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俺の未来にも光が射すか…な…

由起の部屋に押し入り奈美と由起を恐怖のどん底に落としいれる大柄な男。

冬威は由起のピンチを救い由起の未来を確実な物と出来るのか?

「さぁ由起…俺の味わった屈辱を思い知らせてやるからな」

そう言うと傍らの奈美のブラウスのボタンを一つ一つカッターナイフで落としていく。

「…」

「由起? お前の性格だと自分が酷い目に合うより、自分のせいで誰かが酷い目に合う方が辛いだろうなぁ~。俺にはそう言うのは全然理解できないけどな」


男はそう言いながら自分のポケットから携帯をだしロックを解除すると由起に手渡す。

「もうひとつ辛い役目を与えてやるよ…。俺の携帯、ビデオモードにしたから、お前のせいで辛い目に合ってる奈美の姿を撮れ」

「そんなことできない…」

受け取った携帯を手の平に置いた由起が言う。


「ふざけるな! お前らは俺に同じことをしたんだろうが、早く撮れ、やらなきゃ奈美の顔に傷がつくぜ…」

「…」

恐怖で目を閉じる奈美と言葉を失う由起。


「わかった…わかったから奈美に刃物を向けるのをやめて…」

そう言うと奈美にカメラを向ける。


「由起? やっと状況が理解できたみたいだな…。奈美が済んだら今度はお前だ。奈美と選手交代だからな?」

カッターナイフを手にしサディスティックな笑みを浮かべた男の手がボタンが取れてはだけた奈美のブラウスに手をかける。

「ちゃんと撮れよ由起?」


その瞬間由起の部屋のインターフォンが再び鳴った。

「おい! 由起! 誰か来る約束でもあったのか?」

「…」

無言で首を振る由起。

インターフォンはしつこく何度も押される。

「邪魔しやがって! 無視して不審がられても面倒だ。由起インターフォンに出て追い払え…」

由起は受話器を取り応答する。


「コマネチ! 由起ちゃ~ん! 有以だよ~! 冬威に頼まれて荷物持って来た~開けて~」

有以と名乗る女は受話器から音がもれるほど大きな声で由起に呼びかける。


「有以ちゃん…なんで…?」

「由起ちゃん有以は冬威に頼まれたの~! もし由起ちゃんが居なかったら冬威が有以のところにこの荷物取りに来るってさ!」


『なんで有以ちゃんが…。でも…有以ちゃんが居るって言うことはキープさんがそばにいる。キープさんが動いているってことは冬威がこの事態を感知しているってことだね…悪戯スパイ大作戦に気が付いてくれたんだね冬威…』

冬威の存在を感じた由起の表情が変わる。


「由起! なんだその変な女は? なんだっていうんだ! 冬威がどうとか言ってるじゃねえか」

冬威の名前が出たことに苛立つ男。


「有以ちゃんて子が冬威から荷物を届ける様に頼まれて…もし由起がいなければ冬威がその子から荷物を受け取るためにここに来るって…」


「あのチビがここに…」

『あんなチビなんでもないが、今ここに来られるのはヤバイ…。サツにでもタレこまれたら厄介だ…』


「由起…その女に荷物持って来させろ…」

「え?」

「え? じゃねぇ早くしろ」


「有以ちゃん今セキュリティーロックするね…」

「ほーい!」

由起がセキュリティーをロックし有以がマンションに入る。


「由起? その女は独りで来るんだろうな?」

「そうだと思う…」

「…」

男が無言で考え込む。

「由起? 奈美? 大人しくそこで待ってろよ? その女が一人で来たか確認する…」

カッターナイフを二人に向け威嚇すると男はドアに向かう。


ほどなく由起の部屋のドアをたたく音がする。

「コマネチ! 由起ちゃん! 有以だよ~」

有以の声が部屋の隅にいる由起たちにもハッキリと聞こえた。


男はドアスコープからドアの向こう側をうかがう。

『なんだ…有以とか言ったなこの女…。コマネチとか訳のわからねえこと言いやがって、変な女だが…無茶苦茶いい女じゃねーか…神様ありがとう、今日はいい日になったぜ…』

男は心の中でそう呟きほくそ笑む。


そしてドアチャーンを外し、ドアを開けると有以の手を引き部屋に取り込もうとする。

しかしその瞬間有以の強烈なミドルキックが男の腹に入る。

有以よりはるかに大きな男が前屈みになって後ろに吹っ飛んだ。

その拍子に男の手からカッターナイフがこぼれ落ちる。


キックを打ち込んだ有以の肩を抱き自分の後ろに押しやる男。

キープである。

「有以! どいてろ!」

そう言うと吹き飛ばされた大男よりさらに大きな体躯のキープが由起の部屋に踊り入る。


そして吹き飛ばされた男の身体を折り返し両足を抱える様に逆に逸らした。

「逆エビ固め~」

傍らで有以がはしゃぐ。

その手には男が落としたカッターナイフがしっかり確保されている。


「この野郎、ドアスコープで有以ちゃんのこと見て変な気起こしやがったのが命取りよ! このまま背骨へし折ってやろうか! 俺の有以を変な目で見やがって!」


大男は必死で腕を床に立てて形勢を整えようとするがその男より更に大きなキープが体重をかければひとたまりもない。

胸が圧迫され苦しげな表情で呻く。


由起が奈美を引き寄せかばう。

その由起の後ろの掃出しの窓が不意に開き冬威が部屋に入ってきた。

「冬威! なんでベランダから!」

振り返った由起が冬威の姿を見て声を上げる。


「キープちゃん、有以ちゃん突入ありがと! 作戦通りだよ! 由起? 奈美ちゃん? 大丈夫?」

「冬威!」

由起が冬威に飛びつく。


「アレアレ…」

冬威はそう言うとテレビ台の上の由起の携帯を指さす。

「うん…由起忘れなかったよ…。冬威、ちゃんとわかってくれたんだね」

「当たり前! 双子の悪戯もたまには役に立つね」

そう言うと微笑みながら由起を抱きしめる。


「由起、その携帯奴の?」

そう言って由起に携帯を渡すよう促す。

「そうだよ…」

由起が嫌な物でも放すように冬威に渡す。


「これで一部始終録画させてたってわけ? 自分で証拠残してくれるとは、ご苦労なこった。それに由起の携帯から流れてきた映像と音声は俺の方の携帯で押さえてあるから、証拠はバッチリだね。刃物で女の子脅して部屋に入って、こんなことしたらただでは済まないよ? ん?」

キープに組み敷かれた男が歯ぎしりをする。


「奈美ちゃん? さっき由起の携帯から流れて来た音声で聞いたんだけど、この男地元で揉めてるの?」


「冬威、こいつ地元で女の子に薬仕込んだお酒飲ませて悪さして相手の子に学校に訴えられてさ、退学させられたんだよ。で、警察からの取り調べも始まるって街中で噂になってたよ」

奈美が汚いものでも見るように大男を一瞥しながら吐き捨てる。


『これか…ここまで詰めないと、この男の暴走は阻止できなかったんだ…。変更前の過去でこいつは由起を投げ飛ばし傷害罪で逮捕されていた。しかし変更後は逮捕されるような事態ではなくなり、俺はそのまま地元に帰してしまった。その結果の今回の揺り戻しの様な事態…。でもこれで由起の危機は確実に回避できた…。由起の未来が完全に流れを変えたんだ!』

冬威が心の中で呟く。


その時、窓の外からサイレンの音が鳴り響いてきた。

冬威が窓の外を見る。

パトカーがマンションの前に停車し警察官が降車して来る。


冬威の姿を見つけた柳瀬が大きく手を振る。

冬威は小さく手を振りそれに応えた。

『柳瀬さん首尾よく警察に連絡してくれたね。ありがとう』


「ク? 埼玉男サイタマオトコ君?」

逆エビ固めで拘束され悶絶する男の顔の前に冬威が来る。

「クサイタマオトコ君?」

有以はそう呟くとキープの横に来て、大男の周囲をクンクンと嗅ぐ。


「有以ちゃん! そんなことしないし言わないの! せっかくの美しく可愛らしいお顔が台無しでしょ?」

キープが優しく有以を窘める。

が、そのぶっとい腕の力は少しも緩めない。

「は~い、キープちゃん~」

ふて腐れた顔をする有以。


「警察が来たよ…」

そう言うと2台の携帯を男の前にかざす冬威。


「なんで由起の危機が俺にわかったか知ってる?」

「…」

キープに完全に取り押さえられもがく男に答えられるはずもなかった。  


「由起が俺の女だからだよ。前回は脅すような事して悪かったが…」

そう言うと頭を下げる冬威。


「冬威…」

冬威の姿を見て由起が呟く。


「…もう由起には二度と手出ししないと約束してくれ」

「…」

無言で呻くばかりの男。


「オイ? 冬威ちゃんが言ってることわかるか? わかってんなら返事しろ!」

キープが男の体をさらに反り返らせる。


「わ、わかった…」

呻く様に言う男。


『…』

もう一度深く考える冬威。

『二度と同じことが繰り返されてはならない…』


「なぁ、俺は過去に戻ってお前が生まれて来なくすることも出来るしお前の母親がこの世に生まれて来ない様にすることも出来る…。この意味が分かるか? 俺はお前の存在を失くすことが出来るんだ。だがそんな惨いことはしたくない…。だから二度と由起に近づかないでくれ、お願いだ」

冬威は男の耳元で低く小さく呟く。

その呟きはきっと他の誰にも聞こえなかっただろう。


『なんだこいつ…薄気味悪いこと言いやがって…気が狂ってるのか?』

男はもがきながらも冬威の方を見る。

男は冬威の顔に狂気を見、底知れぬ恐怖を覚えた。


「わ、わかった…約…束する…二度と由起にもお前らにも近づかない…」

男がそう言い終わると共に警察がバタバタと入って来た。


キープは腕の力を抜き男の身柄を警察官に引き渡す。

大男のかわりに有以がキープにすり寄ってくる。


「俺の有以…です」

有以が艶やかな目つきをして悪戯っぽくキープに言う。

そんな有以をキープは強く引き寄せ腕の中に抱く。


「有以ちゃん仲間のためとはいえ怖い目に合わせてごめん…」

有以の頭に手をやりながらそう言うキープ。

「キープちゃん? 有以は強いし、何があってもキープちゃんが守ってくれるって信じてるから全然怖くなんかないよ…」

小首を傾げてキープに言う。


由起がクローゼットから薄手のパーカーを出して来て奈美の肩にかける。

「奈美…怖い思いさせてごめん…」

由起が目も合わせられないと言った顔をする・


「由起…」

奈美は由起の名前を呟くとその胸に飛び込んで来る。

「怖かった…でも二人とも無事でよかった…」

そんな奈美を強く抱きしめる由起。


『変わった…これで由起の未来は完全に守られた…』

冬威の目に閃光が走った。

まばゆい光を浴びながら由起の未来が大きく変化したことを実感する冬威。


『俺の未来にも光が射すか…な…』

冬威はその存在を確かめるかのように由起にそっと触れた。







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