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これは必然、ふたりの未来が求めている流れなのよ

冬威と由起の別れの時が近づいてくる。

由起と冬威は金谷フェリー乗り場を後にし自宅へと戻って来た。

「ただいま」

ドアを開けたふたりが声を合わせて言う。


「おかえり~おふたりさん」

美夏と美優もやはり声を合わせて返す。


「由起ちゃんどこに行って来たの?」

由起がリビングのソファーに座るや否や美優が聞く。

「金谷フェリー乗り場に行って来たの。夕陽がきれいだった」


「じゃああれだね、『幸せの鐘』鳴らしてきたね?」

美夏が茶化す様に問いかける。

「うん、夕陽の中で鐘を鳴らして来たよ…」

はにかむ由起。


「やったね由起ちゃん! 永遠の恋が成就! だね!」

美優は由起の肩をポンと叩く。

「うん…なんか照れ臭かったけど…でも美優ちゃん? 冬威の場合本当に永遠の恋で終わらせそうでなんか不安…」


由起が冬威のことを横目で見ながら美優に打ち明ける。

「確かに~冬威はその心配あるよね美優?」

「由起ちゃん心配ないって、あたし達やママも公認の由起ちゃんなんだから!」

「ほんと! 由起うれしい! 美優ちゃんお願いね、冬威ってちょっと…ってかだいぶ鈍感なところあるから~」

「あるある!」

双子が声を合わせて由起に返す。


「おいおい…本人を目の前にして思いっきり悪口言うなよな…母さんキッチンにいるからって…」

「冬威が女心わからないのが悪い!」

今度は三人の女の子が声を合わせ、そして笑い出す。


「はいはいはいはい…どうせ俺は女心なんてわからない鈍感な男ですよ…」

開き直る冬威。

「でもそのくらいがちょうどいいのよ」

キッチンからコーヒーを運びながら奈々が言う。


「そうなんですか? お母さん」

由起が奈々に媚びるようにすり寄る。


「そうよ、冬威の鈍感なんてうちのマサに比べたら可愛いものよ! マサなんか過去に4回も私とニアミスしてるのに5回目に会ってからしばらく、その事をかけらも思い出せなかったんだから! もうどれだけヤキモキさせられたか!」

奈々が眉間にしわを寄せて憤りを表現する。


「それはひどい…」

三人娘ばかりでなく冬威までもが声を合わせる。

「でしょ~。もっともその内3回は私も後から記憶を呼び起こしたんだけど…」

奈々が謎めいた言い回しをする。


「だから冬威の鈍感なんて可愛いものよ。それに変に気が利く男より安心よ。そうねぇ…ドラえもんで言ったら…頭が良くてモテモテでイケメンの出木杉君より、鈍感でそれほど頭も良くなくてイケメンじゃなくても私だけの、のび太君の方が安心でしょ?」


「う~ん例えが微妙だけど…考え様によってはのび太君は安心かも…」

由起が感慨深げに言う。

「でしょでしょ~。刺激的なのが良いのは恋まで。長い一生…っていうか同じ時間を共に生きるのならひと時の刺激よりも、安心と安らぎと何もかも包み隠さずにさらけ出せる安堵感よ!」


「なんかさっきからそれとなく悪口言われている気が…」

冬威が複雑な顔をする。

「決めた! 由起ものび太な冬威君が良いです!」

「そうよ~由起ちゃん。ちょっとくらい鈍感な男の方が操縦しやすいんだから! 気が利く男は悪さにも起用なんだからね?」


「はいっお母さん。由起はのび太な冬威君が良いです!」

「だからそれって悪口じゃあ…」

「あら、悪口じゃないわよ。のび太君はダメなところもあるけど純粋で優しいところもあるじゃない。だからヒロインの静香ちゃんと結婚したでしょ? 私は美夏や美優の旦那さんにはそう言う男の人が良いと思ってるわ。最後に信じられるのは誠実な愛と優しさだけよ」


「う~ん奈々が言うことはなんとなくわかるけど…美夏も美優もイケメンの方が良いぞ!」

「美優は…イケメンよりもパパみたいに優しい人の方がいいと思う…ママ見てると…」

「そっか…そう言われてみれば奈々はマサが家にいると一日500回くらいマサマサって名前読呼んでなんかしら頼んでるよな…」


「500回ってすごいですねお母さん…っていうかお父さん…」

「イケメンだろうがなかろうが、誠実な愛であなたたちを守ってくれる優しい人が一番なのよ」

そういう奈々の眼は遠い世界を見つめるようであった。


「マサもきっと同じように考えているわ」

「お母さんとお父さんってすごく仲が良いですよね」

「そうよ~仲が良いわ! 冬威と由起ちゃんとおんなじで私とマサも時空を超えて巡り合って、そして今こうして愛おしい家族と由起ちゃんと一緒にいるんだからね~」


「奈々は時々そんなこと言うけどなんなんだよ? 異空間がどうとか?」

美夏が問い詰めるように言う。

「あなたたちがもう少し大人になったら教えてあげるわ」

「ってもう結構大人だよ? ママ?」

口をとがらせて言う美優の、その物言いがいかにも幼子の様であった。


「そうね…いつか大きな壁にぶつかって何もかもあきらめてしまいたいようなそんな気持ちになることがあったら教えてあげる。考え、正しく選択し、行動することの大切さを。そして正しい行動は必ず素晴らしい結果をもたらしてくれることを…。私たちの周りで起きていることは決して偶然なんかではなく必然性を持って起きているの。だから何がどうなっているのか、これからどうなっていくのかあらゆる可能性を視野に入れて考えるのよ」


「由起ちゃん…冬威との出会いと別れにも必ず意味がある。ふたりが通らなければならない道なのね。不安になんか思うことはこれっぽっちもない。さみしがることも悲しむこともない。これは必然、ふたりの未来が求めている流れなのよ」


「お母さん…」

「ふたりは未来で必ず結ばれる。このひと時に囚われないで。愛し合うふたりにとって時間は永遠よ。愛は時も空間も越えていつだってふたりのそばにあるの。そして感じ取ることができるわ。時は刹那に過ぎ行くけれど、永久に私たちの中に存在し得るものでもあるのよ」






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