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まさに人生は最高のショーね!

車中で盛り上がる冬威と柳瀬。


館山道君津インターを過ぎる。

もうしばらく走らせれば金谷インターチェンジに到着する。


「柳瀬さん、やはり大きな物質が転移可能ないわゆるタイムマシンは出来ていないと考えるのが妥当ですね」

「どうして? さっきはタイムマシンが出来ているかもしれない、そして出来ていたとしても世間には露見しないって?」


「ええ、そうです。確かにそう言いました。でももし、ある程度の物質の転移が可能ならば、タイムマシンを所持している者は大規模な兵力を、例えば第二次世界大戦時やもっと悠久の過去に派遣して武力で世界を統治すれば世界を制圧できる。だけど少なくとも現時点でそんな極端なことがなされていない」


「タイムマシンを所持しているのが個人だとしたら?」

「個人であれば兵器や兵力は無理ですね。そうするとそんなに大それたことはできないか…でも確率的には大規模な物質を転移できるタイムマシンが存在する率は低いと考えます。するとやはりタイムトラベルは俺の様に量子レベル、エネルギー体レベルでの転移が現状では限界なんじゃないかなって」


「個人レベル、意識の転移のみであれば世界征服的な大胆な変革は難しいわよね。でも個人を抹殺するとか発明や発見を先取りして我が物にすることは可能ね」

「そうですね、そのレベルであれば現在も行われている可能性は高い。もっとも自分以外のタイムトラベラーのことは確認のしようもありませんが…」


「冬威君…CERNはどこまでのテクノロジーを得ていると考える?」

柳瀬が神妙な顔をする。

「ユーチューブの見出しレベルでしか情報がないので何とも言えませんが、恐らくCERNは偶発的な瞬間移動や空間を歪めると言った現象を実験の過程で観測しているに過ぎないのではないかと」

「…」

無言になる柳瀬。


「量子を機械的に制御することで量子コンピュータや量子シミュレーター、量子暗号通信などへの応用が期待されていますが、量子ビットの状態を長い時間にわたって保ち続け、そのうえで自在に状態を制御するためには、雑音による誤りの発生など、いまだに多くの課題が存在しているようです。量子ビットの集積化へ向けた大規模な研究・開発が世界中で始まっていますが集積化された多くの量子ビットの上で、任意の量子状態を自在に操り、長時間保持し続けるということは、いまだに人類は到達していません。つまりCERNさえも実用化までにこぎつけてはいないはずです」

「CERNは一体何を求めているのかしら…」

不安気な顔をする柳瀬。


「シヴァが求めていることはその企業体の性質にもよりますが仮に軍需産業であれば破壊兵器、空間を任意に歪めて圧力をかけ人工的に地震を発生させるような従来の破壊兵器とは一線を画する大量破壊兵器への応用などが考えられるかと…。この場合兵器としても強大ですが例えばシヴァがコングロマリットであった場合巨大地震を発生させ建物や道路、鉄道などのインフラを破壊し…そしてその後、復興の為に正当な事業として入り込み利益を上げるとか…流通が崩壊した地域に食料や衣類、燃料などを販売すると言う形で利益を上げることも可能かと…」


「永遠に利益を追求し続ける企業体…。彼らの非情なまでの経済活動は常人では考えもつかないことをしかねないものね…」


「CERNがどこまで行きつけるかはわかりませんがこの領域においてトップクラスの情報と手段を持っていることは間違いないですね。そしてその実験の場をグレードアップさせようとしている」

「今は偶発的に破滅的なクライシスを引き出さない様に祈るしかない…。でもいずれ彼らを制止しなければ…」

『やがて世界は終焉する…』という言葉を飲み込む柳瀬。


「冬威君は未来へのタイムトラベルに興味はないの?」

「どう言うことですか?」

怪訝な顔をする冬威。


「ううん、もし私にタイムトラベルの能力があったら未来に行ってみたいな、なんてね」

「確かに興味深いですよね…でも」

「でも?」

「柳瀬さん映画は好きですか?」

「好きだけど」

「俺も好きなんですけど、例えば映画を見る前からラストシーンを知ってしまったら?」

「どんな面白そうな作品でも見る気が失せるわね…」

「ですよね?」

冬威が当然と言う顔をして言う。


「なるほどそう言うことね」

「どんな未来になるのかは今の生き方で変わるし、その結果作られる未来からの影響で今も変わる。そんなワクワクする最高のショーのラストを知ってしまったら面白くもなんともなくなるって思うんですよね」

「まさに人生は最高のショーね!」

「先を知りたいと言う欲求が無いわけではないんですけどね」


「誰と結婚するのかなぁ~とか?」

「何が言いたいんですか? ってか何を言わせたいんですか?」

冬威がニヤニヤしながら言う。


「別に~」

強がるように柳瀬が言う。

「柳瀬さんがどんなイケメンと結婚するのか、どんなプロポーズをされるのか見てきてあげましょうか?」

「…」

無言になる柳瀬。


「どうします~」

「やめとく…」

気に入らないという顔をする柳瀬。


「遠慮しなくてもいいですよ俺ひとっ跳び行って見てきますけど?」

「いいってば! さっきタイムトラベルはもうしないって言ってたくせに!」

「だから特別に!」

「…」

再び無言になる柳瀬。


「どうしたんですか? 未来が見て見たいんじゃなかったの?」

意地悪く柳瀬に言う。

「意地悪っ…。だってもし未来を見に行ってもらって…まだ相手がいなくて独りだったら…」

ハンドルを握りながらうつむく柳瀬。


「ちょちょちょ! 柳瀬さんよそ見しないで!」

「あ、ごめんついこのままどこかに突っ込んじゃいたい気分になっちゃった…」

「勘弁して下さいよ…時空を超えてまでしてやっとつかんだ未来を台無しにしたくない」

「冬威君が咲妃さきに意地悪言うからいけないんだからね…」

幼子の様な風に言う柳瀬。


「柳瀬さん、咲妃って言う名前なんだ」

「え? あ、そう咲妃よ」

「きれいな名前だね」

「…ありがとう、名前を褒められるなんて初めて…」


由起の親指と人差し指がピクリと動いた気配を感じ慌てる冬威。

しかし由起はまだ眠っているようだ。


「心配しなくても柳瀬さんにはきっと素敵なパートナーがいますよ」

「そうかなぁ…」

「大丈夫大丈夫! 未来は明るい!」

「そっか! 咲妃頑張る!」

そう言うと両手をハンドルから離してガッツポーズをとる柳瀬。


「ちょっと柳瀬さん危ない! ちゃんとハンドル握ってって!」

「大丈夫! ドイツ車は直進安定性に優れているから」

「ってダメでしょそんなの! 勘弁してよもう~」

そう言うとふたりで声を合わせて笑う。


車はもうすぐ金谷インターに着こうとしていた。















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