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Together with him 彼と共に

腕時計の持つ機能について柳瀬と話をする冬威。

今の冬威の状況はさらに未来の意志により導かれたものだった?

CERNと柳瀬達の関係は? 

そしてそれは冬威にどんな影響を与えるのか?

CERNセルンは大型ハドロン衝突型加速器を使って、高エネルギー物理実験をしているの。スイス・ジュネーブ郊外にフランスとの国境をまたいで設置されている装置全周は約27kmと巨大だわ。山手線の全周が34.5kmだからいかに巨大な実験施設かわかるわよね。陽子ビームを超高速で連続して正面衝突させることによって、これまでにない高エネルギーでの素粒子反応を起こすことができるの。この実験によって2012年には神の素粒子と呼ばれるヒッグス粒子を発見したわ。ヒッグス粒子は宇宙を満たし、物質に質量を与えると考えられてきた粒子ね。ちなみに光子はヒッグス粒子の影響を受けないから文字通り光速で移動できるのね」

柳瀬がCERNについて概要を説明する。


「はぁ…なんだかよくわからないけど俺には関係なさそうってことはわかりました」

冬威が実感を持てないことを吐露する。

「う~んそうよね…あまりに世離れしているから私達には関係ない感じよね…」

冬威の気持を察する柳瀬。


「そうね…じゃあもっと身近なところから行きましょう。冬威君?」

「はい?」

「私があなたのことをタイムトラベラーだって見極めたのは実は腕時計がきっかけじゃないの」

「どう言うことですか?」

冬威が柳瀬の方へ体を向ける。


「単純なことよ、あなた葵衣ちゃんに蘇生術してる時に『絶対助けてやるから頑張れ! 俺は今度は葵衣ちゃんの未来を守るから! 葵衣ちゃんの未来を取り戻すから!』って絶叫してたじゃない?」

「あ…」

当時のことを思い出し絶句する冬威。


「あの時由起ちゃん? が救急隊員を部屋まで誘導する役を代わってくれたから葵衣ちゃんがどうなったか気になって部屋に行ったのよ。そしたら冬威君がそう言ってた。それで騒動が一段落した時に冬威君の腕を見たらその白い腕時計を見つけちゃったってわけ」

そう言いながら冬威の腕を指し示す。


「誰も聞いていないと思ったから思わず…」

「でもよくよく考えるとすごい偶然…いいえこれはきっと偶然じゃないわ。それからもうひとつ! その腕時計の機能なんだけど…」

「単なる脳波を調整するものなんじゃないんですか?」

冬威が腕時計を撫でながら言う。


「アルファ波を発生しやすくしてタイムトラベルに必要な瞑想状態を作り易くしているんだけど実はもう一つ重要な機能があるの…冬威君? 今、君が行っているタイムトラベルは量子レベルの時空移動よね?」

「そう認識しています。母も言ってましたブロック宇宙論から仮定するにこのタイムトラベル現象は、過去現在未来それぞれに存在する量子エネルギーとしての個を起点にして行われる『もつれた量子』間で起こる現象ではないかと」 

「え? お母さんがそう言ったの? あなたのお母さん何者? この現象をブロック宇宙論に関連づけて仮定するなんて…ちょっと待って、冬威君! もしかしてあなたのお母さんってリンダ教授の一番弟子のDr奈々?」

柳瀬が顔色を変える。


「ご存じなんですか母のことを?」

「もちろんよ! 量子力学の権威Dr奈々。私はフリーライターとしてCERNを取材した時にDr奈々とリンダ教授の名前を先々で耳にしたわ! 冬威君…やはり私とあなたの巡り合せは単なる偶然ではなさそうよ…。恐らくここに帰着するまでに私たちの知らない動きがあって、今に続いているはず…」

柳瀬の顔つきが変わったのが冬威にも感じられた。


「どう言うことか良くわかりませんが…柳瀬さん? この腕時計の他の機能って?」

冬威が逸れてしまった話を戻しにかかる。


「そうね、そうだったわね。その時計の機能を考える前にブロック宇宙論から仮定した場合あなたがタイムトラベルが可能な時間軸ってどうなる?」

柳瀬が冬威に問いかける。


「ブロック宇宙論を基軸に考えれば過去現在未来…つまり自分自身が存在していることが前提。要するに自分が生まれてから死ぬまでの間しか時空を移動できない。それが限界で時空の移動が可能な範囲だと」


「そうねその通りよ…。ブロック宇宙論から仮定すればそうなる。でもあなたにその時計を渡した子はこの時空では存在していないのよ」

「どう言うことですか? ブロック宇宙論を軸にすればこのタイムトラベルは過去現在未来に存在する量子としての存在である自分に移動するってロジックなはず…。誕生前の過去には移動できないはずだけど…」


「生命体として考えれば誕生後が時空の移動の限界点ね。だけど量子としての存在は何も肉体的に存在している必要はないの」

「意識…魂…。量子はエネルギー体…か。なるほど、そこまで行くと天国とか地獄とかという話にまで行きつきそうですが、一旦そこを抜きにして考えれば…生命体として肉体を失ってもエネルギー体である量子としての自己は存在し得るってことですよね?」

冬威が理解し得たことを伝える。


「その通りよ、さすがDr奈々のご子息。でも…冬威君? 私と同じ学校ってことは理系男子じゃないのよね?」

「ははっ僕はどうも父に似た見たいです。母が追及している科学に別の側面から迫って真理を求める父に…」

「そうなのね。そうそう話を元に戻すと! つまり自身が肉体的に存在していなくてもエネルギー体として存在していれば自身の誕生前の過去の時空にも移動が可能なの」


「そうするとこの時計の機能について仮説形成していくと…必要があるかかないかは別の議論として、実体のないつまり肉体的に存在しない過去の時空に移動した際に、実在する誕生以後の実体に合わせて自身を映像化というか実在化させる装置…といった具合ですか?」

冬威が自身が推測した仮定を告げる。


「驚いた…その通りよ。あなた本当は理数系に進んだ方が良かったんじゃないの? 間違いなくお母さんの血を受け継いでいると思うけど?」

「柳瀬さん? 興味がある事と資質は別物だと。僕は人間に迫りたい…人はなぜ愛し愛され憎み争うのか…人間存在の本質に学問としてだけではなく実際に寄り添うことで実感したいんです『Together with him』彼と共に、ってうちの学校のモットーを直にこの体と心で体感してみたいんです」

冬威が熱っぽく語る。


「そうなのね…でもあなたならその視点からでも十分真理に近づけると思うわ…先輩としても楽しみね」

『Together with him…そうね、そう言う想いが根底になければ私たちも人類の未来何て救えないわね…。冬威君…やっぱりあなたは私たちに必要な存在になるわ…』 

柳瀬の冬威を見る目が変わる。


「柳瀬さん…そうするとこの腕時計を僕に託した遥ちゃんは相当な未来からこの時点に来たと言うことですか? あの時の遥ちゃん、単純な映像ではなかった。ちゃんと実体があり触れることも温もりも感じられた…」

冬威が未来の自分つまり自身の現在で起こったことを思い起こして言う。


「そんなに先の未来ではないわ…。そうね~あなたの世代の子供達が大人になるくらいの時期ね。でも当然一般化された技術ではないわ、かなり特殊よ。私たちが目的を遂行すれば一般的なテクノロジーとして未来の市場で反映されていくでしょうね」


「なるほど…恐らくその技術は実体化されたと思われる物質に本質があるのではなく受け手側への何らかのアプローチにより実感できると言ったテクノロジーなんでしょうね。そうでなければあれだけ小型化された装置であそこまでの再現力と実体化は困難なはず。もちろん同じ時空つまり本来その技術が存在する時点で、大規模なテクノロジーを共有できるインフラというか環境があれば可能なんでしょうが…」


「驚いた…あなた何者? 仮説形性から導き出すにしてもあまりにも妥当すぎるわ…まるで見てきたみたい。私なんか遥から説明されても全く想像が出来なかったってのに」


「仮説を形成して物事を推し量るってやり方を子供の頃からさせられてますからね。でもだいたいのことは絵空事って言われて家族以外には見向きもされませんよ」

そう言って笑う冬威。


「なるほど…あの子がああなのもよくわかるわ…ん? って私…」

柳瀬が小声で言った後考え込むような顔をする。


「柳瀬さん? 何が良くわかるんですか?」

黙り込む柳瀬に冬威が声をかける。


『どうして今まで気が付かなかったんだろう…。やっぱりこの流れは偶然じゃない…。腕時計が冬威君に渡った段階から変化しての、この時空の流れよ。だとすれば…』


「冬威君! あなたはこの時空であなたの為すべきことを成して! そこからきっと未来が大きく変わる! あなたにその腕時計を渡した子はきっとそこまで計算して敢えてあなたに逢いに来たんだと思う。遥はあなたに会った後一旦未来の時空に帰り新しい腕時計を身に着けてこの時点に飛んできたわ。そして数日間私のアパートで一緒に過ごしたの。彼女時々出かけては何かを確認していた。おそらく目論見通り過去が変わるのを観測していたんだと思う。今は詳しくは言えないけど遥は先の未来を変えるにあたって重要な時点としてこの時代に来たんだと思う」


「未来を変える…」

冬威は中空を見据え呟く。


冬威の周囲の空気が変わっていく。

時空は不可逆的、単純な流れの中にあるのではなく、過去現在未来が複雑に絡み合いながら循環し影響し合いながら刻々とその姿を変えていくのだ…







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