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葵衣 リバイバル! 冬威? 未来のあたしによろしくね

千葉メディカルセンターに入院している葵衣の見舞いに行く冬威と由起。

葵衣は冬威の行動に何かを感じている。

葵衣の未来を取り戻した冬威。

冬威の未来も変わるのか。

冬威と由起の未来はどうなるのか?

「冬威…葵衣からラインが入ってきた!」

由起がラインの画面を冬威に見せる。


『由起ありがとう意識が戻りました。大家さんから話を聴きました。助けてくれて本当にありがとう。もうICUから一般病棟に移れました。千葉メディカルセンターにいます。冬威にも由起からよろしく伝えてね』


「よかった…発見が早かったから胃洗浄の後、点滴でもして意識状態確認のためにICUにいたんだろう。それも良好だから一般病棟に移動。葵衣ちゃんは無事未来を取り戻せたね…」

冬威はホッと胸を撫で下ろす。


「午前中の内にICUから出られたってことは経過は良好だね。由起? 午後からでも面会に行く?」

「うん…葵衣の顔見てこよう。冬威、葵衣とラインつながってないの?」

「え? 基礎ゼミのグループラインでつながってるから個人ラインも出来るでしょ?」

「葵衣どうしたんだろ? 冬威に直接ラインすればいいのに。ってよく由起だってわかったよね? 冬威の事は大家さんが知ってるだろうけど…」

由起が怪訝な顔をする。


「おばちゃんが言ったんじゃないの? 俺あの時由起由起って何度も呼んでいろいろ言ってたからさ」

「ふ~ん…そっか、大家さんから聞いたのか…」

『もしかして葵衣、由起に気を遣ってる?』


「よかった…飲んだ薬の系統によっては大量服薬から全身痙攣、意識消失、不整脈を起こして心不全や呼吸不全、急性腎不全なんかを併発して亡くなってしまうこともあるからね。急性腎不全は服用役の作用によって筋肉の細胞が溶けて壊死を起こして引き起こされる。手足の痺れや歩行不能状態になったりもするんだ。心不全、呼吸不全となればICUで人工呼吸管理下のもとで強心薬投与で治療する見たい。葵衣ちゃんの場合、睡眠導入剤だったから大量に飲んでも嘔吐症状で多くは吐き出されて大事に至ることは少ないみたいだよ。ただ…かなり気持ち悪くて苦しいみたいだからやめた方が良いね。つまり普通は死に至るようなことはない。だけどやっぱり飲酒との併用は絶対避けないと大変なことになるね。今回の葵衣ちゃん見たく呼吸停止する例もある訳だからさ」


「お酒が薬の作用を高めちゃうんだもんね…。やっぱりお薬はちゃんと決められたように飲まないといけないね。それから…前に冬威が言ってたようにお酒飲まなければ起きない失敗ってやっぱりあるね! 由起も気をつけなきゃ…」

「そうそう! 何事もほどほどにルールを守ってね」

「そうだね」


冬威と由起は葵衣が運ばれた千葉メディカルセンターに向かう。

かつての川鉄病院がリニューアルした総合病院である。

蘇我駅から徒歩10分も歩けば到着することが出来る。


ほどなく病院に着いたふたりは受付で葵衣の病室を把握する。

「葵衣…」

葵衣の病室を少し開け中の様子をうかがいながら小さく名前を呼ぶ。


「由起? 来てくれたの!」

葵衣がベッドから半身を起す。

「葵衣、もう起きて大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、状態落ち着いたから3階のICUから移された。まだ点滴はしてるけどね」

病衣を来た葵衣はことの他元気な様子だった。


「なんか、手についてる…」

「識別バンドだって。最近の病院ってこんなの付けるんだね、知らなかったよ」

「でもなんか元気そうで安心したよ」

「ごめんねビックリさせちゃって、でもおかげで助かったよ…」

葵衣は由起の手をぎゅっと握りしめた。


「葵衣? 事故なんだよね?」

由起が言葉を選びながら言う。

「由起、心配かけてごめん。でも葵衣は死ぬつもりなんて全然なかったよ。ただ最近いろいろあってよく眠れなかったから、最初は市販の睡眠導入剤飲んでたんだけどあんまり効かなくって。それで病院で薬処方してもらってたんだけどさ、昨日って別れたあいつの誕生日だったんだよね…。それでいろいろ思い出しちゃって。そしたらついワイン飲み過ぎちゃうは気が大きくなって、って言うか気が高ぶって眠れそうになかったからお薬いつもより少し多く飲んじゃって…。でも市販薬飲んでた時も多少大目に飲んでもそれからお酒ちょっとくらい飲んでても大丈夫だったから…本当はいけないってわかってたんだけどさ…」

葵衣が言い終わると由起は握られていた手を振りほどき葵衣を抱きしめた。


「由起…?」

「葵衣…本当に良かった。昨日の葵衣は息してないし顔色真っ青だし由起どうしようかと思っちゃった。今、葵衣は生きて由起の前にいる…本当にうれしい。それから葵衣が死ぬつもりじゃなかったって聞いて本当に安心した」

抱き合う由起の目にも葵衣の目にも涙が溢れていた。


「由起…本当にありがとうね、助けてくれて。もし由起たちが来てくれなかったらって思うと葵衣は…」

「ううん、いいの。それよりごめんね」

「どうして謝るの?」

「由起は葵衣が苦しんでいる事わかってあげられていなかった…」

「そんなんじゃないよ由起…。良くある話だってことはわかってる。それに葵衣はこんな事で死ぬ気なんて全然なかったんだから! 助けてもらえてなかったらって考えると本当に怖い…。それにもし助けてもらえてなかったら…今頃無念過ぎて幽霊になっちゃって由起のところに出て来てたかもよ~」

無表情でぶらりと手を胸の前に出して由起の方を向く葵衣。


「もうっ! そんな冗談言って! 由起怖いの苦手だからやめてよね」

由起がそう言うとふたりで笑い出す。


「でも良かった…そんな冗談が言えるくらい元気で…」

「由起…ありがとう。ところで冬威は一緒じゃないの?」

葵衣が周囲を見渡しながら言う。


「あ…すっかり忘れてた。女の子の病室にいきなり行ったら失礼だろうって言うからまず由起が会ってから呼ぶことになってたんだっけ」

「冬威らしいね。じゃあその気遣いに応えてメイクしてセクシーな格好でお出迎えしちゃう?」

そう言うと葵衣は妖艶な表情を作り、ただ下着の上にまとっているだけに等しい病衣をはだけた。


「ダ・メ! 冬威を刺激するようなエッチな格好しないでよ葵衣! って病衣の下ってすぐ下着なの! これ羽織って」

由起は自分が着て来た上着を葵衣に羽織らせるが点滴をしているせいで袖は通せない。

「由起ってやきもち妬きなんだね」

由起の様子を見て葵衣が可笑しそうに笑う。


「な~に? 由起は葵衣のためにしてるんでしょ?」

「冬威はそう言う奴じゃないだろ?」

葵衣が冬威をかばうが由起はそれが気にいらない。


「葵衣? 油断しちゃダメ…冬威だって男なんだしああ見えて結構…」

「ああ見えて結構…何? どんな感じ? 何があったの?」

葵衣が興味津々といった顔をして由起に詰め寄る。


「なんでもない! 冬威だって男なんだから油断しちゃっダメってこと!」

「ふ~ん…由起は冬威の意外な行動にビックリしちゃったって感じかな~」

由起の顔を下から見上げニヤニヤする葵衣。

「もう! 葵衣の意地悪っ助けてあげなきゃよかった!」

「おいおいそりゃあないよ由起~」

そう言いながらおどけて由起の胸をつつく葵衣。


「ちょっと~何するの葵衣! エッチ! 元気良くなり過ぎ!」

「由起って胸おっきいよね~。まぁ…さしずめそんなとこかな~」

葵衣が病室の天井の方を見ながら何か言いたげに由起の方をチラリと見た。


「何言ってるの葵衣! 冬威呼んで来るから胸の前のはだけを直しておいてよ!」 

葵衣の鋭い突っ込みにたじろぎ逃げ出す由起。

「は~い」

それを見透かしたように返事をする葵衣だった。


由起が冬威を呼びに病室を出る。

「葵衣ちゃん…」

「冬威!」

冬威が入口からちょっとだけ顔をだし葵衣に呼びかける。


「冬威、入って」

葵衣にそう言われて初めて病室に入る冬威。

その後をぴたりとくっついて由起も入ってくる。


「冬威…本当にありがとう。冬威がいなかったら今頃あたし…」

「俺は何もしてないよ、救急車呼んだのは由起だし病院に一緒に来てくれたのは大家のおばちゃんだしね」

「大家さんから聴いたよ…冬威が一生懸命蘇生術施してくれたって…」

「教習所で習ったことあったから役に立って本当に良かったよ!」

「冬威…うっすらと戻る意識の中で一生懸命冬威があたしに呼びかけてくれるのがわかった。『絶対助けてやるから頑張れ! 俺は今度は葵衣ちゃんの未来を守るから! 葵衣ちゃんの未来を取り戻すから!』って…。冬威? 葵衣の考えすぎかもしれないけど…もしかして冬威はこうなることがわかってたの?」

葵衣が不思議そうな顔をして冬威の顔を見つめる。


「そんなわけないでしょ葵衣ちゃん~。俺も必死だったからよくわからないこと言ってたかもね? 葵衣ちゃんに蘇って欲しくて必死に声をかけてたし、自分も奮い立たせるためにも声出してたからね~」

「ふ~ん…そうなんだ…」

腑に落ちない顔をする葵衣。


「冬威と由起は葵衣の命の恩人…本当にありがとう。ふたりにもらった未来を大事にするよ。もう高をくくって睡眠薬とお酒飲んだりしない。眠れなかったら…由起の家までランニングでもするかな?」

「それ良いかも! でも葵衣の家から由起の家なんてすぐに着いちゃうよ?」

「でも葵衣ちゃん、体動かして疲れて眠るってのは試してみる価値あるよ! その方が…お酒も美味しいかもだし」

「そうだね~汗かいてね! その時はワインじゃなくてビールだね! 冬威! ビール付き合ってよ!」

「ランニングの後のビールか~美味そう! いいね!」

葵衣と冬威が意気投合する。


「葵衣? まだ入院してるんだからお酒の話しなんてダメだよ~」

眉を上げた由起が無表情で葵衣に言う。

「おっといけない、やきもち妬きの由起がいたのすっかり忘れてた~」

「ん? やきもち妬きの由起って?」

「なんでもないよ冬威! 葵衣は余計なこと言わないの!」

「ハイハイごめんなさい~命の恩人の由起には逆らえません~」

葵衣の表情もすっかり明るくなった。


「冬威、ちょっと耳貸して…」

葵衣が冬威の耳元で内緒話をする。

「ちょっと葵衣なに? 冬威に何話してるの?」


「冬威、いつか必ずこのお礼はするからね、由起を大切にね。 冬威? 未来のあたしによろしくね」

『えっ?』   

冬威は葵衣の耳打ちにハッとする。

が、

「いてててててっ」

「冬威! なにニヤニヤしてるの!」

次の瞬間由起のつねり攻撃で葵衣から引き剥がされる。


「葵衣も! 冬威を誘惑しないで! って言うか冬威に油断しない方が良いんだから! 冬威だって月夜には豹変する狼男なんだからきっと!」

「狼男ってなにそれ由起? 冬威にありがとうって言っただけだからそんなに、やきもち妬かなくてもいいぞっ」

「葵衣? どうして内緒話しみたく耳元で囁く様にお礼言う必要があるっての? もうっ冬威もニヤニヤして頭に来る!」 

あらぶる由起の肩をチョンチョンと叩く冬威。

「由起…ここ病室」

冬威が口元に指を持ってきて由起を窘める。


「あっ…ごめんなさい…だって葵衣が…」

「由起~葵衣は病室だから小さな声でお話しして、それで冬威に感謝の気持ちが聞こえないといけないから耳元でお話したんです~」

「うそばっか!」

そう言うと思わず吹き出してしまう由起。


そんな由起の姿を見て葵衣と冬威も笑い出す。

死から生への生還。

その緊張感からようやく解放されたように3人でいつまでも笑った。


葵衣の未来は無事取り戻された。

新たに生じる未来の葵衣の行動がきっと今を生きる3人に大きな影響を与えるだろう。

無から有への転換は先の未来を大きく変える。


世界は多くの意志によって舵を切られているのだ。

未来の冬威は今を変え、未来を変え、そしてその変化の中に身を委ねている。





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