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ふたりを隔てられるものは、もう何もないわ

未来への帰還を前に残りわずかな時間を共にする冬威と由紀と」家族たち。

ラストを目前になんだか淋しくなってきて更新が遅れがちです…

「冬威…辛いけれどあなたが元の時空に帰るべき時が来たと思うの…」

冬威だけでなくリビングに居る全員に向けて奈々が言う。

奈々の言葉に何も返すことができない面々をゆっくりと見回す冬威。


もう既に覚悟はできていたものの、奈々の言葉により客観的に現実を捉え気を落とす由起。

そんな由起の側に近寄りその肩に手をやる冬威。


「母さん…わかっているよ。俺はこの時空で『為すべきを為した』。今度は元の時空に帰って俺がするべきことをしなければ…」

由起を見つめる冬威の目は複雑な想いが浮かべられていた。


「この時空での事は何も心配することはないわ。由紀ちゃんにはしばらくここから学校に通ってもらう。勿論この時空のあなたがナイトの様に由紀ちゃんを守るわ。あなたは何も心配せずに未来の自分として生きなさい」

そういうと傍らの由起の膝にやさしく手を置く奈々。


「お兄ちゃん、あたしたちもついてるんだから心配いらない」

「冬威、何があろうと美夏が由紀ちゃんを守る!」

双子が冬威を見つめる。


「みんな、淋しがることなんて何もないわ。未来の冬威も今の冬威もいつだって私たちの側にいるんだから」

奈々の言葉に由起が反応する。


「冬威…早く未来の冬威に追いついて冬威に逢いたい。その時まで絶対に由起のそばを離れないでね。必ず冬威の所に行くから…」

心細げな顔をする由起。


「由起、俺はいつだって由起のそばにいる。時空を超えてここまでこれたのも全て由起の力だ。由起が俺に力をくれる。これから先もずっとだ。未来に帰ってもいつだって由起を感じずにはいられない…」

肩に置いていた手が由起の手を強く握る。


「この手をずっと離したくない…」

「この手はずっと離れる事なんてないさ。ずっと一緒だ、この先の未来までもずっと…」


「由起も冬威と一緒に未来に飛んでいきたい…」

「ダメだよ…由起にはこの時空の俺と大切な時間を築いてもらわないとね…未来の俺たちのために」

「未来のふたりのために?」

「そうさ! 由起とこの時空の俺との時間が未来のふたりを創るんだよ?」

「…」

無言になり考え込む由起。


「冬威それってこれからの由紀ちゃんと冬威が上手く行かなくって別れちゃったら未来のふたりも一緒じゃないってこと?」

言いずらいことをズケズケと言ってのける美夏。


「そりゃあそうだろ? 過去のふたりが別れてるのに未来のふたりが一緒な訳ないだろ?」

「お兄ちゃん! そんなの美優が許さないから!」

眉間にしわを寄せる美優。


「いやいやいや、俺に怒るなって! これから先の由起と今の俺の話しだろ?」

冬威が慌てた風に美優に言う。


「わかった…」

無言でうつむく由起が呟く。

「由起? 何がわかったの?」

そんな由起の顔を心配気に覗き込む冬威。


「由起はこれから、朝から晩までびっちり冬威にくっついて離れない…。冬威に近づく女の子がいたら威嚇して不幸の手紙とか送っちゃったり、嫌がらせとかしちゃうんだから…」

由起の目に暗い光が宿る。


「おいおい…」

冬威ばかりでなく双子も呆れたように突っ込みを入れる。


「って由起? 不幸の手紙って昭和じゃあるまいし、逆にによくそんな古いこと知ってたね?」

「由紀ちゃん流石に朝から晩までびっちり…はかえって仲悪くなるかも…」

「由紀ちゃん心配しなくても冬威は変な奴でアホだから女の子なんて寄って来ないって…」

三人が三様の突っ込みを入れる。


「い~え! 由起はもう決めましたから! 未来の冬威に追いつくまで決して油断はしないって! 未来のふたりにとって少しでも脅威となる事には容赦しないんだから!」

由起の目つきが鋭く変わる。


「…」

今度は3人が無言になる。


「フフッ…由紀ちゃんも私と同じで相当な焼き餅焼きね。由紀ちゃん本当は未来の由紀ちゃんに嫉妬してるんでしょ?」

奈々が可笑しそうにしかしズバリと言う。


「…」

由起が再び無言になる。

「図星ね、私には由紀ちゃんの気持ちすごくわかるの。でもね、よく考えてみて? 未来の由紀ちゃんはこの由紀ちゃんの延長線上に存在するのよ。う~ん…つまり今の冬威も未来の冬威も両方とも由紀ちゃんの冬威よ!」


「由紀ちゃんの冬威って…母さんそれじゃあ俺、まるで物みたいだよ…」

不服そうに言う冬威。


「未来の冬威も今の冬威も由起の冬威…」

奈々の言葉を小さく反芻する由起。

もはや幼子のような心境になっている由起であった。


「未来に戻った冬威はこれから先の由紀ちゃんと冬威の間にあった事を記憶としてとどめていないはずよ。だってそれはこれからふたりで創りあげて行くんだから、この冬威は知る由もないわ」

「そっか…これから創られる想い出を俺は知る事が出来ないし、そこに一緒にはいられないんだよな…」

奈々の言葉を聞いて今度は冬威までもが複雑な顔をする。


「冬威? もしかして今の冬威に嫉妬してる?」

由起が冬威の顔を覗き込む。

「…うん…なんだか今の由起の気持ちがわかった気がする…」


「うれしい。なんだか不安が消えていくみたい!」

そう言うと母親や双子姉妹の目を気にすることなく冬威の胸に顔を埋める由起。

「どういう事?」

怪訝な顔をする冬威。


「冬威も由起とおんなじ気持ちになってくれてたってわかったらなんだか不安じゃなくなってきた。気持ちが一緒だってわかってうれしい。きっと時空を隔ててもふたりは同じ気持ちなんだって思えたの」


「そうよ、ふたりを隔てられるものは、もう何もないわ。不安になんか思う必要がないの」

奈々がまぶしそうにふたりを見つめて言う。


「でも母さん俺はこれから先の由起と俺との時間を知る事が出来ないのかな?」

不満気な冬威。


「そんなわけないでしょ! 今の冬威も未来の冬威も同一よ? 記憶は恐らくある手段で、それまでの冬威と未来の冬威との間で統合されるわ」

奈々が確信的に言うがその手段については具体的に表現しない。


「ある手段って?」

冬威が奈々に尋ねる。


「それは私とあなたの父親、それから私と親友の京子ちゃんの間で既に実証済みなの。異空間と現在~未来間とでちょっとニュアンスは違う状況だけど恐らく間違いなく同じ方法で記憶が蘇るというか伝達されるはずよ」

もったいぶるように自身の経験として語る奈々。


「だからその方法って何なの? 教えてよ母さん」

冬威が再度奈々に問いかける。


「それは先のお楽しみ! 映画のラストシーン知っちゃったらその映画見る気になる?」

「それはそうだけど、これは映画じゃないし!」

「人生はドラマチックでロマンチックでスペクタクルでミステリアスでコミカルな映画よ! 先の楽しみを奪ってせっかくの味わいを損なうことないわ。それに…愛するふたりのラストシーンはだいたい決まってるものよ」

意味深な言い方をする奈々。


「って何言ってんだよ母さん? もったいぶらないで教えてくれって! 大切な記憶が欠如するなんて辛過ぎるって」

冬威が珍しくむきになって言う。


「その辛さ私も味わったわ。本当に辛いものよ大切な記憶が抜け落ちるって…」

「だから息子に同じ辛さを味あわせたくないでしょ?」

「ううん、ちゃんと味わって! それに由紀ちゃんにはもう答えがわかったみたいよ?」

そう言うと由起の方に目をやる奈々。


「お母さん、冬威君はちょっと鈍感な所があるからそこは由起がちゃんとフォローします」

奈々と由紀は共犯者のような顔で微笑みを交わしていた。


「なんだよ由起まで! どうすればいいのか俺にも教えてくれって! だいたい、『ううん、ちゃんと味わって』ってそれが母親の言う言葉かよ?」

「冬威? 冬威は何も心配しなくていいの…。由起がちゃ~んとリードしてあげるから!」

由起もまた意味深に冬威に言う。


「きゃー由紀ちゃんってば大人っ!」

双子が声を合わせて由起に言い可笑しそうに笑う。

「なんだよお前たちまで馬鹿にして!」

双子に向けて冬威が言う。


「冬威は由起に任せてけばいいの! そうだな…由起がお願いした『合言葉』をちゃんと覚えてて実行すればいいよ!」

「合言葉…」

ますますわからないと困惑した顔をする冬威とそんな冬威を可笑しそうに見る女性陣。


「由起は未来が楽しみになってきた! 未来の冬威に胸を張って伝えられるように今の冬威と素敵な思い出をたくさん創るの!」

困惑する冬威をしり目にキラキラした目で由起が言った。


その目はしっかりと未来を見据え、輝きを増しているのだった。


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