」
「千秋ちゃんそしたら教えてあげてよ」
「でも…私冬威君の番号教えてもらってないし…だから私も今日は携帯忘れたって嘘ついちゃいました‥」
「えっとそうだったっけ…ごめんじゃあこれ」
そう言うとポケットから携帯を取り出す冬威。
「えっ? 冬威君携帯忘れたって奈美ちゃん言ってたけど?」
「あ? あ、そうだったっけね。いけね」
そう言いながら自分の番号を千秋に示そうとする冬威。
「冬威君…今日はそのまま忘れたって事にしておいて…千秋あの子あんまり好きじゃない…。冬威君の番号を教えるのなんか嫌です」
「千秋ちゃん? そっか、でもあの子とは上手くやったほうが良いよ? 同じゼミでしょ? だからこれ」
冬威は自分の携帯番号を書き記し、メモを2枚千秋に渡す。
「一枚は千秋ちゃんの分、もう一枚をあの子に渡しておいて。それから千秋ちゃん? 俺の事は冬威って呼びつけにしな?」
「どうしてですか? 先輩の事を呼びつけになんか出来ません」
「いいのいいの! その方が自信があるように強く見えるからさ、そしたらさ人前では冬威って呼びつけにする事! ねっ千秋ちゃん」
「わかりました…」
「千秋ちゃんは可愛い後輩なんだからさ。ん? なんか今日元気ないよね?」
「可愛い後輩とか言って…一緒にカラオケ行った事忘れてたくせに…あの子が言ってました‥」
消え入りそうな声でささやく千秋。
「ってあれはあの子にカラオケ誘われて断るのに困ってそう言ったんだよ~ごめんね千秋ちゃん? 千秋ちゃんの西カナ可愛くって好きだよ俺。とにかく千秋ちゃんは優しいからあの奈美って子みたいな女の子に嫌な思いさせられそうで心配なんだよ? だから俺の事を冬威って呼んでちょっと強気なイメージでね?」
「わかりました…そうしたら人前では冬威って呼びます…じゃああんまりあの子に冬威君の番号教えたくないけど…明日にでも渡しておきます…」
「千秋ちゃんよろしくね! 思いっきり恩着せがましく冬威から預かってきたって言うんだよ! じゃあね」
「はい…渡したら電話で報告します…って冬威君次同じ教室で講義ですよ?」
「あ、そっかじゃあ一緒に行こう千秋ちゃん!」
ふたりで並んで次ぎの講堂に向かって歩く。
心なしか千秋の表情が明るくなっている。
例の如く最前列に座る冬威。
千秋もなんの疑問もなく最前列で冬威の隣に座る。
その時冬威を呼ぶ声が後ろから聞こえてくる。
「と・う・い~」
「ん?」
振り返る冬威。
「由起ちゃん!」
「由起っ! でしょ?」
そうきっちり訂正するのは他でもない由起だった。
「あ、ああ由起?」
「なんで由起?ってクエスチョンマークなの? 由起でしょ!」
つかつかと歩み寄りやはり最前列の冬威の横に座り千秋に声をかける。
「こんにちは? 冬威と同じゼミの由起です。よろしく」
「こ、こんにちは…由起さん。千秋です」
「由起っでいいよ? 千秋ちゃん!」
「は、はい…」
「冬威っ!どおゆう関係?」
由起が冬威の耳元で小声でささやく。
「千秋ちゃんは地元の中学の後輩だよ?」
「後輩…? って冬威って現役生じゃなかったの?」
「そだよ、一浪! だから後輩の千秋ちゃんと同級生~」
そう言いながら陽気に笑う冬威。
「冬威君そんなことわざわざ言わなくても…」
むしろ千秋が気まずそうにささやく。
「千秋ちゃん? 人前では冬威って呼びつけにしなって言ったよね? 千秋ちゃんはもっと堂々として元気にね?」
「はい…でも今は冬威君でいいですか?」
「う~んほんとは早く慣れた方が良いんだけどな~」
「って冬威は人の事言えないでしょ? 由起ってなかなか呼べないんだから! ねっ? 千秋ちゃん」
由起がそう言うと千秋が明るく笑った。
「千秋ちゃん笑ってた方が全然可愛いよ!」
由起がそう言うと千秋が照れたようにまた笑う。
「って冬威? なんで今まで黙ってたの? 浪人生だって!」
「いろんな事があって? そんなこと話す暇なかったような気がするね由起?」
「え? あ、そうだった…でも…うれしい~冬威は浪人生だったんだ!」
なぜか由起が声をあげて喜ぶ。
「ん? 由起? それって嫌味? そっか~由起は結構感じ悪い子だったんだね? ね? 千秋ちゃん」
「ちょっとそれどういう事~嫌味じゃなくて由起は本当にうれしいの! 冬威は由起よりお兄さんだったんだって!」
講堂の最前列で互いが互いを知ろうと想いが飛び交う。
冬威の回りに明るい光が射していた。