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だから由起は冬威を未来には帰しません!

一夜明けて目覚めるふたり。

昨夜のことを振り返る。

由起は未来の自分と今の自分が同一なのかを疑い始める。

そんなふたりが決めた約束事とは?

朝の日差しがふたりを深い眠りから手繰り寄せる。

「おはよう冬威…」

眠い目をこすりながら隣で眠る冬威に声をかけ起き上がる由起。


「おはよう由起…」

冬威もまた覚めきらない目をこすりながらゆっくりと起き上がる。


お互いになんとなく、はにかみながらしばし見つめ合う。

冬威の顔を見た途端、由起はその視線を意識して胸を両腕で抱く。


「見ないで冬威…恥ずかしい」

葵衣への嫉妬心と未来の冬威との別れの予感から大胆な行動に出た昨夜の自分を思い出し視線を外す由起。


そんな由起を愛おしく見つめる冬威。

「何が恥ずかしいの?」

「そんなこと聞かないで! デリカシーないんだから冬威は…」

非難がましく言うもののその目は妖艶に潤んでいた。


冬威は自分の横にたたずむ由起の耳元に向かって呟く。

「恥ずかしいことなんて何もないよ。薄暗闇の中でも由起はすごくきれいだった…。とても魅力的だったよ」

「嫌っ、朝からいやらしい! 冬威? でも…ほんとにきれいで魅力的だった?」

冬威の顔を直視できない由起は伏し目がちに言う。


「きれいだったよ…こう目を閉じると浮かんでくる…もう二度と忘れられないくらい魅力的だったよ…」

冬威はゆっくりと目を閉じながら言う。


「きゃーやめて! 今思い出さないで恥ずかしい!」

慌てて冬威を揺さぶりその目を開けさせる由起。


「由起? なんだか俺は心配だな…」

「何が?」

由起はキョトンとした顔をする。


「由起ってさ、美人だし料理は上手だし…」

「だし?」

「それに…なんて言うの、その、あの…」

冬威は自分の胸の前でその手をグズグズと動かし上手く表現できないもどかしさを表現する。


「え? なに? どういう事?」

しかしその心情は理解してもらえない。


「何て言うか…」

「何? もう冬威ハッキリ言って! 気になるでしょ!」

さっきまではにかんでいた由起が冬威の両肩を掴む。


「あの…由起の胸っておっきいよね…それにすごくきれいだし…。やっぱり胸の大きい子って男にモテたりするじゃん…」

未来から来たはずの冬威が少年の様に言う。


「冬威? もしかして由起が誰か他の人と…とか心配してるの?」

そんな冬威を今度は由起が愛おしそうに見つめる。


「あ、いや別にそんな…そういう訳では…」

確信を突かれてしどろもどろになる冬威。


「冬威…」

由起が冬威の手を取り自分の胸にあてがう。

「これは…冬威のもの…。他の誰にも触らせたりしないし、絶対見せたりなんかしないんだから…」

「…」

冬威は無言になり子供の様な顔をする。


「安心して、由起は誰とでもあんなことするそんな変な子じゃないよ?」

「わかってるよ由起…」


「そ・れ・よ・り! 冬威の方が全然心配なんですけど?」

「はっ? 何が?」

「今はさ、もじもじしちゃって由起のおっぱいの事心配しちゃったりしてるけどさ…」

「…」

由起の口から何が飛び出すのか気が気ではない冬威。


「夕べの冬威…すごく手慣れてる感じだった…」

今度は由起が冬威の耳元でねっとりと囁く。

しかしその目は悪戯っぽくそして熱く潤んでいた。


「ごめん…嫌だったよね? でもさ…」

慌てて弁明しようとする冬威にその余地を与えない由起。

「なんで謝るの? 由起は嫌じゃなかったよ? む・し・ろ! 途中でやめちゃう冬威の方が信じられないって言うか~由起が魅力的じゃなかったのかなぁなんて…」

うつむき加減になり、そんなことを言い出す由起。


「いや、そんなわけないだろう? 由起はほんとに魅力的な女の子だよ」

「そう? でも冬威の理性には負けちゃったわけでしょう由起は…」

そんな塩らしい事を言いながらもなぜか自慢の胸を冬威の方に突き出し強調する。


「勝つとか負けるとかそう言うものでも…」

「ううん、由起が言いたいのはそんな事じゃないの! 冬威はさ由起じゃなくて他の女の子にあんなことしてたんだなぁって…。それで未来に帰って由起の目が届かなくなったらきっとやりたい放題…それが由起は心配なの…。だから…」


「だから…?」

「だから由起は冬威を未来には帰しません!」

由起は夕べ説き伏せられたもののどうにも受け入れられなかった冬威の未来への帰還をダシに使う。


「そんな無茶なこと言うなよ由起?」

「何が無茶なの? 冬威は未来に帰ってあんなことやこんなことする気でしょ!」

「いやいや何言ってんだよ、由起! じゃあ未来の由起はどうするんだよ?」

「…」

不意に難解な問いかけをされ今度は由起が無言になる。


「俺がずっとこっちにいたら未来にいる由起はどうするの?」

「…」

「未来の由起は独りぼっちで淋しいだろうなぁ~」

「そんなの嫌!」

「じゃあやっぱり俺は未来に帰らないとね!」

「冬威はそれで未来の由起とあんなことするの?」

「あんなことって…」

あきれた様に言う冬威。


「だ・め! やっぱり冬威を未来に帰さない! 由起以外の誰ともあんなことさせないんだから!」

「って未来の由起も今の由起も同じ由起だろ?」

「ち・が・う! 未来の由起は未来の由起! 今の由起は今の由起! 冬威は今のこの由起以外愛しちゃダメなの! この冬威は由起のだから!」

今度は由起が子供の様になって駄々をこねる。


「由起? だいぶ変なこと言ってるよ?」

「由起は変なことなんて言ってない! とにかく冬威はこの由起以外触っちゃダメだし、あんなことするのは許さないんだから!」

そう言いながら自分を指さす由起。


「わかったよ由起…じゃあ未来の由起には指一本触れないからね? それでいい?」

駄々をこねる小さな女の子をなだめる様に言い分を受け入れる冬威。

「…」

突然素直に自分の無茶な言い分を受け入れた冬威の真意を理解するため、頭をひねり無言になる由起。


「ちょっと待って冬威…今の由起が未来の由起になるんだよね?」

「当然そうだよ?」

「じゃあ…触っていいし…あんなことしても許す…」

顔を真っ赤にしておずおずと言う由起。


「由起は何も心配しなくてもいいよ…俺は由起しか見えないんだから。そうでなくっちゃ時空を超えるなんてあり得ないことが現実に起こるわけない」


「うん…でも本当に今の由起と未来の由起はおんなじなの?」

「そりゃそうだろ?」

「う~ん…なんか釈然としない。冬威? 未来の由起に逢ったらこう言うって約束して『過去の由起に許しを得ていますから早速続きをしましょう』って!」


「そんなこと言えるかよ? おかしいだろ?」

「どうしておかしいのよ! 今の由起と同じ由起だったら『そうねあの時そう言うって約束したものね』って言うから!」


「ってなんかそれおかしくないか? 変だろ? 普通そんな事言うか?」

「それでいいのよ! 何の続きをするかどうかは今の私達しか知らないんだから! 真偽を確認するにはこういう感じでぼやけた『合言葉』の方が確かめやすいでしょ! 冬威は未来の由起が『そうねあの時

そう言うって約束したものね』って言うかちゃんと確認してよね!」


「あ~あ…もう何が何だか…」

「わかった? 冬威! 絶対だよ! ちゃんと由起に『合言葉』言うんだよ!」


 「由起?」

「なぁに冬威?」

「もうちょっとロマンチックな『合言葉』にしない?」

「いいの! この合言葉で! 未来で冬威とちゃんと再会できているのかこの合言葉で確認するんだから! 絶対忘れないでよ!」


「って未来の由起にどんな形で再会するか全然わからないんだよ?」

「だから?」

「どんなシチュエーションで『合言葉』言うかわからないんだからもっとピュアなやつにしない?」

「ダ・メ! どんなシチュエーションでもこの『合言葉』で! わかった? そしたら由起は…」

「ん?」

「由起は冬威の手の平を冬威の大好きな由起の胸に持ってくるから…冬威は由起を抱き寄せてキスするんだよ?」

「…」

「大好きでしょ? 大好きじゃないの?」

「大好き…かも」

「かもってなに! 大好きでしょ!」

「大好き…」

冬威は由起に気圧され子供の様に呟く。


「じゃあ…練習…」

そう言うと由起は有無も言わせず唇を重ねる。


朝日が段々と強い光になって部屋に差し込む。

まるで未来の由起と冬威をみつけたみたいに照らし輝かせる。

スポットライトを浴びたふたりはいつまでもいつまでもひとつに重なっていた。









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