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由起は願うの…冬威の未来を、冬威と由起の未来を…

谷底に横たわる冬威の救出のため多くの仲間たちが動き出す!

『ひとつ』の目的を果たすために多くの意志が『ひとつ』に収束される。

深い闇に包まれた谷底で雨に打たれる冬威。

雨が増々強く降り、冬威の体に打ちつけていた。

岩肌から山水がわき出て谷底に流れ出てくる。


その量はまだ微量ではあるが雨が降るにつれ増えていくことだろう。

冬威はその最後の『願い事』を叶え時空を超えて由起の元に旅立った。

そして自らの悔恨の元になっていた卯月、葵衣、由起の過去を変えるとこに成功したのだ。


しかし谷底に横たわる自らの現実は変えることは出来ない。

卯月や葵衣、由起がそうであった様に一旦起きた事実を無き事としてもいずれ同じ流れに収束されてしまうのである。


冬威にとっては谷底に落ちるという事実が越えなければならない現実であるようだ。

過去の悔恨を消し去って尚この事態に変容は加えられなかった。

時を司る意志が冬威与えた試練がまさに今なのである。


愛する者の未来を切り開いた冬威。

本来であれば自ら切り開くべく自身の未来は今や己の力ではどうにもならない事態となっていた。

雨に打たれ奪われ続ける体温。

谷底に溜まりつつある雨水はいずれ冬威を飲み込みその呼吸を奪うであろう。


そして冬威の意識は未だ過去にある。

取り戻した愛おしい者たちの未来を噛みしめながら過去に止まる冬威。

しかし当の本人の未来はまさに奪われつつあった。


「美優ちゃん、由起は美夏ちゃんと合流したわ」

「由起ちゃん、美優も冬兄ふゆにい冬姉ふゆねえと合流したよ! 今、お兄ちゃんのいるところに向かってる」

「美優ちゃんそっちの雨はどう? 千葉の方はだいぶ止んで来たけど…」

「由起ちゃん…こっちはまだ降ってる。まだ雨足強い…」


一通り相互の状況を伝え合った後由起と美優が言葉を失う。

「由起ちゃん、大丈夫だ! 今冬威ちゃんを助けに向かってる。他の仲間たちも向かってくれてる。冬威ちゃんは俺たちが必ず助けるから!」

美優の携帯に向かってキープが叫ぶ。


「キープさん…」

電話の向こうで由起が呟く。

「コマネチ~キープちゃんが来たからにはもうなんも心配ないのだ~。キープちゃんのラインに続々返信があるよ~。『軽トラ出します、もう向かってます』『ロープ手配しました。うちからは3人向かってます』『軽トラ、ロープ、屋外照明持って向かってます』『毛布、携帯酸素持って向かってます。救急車も手配しちゃいました』」

有以がキープのラインに返信されたメッセージを読み上げる。


「って感じで仲間も続々集まってるからもう心配ないよ由起ちゃん」

キープが努めて明るい声で由起に伝える。

「キープさんありがとう…」


「美優、美夏もそっちに向かってるけど位置がよくわからない。バックアップお願いね!」

「了解! 順次詳細なナビゲーションするから迷ったら電話して! 美夏、事故に気を付けてね!」

「大丈夫! 冬威仕込みのドライビングだよ? 峠道のイロハも体に染みついてるって!」

そう言うと由起に微笑みかける美夏。


「由起ちゃん心配ないよ。冬威はアホだけどタフだから。今までもこんなこと何度かあったけどきっと立ち上がって這い上がって来たんだから。そんでさ、『まいったな、ははっ』って笑うんだ。今度だってきっとそう!」

「美夏ちゃん…そうだよね。冬威は絶対大丈夫」

「だね、由起ちゃん。冬威は由起ちゃんがそう願っている以上必ずその『願い事』を叶えるよ。あいつはそういう奴だから」


美夏は左手で由起の右手をギュッと握った。

まるで自分に言い聞かせるように由起の手を強く握る美夏。


『冬威の無事を願うこと…それはきっと由起だけでなく冬威の周りのみんなが願ってくれていること。でも由起の『願い事』は特別…冬威はいつだって、時空を超えてまでも由起の『願い事』を叶えてくれるんだから…。由起は願うの…冬威の未来を、冬威と由起の未来を…』

由起は胸の前で手を組み強く願った。


時空を超えたふたりの強い絆は呼応し合っている。

由起の強い願いは時空を超え冬威に届く。

過去を変えた冬威は自分にとっての今を変える。


過去が変容したそのうねりの中で冬威の今を変えようとしている。

しかしそれは冬威自身の力によってではなく、冬威の周囲の愛すべき仲間たちによって成されようとしていた。


様々な意志が一つの目的の為に収束し『ひとつ』になろうとしていた。

量子レベルの小さな小さなエネルギーであるはずの意志は、目的の為増幅し寄り集まって力を増し世界を変えようとしている。


この世界は意志で満ちている。

偏在する数多あまたの意志は、各々が選択し行動しこの世界の舵を取る。

数多の意志のそれぞれの選択と行動が世界を動かしているのだ。


意識するとしないに限らず生きるものの意志は世界を変えている。

肉体的な存在無き者の意志も同様にこの世界に影響を与えているはずだ。

途方もない数の意志のそれぞれの思惑が重なり合いぶつかり合いながら世界は回り、変わり続ける。


『ひとつ』になること…

数多の意志がいつか大いなる選択を迫られる日が来るだろう。

その時こそこの世界は大きく変容していく。

来たるべき選択の日までに、この世の意志が『ひとつ』になり正しい選択ができるように…。


時を司る大いなる意志はその日まで何度も何度も投げかけてくるだろう。

数多の意志を試すべく試練を。

『ひとつ』になるための物語を…


冬威もまたその渦中にいた。

冬威を取り巻く意志たちは今、『ひとつ』になろうとしていた。






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