表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/84

冬威が由起のそばにいないのなら未来なんていらない…

未来の冬威との別れが近づいてきたことを感じる由起。

未来の冬威を救えるのは由起。

「由起ちゃん!」

冬威の家に着くなり美夏美優が由起に抱きつく。


「良かった無事で…お兄ちゃんからの連絡をママから聞いてあたし達ずっと心配してた」

「ごめんね心配かけて、でも冬威達が守ってくれたよ」

双子を抱きしめ返す由起。


「由起ちゃん早く上がって。疲れたでしょ」

「お母さんすみません」

「何にも心配しないでうちにおいで」

「ありがとうございますお母さん」

そう言うとリビングに入りソファーに腰掛ける由起。


「由起ちゃんしばらくここから学校に通いなさい。怖い目に合ったお部屋で独りで過ごすの不安でしょ?」

奈々が由起のそばに座り、肩に手をかけながら言う。

「母さん、俺もそう考えていた。由起を独りにしたくない…」

冬威が思いつめたような顔でそう言う。


「冬威…でも…良いんですかお母さん?」

「何も気にしないで自分の家だと思って過ごしてね。美春みはるの部屋が空いているからそこを使って、美春にはもう許可を得ているしあの子几帳面だからいつ誰が部屋を使ってもいい様になってるの」

「美春…さん?」

それは由起が初めて聞く名前であった。


「美春はあたし達のねえちゃんだよ!」

「美春お姉ちゃんもきっと由起ちゃんのこと気に入るよ!」

双子がさもうれしそうに言う。


「美春はうちの長女なの。冬威の姉よ」

「お姉さんもいたんですね、初めて知りました」

「って冬威! 由起ちゃんになんも教えてないのかよ!」

美夏が荒々しく言う。


「いやいやそんな細かい事話している余裕ないくらい短期間でいろいろあったんだって! ね? 由起?」

冬威が言い訳がましく言い由起に助けを求める。


「うん…確かにそう言う話する余裕なかったかも」

「え~もう一人いるんだよ?」

美夏が声を上げる。


「もう一人いるの?」

更に驚く由起。


「美優たちとお兄ちゃんの間に秋ちゃんがいるの」

「美優、秋ちゃんじゃわからないだろ? 秋良あきらって言うんだよ由起ちゃん」

「美春と秋良は独立して家を出ているのよ。うちの子は美春、冬威、秋良、美夏、美優の5人なの。あと…由起ちゃんも、もうちの子だから」

奈々が当然、という顔で言う。


「お母さん…ありがとうございます、そんな風に思って下さって…」

「由起ちゃんは秋良のひとつ上のお姉さんになるのね」


「家族が増えるとうれしいね! 美夏!」

「そうだね冬姉と冬もいるからあたし達姉妹がたくさんいるね!」

「冬姉と冬って?」


「美夏? それじゃあ由起ちゃんにわからないでしょ?」

「あ、そっか」

「由起ちゃんあのね、美優たちの同級生の千冬ちふゆと千冬の姉さんの千秋ちあきちゃんもあたし達と姉妹みたいに仲良しなの! うちには秋ちゃんがいるから紛らわしくない様に千秋ちゃんのことを冬姉って呼んでるの」


「千秋ちゃんにも妹さんがいるんだ…。女の子いっぱいだね」

由起が指折り数える。


「あれ? 冬威寝てる」

美夏がソファーの隅で寝息を立てる冬威を指差す。

「あら本当、疲れたのねさすがに」

 何気なく話す美夏と奈々を尻目に由起が必死の形相になる。


『冬威…左腕…』

そう心の中で呟く由起。

『良かった…白い腕時計している…。この冬威は未来の冬威。まだ未来には帰っていない』

安堵の表情を浮かべる由起に気が付く奈々。


「どうしたの由起ちゃん?」

「いいえ…なんでもありませんお母さん。ただ…冬威君の左手に白い腕時計があるのか気になって…」

「由起ちゃん…」

悲しげな顔をする由起に語りかける奈々。


「由起ちゃん? 今度のことで由起ちゃんの未来は確定的に変化した。警察署で取り調べを受けている合間に冬威が連絡してきたわ。変更前の過去では、今回捕まった男は逮捕されていた。でも今回当初は逮捕されるような事態を回避して由起ちゃんを守った。だけど結果的に再度由起ちゃんを危ない目に合わせる事となった。冬威はこう言っていたわ『過去のあの時点と同じ様に逮捕されるという事態に帰着させないと同様の行動を繰り返すはずだ。だから今回は由起に危害が加わらない様に守りながら帰着点に落とし込んだ』って」


「冬威君…そこまで考えてくれてたんだ…」

「由起ちゃん、これで由起ちゃんの未来は大きく変わった。由起ちゃんが元気でいてくれれば冬威も谷底の石ころみたいにならなくて済む。由起ちゃんの未来が冬威の未来もきっと変えてくれるわ」

奈々は遠くを見るような目線の先に、今まさに谷底で瀕死となっているかもしれない我が子を捜した。


「はい、由起もそうでなくては困ります…冬威が由起のそばにいないのなら未来なんていらない…」

思いつめたような目を悟られない様にうつむく由起。


「そんなこと言わないで由起ちゃん。大丈夫、ふたり一緒の素晴らしい未来が開けているわ。いずれふたりにもゆっくり話したいことがあるの。私と雅樹さんは絶望的な事態を力を合わせて互いをかばいながら切り抜けて来たの。そして今がある。冬威と由起ちゃんも力を合わせて頑張って来た。ふたりはもう『ひとつ』よ。何も心配しなくてもいいわ」


「お母さん…」

由起の手をしっかり握る奈々。


『未来の冬威と由起は絶対一緒。でも…この冬威とはお別れしなければいけない…。未来の冬威が本来の場所に帰ってもここには同じ冬威がいる。わかってるんだけど…わかってるんだけど、やっぱりさみしい…』


「由起ちゃん? 過去現在未来全ての冬威は同一。どんなに離れていても瞬時に同化する。そして由起ちゃんと冬威も同様。意識のレベル、意志のレベル、魂のレベルでふたりは『ひとつ』。同化していると言っても良いと思うの」

由起の想いを見透かすように奈々が言う。


「由起ちゃんの想いが冬威の想いとなり、冬威の願いが由起ちゃんの願い事になる。冬威の願いが由起ちゃんとの奇跡の再会を引き寄せた。今度は由起ちゃんの願いが奇跡を起こすはずよ。だから私は何も心配していないし、不安にも思わない。ふたりの奇跡を目の当たりにしているからね。当事者同士は当然主体者だからそれがかえって真実を見えなくしているかもしれない。だけどこの奇跡は紛れもなく真実で事実なのよ。ふたりが起こした時空を超えた奇跡なのよ」


そう言うと由起をしっかりと抱きしめる奈々。

「ふたりが起こした奇跡…今度は由起が起こす奇跡…」

「心配しなくても大丈夫。きっと奇跡は起こるわ」


冬威を愛する想いがリビングに広がり、七色の光となって家族を包んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ